II. 夏期行動
9. 観測データ・採取試料一覧
Ⅲ. 昭和基地越冬経過 1.概要
1.1 越冬期間概要
1.1.1 昭和基地の維持管理と越冬隊の運営 三浦 英樹
53次と54次に「しらせ」が接岸できなかったことを受けて、昭和基地の燃料消費削減のために、越冬隊員数が 26名と小人数編成となった。実際には、二年連続の夏期の「しらせ」昭和基地接岸によって燃料備蓄が回復し、
基地へ計画された全物資が搬入されたが、57次以降、再び接岸できないことも想定して、当初の予定通り、節電 と消費燃料節約に努めた。例年に比べた隊員数の少なさは、観測、除雪等の基地の維持管理作業や広報活動等に おいて一人当たりの負担を大きくすることとなった。一方で、大規模プロジェクトが少ないこともあり、通常の 観測隊では取り組めなかった、基地施設の保守点検、防災対応の見直し、在庫管理システム、アウトリーチ活動 の質の充実、観測隊の運営システムの見直しを可能な限り行い、今後の南極観測の安全性や効率化の向上に貢献 することを目指した。越冬期間中、大きな負傷・物損事故の発生はなかったが、原因不明の基地全停電が4回発生 した。しかし、基地設備や観測機器の維持、業務を実施する上で重大な支障を来たすことなく、観測・設営作業 の任務を遂行した。基地主要部および周辺の積雪状況は、多雪傾向が依然として認められ、ブリザード回数も平 年より多かったことから、建物・設備の維持および日常の安全管理、防災活動に備えた除雪作業には重機の使用 を含めて、年間を通して大きな労力を費やした。
1.1.2 基本観測 三浦 英樹 電離層・気象(地上気象、高層気象、オゾン、日射・放射、天気解析)・潮汐・測地部門の定常観測、および 宙空圏(オーロラ、自然電磁波、地磁気)・気水圏(温室効果気体、雲・エアロゾル、氷床質量収支)・地殻圏
(重力、地震、GPS、VLBI)・生態系変動(ペンギン個体数調査)、地球観測衛星データ受信を対象領域とするモ ニタリング観測を概ね順調に実施した。
1.1.3 研究観測 三浦 英樹
重点研究観測では、「南極域から探る地球温暖化」サブテーマ①「南極域中層・超高層大気を通して探る地球 環境変動」として、大型大気レーダー観測、レイリー/ラマンライダー観測、ミリ波分光観測、MFレーダー観測、
OH大気光観測、全天大気光イメージャ観測、CO2ゾンデ観測を昭和基地で実施した。特に、大型大気レーダーにつ いては、全55群のシステムが完成し、10月からは1年間の連続観測を開始した。またサブテーマ③「氷期—間氷期 サイクルから見た現在と将来の地球環境」として、ペンギンルッカリー遺物から見た氷床変動と環境変動の復元 を実施した。
一般研究観測では、第Ⅷ期後半計画として採択された課題として、「SuperDARNレーダーとオーロラ多点観測 から探る磁気圏・電離圏結合過程」、「太陽活動極大期から下降期におけるオーロラ活動の南北共役性の研究」、
「小電力無人オーロラ観測システムによる共役オーロラの経度移動特性の研究」、「極域から監視する全球雷・
電流系活動と気候変動に関する研究」、「昭和基地におけるVLF帯送信電波を用いた下部電離層擾乱に関する研究」
に関連して短波レーダー観測、オーロラ光学観測、無人磁力計観測、大気電場観測、ELFおよびVLF電磁波観測を 宙空圏分野の研究観測として行った。また、「エアロゾルから見た南大洋・南極沿岸域の物質循環過程」を気水 圏分野の研究課題としてエアロゾル観測を継続的に実施した。さらに「極限環境下の南極観測隊における医学生 物学的研究」として、レジオネラ属菌調査および自律神経系の調査等を行った他、公開利用研究(1件)も実施し た。
1.1.4 設営作業・野外行動 三浦 英樹
設営各部門が担当する昭和基地等における各種作業を当初の計画通り、概ね順調に実施した。基地以外の大陸 沿岸露岸域に設置されている無人観測装置の保守、ペンギンルッカリー遺物調査、ペンギン個体数調査および内 陸旅行準備などを目的として、通年にわたって基地からラングホブデ、スカルブスネス各拠点まで海氷上ルート
【2 月】1 日、昭和基地管理棟前の広場において野木観測隊長並びに平川しらせ副長立会いの下、55 次隊との 越冬交代式を行い、基地の施設管理、運営および観測・設営業務を引き継いだ。前日の事前全体会議で確認した 越冬内規案に基づいて、越冬業務と生活を開始した。引き続き、残留支援を依頼した一部の 55 次越冬隊員、56 次夏隊員および「しらせ」支援員と協力して夏期作業を継続し、15 日午後に最終便の観測隊ヘリコプターを見送 った。以降、56 次越冬隊 26 名による基地観測・設営作業を進めつつ、越冬体制を整えた。当初予定通り 20 日に 越冬成立式、福島ケルン慰霊祭を実施し、その後に開催した第 1 回全体会議によって越冬内規を正式決定した。
21 日と 22 日は、越冬交代後、初の休日日課としていたが、ブリザードのため、一部の隊員は 21 日から 22 日に かけて悪天時対策の作業を進めることとなった。22 日から 24 日にかけて今次初の外出注意令と外出禁止令を発 令した。23 日には、第 1 回安全対策・危機管理委員会を開催し、56 次隊の消防体制、ブリザード時の体制につい て再確認した。観測・設営・生活の当月報告と翌月計画に関しては、25 日から 26 日に開いた各部会およびオペ レーション会議を経て 28 日の第 2 回全体会議に諮った。再び、27 日からのブリザードによって外出注意令を発 令した。28 日の午前中には第 2 回全体会議に引き続き、計画停電の反省会と停電時の対応、午後に第 1 回の消防 訓練とその反省会を開催し、安全対策・危機管理の体制を固めつつある。
【3 月】26 人による通常の越冬生活のリズムを定着させるとともに、2 月後半に続いたブリザードへの対応で 遅れていた、基地内外での安全・円滑な活動を行うための諸組織、規則・指針等の最終整備とその本格運用をめ
ざす月となった。2 日に第 2 回安全対策・危機管理委員会、4 日に第 1 回南極教室・テレビ中継委員会、5 日に第 1 回除雪対策委員会、6 日に第 1 回沿岸旅行準備委員会、10 日に第 1 回ハラスメント対策委員会をそれぞれ開催 し、各委員会が早急に対応すべき懸案事項について検討し、実施日程と責任者を確認したうえで、全体に周知し、
順次実行に移した。各棟の安全・防火対策として、13 日に調理隊員による各棟非常食の配布を終え、16 日から 19 日にかけて、安全対策・危機管理委員会の委員長(越冬隊長)と副委員長(設営主任)、同補佐(建築・土木 隊員)による、基地内の全施設と建築物の巡回、消防施設、建屋内の施設配置、電気配線および危険物などの確 認・点検と取りまとめを行った。この結果に基づき、さらに詳細な各棟への非常用物品と通信設備の分散配置計 画を検討している。野外観測支援隊員と医療隊員、機械隊員による室内外での南極安全講習会も開始し、16 日、
19 日、25 日に野外装備、野外行動一般、医療に関する講習を行った。また、21 日と 24 日には、全隊員を 2 班に 分けて東オングル島の島内散策を行い、野外活動時の個人装備の活用方法と地図・地形の見方を訓練した。27 日 からは、5 日間の予定で、野外観測支援隊員、機械隊員および越冬隊長による、雪上車とスノーモービルの運転 講習会および西オングルへのルート工作訓練を全隊員向けに行う予定であったが、悪天のため、初日のみ実施し、
残りの 4 日間は 4 月に順延となった。なお、この野外訓練と合わせて、基地内に残る隊員が少ない状況での火災、
停電、野外レスキューへの対応ができるように、毎回バックアップの人員配置を検討し、本格的な野外活動時期 に向けた準備とした。第 2 回消防訓練は、自然エネルギー棟を火元と想定して 26 日に実施した。前回の反省を踏 まえて、作業手順と指揮系統の改善を行い、初のホース展張による放水訓練を行った。この訓練と施設点検の結 果を、防火・消火指針の最終版に反映させることとした。29 日には、今月の活動内容と残された課題を確認する ためのオペレーション会議を行った。その後、30 日午前に、観測部会、設営部会、生活部会および全体会議を開 催し、観測・設営・生活の各部会の 3 月報告と 4 月計画について報告・確認した。30 日の全体会議では、越冬隊 内規の修正や各委員会で議論された規約・指針についても確認し、これらに則って、4 月以降の活動を行うこと とした。残る未整備の指針・規約等については、基地内の施設点検のデータや人員配置を検討したうえで最終確 定する作業を進めている。気象面では、2 月 28 日からの B 級ブリザード、9 日から 10 日の C 級ブリザードをはさ む前後には、強風と視界不良が続き、外出注意令を発令した。他にも気象が生活に与えた影響は大きく、毎週、
雪やふぶきの日が続き、基地施設の事前・事後点検と除雪作業に多くの時間を割くこととなった。休日日課にこ れらの作業が重なることも多く、適宜、代休の設定も行った。
【4 月】1 日から 2 日の A 級ブリザード(1 日から 3 日に外出禁止令・注意令)、9 日の C 級ブリザード(8 日か ら 10 日に外出注意令)、16 日から 17 日の B 級ブリザード(16 日から 17 日に外出注意令)、21 日の C 級ブリザー ド(21 日から 22 日に外出注意令)、26 日から 27 日の B 級ブリザード(26 日から 28 日に外出注意令)の計 5 回 のブリザードで、合わせて 13 日間の外出制限令が発令され、その前後の点検・除雪作業を含めると、約 20 日間 をブリザード対応に費やす月となった。これらの作業の合間を縫いながら、極夜期の基地生活や本格的な野外活 動に向けたハード・ソフト両面の環境整備に努めた。各棟の安全・防火対策としては、今月からの消防訓練の中 心課題を基地主要部の消火と位置づけ、16 日に第 3 回の消防訓練を、管理棟・厨房からの出火を想定して実施し た。この訓練で、屋外の 130kl 水槽からのホース展張による管理棟 1 階・受水槽への給水と、消火散水栓からの 放水を組み合わせることで、管理棟内の効率的な本格消火体制を確立することができた。初期消火に使用する消 火器については、24 日に基地内すべての点検・入れ替えを行い、南極観測センターが示した新しい配置案に沿っ た移動作業を完了した。基地居住区の生活環境改善に向けた取り組みとして、各居室の室温を調査するとともに、
発電棟から通路棟への暖気の通風システムの構築や居住棟への冷気遮断・保温用カーテンの設置を行い、ボイラ ー燃料の節約と厳冬期に向けた居住棟の低温対策を進めている。野外活動に向けた準備では、3 月の悪天のため 順延していた、全隊員向けの雪上車・スノーモービルの運転講習会および西オングルへのルート工作訓練を、11 日、13 日、15 日、18 日、20 日に実施した。小人数の隊の特性を生かして、全隊員が十分に時間をとれるように、
毎回 4 名の隊員に対して丸 1 日間の個別指導を行った。冬期総合訓練で実施した実践的なルート工作訓練の経験 は、この訓練で有効に生かされた。また、この野外活動訓練における隊員の不在状況を利用して、火災、停電、
野外レスキュー時におけるバックアップの人員配置・分担内容を毎回個別に検討し、どの部門の隊員が不在にな っても対応できる体制を整備・確認した。2 日、7 日、14 日には、室内の南極安全講習会として、野外における 救急医療の方法の習得および南極の気象特性と観点望気に関する講義・実習を実施した。今月の活動内容と残る 諸課題を確認するための、定例オペレーション会議および観測部会・設営部会・生活部会・全体会議は、ブリザ ード後点検と除雪作業を優先するため、当初予定を遅らせ、それぞれ 30 日と 5 月 1 日に開催を延期した。その他