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伝聞「とのことだ」の話し手の心的態度を表す戦略

4.4 連体修飾形「とのことだ」「ということだ」の情報とモダリティ

4.4.1 伝聞「とのことだ」の情報とモダリティ

4.4.1.4 伝聞「とのことだ」の話し手の心的態度を表す戦略

まず、用例(44)の伝聞「とのことだ」を伝聞「そうだ」に置き換えて、これらの情報に対す る話し手の心的態度を表す戦略を比較してみよう。

(46)a.隊長は「家政婦のミタ」にも出演した人気子役の本田望結が務め、2月にお披露目 イベントが予定されているそうだ。 (2012 年 1 月 20 日 読売新聞)

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b.「来ていただけるのはありがたい」が、さすがに心配になったそうだ。

(2012 年 1 月 26 日 読売新聞)

c.関係者によると宿泊客の多くはアメリカ人だが、最近は日本人も増えているそうだ。

(2012 年 1 月 30 日 読売新聞) d.?同社によると、本製品はクラウド市場をターゲットにしたビジネスユース

向け製品だそうだ。 (2012 年 2 月 15 日 読売新聞)

e.?同社によれば、(中略)特に、北の地方ほど寒波の影響が長引くため、桜の開花も遅 くなる可能性が高いそうだ。 (2012 年 2 月 6 日 読売新聞)

f.?各回、ネイティブ講師 1 名を除き、生徒最大 9 人まで参加可能。授業内容は、各回 の参加者を見て決定するそうだ。 (2012 年 2 月 1 日 読売新聞)

g.*君は?と聞き返すと、今日校長室で、まことに気の毒だけれども、事情已むを得ん から処決してくれと言われたそうだ。(坊ちゃん)

(46.a,b)は文脈から情報源が分かる用例、(46.c)は情報源が明示されている典型的な伝 聞「とのことだ」であり、(46.d,e)は、「同社によると(よれば)」のように文脈から情報源が明 らかであるといえる文である。(46.f)は、英会話教室の無料体験レッスンの紹介記事である が、用例(46)の置き換えから「とのことだ」を伝聞「そうだ」に置き換えると、伝聞「そうだ」が 主に話されたことに用いられるため、情報に対する話し手の肯定的態度が窺えるため、用例 (46)のように新聞記事には返って不自然になる場合もある。(46.g)は「君は?と聞き返すと」

と伝聞「そうだ」が共起できず、非文になる。伝聞「とのことだ」を「ということだ」に置き換え ると、以下のようになる。

(47)a.隊長は「家政婦のミタ」にも出演した人気子役の本田望結が務め、2月にお披露目 イベントが予定されているということ。 (2012 年 1 月 20 日 読売新聞)

b.「来ていただけるのはありがたい」が、さすがに心配になったということ。

(2012 年 1 月 26 日 読売新聞) c.関係者によると宿泊客の多くはアメリカ人だが、最近は日本人も増えているという

こと。 (2012 年 1 月 30 日 読売新聞)

d.同社によると、本製品はクラウド市場をターゲットにしたビジネスユース

向け製品ということ。 (2012 年 2 月 15 日 読売新聞) e.同社によれば、(中略)特に、北の地方ほど寒波の影響が長引くため、桜の開花も遅く

なる可能性が高いということ。 (2012 年 2 月 6 日 読売新聞)

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f.各回、ネイティブ講師 1 名を除き、生徒最大 9 人まで参加可能。授業内容は、各回の 参加者を見て決定するということ。 (2012 年 2 月 1 日 読売新聞)

g.君は?と聞き返すと、今日校長室で、まことに気の毒だけれども、事情已むを得ん から処決してくれと言われたということだ。(坊ちゃん)

以上の(47.a~g)は、伝聞「とのことだ」を伝聞用法「ということだ」(4.4.2 参照)に置き換 えても構文的には問題なく成立し、意味的にはやや柔らかい伝聞表現になる。また以下の (48.a,b)は、一つの文の中に「とのことだ」と「ということだ」が一緒に現れている場合である が、(48.a)は、これらの順番を変えても問題が生じない反面、(48.b)の場合は、「というこ とだ」を「とのことだ」に変えると意味の差が生じる。これは「ということだ」の意味機能によ るもので、「ということだ」は、(49.b)のように「~の理由で」という意味機能を持っているが、

「とのことだ」はそのような機能を持っていないことから起因していると言える。

(48)a.KDDI の高橋誠執行役員専務と剛力さんによるトークセッションでは、剛力さんおス スメのアプリとして、「空気読み。」や「昔から『ぷよぷよ』が大好きなので」とい うことで「ぷよぷよフィーバーTOUCH」、そして「仕事運や恋愛運が気になるので手 相も気になる」とのことから「ザ・手相」、「友だちとメールをするのが好きなの で」と「デコデコメール」を紹介した。(2012 年 3 月 5 日 読売新聞)

b.この分野はユーザーに「楽しさ」を提供したということで評価をしている とのこと。 (2012 年 2 月 14 日 読売新聞)

以上の用例(48)の伝聞「とのことだ」を伝聞用法「ということだ」にそれぞれ置き換えると、

以下のようになる。

(49)a.KDDI の高橋誠執行役員専務と剛力さんによるトークセッションでは、剛力さんおス スメのアプリとして、「空気読み。」や「昔から『ぷよぷよ』が大好きなので」と のことで「ぷよぷよフィーバーTOUCH」、そして「仕事運や恋愛運が気になるので手 相も気になる」ということから「ザ・手相」、「友だちとメールをするのが好きな ので」と「デコデコメール」を紹介した。

b.*この分野はユーザーに「楽しさ」を提供したとのことで評価をしているということ。

→この分野はユーザーに「楽しさ」を提供したという理由で評価をしているという こと。

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以上の考察から、伝聞機能のみを果たしていて、伝聞「とのことだ」は「との+被修飾名詞」

と同じように情報源が特定されていない場合には使いにくいことが分かる。また、伝聞「と のことだ」がビジネスの場面で用いられる際には、話し手の社会的注意により丁寧体を加え ることが可能である。つまり、他から入手した情報を伝える際に、社会的上下関係を考慮し、

話し手の主観的認識作用により、丁寧体を加える場合もあるということだ。例えば、(平社 員の私は部長に)“木村課長に 3 時に会議室に来てくれと伝えてほしい”といわれ、それを 木村課長に伝える際には、(a)も(a')も成立する。

(a)部長が 3 時に会議室に来てくれとのことです。

(a′)部長が 3 時に会議室に来てくださいとのことです。

また「とのことだ」は、以下の(b)のように名詞・ナ形容詞に繋がる際は「との」と同じく、

終止形「-だ」が省略された形で繋がる場合が殆どである。

(b)米国、韓国、ロシアが発射取りやめを求め、中国も「深刻な事態」との認識を示して いる。 (2012年3月27日 読売新聞)

(b′)米国、韓国、ロシアが発射取りやめを求め、中国も「深刻な事態だ」との認識を示 している。

本稿の調査で(b′)のように省略されている終止形「-だ」を補って日本語母語話者10人に アンケートを行ったところ、(b′)は「-だ」の部分で一度文が切れ、終止形「-だ」を含む連体 修飾節を強調するような印象が受けられ、「-だ」を補わない方がスムーズであるとの意見が 得られた。これは、「とのことだ」が伝聞機能のみ有しているため、①命題が他から入手した 情報であることをさらに強調する必要がなく、②主に新聞やニュース、ビジネスの場といっ た堅い場面で用いられる表現であるため、「とのことだ」だけで、すでに事実を客観的、且つ 簡潔に伝えることができ、「-だとのことだ」から終止形「-だ」が省略されたと考えられる。