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伝聞用法「ようだ」の情報とモダリティ

4.1 推論「そうだ」「ようだ」「らしい」の証拠とモダリティ

4.2.2 伝聞用法「ようだ」の情報とモダリティ

先ほど 4.1.2 で推論「ようだ」は、主観性の高い推論表現であることを確認したが、ここ では伝聞に用いられる「ようだ」を伝聞用法「ようだ」と名づけ、伝聞用法「ようだ」をめぐる諸 説について確認し、推論

ようだ

の特徴が伝聞用法

ようだ

にどのような影響を与えるのか を確認すると共に、伝聞用法「ようだ」の

モダリティを確認するため、コミュニケーションの場

におけ情報の入手経路、話し手の心的態度を表す戦略、情報が聞き手に及ぼす影響の中から伝聞

用法「ようだ」に込められた話し手の表現意図を考察する。

75 4.2.2.1伝聞用法「ようだ」の先行研究

森田(1980:508,1989:1185)によると、手がかりとなる根拠が、他者から入ってきた情報 (伝聞)である場合は、「らしい」であって「ようだ」は使えないとし、「ようだ」の伝聞性を否定 している。一方、仁田(1992:9)では以下のような例は伝聞性の強い「ようだ」としている。

私が学者から聞いた話では47、地震の研究はかなり進んでいるようですが、まだ予知とい うところには、、、、。(仁田(1992:9)から)

上記の「ようだ」は、「学者から聞いた話では」と自分の入手した情報の出所を明かしてい ることから、伝聞とも見受けられる。また学者から聞いたいろいろな情報を思考を通して整 理し、その結論として「地震の研究はかなり進んでいるようですが、、」と話しているように も見受けられる。

4.2.2.2伝聞用法「ようだ」の情報の入手経路

推論「ようだ」は、「視覚・聴覚・味覚・内的感覚・内的考察・書籍など資料・人の話」に よる証拠が話し手の思考を通して内面化された情報を聞き手に伝達する。そのため、推論

「ようだ」の情報共有の確保手段は、話し手が証拠をもとに推論した情報の伝達である。一方 で伝聞用法「ようだ」は他者から入手した情報を伝達しているため、「書籍などの資料と人の 話」のみを情報としており、その中でも以下の用例(13)のように主に書籍など読み物による 情報を伝える場合が多い。

(13)a.チリメディアの報道によると、クラブ・ブルージュに所属する FW ニコラス・カステ ィージョ(21)の獲得に迫っているようだ。http://www.goal.com/jp/news(2015/1/26) b.新聞によると彼が自殺したようだ。http://tatoeba.org/eng/sentences/show/145168 c.この手紙は、投稿主によると、そんなに昔に用意したものではなかったようだ。投稿

主が昨年、着物を干した時に封筒はなかったという。

(2014 年 12 月 22 日 読売新聞) d.ポーラ文化研究所(東京)によると、明治時代に断髪が広がり、七三分けの髪形の男性

も登場。その後、会社勤めをする男性の髪形として定着していったようだ。

47 下線は筆者によるもの。

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(2013 年 9 月 18 日 読売新聞)

e.このほど発表された巨大ロボットは、古代の土器や土偶、仏像からイメージされたも ので、マスコミ向けの資料によると、このロボットは“鷹の爪”史上最大の敵のボス キャラとされているようだ。 (2013 年 7 月 7 日 読売新聞) f.総務省の調査によると、スマホの世帯普及率は 2012 年末で 5 割。対応のサービスを

充実させることで、テレビ視聴を促す工夫が続いているようだ。

(2013 年 6 月 26 日 読売新聞) g.プロデューサーによると、福田監督の作品は「大人も子供も楽しめる」ものといい、

映画祭に参加して監督、福くんとも、大人も子供も笑い、興奮できるエンターテイン メント作としての手ごたえを感じたようだった。 (2013 年 02 月 27 日 読売新聞)

用例(13)から伝聞用法「ようだ」の情報の入手経路を図式化すると、以下の<図9>の通りで ある。

<図 9. 伝聞用法「ようだ」の情報の入手経路>

4.2.2.3伝聞用法「ようだ」の情報源とテンス

用例(13)を用いて、伝聞用法「ようだ」の情報源とテンスを確認して見たい。

(14)a.チリメディアの報道によると、クラブ・ブルージュに所属する FW ニコラス・カステ ィージョ(21)の獲得に迫っているようだ。

b.新聞によると彼が自殺したようだ。

c.この手紙は、投稿主によると、そんなに昔に用意したものではなかったようだ。投稿

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主が昨年、着物を干した時に封筒はなかったという。

d.ポーラ文化研究所(東京)によると、明治時代に断髪が広がり、七三分けの髪形の男性 も登場。その後、会社勤めをする男性の髪形として定着していったようだ。

e.このほど発表された巨大ロボットは、古代の土器や土偶、仏像からイメージされたも ので、マスコミ向けの資料によると、このロボットは“鷹の爪”史上最大の敵のボス キャラとされているようだ。

f.総務省の調査によると、スマホの世帯普及率は 2012 年末で 5 割。対応のサービスを 充実させることで、テレビ視聴を促す工夫が続いているようだ。

g.プロデューサーによると、福田監督の作品は「大人も子供も楽しめる」ものといい、

映画祭に参加して監督、福くんとも、大人も子供も笑い、興奮できるエンターテイン メント作としての手ごたえを感じたようだった。

以上は、ネットや新聞記事から収集した用例である。(14.a~f)はいずれも報道、新聞、

投稿、資料といった間接的な情報による伝聞である。さらに「a.チリメディアの報道による と」、「b.新聞によると」、「c.投稿主によると」などは、情報源をはっきり明かしている。先 ほど確認したように、伝聞「そうだ」と伝聞用法「という」は情報源を明かさなくてもいいのだ が、伝聞用法「ようだ」は情報源を明らかにすることで他からの情報であることを明示し、一 応話し手と情報との間に距離を置くが、推論「ようだ」の持つ主観的判断の意味が強く、他か ら入手した情報に話し手の考えや思考が加わっているかのように提示する。つまり、他から の情報であっても話し手の認識世界において内面化されているため、話し手の主観が交えら れ、情報の再構築が行われているものと考えられる。そのため、伝聞用法「ようだ」によって 提示される情報の審議判断も話し手の自己判断に近く伝わるのである。

ただし、(14.g)は直接インタビューによるもので、「ようだった48」形を用いているが、伝 聞「そうだ」が「そうだった」形をとらないのに比べ、伝聞用法「ようだ」は情報と距離を

48 羅聖榮(1996:21)によると、「花子は合格したようだった」の「ようだった」のような形は、話し手にとってそのように見え たという過去の出来事であって、それは事実となって客観化され、命題の構成要素の一部として機能しているとみてい る。しかし、本稿では推量表現の「そうだった」、「ようだった」、「らしかった」形を客観化された命題の一部というより、

情報と話し手の心理的距離を表しているとみている。なぜならこれらはすでにテンスの外にあるため、単純に過去を意 味しているのでもなく、 過去のある時点に起こった事態の存在に気づいた時点が、発話現在時より以前であるという時 間相の観点から、話し手の情報と心理的距離を表すための方法として捉えている。つまり、話し手の心的態度を表す一 つの戦略として、「そうだった」、「ようだった」、「らしかった」を用い、話し手と情報の間に心理的距離をおく効果があ るとみているのである。

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置くことができ、伝聞「そうだ」よりも話し手の主観が介入しやすいと見ていいだろう。

4.2.2.4伝聞用法「ようだ」の話し手の表現意図を表す戦略

4.2.2.3 の伝聞用法「ようだ」の情報源とテンスから伝聞用法「ようだ」は、他から得た情 報に話し手の主観が加わり、情報を話し手の自己判断に近いものとして提示していることは すでに確認した。

今度は用例(14)の「ようだ」を「そうだ」に置き換え、話し手の表現意図を表す戦略を比較 してみたい。

(15)a.??チリメディアの報道によると、クラブ・ブルージュに所属する FW ニコラス・カス ティージョ(21)の獲得に迫っているそうだ。

b.??新聞によると彼が自殺したそうだ。

c.??この手紙は、投稿主によると、そんなに昔に用意したものではなかったそうだ。投 稿主が昨年、着物を干した時に封筒はなかったという。

d.??ポーラ文化研究所(東京)によると、明治時代に断髪が広がり、七三分けの髪形の男 性も登場。その後、会社勤めをする男性の髪形として定着していったそうだ。

e.このほど発表された巨大ロボットは、古代の土器や土偶、仏像からイメージされたも ので、マスコミ向けの資料によると、このロボットは“鷹の爪”史上最大の敵のボス キャラとされているそうだ。

f.??総務省の調査によると、スマホの世帯普及率は 2012 年末で 5 割。対応のサービス を充実させることで、テレビ視聴を促す工夫が続いているそうだ。

g.*プロデューサーによると、福田監督の作品は「大人も子供も楽しめる」ものといい、

映画祭に参加して監督、福くんとも、大人も子供も笑い、興奮できるエンターテイン メント作としての手ごたえを感じたそうだった。

以上のように伝聞用法「ようだ」を伝聞「そうだ」に置き換えると、ほとんどが居座りの悪 い文になるが、これは伝聞用法「ようだ」と伝聞「そうだ」の証拠の入手経路の違い、情報源と

「そうだ」の共起関係から起因していると思われる。即ち、伝聞用法「ようだ」は、主に書籍な ど資料による情報を話し手の思考を通して言語化しているので、伝聞として用いられるため には必ず情報源を必要とするが、伝聞「そうだ」は、主に話されたことを証拠としていること と、必ずしも情報源を提示する必要がないことから、伝聞用法「ようだ」を伝聞「そうだ」に置 き換えると居座りの悪い文になってしまう。また(15.g)が文として成立しないのは「ようだ