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伝聞用法「とか」の話し手の心的態度を表す戦略

4.3 複合助動詞「という」「って」「とか」の情報とモダリティ

4.3.3 伝聞用法「とか」の情報とモダリティ

4.3.4.4 伝聞用法「とか」の話し手の心的態度を表す戦略

伝聞用法「とか」を、伝聞「そうだ」と伝聞用法「という」に置き換えて、話し手の心的態度 を表す戦略を比較してみると以下のようになる。

(33)a.キリストをえらぶかどうかの時期を迎えると、とたんに先祖や両親と同じ墓には入れ なくなるとか、位牌はクリスチァンになったさい、つくってもらえないから、遺族た ちの手で日毎、、(現代日本語書き言葉コーパス)

b.ステージからファンに報告・・・ファンはみなアゼンとしたとか。

(Yahoo!ブログ/Yahoo!サービス/Yahoo!ブログ) c.噂では、御自分の容貌と比べられて美容の参考にされるとか。

(現代日本語書き言葉コーパス) d.役にたつ人になって欲しいと言う人はゼロ、具体的な職業を書く人も少なくなってい

るとか。(現代日本語書き言葉コーパス)

e.大和生命が・・・倒産したとか ・・うちの主人も保険が好きなのかたくさん入って います・・・大丈夫なの大和生命で。(Yahoo!ブログ/Yahoo!サービス/Yahoo!ブログ)

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f.私も人から聞いたのですが、昔ハワイで津波が起こったとき日本人が「津波」と言っ たので広まったとか?(Yahoo!知恵袋/ニュース、政治、国際情勢/ニュース、事件)

以上の「とか」は、「以前そのような話をどこかで聞いたり読んだりしたことがあるが、そ れが本当かどうかは分からない」といった話し手の認識態度が窺える。上記の用例を「とい う」に置き換えると以下のようになる。

(34)a.キリストをえらぶかどうかの時期を迎えると、とたんに先祖や両親と同じ墓には入れ なくなるという、位牌はクリスチァンになったさい、つくってもらえないから、遺族 たちの手で日毎、、

b.ステージからファンに報告・・・ファンはみなアゼンとしたという。

c.噂では、御自分の容貌と比べられて美容の参考にされるという。

d.役にたつ人になって欲しいと言う人はゼロ、具体的な職業を書く人も少なくなってい るという。

e.大和生命が・・・倒産したという ・・・うちの主人も保険が好きなのかたくさん入 っています・・・大丈夫なの大和生命で。

f.*私も人から聞いたのですが、昔ハワイで津波が起こったとき日本人が「津波」と言 ったので広まったという?

伝聞用法「とか」を「という」に置き換えると、話し手の情報に対する不確かな認識はあま り感じられない。(34.a~e)は、ただ単に入手した情報を淡々と伝えているだけで、話し手 の情報への関与も低く感じられる。また、(34.f)が文として成立しない理由のは、伝聞用法

「という」には、①他から入手した情報に対する不確かといった気持ちを表すことができない、

②伝聞用法「という」と伝聞用法「とか」は、話し手の心的態度を表す戦略が違うため、「とい う」は「?」を付けて聞き手に情報確認を求めることができず、③伝聞用法「という」は情報源を 提示してもしなくてもいいが、伝聞用法「とか」は情報源が提示されないのが普通で、さらに 伝聞用法「という」は情報源が提示される場合でも「人から聞いたのですが、」のように不確か に情報源を提示することはないため、この場合は「とか」を「という」に置き換えることができ ないの 3 点であると考えられる。言い換えると、「とか」は自分の持っている情報が不確かな ゆえに、情報を伝達する上で相手に情報の確認を求めることができる。そういった面におい て「とか」を用いる際の話し手は情報の真偽判断に介入することができるが、伝聞用法「とい う」は、もともと情報の真偽判断には関与しておらず、主に情報伝達のみに関わっていると

107 いう違いがある。

また、これらを「そうだ」に置き換えてみると以下のようになる。

(35)a.キリストをえらぶかどうかの時期を迎えると、とたんに先祖や両親と同じ墓には入れ なくなるそうだ、位牌はクリスチァンになったさい、つくってもらえないから、遺族 たちの手で日毎、、

b.ステージからファンに報告・・・ファンはみなアゼンとしたそうだ。

c.??噂では、御自分の容貌と比べられて美容の参考にされるそうだ。(愛と死の輪舞) d.役にたつ人になって欲しいと言う人はゼロ、具体的な職業を書く人も少なくなってい

るそうだ。

e.大和生命が・・・倒産したそうです ・・・うちの主人も保険が好きなのかたくさん 入っています・・・大丈夫なの大和生命で。

f.*私も人から聞いたのですが、昔ハワイで津波が起こったとき日本人が「津波」と言 ったので広まったそうですが?

以上のように、伝聞用法「とか」を伝聞「そうだ」に置き換えると、話し手の情報に対する ある程度の確信や肯定的な姿勢が窺え、入手した情報に対して、よく知らない・不確かとい った表現意図は表れない。そのため、(35.c)のような噂話には、「そうだ」よりは「という」を 用いて、情報の真偽判断を聞き手に委ねるか、「とか」を用いて、よく知らない・不確かな情 報といった表現意図を表した方が適切であろう。(35.f)をみると、伝聞「そうだ」を用いる際 の話し手は、情報に対する肯定的姿勢が現れるため、聞き手に情報の確認を求めることがで きず非文になる。

その一方で、これまでの研究において「とか」の情報に対する認識態度は、「ぼかし・曖 昧」という用語で一様に纏められてきたという印象を受けるが、本稿では、伝聞においての

「とか」の用法を掘り下げて確認する。

以下の通り、伝聞用法「とか」を、①ぼかし(ぼやかし)、②入手した情報に対するよく知 らない・不確かといった認識態度を表すことで、話し手の責任回避・距離感・衝突回避を目 的とする曖昧表現、③聞き手のフェイス53をも考慮に入れた、(間)主観化された表現の三つ

53Tragott(2010)では話し手の態度や信念が表されている場合を主観化、それに聞き手をも考慮に入れている場合を(間)主 観化としている。本稿では聞き手の社会的地位(丁寧体)による配慮はもちろん、広い意味で相手のフェイスを保つため の配慮的なものも(間)主観化と見做している。

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に分けて考察する。このような観点から考察を進めることで、これまでの話し手中心の伝聞 研究における伝聞の定義、つまり「情報の受け渡し(宮崎 他 2002)、命題内容の入手の仕方 (仁田 2009)」では不十分であるということを確認し、伝聞が話し手の聞き手に対する配慮を 表すこともできるため、情報、話し手、聞き手の 3 要素に対する理解の中で考慮されるべき であるということを強調したい。

①ぼかし(ぼやかし)

(36)a.「・・・夏尾がホントのお姉さんだったらいいのにとか言うてたけど」由香をだしに、遠 回しに夏尾を褒めてみたりして。さすがに面と向かって褒めたりするのって照れくさ いからな…。(現代日本語書き言葉均衝コーパス)

b.三日三晩の難産だべさ。キナコは力つきて、もうだめだとかいってた。

(現代日本語書き言葉均衝コーパス)

(36.a~b)は、以前他から聞かされたことを直接引用的に「“”」で囲うように、「そっく りそのまま再現できないが、それらしきことを言った」とはっきり覚えていないことを、「ぼ かして(ぼやかして)」現発話に用いている。このようなぼかし(ぼやかし)は、話し手の対人 関係上の責任回避や情報と話し手の間に距離を置くような意図はみられず、ただ以前のコミ ュニケーションの場で入手した元の情報が、現発話の場で「そっくりそのまま再現できない」

だけであるため、ぼかし(ぼやかし)て話していると考えられる。

②話し手の責任回避・距離感・衝突回避を目的とする曖昧表現 (37)a.(写真が破られている理由を継母から聞いてはいるが)

(継母によると)幼い私を捨てて去った母を憎むあまりに父が顔を破ったとか。(ヤネ) b.大和生命が・・・倒産したとか ・・うちの主人も保険が好きなのかたくさん入って

います・・・大丈夫なの大和生命で。(Yahoo!ブログ/Yahoo!サービス/Yahoo!ブログ) c.(患者の容態を聞かれ、容態を直接確認してはないが)

会長の主治医いわくすごい回復力だとか。(ツ)

d.(検事の事務官が事件担当弁護士について検事に話すとき) 勝訴率は 9 割だが気が向く事件だけ受けるとか。(ケ)

e.「それに、あのテレビの特集、すごい人気らしいよ。視聴率が、二十パーセント以上 とかいってた。(現代日本語書き言葉均衝コーパス)

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(37.a)は直接聞かされた情報であるが、それが本当かどうかは確認できないといった、

話し手の情報に対する距離感が感じられる。(37.b)はおそらくメディアを介した情報を、

(37.c)は主治医からの情報を伝達していると思われるが、情報と話し手の間に距離感が感じ られる。(37.d~e)は、直接聞かされた話でない(第 2 次伝聞)がゆえに、情報伝達において の話し手の自信のなさ、責任回避といった態度が窺える。伝聞用法「とか」のこのような距離 感・責任回避は、伝聞用法「らしい」が持つ不確かさによる距離感・責任回避と共通している ことが分かる。上記の伝聞用法「とか」を「らしい」と置き換えてみると以下のようになる。

(38)a.(写真が破られている理由を継母から聞いてはいるが)

(継母によると)幼い私を捨てて去った母を憎むあまりに父が顔を破ったらしい。

b.大和生命が・・・倒産したらしい ・・・うちの主人も保険が好きなのかたくさん入 っています・・・大丈夫なの大和生命で。

c.(患者の容態を聞かれ、容態を直接確認してはないが) 会長の主治医いわくすごい回復力らしい。

d.(検事の事務官が事件担当弁護士について検事に話すとき) 勝訴率は 9 割だが気が向く事件だけ受けるらしい。

e.「それに、あのテレビの特集、すごい人気らしいよ。視聴率が、二十パーセント以上 らしい。

以上のように、責任回避・距離感・衝突回避を目的とする「とか」は、「らしい」と置き換 えても意味的違いはあまり感じられない。また、両方とも客観的証拠を必要とするとはいえ、

責任や衝突を避け、距離を置きたいといった話し手の主観が介入できるやや主観的伝聞表現 である。

しかしながら、伝聞用法「とか」は引用「と」の影響で「とか」の前に「疑問・命令・

勧誘・丁寧形」が来ることができるが、伝聞用法「らしい」は推論由来の伝聞表現であるた め、「疑問・命令・勧誘・丁寧形」は「らしい」の前に来ることができない。また伝聞用法

「とか」は丁寧形をとらないのに対し、伝聞用法「らしい」は丁寧形をとり得るが、「とか」が丁 寧形をとらないのは、疑問を表す助詞「か」が文の一番末尾に付くので「か」の後ろに他の助詞 や助動詞が付くことができないからである。

一方で、伝聞用法「とか」は以下の用例(39)をみると分かるように、話し手の聞き手に対

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する考慮が窺えるものも確認できた。Lewis(2006:57)54では、信念や評価のような話し手中 心の表現が聞き手のフェイスを含む場合、聞き手のフェイスをどのようにするかの戦略とし て、はっきり言い切るよりは推論のように話すと述べている。以下のような用例を用いる際 の話し手は、情報にある程度信頼を寄せながらも、敢えて「とか」を用いることでよく知らな いコトガラのように述べているため、聞き手のフェイスを保つ戦略としてその役割を果たし ているとみて差し支えないだろう。そのため、本稿ではこのような「とか」を相手のフェイス を保つ伝聞表現とする。

③聞き手のフェイスを考慮に入れた表現

(39)a.(会長に自ら推薦した人が入社試験で何点取ったのかと聞かれて秘書が) 3 人とも全科目 0 点だとか。(ヤ)

b.(かなりの金額の)お金を一日で使ったとか。(ヶ) c.(現在の聞き手と話し手の状況に比喩して)

書記長の様態が好転した。側近たちは不安になり目が覚めたら自分たちが危ないと、

そして 6 人は書記長を暗殺したとか。(ツ)

用例(39)から、話し手は他から入手した情報に信頼を寄せながらも、情報内容が聞き手 と何らかの関りを持っているため、「とか」を用いて聞き手を配慮していることが分かる。さ らに、伝聞用法「とか」のこのような意味機能は情報にある程度信頼を寄せているにも拘わら ず、敢えて情報源を明かさず、「とか」を用いることで入手した情報を不確かなものとして提 示するのが、この場合の話し手の表現意図である。

以上の例を「そうだ」に置き換えてみよう。

(40)a.3 人とも全科目 0 点だそうですが。

b.お金を一日で使ったそうですが。

c.書記長の様態が好転した。側近たちは不安になり目が覚めたら自分たちが危ないと、

そして 6 人は書記長を暗殺したそうだ。

「そうだ」は、情報にある程度確信を持っている時に用いられる伝聞表現であるため、用

54 Lewis(2006:57)argues that “the expression of speaker oriented meaning such as beliefs and evaluation invol ves face, and one strategy for managing face is to invite inferences rather than be explicit”