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性犯罪抑止のための新たな刑事政策的 視点に基づく諸施策の提言

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平成 30 ( 2018 )年度 博士学位請求論文

性犯罪抑止のための新たな刑事政策的 視点に基づく諸施策の提言

西山智之

日本大学大学院法学研究科

博士後期課程公法学専攻

(2)

目次

はじめに ... 1

1 研究の前提と問題の所在 ... 3

1 研究の前提 ... 3

1、犯罪の事前予防策と刑事司法制度による犯罪対策の歴史 ... 3

2、刑法犯認知件数の減少傾向 ... 5

3、性犯罪の認知件数の現状維持傾向 ... 6

4、性犯罪被害の重大性と対策の必要性 ... 8

2 問題の所在 ... 9

1、性犯罪者への早期対策の必要性 ... 9

2、性犯罪者矯正策としての現行制度の不備 ... 9

3、刑事司法制度による性犯罪者治療体制構築の必要性 ... 10

3 性犯罪処罰規定の変遷と性的問題行動の多様性... 11

1、刑法犯としての性犯罪 ... 12

2、性的問題行動の多様性 ... 15

本章(第1章)の小括 ... 18

2 性犯罪の現状潜在的性犯罪者の存在とその危険性― ... 19

1 性犯罪の認知件数の推移と暗数 ... 19

1、性犯罪の認知件数の推移 ... 19

2、性犯罪と暗数の問題 ... 22

2 性犯罪暗数推計の試み ... 24

1、法務省法務総合研究所の調査を基にした強姦の発生件数の推計 ... 24

2、内閣府男女共同参画局の調査を基にした強姦罪の発生件数の推計 ... 28

3、性犯罪の暗数に対する考察及び既存の調査結果との照合 ... 29

3 性犯罪の再犯率 ... 30

1、性犯罪と再犯率の一般的見解 ... 30

2、性犯罪の再犯率への考察 ... 32

3、性犯罪の再犯率の結論 ... 35

4 性犯罪者の特徴 ... 37

1、性犯罪の原因 ... 37

2、性犯罪の病理 ... 38

3、国際疾病分類(ICD-10)と性嗜好障害の位置づけ ... 39

4、性犯罪と性嗜好障害の関係 ... 40

5 性犯罪の発生場所及び人的関係性 ... 41

1、法務省法務総合研究所研究部報告の資料 ... 41

2、警視庁のホームページにて公開している情報 ... 42

3、科学警察研究所「性犯罪被害実態調査」の資料 ... 43

(3)

4、法務省法務総合研究所・警視庁・科学警察研究所のデータの比較 ... 44

5、強姦・強制わいせつの発生場所と対応方法の検討 ... 45

本章(第2章)の小括 ... 47

3 性犯罪対策の現状と課題現状で不足している性犯罪対策の探索― ... 49

1 警察段階・検察段階・裁判段階における性犯罪対策 ... 49

1、警察段階・検察段階における対策 ... 49

2、裁判段階における対策 ... 55

2 警察段階・検察段階・裁判段階における性犯罪者対策の限界と問題点 ... 58

1、警察段階・検察段階における再犯防止措置の不備と性犯罪者に対する治療の視点の 欠落 ... 58

2、警察段階・検察段階・裁判段階で釈放される性犯罪者の問題 ... 60

3 刑事施設・更生保護段階における性犯罪対策 ... 69

1、刑事施設における性犯罪者対策 ... 69

2、更生保護段階における性犯罪者対策 ... 75

4 刑事施設・更生保護段階での処遇の限界と問題点 ... 80

1、責任主義に基づく刑期の制限 ... 80

2、刑期後に強制措置の取れない現行制度 ... 81

3、専門治療に特化していない刑事施設 ... 81

4、保護観察所の専門スタッフ不足 ... 82

本章(第3章)の小括 ... 83

4 性犯罪者対策の現状を踏まえた改善策の方向性 ... 85

1 性犯罪者に対する適切な対応方法の検討 ... 85

1、犯罪予防理論の段階性 ... 85

2、犯罪予防モデルから見た今後対処すべき段階 ... 90

2 新たな性犯罪者処遇制度への試み ... 92

1、現行刑罰制度と拘束治療 ... 92

2、性犯罪者の精神医療制度への移行 ... 96

3、海外の性犯罪者強制治療制度アメリカ合衆国の制度を参考に― ...105

本章(第4章)の小括 ... 111

5 新たな性犯罪者対策の提唱(まとめにかえて) ... 113

1 警察段階での処置 ... 113

1、前兆事案を繰り返す者に対する性犯罪再犯防止講習 ... 114

2、警察官通報による性嗜好障害を持つ性犯罪者の措置入院 ... 116

2 検察段階での処置 ... 118

1、性犯罪事件での起訴猶予処分者に対する精神鑑定の実施 ... 118

2、起訴猶予処分者への更生緊急保護の活用 ... 119

3 裁判段階での処置 ...125

1、執行猶予に付された性犯罪者全員への必要的保護観察の付与 ...125

(4)

2、単純執行猶予処分となった性犯罪者への対策 ...125

4 医療観察制度の強化及び民事収容制度の導入 ...126

1、医療観察法における医療体制の充実 ...127

2、日本版民事的収容制度の概要(導入に向けた考察) ...127

5 1次的予防(事前予防)による性犯罪予防の方法 ...130

1、犯罪地理学を使用した犯罪多発地点への警察力の重点配置と防犯マップの活用 ..131

2、環境犯罪学に基づく防犯環境設計の活用 ...134

3、教育による性犯罪予防の実践 ...136

6 3次的予防(事後予防)による性犯罪予防の方法 ...138

1、性犯罪で服役した者の出所者情報の警察への情報提供 ...139

2、性犯罪者の専門的治療の可能な刑事施設の創設 ...139

3、保護観察所における性犯罪者への専門的処遇の実施 ...140

4、刑の一部執行猶予制度の活用による治療期間の確保 ...141

今後の方向性・研究の継続性について...142

(5)

1

はじめに

本論文は、性犯罪という問題現象を分析し、性犯罪に対する刑事司法制度の現状と課題、

環境犯罪学に基づく事前予防策の有効性を検証し、性犯罪の被害者を一人でも減らすために はどのような制度が有効かについて考察することを目的としたものである。

平成152003)年以降、刑法犯認知件数は減少を続けているが、女性・子ども等を狙っ た犯罪、特に性犯罪はその減少幅が低く、刑法犯における対策の重要性は高まっている。こ うした中、刑事施設段階及び更生保護段階における性犯罪者処遇プログラムや刑法典の性犯 罪規定改正などの刑事司法による施策の他、防犯パトロールによる地域の見守り活動や犯罪 を実行させない物理的空間の構築といった環境犯罪学に基づく犯罪予防政策が試みられて いる。しかし現在の性犯罪者処遇制度では、再犯をさせないための治療を行う期間が十分で ないこと、性犯罪者は精神病的要素を持っている者が多数存在するが刑事司法はそのことを 考慮した制度設計となっていないこと、といった問題点も存在し、その具体的な解決策を模 索することは容易ではない。

近年の犯罪予防政策は、犯罪を起こしにくい環境を整備することによって事前に犯罪を予 防する第 1 次的予防、犯罪を早期に発見し早い段階での処置を行う第 2 次的予防、そして 伝統的な刑事政策的措置である犯罪者を矯正し再犯予防を行う第 3 次的予防、の各方面か らの犯罪予防政策である予防医学に基づく3段階予防が注目されている1。この中でも、第 2次的予防である早期発見・早期対応は、第1次的予防である事前予防や、第3次的予防で ある事後(再犯)予防と比較して研究・実践は進んでいない。これは、①人権を侵害する可 能性が高い捜査機関は、法によって厳格に実行できる対応が定められているため、裁判によ って有罪が確定していない者に対して強制を伴う処置は基本的に出来ないこと。②法による 制約のため、早期対応を行うためには本人の同意がなければ行うことが出来ないが、同意す る者が少ないこと。③長い歴史を持つ矯正処遇に対して、主張されて間もない第2次的予防 の方法は、確立された処遇の道筋が整っていないことが考えられる。

ただ、この早期発見・早期対応の方法は、性犯罪対策としては非常に重要であると考えら れる。これから性犯罪を実行しようとしている者を発見した場合に、大きな被害を出す前に 治療的措置を取ることが出来れば、被害者の減少は確実だからである。もちろん筆者は、刑 事司法制度に対する人権侵害予防のための法規定をないがしろにするつもりはない。この刑 事司法制度は権力が生まれてから、人類が何千年もかけて作り上げてきたものであるからで ある。しかし結局のところ、そうした法規定を重視するあまり積極的被害防止措置を取れな い事態が続けば、被害に遭うのは、自分で自分を守る力のない犯罪弱者である子どもや女性

1 スティーブンP.ラブ(Steven P.Lab)著、渡辺昭一=島田貴仁=齊藤知範=菊池城治 共訳『犯罪予 ―方法、実践、評価』19-21頁(社会安全研究財団、2006年)、児玉聡「4 倫理学の観点から見 た安全対策と情報発信の在り方」警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識者研究会提言書116-

119頁(警視庁、2017年)、守山正「犯罪予防論の現代的意義」刑法雑誌第54巻第3413-414

(日本刑法学会、2015年)等。

(6)

2

達である。そこで本論文では、敢えて批判が予想されるような方法も視野に入れながら、性 犯罪の被害防止のための政策を提言したい。それまで当たり前とされてきた刑事司法制度が なぜそうなっているかを問い直すことによって、深刻な社会問題となっている性犯罪被害の 問題を解決することが喫緊の課題と考えるからである。

性犯罪は被害者に深刻な被害をもたらす重大な犯罪である。犯罪を完全になくすことは不 可能であるとしても、現在の刑事司法の方針転換や予算をかけることによって、性犯罪の被 害者を一人でも減らすことが可能であるなら、そのための効果的な提言を行うことは、大き な意義がある。

刑事政策の世界ではフランツ・フォン・リスト博士の「最良の社会政策は、最良の刑事政 策である2」という有名な言葉がある。格差や貧困の縮小や生活環境の改善といった社会政 策は、刑法犯認知件数のうちで最も多くの割合を占める財産犯を中心に、我が国においても 犯罪を減少させるための手段として非常に有効であると考えられる3。これに対して、性犯 罪者は、病的な者が多く、裕福であっても、仕事があっても、パートナーがいても実行する 者は実行する特殊な犯罪である。生まれつきの犯罪者に対する研究についても、ロンブロー ゾ以降、ゴーリング等によって犯罪者の遺伝子研究なされるなどして進められ、特に受精時 の突然変異であるXXY型(クラインフェルター症候群)やXYY型(超男性的)の染色体を 持つ染色体異常の者については、性犯罪との関連性が主張された時期もあった。しかし結局 のところ、遺伝子についても染色体異常についても、犯罪との関連性を証明する証拠は発見 されず4、今日に至っても染色体異常と性犯罪の関係に答えは出ていない。そこで、性犯罪 のそうした他の犯罪とは異なる特徴を持つ特殊な犯罪現象という側面に着目して、対応策の 検討を試みたいと考える。

2 “Damit ist zugleich gesagt, daß eine auf Hebung der gesamten Lage der arbeitenden Klassen ruhig, aber sicher abzielende Sozialpolitik zugleich auch die beste und wirksamste Kriminalpolitik darstellt.” Von Dr.Franz v. Liszt, Strafrechtliche Aufsätze und Vorträge Zweiter Band(1905)

J.Guttentag Verlagsbuchhandlung, s.246. (労働者階級の全体の状況を平穏かつ確実にする改善を目 指した社会政策は、同時に最善かつ最も効果的な刑事政策でもある:(筆者訳))。

3 岡邊健「第7 緊張が犯罪を生む? 5 貧困と犯罪」岡邊健 編著『犯罪非行の社会学―常識をと らえなおす視座』125-128頁(有斐閣、2014年)。

4 動植物の細胞内に存在する染色体は、通常、女性の場合XX型となっており、男性の場合はXY型と なっている。ところが、女性的な染色体を1つ多く持つXXY型(クラインフェルター症候群)や、男 性的な染色体を1つ多く持つXYY型といった異常な染色体型を持つ場合が存在する。XXY型は精神薄 弱、XYY型は超男性的で攻撃的であるという犯罪との関係性が研究されたが、染色体異常者と一般人と の間に有意な差が出るという研究結果は今のところ出ていない。G.B.ヴォルド・T.J.バーナード 著/平 野龍一=岩井弘融 監訳『犯罪学 理論的考察 原書第3 THEORETICAL CRIMINOLOGY』96-

105頁(東京大学出版会、1990年)等。

(7)

3

1

章 研究の前提と問題の所在

1

研究の前提

1

、犯罪の事前予防策と刑事司法制度による犯罪対策の歴史

1)犯罪予防政策が環境犯罪学の採用へと移った経緯

刑法犯認知件数が上昇を続け、我が国の治安悪化が叫ばれた1990年代から今世紀にかけ て、様々な犯罪予防政策が展開されてきた。中でも特筆すべきは、犯罪予防の政策が伝統的 な刑事司法制度によるものから、警察の他に自治体・住民を巻き込んだ「まちづくり」によ って犯罪を未然に防ぐ形のものへ、国の政策がシフトしたことである。

アメリカ合衆国やイギリスでは、犯罪を減少させることの出来ない刑事司法システムへの 失望から、新しい犯罪対策として、環境犯罪学に基づいた「犯罪リスクを下げる環境の整備」

の取り組みが 20 世紀後半から行われてきたが 5、我が国でもこの環境犯罪学の考え方に基 づく犯罪対策が今日まで多くの場面で採用されてきている。例えば、刑法犯認知件数の急増 に対応するため平成 152003)年に犯罪対策閣僚会議が示した行動計画 6でも、犯罪の発 生しにくい道路、公園、駐車場等の整備といった「犯罪の生じにくい社会環境の整備」や防 犯ボランティア活動の促進などの「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」が大き な柱とされている。これは物理的環境の整備(ハード面)と当事者意識・縄張り意識の向上

(ソフト面)という違いはあるものの、どちらも環境犯罪学(犯罪機会論)に基づく政策で ある7。防犯ボランティア活動の主な事例として紹介される防犯パトロールは、領域性・監 視性強化のための取り組みであり、犯罪予防としての有効性や防犯ボランティア団体のモチ ベーションの維持など多くの課題を持ちながらも8現在も多くの自治会で行われている9

5 Barry Poyner小出治=清永賢二=佐々木真朗=高杉文子 訳『Design against Crime デザイン は犯罪を防ぐー犯罪防止のための環境設計』10頁(都市防犯研究センター、1991年)、四方光「Ⅰ 国の性犯罪者対策―2003年性犯罪法及び多機関連携公衆保護協議会の運用を中心に―」警察政策研究 10222頁(警察政策研究センター、2006年)、瀬川晃「環境に着目した犯罪予防の今-CPTED SCPの発展と課題-」同志社法学64巻第3158-159頁(同志社法學會、2012年)等。

6 首相官邸ホームページ「犯罪に強い社会の実現のための行動計画-「世界一安全な国、日本」の復活を 目 指 し て - 平 成 1 5 年 1 2 月 犯 罪 対 策 閣 僚 会 議 」( 首 相 官 邸 、 2003 年 )

(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/kettei/031218keikaku.html, 2018329日最終閲覧)。

7 小宮信夫「犯罪社会学に基づく犯罪予防理論」渥美東洋編『犯罪予防の法理』72-74頁(成文堂、2008 年)。

8 拙稿「安全・安心まちづくりを進めるための方法に関する研究」法学研究年報44220-230頁(日本 大学大学院法学研究科、2014年)。

9 警察庁のデータによると、平均月1回以上の活動実績(意見交換等の会議しか行わないものは除く。)

(8)

4

環境犯罪学に基づく事前予防策が我が国で導入された経緯としては、我が国では捜査機 関・裁判所・矯正機関への信頼は高く、英米のように刑事司法制度に失望したためという理 由ではないように思われる。それよりも交番制度など地域と密着した我が国の警察組織に対 する国民からの評価が高いことが原因で、治安が悪化するにつれて地域住民からの警察への 要望が増加し、警察のみによる治安維持活動には限界があることが判明した結果、国の主導 で採用されたと考えられる10。こうした警察・自治体・住民が連携し、犯罪を起こしにくい 環境を作り出すことによって犯罪を事前に予防しようとする取り組みは、刑法犯認知件数の 減少からも一定の成果が見て取れ、現在に繋がっている。

2)刑事政策による犯罪予防政策

近年の犯罪予防政策は、環境犯罪学に基づく事前予防策へと大きく転換がなされたものの、

我が国においては、矯正処遇・更生保護による再犯予防や刑罰による抑止といった、伝統的 な刑事司法システムによる政策も軽んじられることなく進められてきた。我が国では従前よ り、犯罪の予防は、刑罰による一般国民への抑止である「一般予防」と犯罪者への再犯予防 である「特別予防」を両軸として法によって行われてきたが、前記のとおり英米の政策が刑 事司法制度への失望により医療モデル/社会復帰モデル(Medical model)から公正モデル

Justice Model)にシフトした11後も、我が国では刑事司法制度の各段階における手厚い

があり、かつ5人以上所属している防犯ボランティア団体は、平成28(2016)年末の段階で48,160 体存在している。警察庁「防犯ボランティア団体の活動状況等について」(警察庁、2017 年)

(https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki55/news/doc/20170331.pdf, 2018329日最終閲覧)。

10 平成16年版警察白書において、地域警察官の意識調査の項目があり「地域の安全は警察だけで確保 できるか」との質問に対し、「確保できる」が2.1%、「確保できない」が94.9%、「わからない」が 2.9%という結果が出ている。「確保できない」と答えた者に対し、警察活動以外に何が必要だと思うか と質問したところ、「地域住民一人一人の自衛方策」と答えたのが78.3%、「地域住民、ボランティア等 の防犯活動」と答えた者が51.6%、「他の行政機関による防犯施策の推進」と答えた者が47.7%であり

(警察庁「平成16年版 警察白書」21頁)、それまでは警察の独占業務であった治安維持活動は、こう した現場の警察官の声や治安情勢の悪化による警察業務の拡大を背景に政策の転換が図られていった。

当時は、警察への過剰な負担から警察官の数が不足し空き交番等が問題となった時期でもあり、情報提 供等を行うという住民の期待に応えるという意味合いも含めて、住民と自治体を巻き込んだ犯罪予防政 策が行われた。結果として、警察・自治体・住民との間に意見を交換できる機会が大幅に増加する等、

それぞれにとって大きなメリットがもたらされた。

11 大谷實『新版 刑事政策講義』14-15頁(弘文堂、2009年)。

“The history of the rehabilitative ideal constitutes a kind of thematic counterpoint of aspirations and doubts. Criticisms of penal rehabilitationism attended its birth. There was no initial period when enthusiasm for the reform of prisoners wholly overcame criticism and skepticism.” Francis A. Allen, The Decline of the Rehabilitative Ideal -Penal Policy and Social Purpose-(1981) p.32

“The last two decades of the twentieth century are not likely to bring full consensus on issues of crime and punishment. Nevertheless, one senses that in the modern decline of the rehabilitative ideal a notable turning point has been reached in America penal policy and, as in other periods of

(9)

5

社会復帰のためのシステムが実施されてきている。

刑事施設内や保護観察段階における処遇については、2000 年代に法律の全面改定が行わ れ、刑事施設内の処遇に関して規定していた「監獄法」は「刑事施設及び受刑者の処遇等に 関する法律」を経て、平成192007)年に「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する 法律」へと変わり、保護観察段階について規定していた「犯罪者予防更生法」及び「執行猶 予者保護観察法」は平成202008)年に「更生保護法」へと一本化された。これにより刑 事施設内では、それまでの全受刑者が同じ作業を行う処遇制度から、受刑者の個人的な必要 性に応じて改善指導・教科指導を行う制度へと変更がなされた 12。保護観察段階でも、保護 観察中に守るべきルールである遵守事項の整理・充実を進めた他、犯罪被害者の声を保護観 察中の加害者に伝える制度の整備など、再犯防止を意識した更生保護プログラムへと改革が なされた 13。また刑法の規定に関しても厳罰化を主軸として改正が重ねられてきている14 加えて我が国の矯正職員は意識が高く、担当する受刑者を親身になって世話をする人間的処 遇であるとされてきており15、そうした人材の存在も我が国の矯正行政を支えてきた。

2

、刑法犯認知件数の減少傾向

従来から行われていた犯罪者処遇制度の見直しに加え、警察を中心とした住民・自治体を も巻き込んだ犯罪の事前予防策が功を奏したのか、我が国は平成14年(2002年)をピーク とした戦後最大の治安の悪化を乗り越え、平成15年(2003年)から現在まで刑法犯認知件 数は毎年減少を続けている(表1。警察庁の統計によると、平成 29年(2017 年)の刑法 犯認知件数は915,042件であり、この値は戦後最も低い数値である16。世界で最も安全 な国の一つであるとされている我が国は 17、その名に相応しく犯罪対策が効果的に行われ

change, both perils and opportunities abound. ”Ibid. p.60

なお、矯正処遇に関して、処遇の効果が全くなかったという断定は妥当であったか疑問であるといっ た意見もあり、この社会復帰思想の否定に対しては当初から疑問が呈されていたとされる。宮澤浩一

「行刑思想の発展と動揺」石原一彦=佐々木史朗=西原春夫=松尾浩也 編『現代刑罰法大系 7 犯罪者の社会復帰』20-21頁(日本評論社、1982年)。

12 法務省ホームページ「監獄法から刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律へ」(矯正局)

(http://www.moj.go.jp/content/000057393.pdf, 2018714日最終閲覧)。

13 法務省保護局「更生保護-地域社会とともに歩む-」8、10頁(法務省保護局、2018年)、法務省ホ ームページ「更生保護の歴史」(保護局)(http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo02.html, 2018 714日最終閲覧)。

14 本論文で取り扱う性犯罪規定の大幅な改正については、第3節にて詳述する。

15 宮澤、前掲注(11)、22頁。

16 警察庁刑事局捜査支援分析管理官「第575 訂正版 犯罪統計資料 平成291-12月分【確定 値】」(2018年、警察庁)。統計データはe-Stat(政府統計の総合窓口)から取得した。https://www.e- stat.go.jp/, 2018622日最終閲覧)

17 イギリスの雑誌「エコノミスト(Economist)」の調査機関であるエコノミスト・インテリジェン

(10)

6

ている国となっている。

(表1は、法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」(法務省、2017年)1-1-1-1図「刑法犯 知件数・検挙人員・検挙率の推移」及び警察庁刑事局捜査支援分析管理官「第575 訂正版 犯罪統 計資料 平成 29 112 月分【確定値】(警察庁、2018年)「第1表 刑法犯 罪種別 認知・検挙件 数・検挙人員 対前年比較」のデータを基に筆者が作成した。

ス・ユニット(The Economist’s Intelligence Unit)が世界の60都市の安全性を調査した報告書「Safe

Cities Index 2017」を発表しており、その中で東京が安全な都市の総合1位を獲得している。この報告

書では49の指標に基づき、サイバーセキュリティ(digital security)、医療・健康環境の安全性

(health security)、インフラの安全性(infrastructure security)、個人の安全性(personal

security)に分けて分析が行われ、それぞれのカテゴリーで60都市中の安全性の順位が示されている。

犯罪被害に関するカテゴリーである個人の安全性では、1位:シンガポール、2位:ウェリントン、3 位:大阪、4位:東京、5位トロントという順位になっており、大阪と東京の日本の2つの都市がベス 5にランクインしている。東京は全てのカテゴリーの総合で1位となっている。The Economist Intelligence Unit, SAFE CITIES INDEX 2017: Security in a rapidly urbanising world, (The Economist Intelligence Unit Limited 2017, 2017), pp.21-22 http://safecities.economist.com/safe- cities-index-2017(last visited March 15, 2018)。

平成14(2002)年 戦後最悪の 2,853,789件

平成29(2017)年 戦後最小の

915,042件

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

1946年 1956年 1966年 1976年 1986年 1996年 2006年 2016年

単位:千件 (表1)戦後の刑法犯認知件数の推移

(11)

7

3

、性犯罪の認知件数の現状維持傾向

しかし、こうした状況の中、女性・子どもが被害に遭いやすい強姦罪 18・強制わいせつ罪 といった性犯罪の認知件数は、平成152003)年以降も増減を繰り返しており、減少傾向 にはあるものの、他の犯罪と比較してその減少幅は低い(表2。そのため、性犯罪の刑法犯 認知件数に占める割合は平成152003)年以降現在まで増加しており、犯罪対策として今 後取り組みが必要なものとなっている。また、女性や子どもに対する声掛け・付きまとい・

卑猥行為といった重大な性犯罪に繋がるおそれのある「前兆事案」が後を絶たず、女性・子 どもの安全が脅かされていることが指摘されている19。過去10年の認知件数の数値を詳し く見ると以下の通りである。強制性交等(強姦)は平成252013)年の1,409件以後、平

272015)年が1,167件、平成282016)年が 989件と減少傾向にあったものの、平

292017)年には1,109 件と増加に転じている(表2。強制わいせつについてみると、

平成252013)年の7,654件まで増加傾向にあったものの、平成252013)年以後は、平

262014)年が7,400件、平成272015)年が6,755件、平成282016)年が6,188

件、平成292017)年が5,809件と僅かであるが減少傾向にある(表2。なお、強姦罪及

び強制わいせつ罪の認知件数については、第2章において分析を行う。

18 強姦罪から強制性交等罪へと名称及び構成要件を変更した刑法一部改正法が施行されたのが、2017 713日であるため、本論文の統計データは一部を除きほぼ全て強姦罪のものである。

19 警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識者研究会「警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識 者研究会 提言書 平成299月」1頁(警視庁、2017年)。

(12)

8

(表1は、警察庁刑事局捜査支援分析管理官「第575 訂正版 犯罪統計資料 平成29112 分【確定値】(警察庁、2018年)「第1表 刑法犯 罪種別 認知・検挙件数・検挙人員 対前年比較」及 び法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」(法務省、2017年)1-1-1-1図「刑法犯 認知件数・

検挙人員・検挙率の推移」1-1-1-2表「刑法犯 認知件数・発生率・検挙件数・検挙人員・検挙率(罪名 別)、同編「平成28年版犯罪白書」1-1-1-2表「刑法犯 認知件数・発生率・検挙件数・検挙人員・検挙 率(罪名別)、同編「平成27年版犯罪白書」6-2-1-1図「強姦 認知件数・検挙件数・検挙人員・検挙率

の推移」6-2-1-2図「強制わいせつ 認知件数・検挙件数・検挙人員・検挙率の推移」のデータを基に筆

者が作成した。2017年の強姦の認知件数は、201711日~712日間の強姦の認知件数と2017 713日~1231日間の強制性交等罪の合計値である。このグラフで分かる通り、刑法犯認知件数

(棒グラフ)が年々減少していることが明白であるのに対し、強姦罪(折れ線グラフ下段)・強制わいせ つ罪(折れ線グラフ上段)については、ほぼ横ばいである。

0 2 4 6 8 10 12

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

れ線( ) ( )

グラ数の

(表2)刑法犯認知件数及び

強姦罪・強制わいせつ罪の認知件数の推移

(単位:千件 )

(13)

9

4

、性犯罪被害の重大性と対策の必要性

最新の平成292017)年の認知件数を見ても、強姦罪(強制性交等罪)の1年間の認知

件数は 1,109 件であり、強制わいせつの 1 年間の認知件数は 5,809 件であるため、刑法犯

915,042件の中で見れば、性犯罪の認知件数は特段多い数ではないように思われる。しかし、

性犯罪被害は一つ一つが被害者に与えるダメージが非常に大きく、被害者に一生にわたる傷 を心身に残してしまうものが多い。特に、挿入を伴う性犯罪の被害者は、PTSD(心的外傷 ストレス)の発症率が高いとされ、被害による精神的ショックによって人生に大きな影響が 生じてしまう性犯罪被害者も存在する20。確かにどのような犯罪であっても、犯罪被害に遭 う以上何らかのダメージは受ける。しかし性犯罪の被害の甚大性は他の犯罪と比しても深刻 で、被害者はかなり長い間精神的な後遺症に苦しめられるとされており、それは多くの研究 で明らかになっている21

更に性犯罪は、被害者が他人に話したくない等の理由で捜査機関に訴え出ないことが多々 あるため、実際の事件数が統計上の数値に現れない暗数が多い犯罪とされている22。こうし た事情からも、重大な被害を負っている被害者が社会の中に多数いることが考えられ、性犯 罪加害行為を減らすための早急な対策が望まれる。なお、性犯罪の暗数については、第2 2節において法務省の行った犯罪被害実態(暗数)調査等を基に分析を行った。

加えて、性犯罪、特に子どもが被害者になる性犯罪事件は、発生(認知)件数は少ないと しても社会に不安を与え、体感治安に大きな影響を及ぼす重大な犯罪である。よって人々が 安心して暮らせる社会を構築するためには、性犯罪の予防に力を注ぐ必要があると考えられ る。

2

問題の所在

1

、性犯罪者への早期対策の必要性

前述のとおり、性犯罪は被害者に対し人格の自立性が失われるような甚大な被害をもたら し、かつ社会的に不安を与える重大な犯罪である。この甚大な被害をもたらす強制性交等(強

20 小笠原和美「第9 性犯罪」警察政策学会 編『警察政策学会20周年記念 社会安全政策論』171 頁(立花書房、2018年)。

21 性犯罪被害の検証は様々な場で報告されている。例えばイギリス内務省が行った個人及び家庭に対す る犯罪の経済的・社会的コストについての調査では、性犯罪は殺人以外の他の暴力犯罪よりも被害者の 健康上の感情や身体的な影響が顕著に表れ、性犯罪は他の犯罪と比べ非常に被害が甚大であるとの結論 が出ている。Matthew Laxton(四方光=黒川浩一編集)「公共の安全-性犯罪者に対する英国の法的対 応(PROTECTING THE PUBLIC: The legislative response to sexual offending in the United

Kingdom)」警察政策研究第10 161頁(警察大学校警察政策研究センター、2006年)。

22 中島聡美「第1 性暴力被害者のメンタルヘルスと心理的支援」小西聖子=上田鼓 編著『性暴力 被害者への支援―臨床実践の現場から』5-6頁(誠信書房、2016年)。

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10

姦)罪・強制わいせつ罪等の性犯罪は、前兆段階とされる窃視(のぞき)や声掛け等の軽微 な性犯罪からエスカレートしていく例も多いため、前兆段階における早期対応によって強制 性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪の発生を防ぐことが出来ると考えられる(詳細は第2 4節「性犯罪者の特徴」にて検証)。そのため、前兆段階での早期対応が必要であるが、

現在の刑事司法制度では前兆段階において取れる対策は少ない。その理由として、①前兆段 階の性犯罪はほとんどが各都道府県の定める迷惑防止条例違反か軽犯罪法違反であり、懲役 刑となることはほぼない、②更に、警察段階での処置や不起訴処分となった場合、警察段階・

検察段階では再犯防止策として更生プログラムを行うことは出来ないため、注意の上釈放す るのが限界であるといったものが挙げられる。

こうした前兆段階での予防は、深刻な被害を受ける性犯罪被害者を減らすことに繋がり、

性犯罪被害者を減少させることで得られる社会的利益も大きい。よって、現在の刑事司法制 度では行われていない、前兆段階という早い段階における性犯罪者に対する重大事案予防の ためのシステムを構築する必要があると考えられる。

2

、性犯罪者矯正策としての現行制度の不備

性犯罪対策は、メーガン法(Megan's Law)を基にした情報公開制度から性犯罪被害者が 訴え出やすい環境の整備、刑法改正による厳罰化・非親告罪化、刑事施設における性犯罪者 処遇プログラムまで様々な方向から検討がなされてきた。そして性犯罪被害者の支援策や性 犯罪の厳罰化、性犯罪者処遇プログラムの実施は実現されている。この他にも、性犯罪受刑 者の出所者情報を帰住予定地の警察署へ提供する制度(詳細は第 3 章第 1 節「捜査段階に おける対策の現状」で検証」や、環境犯罪学に基づき子どもの見守り活動や防犯教育なども 行われている。これは、危険な性犯罪者から家族や大切な人を守りたいという要求に応える べく、政策決定が行われた結果であると思われる。しかし我が国においては、再犯のおそれ のある危険な性犯罪者に対し、十分な期間を取って、その危険性を治療するといった制度の 構築がなされていない、という問題が存在している。

性犯罪のメカニズムやその治療方法はある程度研究されつつも、その治療を十分な効果が 期待できる期間、危険な性犯罪者に行うことは出来ないのである。なぜであろうか。それは、

保安処分・保安監置制度の存在しない我が国の刑事司法制度では、どれほど今後再び性犯罪 事件を起こすであろうと疑われる犯罪者でも、責任主義の限界を越えた刑期を言い渡すこと は出来ない、という越えられない壁が存在するからである。よって、どれだけ性犯罪者の研 究がなされ、再犯に陥らせないようにする処遇方法が確立されたとしても、実際にその処遇 を性犯罪者に必要な期間施す制度が構築されていなければ、その処遇方法はほとんど意味の ないものになってしまう。そこでなんらかの方法で性犯罪者に治療を施すための期間を作り 出さねばならない。そのためには、性犯罪を予防するために必要的措置を講ずる犯罪予防の ための法制度が必要である23

23 四方光『社会安全政策のシステム論的展開』250-251頁(成文堂、2007年)。

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11

3

、刑事司法制度による性犯罪者治療体制構築の必要性

刑事施設に収容された性犯罪者については、性犯罪者を矯正するための専門プログラムを 受けさせることが出来るためまだ良いほうである。しかし、強姦罪・強制わいせつ罪で逮捕 され、検察官送致された者のうち多くは不起訴処分となり、なんらの再犯防止のための措置 もなされずに釈放されているという状況が続いている。例えば、平成29年版犯罪白書によ ると、強姦罪で検察官送致された 1,112 人のうち、起訴された人員は 370 人であるのに対 し、不起訴処分となった人員は656人で、59.0%は不起訴処分となり釈放されている24。ま た強制わいせつ罪で検察官送致された3,710人を見ても、起訴された人員は1,308人である のに対して不起訴処分となった人員は 1,955 人であり、こちらも 52.7%が不起訴処分とな り釈放されている25。これは人権侵害の可能性の高い刑事司法制度は、厳格に法によってそ の運用方法が定まっているため、様々な理由から不起訴処分となり、釈放されていることが 理由である。例えば、性犯罪を行ったことが確実であっても、被害者との和解が成立した等 の理由で検察官が起訴の必要なしと判断した場合には起訴猶予となる。また性犯罪の場合に は、被害者が望まなければ起訴することは困難である 26。加えて性犯罪の場合は、被害者が 訴え出るまでに時間を要したり、証言を躊躇ったりするという特殊性から、証拠が集まりに くく、犯罪の実行は確実であっても嫌疑不十分として釈放される者も少なくない。こうした 刑事司法における手続きは、権力者から我々国民の人権を守るための人類の長年の努力の成 果であり、否定すべきでないことはいうまでもない。しかし、こうした再犯危険性が高い性 犯罪者を、なんらの措置も施さずに社会に戻すということは正しいのであろうか。確かに裁 判で有罪判決を受けるまでは無罪推定の原則が働くため、留め置く(勾留する)場合であっ ても、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがある場合や、住所不定である場合のみ(刑事訴訟 法第60条、第204205条、第207条)でしか許されず、起訴しない決定をした場合であ れば直ぐに釈放しなければならない。そのため、再犯のおそれがあるという理由での勾留は 認められず、更に釈放された場合には刑事司法機関としてはなんらの強制的な措置は行えな い。この状態は法が適正に執行されている反面、危険な性犯罪者が社会に戻り、一般市民が 危険な状態にあることを意味する。

我々一般国民は銃刀法によって武器の所持は制限され、更に正当防衛もかなり限定された 事情でなければ成立を否定される等 27、生活における自己防衛の手段というものはかなり

24 法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」資料2-2「検察庁終局処理人員(罪名別、処理区 分別)」(法務省、2017年)。なお、1,112人のうちの残りの86人は家庭裁判所送致である。

25 同上。なお、3,710人のうち残りの447人は家庭裁判所送致である。

26 2017年7月の刑法改正により、被害者の告訴が訴訟条件ではなくなったが、裁判を進める上で被害

者が同意していなければ検察官は事実上起訴することは難しいとされている。

27 刑法第36条の正当防衛は、公的機関に保護を求める余裕がないほど、不正の侵害が切迫したもので なければ、相手を攻撃することを許さない。加えて、更なる危機に備えて侵害者に積極的な攻撃をする ことも許していない。判例では、いきなり鉄パイプで頭部を殴ってきた相手に対し、反撃を行い、侵害

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12

の制限を受けている。それならば、制約をしている国家は、我々の日々の安全というものを 守るべきであり 28、国家には我々国民に対する基本権保護義務というものが存在すると考 えられる29。現在の性犯罪者に対する再犯予防措置制度では、国家が我々国民を、十分に性 犯罪者の危険から保護しているといえるレベルにまであるといえず、そのための制度構築が 不十分であると思われる。よって国家は、より我々国民の安全・安心を守るため、性犯罪者 に対する再犯予防措置制度を構築する必要があると考える。

前記のとおり、性犯罪は被害者に甚大な被害を負わせ、社会に不安を与える重大な犯罪で ある。性犯罪の同一罪名再犯率は強姦が 5.2%、強制わいせつが 7.7%であり 30、高いのか 低いのかは議論の余地のあるところであるが、子どもを対象とした性犯罪を繰り返す危険な 性犯罪者が一定数存在することは、「性犯罪者の実態と再犯防止」という特集を組み、分析 調査を行っている平成27年版犯罪白書でも述べられている31

国家が再犯予防のために強権的な措置を行う考え方は、戦後の我が国の法制度の世界では 避けられてきた。しかし、少なくとも性犯罪に対しては、制度を改めるべきかを検討する時 期にきていると考える。特に近年は、犯罪予防のための行政的措置の必要性も主張されてい るため、そうした観点からの性犯罪への早期の対応も議論すべきであると考える。

3

性犯罪処罰規定の変遷と性的問題行動の多様性

この節では、本研究で対象とする性犯罪の概念について整理を行う。本論文で性犯罪の認 知件数や起訴率といったデータの分析や対応策を考える際には、強制性交等(強姦)罪及び 強制わいせつ罪のみを対象とし、研究を進めていく。しかし、強制性交等(強姦)罪・強制 わいせつ罪を予防するための方策を検討するためには、強制性交等(強姦)罪・強制わいせ つ罪以外の性的問題行動について考えておくことが必要である。なぜならば、小児性愛で児

者が2階の手すりに前のめりになったところを再度の攻撃の可能性を考え落としたところ、防衛のため のやむを得ない程度を超えたものとして過剰防衛とされ、反撃した者に懲役1年執行猶予3年の判決が 言い渡されている。最高裁平成9616日判決(最高裁判所第二小法廷平成9年(あ)第152号、

LEX/DB文献番号28025199号)。

28 従来の憲法学では、憲法は国家が国民の権利・自由を侵害してはならないことを規定しているものと されてきた。しかし近年、憲法は、国家は自ら不当に国民を害してはならないという義務を負うだけで なく、国民が他の国民を不当に害しそうな場合にはその国民を守る義務が国家にはあるとする「基本権 保護義務論」「安全に対する基本権」が有力に展開されているとされる。詳細は、土井真一「憲法と安 全―新たな行動計画の検討にあたって」警察学論集第62巻第11号(警察大学校、2009年)の132-

133頁。

29 我々国民が、国家に安全・安心を守ってもらう権利についての詳細は、拙稿「安全・安心まちづくり を進めるための方法に関する研究」、前掲注(8)、206-210頁。

30 法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」208頁。

31 法務省法務総合研究所 編「平成27年版犯罪白書」314頁。

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13

童ポルノ等を見ていた性的逸脱者が、やがて女児に声をかけるようになり、次第にエスカレ ートし、ついには口腔性交を行うという重大犯罪に発展することがあるため32、そうした前 兆段階への対策を考える上で、様々な性的問題行動について見ておく必要があるからである。

また近年、性に対する問題意識の高まりと共に、性に関する問題行動について多くの議論が 多方面でなされており、問題とされる性行動に関する用語は、「性犯罪」の他に「性暴力」

「性非行」「性逸脱行動」「性依存症」等、様々な言葉がある程度互換的にまた混乱した状態 で存在している33。そこで、強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪の前兆段階での対策を 検証するため、引用する専門文献における用語の混乱を避けることを目的として、その内容 について若干の整理を行いたい。

この用語の分類は、刑法典に規定するもの以外は心理学や社会学、医学の研究書による分 類であり、法令に規定されている定義ではない。よって必ずしも社会全体で共有されている 用語の使用方法ではない可能性もあるが、出来るだけ多くの分野で認識されている用語の使 用方法を考慮し分類を行った。その他、2017 年の刑法改正によって強姦罪は強制性交等罪 に名称が変わったばかりでなく、構成要件が変更され処罰対象も変わったため、現状の分析 の際の混乱回避を目的として改正の際のポイントにも簡単に触れておきたい。

なお、本論文では刑法改正によって強姦罪が強制性交等罪となる以前の統計データ等を使 用する場合は「強姦罪」の名称を用い、今後の提言を述べる際は「強制性交等罪」の名称を 用いる。その他の場合は、強制性交等罪の名称が十分に社会に馴染んでいない点を考慮し「強 制性交等(強姦)罪」の名称を使用する。

1

、刑法犯としての性犯罪

1)刑法典における性犯罪の規定

我が国の刑法典において、性的な事柄に関する犯罪類型は、第22章わいせつ、強制性交 等及び重婚の罪(第174 条―第184 条)の部分で規定している34。同じ章の中に規定され ているが、強制わいせつ罪(第176条)及び強制性交等罪(強姦罪)(第177条)等は、個 人的法益である性的自由に対する罪であり、公然わいせつ罪(第174条)、わいせつ物頒布 等罪(第175条)などは、社会的法益に対する罪であるとされており性質が異なる35。この

32 斉藤章佳「小児性愛のリアル」榎本稔 編著『性依存症のリアル』79-83頁(金剛出版、2015年)。

33 藤岡淳子『性暴力の理解と治療教育』3頁(誠信書房、2006年)。

34 この他、刑法典では、強盗・強制性交等及び同致死(第241条)、営利目的等略取及び誘拐罪(第225 条)。その他に刑事罰を含む性的な事柄を規定しているものとして、

35 山口厚『刑法各論 2版』105頁(有斐閣、2016年)、前田雅英『刑法各論講義 6版』93

(東京大学出版会、2015年)等。なお、前田教授は強制わいせつ罪と強姦罪(当時)について、「性的 自由に対する罪という表現が用いられることが多いが、必ずしも適切ではない。単に性的自己決定

(権)が害されるということではなく、身体と人格的尊厳についてのより重大な侵害を伴う犯罪と考え るべきである。」と述べ、刑法学の視点から性犯罪の重大性を指摘されている。前田、同上、93頁。

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