第 5 章 新たな性犯罪者対策の提唱(まとめにかえて)
第 4 節 医療観察制度の強化及び民事収容制度の導入
我が国においては、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な犯罪を行い、不起訴処分又は無 罪となった者に適切な処遇(治療)を行うための制度として、平成
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(2003
)年制定の医 療観察制度が存在し、指定入院医療機関に強制的に入院させることや通院させることが出来 る。しかし、第4
章で確認したとおり、医療観察制度に基づく入院決定をなされた者で、強 姦・強制わいせつの罪名の者は非常に少ない。これは、性嗜好障害等の精神疾患がもとで強 姦・強制わいせつ事件を起こしたとしても、心神喪失又は心神耗弱の状態で犯罪を行ったの でなければ、医療観察制度の対象となっていないためである。我が国では、性嗜好障害の患者をそれのみで刑事責任能力なしとしていないため当然かも しれない。しかし、性嗜好障害のを持つ性犯罪者といった病的な性犯罪者を、刑事手続きか ら外した上で特別な治療を行うというワシントン州のような発想はなかったのであろうか。
この点については、法務総合研究所研究部が大規模な調査である「諸外国における性犯罪の 実情と対策に関する研究」を行ったのが、奈良県女児誘拐殺人事件が起き、世間で性犯罪対 策への関心が高まった平成
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(2004
)年以降の、平成18
(2006
)年度であり386、報告書 を公刊したのが平成20
(2008
)年であった。よって我が国において性犯罪を繰り返す累犯 性性犯罪者に対する議論が活発化し、法務省による諸外国の制度の検討が始まった時点で、医療観察法は平成
17
(2005
)年7
月に制定済みであった。仮に米国の性犯罪者に対する民 事的収容制度が、医療観察法の制定前に研究されていた場合、米国の民事的収容制度が医療 観察法に反映されていた可能性もある。我が国での性犯罪者に対する議論が活発化したのが 最近のことであるため、重大な犯罪を行った精神障害者への措置と時期がずれてしまい、性 犯罪まで対応出来なったとも考えられる。その為、大阪教育大学附属池田小学校事件(平成
384 同上、154頁。
385 同上、154頁。
386 法務省法務総合研究所「研究部報告38」、前掲注(323)、ⅰ頁。
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(2001
)年)と奈良県女児誘拐殺人事件(平成16
(2004
)年)が同時期に発生し、世間 が触法性精神障害者と累犯性性犯罪者の両方に、同時に関心を寄せて場合、性犯罪を繰り返 す性嗜好障害(性依存症)の患者への対応策が現在と異なっていた可能性はある。精神保健福祉法の精神障害者の枠に性嗜好障害の患者を入れるのと比較し、医療観察制度 の精神障害者の枠に入れる場合、重大な犯罪(強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪)を 行った者を、性嗜好障害を理由に不起訴又は無罪としなければならない。こうした運用は性 嗜好障害が精神疾患であるという理論上の構成は可能であるとしても、国民から理解が得ら れないと考えられる。よって、本節の提言では医療観察制度については、その制度の充実及 び通院決定の拡大に留め、医療観察制度と同様に裁判所の決定によって拘束を行うワシント ン州の民事収容制度を参考として、保護観察対象者という限定付きであるが、日本版の民事 収容制度を考案した。
1 、医療観察法における医療体制の充実
まず、前提として性犯罪者を医療観察法の対象とする以前に、現在の医療観察法の体制の 強化が必要である。精神医療は日々発展しているため、現状で行われている回復見込みのな い者に対して医療的措置を行わない決定は見直し、相当の医療費を投入しても医療を行う対 象とし、継続的な治療を提供すべきと考える。こうした問題への打開策として、通院決定の 拡大及び充実が有効であると考えられる。回復の見込みのない対象者を半永久的に精神病院 に入院させておくことは、対象者の人権の問題だけでなく、病院側及び国側の負担が大きす ぎる。そこで、指定通院医療機関への継続的な通院を行う決定が望ましい。現在の医療観察 制度における指定通院医療機関の問題点としては、地方都市において通院が困難であったり
387病院数の不足に悩まされ 388、運用が滞っているといったものが存在する。今後我が国は 超高齢化社会を迎え、地方都市の医療問題は更に深刻になると考えられる。そこで、こうし た問題も含めて解決させるため、地方都市の病院を整備し、その中で指定通院医療機関の増 強を図り、対象者を多く受け入れていくべきであると考える。
そうした制度改革の中で、心神喪失等で強制性交等・強制わいせつ事件を起こした者のう ち、従来は入院決定・通院決定となされなかった者を、通院決定の枠を広げて入れることを 提言する。これまで、医療観察法の対象とならなかったものの、心神喪失・心神耗弱状態で 強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪の事件を起こした者も第
3
章第2
節でみた通り、相 当程度いるため、こうした者に対して、生活に対する侵害度合いの弱い通院決定の対象とす ることで、運用が推進されると共に、性犯罪の被害者は一人でも減らせるはずである。
387 小西=外間、前掲注(310)、26頁。
388 厚生労働省ホームぺージ「医療観察法の医療体制に関する懇談会(第1回)議事録 2017年11月 28日」(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000188908.html, 2018年10月5日最終閲覧)。
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2 、日本版民事的収容制度の概要(導入に向けた考察)
(
1
)民事的収容の対象者まず、①強制性交等罪若しくは強制わいせつ罪によって有罪判決を受け、刑事施設から仮 釈放となった者又は刑の一部執行猶予中(保護観察付)の者、②少年時に強制性交等・強制 わいせつ事件を起こし保護処分決定を受けた者、③強制性交等・強制わいせつで保護観察付 執行猶予判決となった者、が対象となる。
次に、①~③の対象者には、全員に保護観察における特別遵守事項として、性犯罪者処遇 プログラムを受講する他、性犯罪再犯防止の治療施設(病院)等に通院し治療することを定 め、通院を怠った者、治療に対して消極的な者を、特別遵守事項違反として本収容制度の対 象とする。民事的収容の対象者は、特別遵守事項違反者の中でも、性嗜好障害が認められ、
他害行為を行う可能性のある者が対象とする。対象者の決定に当たっては、精神保健指定医 の診断の結果を基に、指定医とは別の精神科医と裁判官との合議体の裁判所の審理を経て決 定するものとしたい。なお、民事的収容手続きに移行した場合、本収容制度は強制性交等・
強制わいせつに対する刑罰ではなく、遵守事項違反に対する新たな収容手続きであるため、
強制性交等・強制わいせつに対する判決の残刑期を過ぎても収容は継続される。
(
2
)収容手続き(
a
)対象者の選定及び裁判所への通告保護観察所長は、(
1
)の対象者を精神保健指定医の簡易鑑定にかけ、性嗜好障害等により 他害のおそれがあると判断された場合、出所者の場合は刑事施設所在地の管轄地方裁判所、少年の場合は送致された施設所在地の管轄家庭裁判所、執行猶予者の場合は判決を言い渡し た裁判所に民事的収容の申し立てを行う。
(
b
)裁判所による収容決定申し立てを受けた裁判所は、申し立て理由を保護観察所長から聴取した後、申し立てに合 理性ありと判断した場合、本鑑定のため
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日間の拘束を認める。この本鑑定は夜間若しく は休日に実施し、日中は対象者が問題なく社会生活を送れる制度とすることが望ましい。本 鑑定は、簡易鑑定を行った医師とは別の大学の所属等、はじめの鑑定の影響を受けない精神 科の医師(精神保健指定医)を選定し行う。鑑定の結果、性嗜好障害(F65
)及びその他の 精神疾患により性犯罪の再犯のおそれありとされた場合、裁判所で審判が開始される。審判 は司法判断に加えて専門的判断も必要なため、裁判官1
人と本鑑定を行った精神保健指定 医1
人が最終判断を行う。審判では、裁判官と精神保健指定医が申し立てを行った保護観察 所の職員と、対象者(性犯罪者)及び対象者の付添人(弁護士等)の双方の意見を聞く形で 行われる。ここでは、保護観察所の職員が簡易鑑定の結果や刑事施設での処遇結果を基に、対象者が性犯罪再犯のおそれがあることを証明しなければならない。そして、裁判官が対象 者が法律上(日本版民事的収容法)の収容対象者の要件に該当するかを判断し、同席してい る精神保健指定医の意見を踏まえた上で、最終的に対象者に民事的収容を行うかを決定する。