第 2 章 性犯罪の現状 ― 潜在的性犯罪者の存在とその危険性 ―
第 5 節 性犯罪の発生場所及び人的関係性
性犯罪の被害者を減らす対策を考える上で、強制性交等(強姦)罪・強制わいせつの事件 が発生した場所や加害者と被害者の面識の有無等を分析する必要がある。しかし、性犯罪の 発生場所、特に強制性交等(強姦)罪や強制わいせつ罪の発生場所は、具体的な場所を閲覧 可能な記録として残していると、被害者が特定され被害者が心理的な二次被害に遭う可能性 があるため、性犯罪の発生場所の記録は慎重に扱われており、具体的な場所が記載されてる 公刊物は多くはない。しかし、法務総合研究所研究部報告といった公的なデータの他に、科 学警察研究所の性犯罪被害調査のデータ等、いくつか強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ 罪について発生場所等の詳しい資料が存在する。そうしたデータを組み合わせることによっ てかなり詳しい発生場所の資料が出来ると思われる。以下では、法務総合研究所等のデータ や科学警察研究所のデータを基に分析・検討を加えたい。尚、以下のデータは全て罪名が強 制性交等罪になる以前の強姦罪の際のデータであるため、表記は全て強姦罪で統一する。
1 、法務省法務総合研究所研究部報告の資料
平成
28
(2016
)年3
月に発表された法務省法務総合研究所「研究部報告55
性犯罪に関 する総合的研究」のデータを基に、発生場所・被害者と加害者との関係等をみていきたい。まず研究部報告の発生場所の項目では、場所別での強姦・強制わいせつの詳細な件数につ いてのデータはないが、発生場所の構成比が示してある。平成
26
(2014
)年の強姦の認知件数
1,250
件中発生場所の約半数は住宅が占めており、同年の強制わいせつの認知件数7,400
件中では、屋外が約半数となっている。(表
11
)強姦の発生場所の具体例(平成26
(2014
)年)住宅
47.7
%一般ホテル、旅館、モーテ ル・ラブホテル、カラオケボ ックス、飲食店、一般事務 所、商店
22.2
%電車内、駅、空港、航空 機内、海港、船舶内、バ ス内、タクシー内
5.0%
道路上、駐車(輪)
場、都市公園、空地
18.2
%地下街、地 下通路等そ の他
7.0
%(法務省法務総合研究所「研究部報告55 性犯罪に関する総合的研究」12頁、15頁を基に筆者が作成)
44
(表
12
)強制わいせつの発生場所(平成26
(2014
)年)住宅
22.8
%一般ホテル、旅館、モー テル・ラブホテル、カラ オケボックス、飲食店、
一般事務所、商店
11.3
%地下鉄内、
新幹線内、
その他の列 車内
3.8
%駅、空港、航空 機内、海港、船 舶内、バス内、
タクシー内
2.7
%道路上、駐車(輪)
場、都市公園、空 地
53.6
%地下街、
地下通路 等その他
5.7
%(法務省法務総合研究所「研究部報告55 性犯罪に関する総合的研究」12頁、15頁を基に筆者が作成)
被害者と加害者の面識については、強姦で
49.1
%が面識なし、45.1
%が面識あり、親族が5.8
%という割合となっている。強制わいせつでは加害者との面識ありが24.9
%、面識なし が73.2
%、親族が2.0
%という割合となっている。本章の暗数調査の結果を見ると、面識の ない者からの強姦被害の割合は50
%よりも遥かに少ないため、顔見知りから性的被害を受 けた場合、言い出しにくいという風潮がここから伺える。2 、警視庁のホームページにて公開している情報
各都道府県警察本部のホームページでは、性犯罪への注意喚起のため、管轄内で発生した 性犯罪の場所等を集計して公開している。ここでは警視庁のWeb上で公開しているデータ で発生場所等を確認したい。東京都内という限定もあってか、集合住宅での発生が多く見ら れた。強制わいせつの発生場所は他の調査と同様に道路上・公園が最も多かったが、電車内 の割合が他の
2
機関と比較して特に顕著であった。交通量の多い大都市では、電車内の痴漢 対策も強制わいせつの被害者を減少させる上では大変重要であること判明した。なお、警視 庁のデータでは加害者と被害者の関係性の記載はなかった。(表
13
)強姦の発生場所(平成29
(2017
)年)4
階建て以上 の中高層住宅24.9
%3 階建て以下の 住宅、テラスハ ウス等
20.8%
一 戸 建 て 住宅
2.3
%ホ テ ル ・ ラ ブ ホ テ ル等
18.5
%道路上・
公 園
9.2
%駐車(輪)
場
3.5
%自 動 車 内
2.2
%その他
20.8
%( 警 視 庁 ホ ー ム ペ ー ジ 「 性 犯 罪 か ら 身 を 守 る こ ん な 時 間 、 場 所 が ね ら わ れ る 」
(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/koramu2/koramu8.html, 2018年7月23日最終 閲覧)を基に筆者が作成)。
(表
14
)強制わいせつの発生場所(平成29
(2017
成)年)道路上・公園
31.4
%4 階 建 て 以 上 の 中 高層住宅
15.4
%電車内
15.5
%3 階建て以下 の住宅、テラ スハウス等
9.2
%駐 車 (輪)場
1.8
%一戸建 て住宅
3.1
%ホテル・
ラ ブ ホ テ ル 等
1.5
%その他 22.0%
( 警 視 庁 ホ ー ム ペ ー ジ 「 性 犯 罪 か ら 身 を 守 る こ ん な 時 間 、 場 所 が ね ら わ れ る 」
(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/koramu2/koramu8.html, 2018年7月23日最終
45 閲覧)を基に筆者が作成)。
3 、科学警察研究所「性犯罪被害実態調査」の資料
警察庁科学警察研究所が、警察庁刑事局捜査第
1
課の協力の下、平成9
(1999
)年10
月~平成
10
(1998
)年1
月末までに全国の警察署で取り扱った強姦及び強制わいせつについ て、被害の実態について調査を行ったデータが公刊されている 128。この調査では、被害者 への影響を考えて被害者からの聴取は18
歳以上のみが対象となっており、18
歳以上でも未 回答の者もいるが、強姦300
件、強制わいせつ403
件の事件の詳細が示してある。科学警 察研究所の調査はやや古いものであるが、他の調査と比較して発生場所が詳しいという特徴 がある。強姦は、一人暮らしの自宅内の他、川原・駐車場・神社の境内・空地といった、縄張り意 識が薄く監視性の低いという明確な環境犯罪学でいうところの危険な場所で多く発生して いることがデータから読み取れる。また、強制わいせつは同じく、道路上、駐車(輪)場、
都市公園、空地といった管理者の不明確な半公共空間で発生していることが伺える。
(表
15
)強姦の発生場所(1997
年10
月~1998
年1
月)自宅室内(他 に 誰 も い な い )
27.0
%自 宅 ( 他 の 室 に 誰 か い た )
6.3
%友人・知
人 宅
2.0
%エ レ ベ ー タ ー 内 ・
階 段
4.7
%そ の 他 の 閉 鎖 さ れ
た 場 所
1.3
%学 校 内
1.7
%ホ テ ル
6.7
%職 場 内
4.7
%路 上
13.0
%駐 車 場
9.0
%オ ー プ ン ス ペ ー ス (川原・駐車場・神社 の 境 内 ・ 空 地 等)
15.3
%公 園 ・ 神
社 の 境 内
1.3
%屋外の閉ざされた場 所(公衆トイレ・ゴミ
置 き 場 等 )
0.7
%公 共 交
通 機 関
0.0
%そ の 他
の 屋 内
5.3
%そ の 他
の 屋 外
2.0
%(内山絢子「性犯罪被害の実態(1)-性犯罪被害調査をもとにして-」警察学論集53巻3号85頁(警 察大学校,2000年)、内山絢子「性犯罪被害の実態(3)-性犯罪被害調査をもとにして-」警察学論集 53巻5号178頁(警察大学校,2000年)を基に筆者が作成)
128 内山絢子「性犯罪被害の実態(1)-(4)性犯罪被害調査をもとにして」警察学論集第53巻3号76-98 頁,4号146-156頁,5号164-180頁,6号136-150頁(警察大学校,2000年)。内山絢子「性犯罪 の被害者の被害実態と加害者の社会的背景(上)~(下)」警察時報第55巻10号42-54頁,11号36-51 頁,12号51-64頁(警察時報社,2000年)。等
46
(表
16
)強制わいせつの発生場所(1997
年10
月~1998
年1
月)自宅室内(他 に 誰 も い な い )
12.2
%自 宅 ( 他 の 室 に 誰 か い た )
2.2
%友人・知
人 宅
0.5
%エ レ ベ ー タ ー 内 ・
階 段
4.7
%そ の 他 の 閉 鎖 さ れ
た 場 所
3.7
%学 校 内
2.0
%ホ テ ル
0.7
%職 場 内
1.2
%路 上
34.0
%駐 車 場
4.2
%オ ー プ ン ス ペ ー ス (川原・駐車場・神社 の 境 内 ・ 空 地 等)
7.2
%公 園 ・ 神
社 の 境 内
5.2
%屋外の閉ざされた場 所(公衆トイレ・ゴミ
置 き 場 等 )
1.7
%公 共 交
通 機 関
12.4
%そ の 他
の 屋 内
5.3
%そ の 他
の 屋 外
3.0
%(内山絢子「性犯罪被害の実態(1)-性犯罪被害調査をもとにして-」警察学論集53巻3号85頁(警 察大学校,2000年)、内山絢子「性犯罪被害の実態(3)-性犯罪被害調査をもとにして-」警察学論集 53巻5号178頁(警察大学校,2000年)を基に筆者が作成)。
加害者と被害者の面識に関しては、強姦は面識あり
19
%、面識なし72
%、不明・その他8
%であり、強制わいせつは面識あり9.6
%、面識なし86.4
%、不明・その他3.9
%という統 計結果であった。法務省の平成26
(2014
)年のデータに比べて、科学警察研究所の平成9
(
1997
)年~平成10
(1998
)年の方が、とりわけ強姦について、加害者と被害者の非面識 率が高いのは、近年の性犯罪被害者保護の政策や性犯罪への正しい理解の促進運動から、身 内や職場・学校内での性犯罪被害が訴え出やすい環境が作られてきている証であると考えら れる。刑事司法制度における性犯罪被害者支援策については、次節にて詳細に述べる。4 、法務省法務総合研究所・警視庁・科学警察研究所のデータの比較
法務総合研究所・警視庁・科学警察研究所の各機関の調査した強姦・強制わいせつの発生 場所は次のとおりである。強姦・強制わいせつの詳細な発生場所を
1
件1
件記載した公式 のデータが存在しないため、異なる機関が編集を行った強姦・強制わいせつの発生場所の類 型別統計を比較して見たところ、大きな差異は見られなかった(表17
)(表18
)。強姦の発生場所で、科学警察研究所(