第二章 四川省と西部大開発
第三節 外資投資奨励プロジェクト
資源関連産業では農業資源と観光資源は外資投資の奨励分野ですが、その他は禁止分野になってい ます。しかし、禁止されている分野でも、ハイテクと関連していれば奨励分野になるなど、ケースバ イケースであることから一概に決めることはできず、個別に検討を要します。
1996 年 12 月 19 日に成都イトーヨーカドーが成都で開業しました。この時期はまだ中国が WTO 加盟 を果たしておらず、外資による小売業はむしろ警戒されていました。しかし、イトーヨーカドー社の 投資意向を受けて、成都市と四川省は積極的に中央の各省庁との交渉に乗り出しました。その懸命な 努力が報われ、成都イトーヨーカドーが成都で根を下ろし、今日の成功を迎えています。今でも、当 時の対外連絡と企業誘致を担当した人から苦心談をよく聞きます。まさに「志有る者は事遂に成る」
という言葉のとおりです。
特に外資企業による投資が安い原材料、安い人件費を求める在来型の投資から、地元の経済発展に 貢献することによって、自社も発展する溶け込み型の投資に変わりつつあることから、市場が大きく、
資源の産出地に近い四川省はますます魅力ある投資先になるでしょう。
四川省招省引資局のホームページを調べれば、誘致プロジェクトがサービス貿易類、ハイテク類、
インフラ類、農業産業類、優勢資源類、装備製造類、文化観光類の 7 種類に分類されていますが、そ のうちの優勢資源類は明白に資源関連産業と関係あるように、詳しく調べると、農業資源と観光資源 のみが奨励対象といえるでしょう。
2.鉱物とエネルギー関連の投資奨励プロジェクト
2007 年改訂発表の「外商投資産業指導目録」から鉱物とエネルギーに関する投資奨励プロジェクト をピックアップしてみました。中国側が技術的に遅れている分野やリスクのある分野が多いですが、
「合資、協力に限る」、「協力に限る」、「中国側 51%の出資比率に限る」など条件が付け加えられ ている分野もあることから、投資を行う際には十分な調査が必要となります。
・炭鉱ガスの採掘、開発及び利用(合資、協力に限る)
・石油、天然ガスのリスク調査、開発(合資、協力に限る)
・低浸透石油、天然ガスの開発(合資、協力に限る)
・原油最終率向上及び関連新技術の開発応用(合資、協力に限る)
・地質調査、ボーリングなどに関する石油開発新技術の開発及び応用(協力に限る)
・石油頁岩、石油砂、重油、超重油など特殊石油資源のボーリング、開発(協力に限る)
・鉄鉱、マンガン鉱の調査、採掘及び選鉱
・末期炭鉱利用率向上の新技術開発と応用、および鉱山生態回復技術の総合利用
・海底可燃氷の調査と開発(協力に限る)
・大型石炭化学製品の生産(中国側 51%の出資比率に限る)
・海底石油開発のための石油調査、ボーリング、開発用の設備製造
・ソーラー電池生産専用のプラントの製造
・100 万 kW 原子力発電所の重要設備の製造(合資、協力に限る)
・発電所の脱硫、脱硝酸、集塵器技術及び設備製造
・原子力発電所、火力発電所の密封部品の設計、製造
・原子力発電所用の大型鋳物や鍛造部品の製造
・送電トランス設備(合資、協力に限る)
・ソーラー、地熱、汐エネルギー、波浪発電、ごみ発電、1.5 兆ワット及びそれ以上の風力発電の プラントや重要部品の製造(合資、協力に限る)
・太陽エネルギー空調、暖房システム、太陽エネルギー乾燥装置の製造
・特殊と稀有石炭の調査と開採掘(中国側 51%以上の合資合弁)
・重晶石の調査と採掘(合資、協力に限る)
・貴金属(金、銀、プラチナ)の調査、採掘
・ダイヤモンドなどの貴重非金属鉱の調査、採掘
・燐鉱の開発、選鉱
(その他)
アメリカは国家戦略として自国企業の世界各国への投資を積極的に進めています。西側の国々の市 場が伸び悩むにしたがって、石油需要が旺盛で伸び続けている中国が注目の的となっています。最近 の BP 社、エクソン・モービル社、シェブロン・テキサコ社、シェル社などの中国への投資からは、石 油メジャーの戦略転換をうかがうことができます。
これらの石油メジャーは先端的技術と莫大な資本力を持ち、本国政府の強力なバックアップを受け ていることから、早くから中国で調査と石油精錬の合弁企業に投資しています。イギリスの BP 社によ る中国への投資が最も多く、総額は 45 億ドルに達し、中国で 36 ヶ所のガソリンスタントと多くの天 然ガスの合弁会社を展開しています。シェル社は中国での投資が 17 億ドルを超え、20 社の合弁企業 と 40 ヶ所のガソリンスタントを有しています。
3.農業産業
四川省招省引資局のホームページから農業資源プロジェクトを抜粋しました。中国政府の農民増収 を促したいという本音をうかがうことができます。
・玉蜀黍茎による中密度合板生産ライン
・こんにゃく栽培加工プロジェクト
・ミネラルウォーター生産プロジェクト
・山椒加工基地建設プロジェクト
・動物骨加工プロジェクト
・養蚕基地及び蚕糸総合開発利用プロジェクト
・たけのこシリーズ製品開発プロジェクト
・紙製品包装印刷工業団地
・岳池県白酒生産
・雨潤食品産業グループの都江堰養豚基地
・塩源県唐辛子栽培及び深度加工プロジェクト
・製革及びアパレル工場
・現代農業モデルパーク
・青いイチゴ総合開発
・万源無公害お茶産業化開発プロジェクトなどです。
必ずしも日本企業のニーズにフィットするわけでもありませんが、四川省ではこのようなプロジェ クトが必要とされています。
これまでに葡萄の巨峰、りんごの国光、稲の品種などが日本の ODA により中国に入っています。し かし、これはあくまで無償援助によるものでした。中国も市場経済のメカニズムが樹立されており、
今度は商業ベースの農業を必要としています。日本企業としては積極的に中国の巨大市場を攻略する 作戦を練ることが求められます。
4.観光産業
観光産業は四川省政府が重点的に奨励する分野ですが、投資が大きく、現地政府との協力が成功の 決め手となります。以下にいくつか抜粋します。
・観光土産品の生産加工プロジェクト
・庄上リゾート観光生態パークプロジェクト
・竹林溝自然生態観光とリゾート開発プロジェクト
・周公山温泉パーク開発プロジェクト
・周公山森林開発プロジェクト
・中華朱羅紀公園観光区
・自貢市古鎮全体開発プロジェクト
・塩リハビリテーションリゾート基地開発プロジェクト
・中国西部紅原遊牧部落文化村建設プロジェクト
・濾州市江陽職業学校の建設
・雲湖国家級観光森林公園
・岳池県翠湖景勝地観光開発
・月亮湾草原生態観光区
・清渓ホテル建設(四つ星以上のホテル)などです。
中国で観光資産を持ち、中国の発展とともに資産価値を高めていくことができれば、良い投資先と なりえるでしょう。政府との良好な協力関係をいかに構築するか、観光業に関するノウハウを持って いるか、などのリスクを事前に検討し、十分に対策を練っておく必要があります。
最近、ディズニーランドが上海で建設されることが話題になっています。アメリカの観光業が中国 へ進出する最大の案件でしょう。上海市としては上海の産業構造調整の重要な一環として歓迎してい ます。日本としても、観光業のノウハウを活かして、日本文化に根ざしたプロジェクトを中国で展開 すべきでしょう。
5.実施する上で注意すべき点
鉱物資源やエネルギー資源は原則として、資金力と技術力のある大企業の役割になります。日本の 大企業はすぐれた情報力を有していることから、西部大開発を契機に中国経済の発展とともに歩む土 台を構築することが強く期待されています。鉱物資源の採掘にあたっては、環境問題、現地住民の立 ち退き、道路などのインフラ整備も関連することから、現地政府の果たす役割が大きく、日本企業が 独自に対応することは難しいと思われます。資源関連のプロジェクトには合資・合弁の条件が付いて いますが、これはむしろ、外国の企業をリスクから保護するためのものとも解説できると思います。
現に、中国国内の企業でも現地の政府と住民との関係をうまく処理することができず失敗に終わった 例が多々あります。
鉱物資源開発そのものは、外資には開放されていませんが、資源の産地に近い方は輸送コストが安 いうえ、比較的容易に安定的な供給を確保できることから、四川省は魅力ある投資先ということがで きますが、現地の産業政策や商品の売れ先、特に協力する相手の状況を含め、事前に市場調査をしっ かりしておくことが重要です。
不動産も外資進出の奨励分野ではありませんが、実際に中国で不動産事業を展開している日本企業 がたくさんあります。上海市のシンボルに高層ビルの多くは外資系資本が入っています。エネルギー の分野でもモービル社やシェル社が入っています。要は中国の企業と関係を持ち、中国市場を立ち入 って、研究する必要があります。
国際エネルギー組織(IEA)が発表したレポートによると、15 年後には中国がアメリカを追い越し、
世界最大の石油と天然ガスの消費国になると予測しています。
2009 年 11 月 13 日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」によると、エクソン・モービル社が 45 億ドル投資し、シノペック社と合弁して、中国福建省で1日当たりの生産能力が 24 万バレルに上 る世界最大級の石油精錬工場を作り、同時にアメリカにあるすべてのガソリンスタントを売却し、中 国で 750 ヶ所のガソリンスタントを設けると報道されました。エクソン・モービル社の今後の中国経 済にかける並々ならぬ意気込みがよくわかります。
中国は義理人情の世界ですから、地方経済の発展に貢献すれば、その見返りとして利益をあげるこ とはむしろ当たり前のことと考えます。エクソン・モービル社の決意には中央政府も地方政府も深い 恩を感じたに違いありません。
日本には「だめでもともと」という言葉がありますが、中国の資源関係産業に投資をするのであれ ば、奨励分野ではないから諦めるのでなく、自社の技術的長所をもって粘り強く、辛抱強く取り組む という意気込みが必要です。
日本の中小企業も技術的優位性をフルに活用して、農業資源や観光資源関連のプロジェクトに参入 し、中国経済に根付くことを通じて、自らが中国経済の「上昇気流」になるという心構えが必要だと