II. 夏期行動
2. 夏期観測
2.2 一般研究観測
2.2.9 エアロゾルから見た南大洋・南極沿岸域の
2.2.9.1 エアロゾルから見た南大洋・南極沿岸域の物質循環過程 :船上エアロゾル観測(AP47-56-01)
小林 拓
【概要】
砕氷艦「「しらせ」の 06 甲板と第 1 観測室において、エアロゾル粒子の物理化学特性の計測を実施した。
また、06 甲板と第 1 観測室において、エアロゾル粒子をフィルター上に捕集し、エアロゾル粒子に関する化 学組成の緯度分布や変質過程を調査するための分析試料を得た。
観測データを用いて、エアロゾル粒子の光学特性と化学組成について、それらの緯度変化と空気塊の輸送過 程との関係を調査する。また、エアロゾル粒子の複素屈折率の導出を行う。
【実施経過】
「しらせ」06 甲板に雲底高度計(VAISALA 社製シーロメータ CL51)とスカイラジオメータ(プリード社製)、
船舶用サンフォトメータ(試作器)を設置した。シーロメータとスカイラジオメータは、晴海埠頭から昭和基 地接岸中まで稼働させた。しかし、2015 年 1 月 17 日前後に発生したブリザードの影響を受け、復路の観測は 中止した。
シーロメータは、晴海埠頭出港後から連続自動計測を行い、順調にデータを取得していた。しかし、前述した
ブリザード時に本体下部の基台の溶接部が破断し、手すりに寄り掛かるように転倒した。「しらせ」の支援によ り、垂直に立て直され紐で固縛された。氷海中は船舶の動揺が小さいため、観測を継続したが、氷海を離脱する 直前の2015年2月10日に撤去作業を実施した。撤去作業時まで正常に稼働し、データを取得した。
スカイラジオメータも晴海埠頭出港から連続自動計測を行った。同計測器は太陽を自動追尾して、直達光と散 乱光の強度を計測する。しかし、停船中あるいは晴天日であっても太陽を捉えられないことがあった。前述した ブリザード後、サンセンサーに不具合が発生し、太陽を追尾できなくなった。そのため、2015年2月5日に観測を 中止した。
船舶用サンフォトメータは、今次隊で新規に搭載された測器であり、スカイラジオメータと同様に太陽直達光 と散乱光を測定する。太陽直達光測定時だけではなく、散乱光測定時も船の動揺を補正して正しい方向の測定が できるように設計されている。この動揺を補正するソフトウェアの調整作業を、往路のフリーマントル出港後か ら復路の氷海を離脱する頃まで実施した。その後は細かなソフトウェアの修正を加えながら観測を実施した。
「しらせ」第1観測室には、光散乱式粒子計測器(リオン社製KC-01DとKC-22B、TSI社製OPS Moddel3330)、凝 結式粒子計測器(TSI社製CPC Model3772)、超微小粒子測定器(TSI社製SMPS Model 3936N25)、エアロゾル散 乱係数計測器(TSI社製Nephelometer Model3563)、エアロゾル消散係数計測器(CAPS-EXT)とエアロゾル単一 散乱アルベド計測器(CAPS-ALB)((株)汀線科学研究所製)黒色炭素濃度計測器(Magee Scientific社製 Aethalometer AE-31)、および偏光光散乱式粒子計測装置(山梨技術工房社製POPC)を設置して、エアロゾル粒 子の物理化学特性に関する計測を実施した。06甲板に設置した高さ4m、直径0.2mの筒から第1観測室の天井に取 り付けた試料空気分配管を通して、試料空気を各計測器とフィルターフォルダーに導入した。「しらせ」のラミ ング中は排煙の影響を避ける必要があり、また昭和基地沖に接岸中は「しらせ」艦内で対応者が不在となるため、
これらの期間では各装置による計測を中止した。
KC-01DとKC-22Bの計測時間間隔はいずれも1分である。両装置は正常に稼働し、それぞれから直径0.3μm以上と 0.08μm以上のエアロゾル粒子の個数濃度データを取得した。Nephelometerは往復ともに安定して稼働し、1分間 隔の連続計測でエアロゾル粒子の散乱係数データを取得した。Aethalometerによる黒色炭素の重量濃度の計測を 10分間隔で実施した。エアロゾル粒子の光学特性データを得るために、CAPS-ALBとCAPS-EXTを用いて、それぞれ 単一散乱アルベドと消散係数を1秒の計測時間間隔で連続して計測した。POPCはOPCと基本的な構造は同じである が、偏光を検出するセンサが追加されており、個々の粒子の形状に関する情報を得ることができる。測定は5分 間隔で実施した。
エアロゾル粒子の化学組成分析を行うために、エアロゾル粒子のフィルター捕集を2系統用いて行った。一つ 目は、エアロゾル粒子を粒径別に粗大粒子と微小粒子に分けてフィルター上に捕集するために、インパクターを 2段直列に繋いだものを使用した。このインパクターにより、上流側で直径2μm以上、下流側で直径0.2μm以上で2μm 以下のエアロゾル粒子をポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルター上に衝突捕集した。また、最下流側で直径 0.2μm以下の粒子をポアサイズ1.0μmのメンブレンフィルターに捕集した。この系統は第1観測室に設置した。も う一方は、2.5µmをカットするインパクターが取付けられたハイボリュームサンプラーを用いて、2.5µm以上と以 下に分け、石英繊維フィルターにエアロゾルを捕集した。ハイボリュームサンプラーは06甲板最前部に設置した。
いずれの系統も風向風速計を用いて、風速が1もしくは2m/s以上で風向が艦首に対して左右90度の時にだけエア ーポンプが動作することで、艦からの排煙を避けて試料を捕集した。2014年12月11日に数日続いた強風のため、
ハイボリュームサンプラーの基台部に取付けたダンパーが破断しサンプラー本体が転倒した。その時点で観測を 中止し、2014年12月13日にサンプラーを撤去した。いずれのフィルターも国内で化学組成分析に用いられる。
【問題点・課題】
砕氷艦「しらせ」艦上の計測器に発生した問題点とそれらの対策を以下に列挙する。
1.スカイラジオメータの太陽追尾機能の強化。ソフトウェアの改良などが求められる。
2.「しらせ」の06甲板に機器を設置する際には、強風に十分耐えられる設計にする必要がある。2015年1月 17日のブリザードは、昭和基地の記録を更新するほどの強風(50m/s以上)であり、「しらせ」でも同様の 風が吹いていた。今後も夏期間に同程度の強風が吹く可能性を考慮すべきである。
3.測定器との通信にRS-232C規格のシリアルケーブルが多く用いられているが、最近のPCは、USBしかポート を持たないものがほとんどである。そのため、USB-シリアル変換ケーブルを使用しているが、動作が不安定 である。今後、測定システムの信頼性向上、隊員の負担軽減のために、複数のRS-232Cポートを持った産業
用PCの導入を強く期待したい。
2.2.9.2 エアロゾルから見た南大洋・南極沿岸域の物質循環過程:エアロゾルゾンデ夏季観測(AP47-56-02)
小林 拓
【概要】
対流圏と成層圏におけるエアロゾル粒子の個数濃度とともにオゾン濃度の鉛直分布を観測するためにエアロ ゾルゾンデとオゾンゾンデの連結飛揚を実施した。
【実施】
放球は往路の航路上で3回実施した。実施した日時および地点は下記に示すとおりである。
1.2014年12月5日07時05分(UT)5508’S , 10959’E 2.2014年12月12日09時49分(UT)6054’S , 5846’E 3.2014年12月15日16時17分(UT)6648’S , 5843’E
1、2回目は成層圏までデータを取得することができたが、3回目は、高度100m程度浮揚した後、高度が下がり 始め海面に落下した。放球時の上昇速度は問題なかったため、ガス量が少なかったとは考えづらく、放球後、気 球に異常が起きたと考えられる。
【問題点・課題】
「しらせ」の船上からゾンデを複数連結させ飛揚するのは、初めての試みであったが、問題無く実施すること ができた。3回目の失敗は原因が不明であり、対策は明示することは難しいが、放球前に気球を傷つけないよう により気を配る必要があるかもしれない。
2.2.9.3 エアロゾルから見た南大洋・南極沿岸域の物質循環過程:無人航空機観測(AP47-56-03)
東野 伸一郎
【概要】 天気の条件
本観測は、OPCおよびサンプラを胴体内部に搭載した気球分離型滑空無人航空機(UAV)をゴム気球に懸吊し、ゴ ム気球の上昇中に成層圏までのエアロゾル数密度観測およびエアロゾルのサンプリングを行うものである。ゴム 気球の上昇中の観測終了後、分離装置による意図的な分離または自然バーストによって気球から分離したUAVは、
自律滑空飛行によって放球点まで帰還し、観測装置および採取したエアロゾルサンプルの回収を行う。第54次観 測隊夏隊において世界初の方法として本観測方法による観測を試み、高度10kmまでのエアロゾル数密度観測およ びエアロゾルサンプルリターンに成功したが、地球科学的見地からは、より高高度の成層圏上部までの観測とサ ンプル採取が求められた。このため今回は、ゴム気球の上昇限度(バースト)まで可能な限り観測到達高度を上げ ること、またその高度から放球地点まで自律滑空によって観測機器ならびにサンプルの回収を行うことを目標と し、昭和基地およびS17の2か所において実施した。S17においては、高度23kmまでのOPC観測と高度22kmまでのエ アロゾルサンプルリターンに成功した。
また、プロペラ駆動による長距離型UAVにより、将来、水平面内のエアロゾル観測を実施するための予備試験 として、S17においてスキーによるタキシングテストを実施した。
【実施経過】
気球分離型滑空自律UAVによるエアロゾル観測は、昭和基地滞在中において1回、S17滞在中において2回、計3 回実施した。
昭和基地においては、第二廃棄物保管庫を機体の整備・保管場所として準備を進め、天候状況とGPVデータに もとづく飛行経路の予測結果に基づき、2015年1月5日(月)夕方、ヘリオペ終了後にCヘリポートから放球するこ とによって実施した。飛行経路の予測結果より、気球からは意図的に高度6kmで分離することとした。機器の一 部不具合によりパイロットシュートによる最終回収となったため機体の一部が破損したが、エアロゾル数密度観 測ならびにサンプルリターンには成功した。
悪天候により当初予定よりも1日遅れてS17入りし,拠点建物を機体の整備・保管場所として準備を進めた.昭 和基地同様,天候状況とGPVデータにもどく飛行経路の予測結果に基づき、1月16日(金)夕方からのブリザード後 の2015年1月24日(土)および29日(木)の2回、やはりヘリオペ終了後の夕方に実施し、1月24日には高度23kmまで、
1月29日には高度16kmまでの観測を実施した。1月28日(水)にも実施を予定し、気球へのHe充填も済ませて放球直