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II. 夏期行動

2. 夏期観測

2.1 重点研究観測

2.1.1 南極域中層・超高層大気を通して探る

伊藤 礼・藤田 光髙・濱野 素行・圡屋 進・久保 裕哉

【概要】

第 52 次隊から第 55 次隊で設置された 47 群のアンテナに加え、最後の 8 群分のアンテナ、送受信モジュール、

屋外分配装置、群内ケーブルの設置調整を行い、55 群のフルシステムが完成した。第 55 次隊までの積雪デー タから決定された指標に従い、アンテナの嵩上げ基礎追加を行った。また、FAI(Field Aligned Irregularity)

観測用のアンテナ、送受信モジュール、屋外分配装置、群内ケーブルの設置調整を行った。

その他、越冬作業にて取り外した空中線輻射器の再取付、積雪量の少ない空中線の反射器取付、既設空中線の 点検・調整、屋内機器の点検・調整など保守作業を行った。

【実施経過】

a) 到着時の状況

第56次隊到着直前にかなりの降雪があり、越冬隊による砂撒きの成果がかき消され、今次工事対象の空中線エ リアにかなりの残雪がある状態であった。そのため、アンテナの設置、嵩上げは、融雪状況を見ながら、一部は 除雪、砕氷などを実施して作業を進めた。

幸い、大量のスチコン、長尺段ボールなどを展開するエリアに雪はなく、物資の受け入れは円滑に行われた。

b) 物資輸送

今回も、「しらせ」が接岸できないことを考慮した梱包形態としたが、無事接岸できたため特に組み替えなど の変更の必要はなく、ほとんどが準備空輸段階で輸送され、作業工程に影響はなかった。輸送物資量は以下のと おりである。

ア) スチコン 64個(嵩上げ用鋼管、群内ケーブル、屋外分配装置、送受信モジュールなど)

イ) 長尺段ボール 24個(放射器)

ウ) 専用12ftコンテナ 1個(輻射器・クランプ・屋外分配装置)

エ) 混載12ftコンテナ 1個(FAIアンテナ、ブリッジ用チャネル)

オ) バラ段ボール 5個(常温収縮チューブ、TRSシャーシ)

c) アンテナ設置調整

第55次隊までに設置された47群に、8群を加え、フルシステム構成となる55群とした。

全55群のシステム構成が整ったことから、全群フル送受信による機能確認試験(2015年2月2日)、専用発電機 の排熱確認のための24hr連続送受信試験(2015年2月5日〜2月6日)を行い、動作に問題なく良好なエコーが取得 できていることを確認した。今次追加した群を表Ⅱ.2.1.1.1- 1に示す。また、位置関係を図Ⅱ.2.1.1.1- 1に 示す。

空中線設置作業は、各群の積雪状況から判断して、群ごとに行った。作業手順は、以下のとおりである。

ア) クランプ・マスト・導波器取付(130,132群のみ)

イ) 輻射器取付

ウ) 空中線鉛直調整、方位調整

エ) 送受信モジュール取付、空中線と接続、嵩上げ(必要なもののみ)

オ) 屋外分配装置取付、群内配線

カ) 火入れ、モジュールステータス取得・確認

懸念されていた、空中線基礎は鋼管が全て残っており、再掘削の作業は不要であった。ただし、130群のg,m素 子は、鋼管が傾いていたので、再調整した。

表Ⅱ.2.1.1.1- 1 第 56 次隊で追加した空中線群

図Ⅱ.2.1.1.1- 1 第 56 次隊で追加した空中線 8 群の位置

d) アンテナ嵩上げ

55次越冬期間までの積雪データを基にした、各空中線の嵩上げ指示要領に従い、

・新規に50cm嵩上げ 74本 ・新規に80cm嵩上げ 104本 ・50cmの嵩上げを80cmに変更 23本

・50cmの嵩上げを嵩上げ無しにする。 23本 ・80cmの嵩上げを50cmに変更 1本

合計 225本

の空中線の嵩上げ・嵩下げ調整を実施した。この結果、56次隊越冬成立時には、

・50cm嵩上げ空中線 99本 ・80cm嵩上げ空中線 155本 が、運用される。

作業手順は、最終的には以下のとおりである。本作業は、今後も夏の保守作業として実施する可能性が大であ る。(所要人数)

今回は、「しらせ」乗員の支援が有効に活用できた。

ア) 対象となる空中線のマーキングと必要な嵩上げ鋼管(ボルト付き)の集積・配布(1〜2人)

イ) 空中線近傍で、極力平地で足場が良く、かつ、送受信モジュールが干渉しない場所に嵩上げ用鋼管を立 て、持ち上げ用ロープを下部フランジリブの穴に通しておく。(1人)

ウ) 基礎鋼管フランジ部分のボルトを外す。(2〜3人)

エ) 空中線部分(マストクランプより上)をフランジから取り外し、イ)で用意してあった嵩上げ鋼管へ取

付、ナット仮止め。(2〜3人)

オ) 空中線を嵩上げ鋼管ごと持ち上げ、ウ)で取り外したフランジへ取り付け、仮止め。(3〜4人)

カ) 嵩上げ鋼管、基礎鋼管のフランジ部分増し締め、固定、空中線鉛直調整。(1人)

キ) ケーブル(RF、電源制御)をさばき、送受信モジュール-地面間で2〜3箇所紐で固縛する。(1人)

(注意事項)

嵩上げをする場合、送受信モジュールに接続されたケーブルに余長が必要である。ケーブルが埋雪していたり、

凍結している場合は、除雪または砕氷が必要である。ケーブル近傍の除雪、砕氷にはケーブルを破損せぬよう細 心の注意が必要である。

今回、407群i,m,n,o,q,rの6素子については、最後まで除雪、砕氷を試みたが、ケーブルの破損事故などが発 生し、これ以上の砕氷はリスクが高いと判断し、予備ケーブル(RF、電源制御)にて群内を再配線し、嵩上げを 行った。

e) FAIアンテナ設置調整

FAIサブシステムは、2群24本(12本/1群)から構成される。

レーダアレイと異なり、2系統の直線アレイから構成される。素子アンテナは、エレメントはレーダアレイと 同じものを斜めに傾けた単偏波3素子八木アンテナとして使用する。

FAI用アンテナは、指示によりすべて支線を展張した。支線アンカーには、隣接する基礎鋼管を基本に、 既存 基礎鋼管のないところは、再掘削による基礎鋼管(2箇所)、またはケミカルアンカーを使用した。

設置の手順は以下のとおり。

ア) 素子アンテナ(3素子八木アンテナ)組立、マストへ取付、支線用金具取付 イ) 送受信モジュール取付

イ) 送受信モジュール空中線と接続、支線取付(脚立作業)

ウ) 嵩上げ(全数80cm)

エ) 支線展張

オ) 屋外分配装置設置、群内配線(電源制御ケーブルのみ)

カ) 火入れ、ステータス取得、確認

今回、ステータス取得の段階で、Z1群l素子に送信種信号不良の異常が検出され、種信号レベルを測定したと ころ、他の素子より23dB低い値となっており、ケーブルの不良と判断し、予備のRF基幹ケーブル(240m)と交換し た。再検査の結果は良好であった。

また、機能確認のため観測隊ヘリコプター(AS350機F-No.129)をターゲッットとした送受信試験を実施し、

ヘリコプターのエコーを確認した。

(注意事項)

FAI空中線のアンカーに、2本の空中線で隣接する基礎鋼管を共用しているものがあるが、支線金具を取付け るフランジ穴は、必ずしも両空中線の中点にはないため、基礎鋼管にモーメントがかかり、回転する可能性があ る。定期的に支線の張り具合を確認する必要がある。

f) その他保守作業

ア) 越冬中取り外した輻射器取付(91素子)

イ) 反射器取付(158素子)

ウ) TRSシャーシ点検 63ch確認、結果良 エ) 受信位相点検

64chアナログ、ディジタルについて透過位相を計測 オ) 送受信モジュール折り返し試験

55chについて透過位相を計測 カ) TRSバスケット電源フィルタ実装

TRS1〜4について5VDC電源にEMIフィルタを挿入した。フィルタ実装前後の5V電源を表Ⅱ.2.1.1.1- 2 のとおり確認した。

表Ⅱ.2.1.1.1- 2 TRS バスケットの5Vdc 電源の電圧確認

キ) 不良送受信モジュール交換

国内の診断で不良となった14モジュールを良品と交換した。

交換したモジュールを表Ⅱ.2.1.1.1-3に示す。

表Ⅱ.2.1.1.1-3 保守作業と 1.して交換した送受信モジュール一覧 素子位置 交換前SN 交換後SN 備考

101-p 0632 → 0065 水、56次隊持ち帰り 102-p 0540 → 0581 55次隊持ち帰り 105-g 0495 → 0078 55次隊持ち帰り 105-n 0515 → 0607 55次隊持ち帰り 108-m 0240 → 0034 55次隊持ち帰り 109-g 0577 → 0577 55次隊持ち帰り 109−e 0877 → 0198 55次隊持ち帰り 110-d 0491 → 0176 55次隊持ち帰り 111-b 0248 → 0037 55次隊持ち帰り 111-g 0656 → 0125 55次隊持ち帰り 111-j 0986 → 0137 55次隊持ち帰り 111-p 0855 → 0770 雪、56次隊持ち帰り 111-q 0839 → 0938 雪、56次隊持ち帰り 111-r 0765 → 0204 雪、56次隊持ち帰り

ク) 物品管理

保管すべき物品は、その性格・仕様により、屋外放置可能なもの(空中線マストなど)、屋外のスチコ ン(基幹ケーブル敷設用ローラなど)、12ftコンテナ(予備ケーブルなど)、流星小屋(使用頻度の低い 工具など)、PANSY小屋屋内(保守用品、予備部品など)に分類して収納した。

ヶ) 廃棄物処理

53次隊以来残置されていた廃棄ケーブル(ドラム)、木枠、空中線エレメントについて一部、 処理し、

56次隊持ち帰り(越冬後)となった。

廃棄ケーブルドラムは、木枠から取り出し、持ち帰り用12ftコンテナへ収納した。

木枠は、解体し密度を上げて持ち帰り用12ftコンテナへ収納、未処理分はラッシングして残置、木っ端 はタイコンへ収納した。

空中線エレメントは、アルミ部分と複合に分け持ち帰り用スチコンへ収納した。

【問題点・課題】

52次隊以来建設を続けてきた大型大気レーダーであるが、ようやくFAIを含め全群が完成し、これから本格的 な運用と保守が始まる。

全55群フル送信運用のためには、専用発電機の稼働が必須である。本夏作業期間中も機能確認、および連続運

用確認のため稼働試験を実施した。 室温、燃料ワッチ、排熱の調節など人手を要する作業があり、設営隊員の 協力が必須である。定常的な観測のためには、これらの隊員負荷を極力軽減する必要があろう。

空中線は、52次〜53次に基礎孔を掘削しているため、徐々に経年変化が現れてきている。今次も、基礎孔が広 がり、鋼管から傾いてしまったもの(304群-e)のほか、基礎鋼管ごと回転したとみられる偏波方向のずれた素 子が散見された。特に300番台の群は、地面が砂地で基礎が軟弱であると思われる。越冬期間中の点検と、夏作 業における保守が重要であると考える。

空中線とケーブルの保守のため、積雪は夏期間に融雪しておく必要がある。ケーブルが敷設してあるため、重 機の利用ができず、これまでほとんど人手による砂撒きで対応してきた。今次、全群完成し、一部は嵩上げ、支 線などもある状態での砂撒きは隊員の負担が大きい。効率的な方法、ツールなど検討すべきであろう。

2.1.1.2 レイリー/ラマンライダー観測 三津山 和朗・仰木 淳平

【概要】

対流圏・成層圏・中間圏の大気温度や密度、雲やエアロゾルなどの高度分布とその時間変化を測るレイリー/

ラマンライダーによる観測を維持・継続させるため、装置の保守・点検を行う。このレイリー/ラマンライダー では、予備 PC を持ち込む。

前次隊と協力して、観測窓や支線のチェック、消耗品の交換等、観測装置の保守作業を行うと共に、観測作 業を引き継ぐ。

【実施経過】

2 月 5 日に観測手順の引継ぎ、天窓ヒーター交換、DI フィルター交換、フラッシュランプ交換、レーザー打 ち上げ角度の調整、小望遠鏡の視野調整を行った。

天窓ヒーターは異常動作をしていたので交換した。原因は雨漏りによる故障が疑われる。

レーザー打ち上げ角度の調整は、ICCD が起動しなかったことと観測時間の都合により、大まかな調整に留め た。ICCD が起動しなかった原因は PC との接続不良であったと考えられ、現在は問題なく運用できている。

小望遠鏡の視野調整は正常な観測データが取れなかったため、調整方法の引継ぎのみ行った。正常な観測デ ータが取れなかった原因は小望遠鏡の蓋の外し忘れである。現在は再調整のための晴天を待っている。

【問題点・課題】

特になし。

2.1.1.3 MFレーダー 三津山 和朗・仰木 淳平

【概要】

昭和基地上空 60-120km の高度領域の水平風速を連続観測する MF レーダーによる観測を維持・継続させるた め、装置の保守・点検を行う。

前次隊と協力して、観測窓や支線のチェック、消耗品の交換等、観測装置の保守作業を行うと共に、観測作 業を引き継ぐ。

【実施経過】

1 月 4 日に観測棟 MF レーダーPC の交換作業を行った。

1 月 18 日にブリザード後点検を兼ねて支線のチェックを行った。

【問題点・課題】

特になし。

2.1.1.4 ミリ波中層大気観測 児島 康介

【概要】

ミリ波大気観測装置は、成層圏・中間圏大気微量分子(オゾン、NO、等)の放射スペクトルを計測することで、

太陽活動の中層大気への影響を評価している。本装置には摺動部分の摩耗・劣化に伴い、約2年半に一度、定期 点検と交換が必要な機器があり、その保守部品を交換し、最適な動作状態となる様に再調整をした。

更に、受信器の性能確認およびシステム全体の動作確認の後、観測業務を越冬隊員に維持・継続させた。