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刑事施設・更生保護段階における性犯罪対策

第 3 章 性犯罪対策の現状と課題 ― 現状で不足している性犯罪対策の探索 ―

第 3 節 刑事施設・更生保護段階における性犯罪対策

1 、刑事施設における性犯罪者対策

1

)刑事施設における性犯罪者に対する特別な処遇制度

警察・検察による未然に性犯罪を防ぐ取り組みは大変重要で近年注目されているものであ るが、最も古くから研究されてきた犯罪予防の手法は、性犯罪者に対し刑事施設で矯正処遇 を行い、二度と社会で再犯させないという制度設計である。前記述のとおり社会復帰モデル から公正モデルにシフトをしたとされる英米に対し 198、我が国では刑事施設において現在 も手厚い社会復帰のためのシステムが実施されている。

その中でも性犯罪者の再犯予防策として、刑事施設内及び保護観察中に行われている「性 犯罪者処遇プログラム」が、近年最も注目されているものの一つである。このプログラムは、

平成

16

2004

)年

11

月に奈良県で発生した女児誘拐殺人事件199を契機として、それまで 刑事施設で行われていた、性犯罪に特化した処遇計画が存在しない処遇制度では、再犯防止 のための矯正教育が不十分であるという議論から構築されたものであり、性犯罪再犯防止指 導の中で実施されているプログラムである。この再犯防止指導を実施する理由とされたのが 監獄法による再犯防止のための取り組みの不徹底であり、平成

18

年(

2006

)年に「刑事収 容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、刑事収容施設法と称する)」が施行され るまでは200、明治

41

1908

)年制定の監獄法に基づいた、施設の安全と秩序維持に主眼が

198 Francis A. Allen(1981), op.cit., p.32, p.60

199 20041117日奈良市の市道で、帰宅途中の小学1年生の女児(当時7歳)がわいせつ目的で誘

拐され、わいせつ行為の上で加害者宅で殺害され、遺体を損壊された事件。わいせつ目的誘拐、強制わ いせつ致死、殺人、死体損壊、死体遺棄、脅迫、窃盗、強制わいせつで起訴された加害者は、1989 に当時5歳の女児2人へ強制わいせつ罪及び窃盗罪で懲役2年(執行猶予4年、保護観察付)の判決、

1991年に当時5歳の女児への強制わいせつ致傷で懲役3年(前刑の執行猶予取り消し)の判決を受け ており、1995年に仮出獄していた。奈良地裁平成18926日判決(奈良地方裁判所平成17

(わ)第10号、LEX/DB 文献番号28145058号)。

200 2005年の新法成立時は「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」という名称が使用されていた

が、新法の適用される受刑者に対し、監獄法の規定のままであった未決拘禁者・死刑確定者等の処遇に

74

置かれた処遇が行われていたとされている 201。この処遇制度を改善するべく新しく制定さ れた刑事収容施設法では、処遇においては社会生活に適応する能力の育成が原則であると明 文化され 202、また処遇の個別化が進められたことによって、円滑な社会復帰に支障がある と認められた者に対しては「特別改善指導」を行うことが明文化された 203。そうした中で 法務省は、奈良県の女児誘拐殺人事件を受けて性犯罪者の再犯防止のプログラム(性犯罪者 処遇プログラム)の必要性を考え、プログラムを策定し実施している。そこで、以下では性 犯罪再犯防止指導の内容=性犯罪者処遇プログラムとして取り扱い、次の(

2

)において性 犯罪者処遇プログラムの概要について検討する 204。なお、近年の性犯罪の再犯防止指導の 受講者数は(表

26

)のとおりである。参考として他の特別改善指導の受講者数も記載した。

ここから、毎年コンスタントに性犯罪再犯防止指導を

500

人前後実施していることは評価 できるが、薬物犯罪での入所受刑者

5000

6000

205に対し、強姦罪・強制わいせつ罪の

不合理な取り扱いの差が生まれた。そこでその差の是正のため、2006年成立の現在の「刑事収容施設 及び被収容者等の処遇に関する法律」に未決拘禁者や死刑確定者も含める形で問題解決を図ったため、

やや複雑な名称の変遷となった。法務省ホームページ「刑事施設(刑務所・少年刑務所・拘置所)」(法務 省の概要)(http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse03.html, 2018715日最終閲覧)。

201 瀬川晃「犯罪者に対する施設内処遇の現在」同志社法学63188-91頁(同志社法學會、2011 年)。

202 刑事収容施設法第30条(受刑者の処遇の原則)

受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活 に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。

203 同法第103条(改善指導)

刑事施設の長は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、並びに社会生活に適応 するのに必要な知識及び生活態度を習得させるため必要な指導を行うものとする。

②次に掲げる事情を有することにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に 対し前項の指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。

麻薬、覚せい剤その他の薬物に対する依存があること。

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に規定する暴力団員であること。

その他法務省令で定める事情

性犯罪の再犯防止指導は、この第103条第2項第3号に該当する。他に実施されている特別改善指導 は、「被害者の視点を取り入れた教育」「交通安全指導」「就労支援指導」等がある。法務省法務総合研 究所 編「平成29年版犯罪白書」57頁。

204 一部の刑事施設では性犯罪者処遇プログラムが完成する平成18(2006)年より以前から、性犯罪再 犯防止のための教育が行われてきていたとされている。しかし、統一的・標準的なプログラムは存在し なかったため、平成18(2006)年以降は全国的に統一したプログラムを行えるようになったとされ る。法務省法務総合研究所 編「平成18年版犯罪白書」265頁(法務省、2006年)。

205 覚せい剤取締法違反5,580人、麻薬取締法違反45人等。大麻取締法、麻薬特例法については入所受 刑者数の詳細な記述が存在しなったが、両罪とも多くが全部執行猶予であるため入所受刑者は僅かであ る。法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」2-4-1-6図「入所受刑者の罪名別構成比(男女

75

入所受刑者は

548

人であり 206

1

10

分の数であるが、特別改善指導である性犯罪再犯防 止指導を薬物依存離脱指導の

1

10

分の数だけ実施していないため、性犯罪の再犯可能性 について薬物犯罪よりも刑事施設の認識が薄いことが伺える。

(表26は、法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」2-4-2-3表「特別改善指導の受講開始人 員の推移」を筆者が編集の後転記した。

2

)刑事施設における性犯罪者処遇プログラムの概要

性犯罪者処遇プログラムは、平成

16

2004

)年に

11

月の奈良県女児誘拐殺人事件を契機 に、法務省に設置された性犯罪者処遇プログラム研究会によって策定されたプログラムで、

平成

18

2006

)年から刑事施設と保護観察所において、受刑者及び保護観察対象者に対し 行われている認知行動療法に基づいたプログラムである。刑事施設におけるプログラムは以 下のとおりである 207。まず新たに刑が確定した全受刑者について、事件内容から性的な目 的が伺えるなど、性犯罪調査対象者となる者を選別する。対象者は①受刑名および犯行動機

別)」。

206 強姦の入所受刑者が260人、強制わいせつの入所受刑者が288人の合計548人である。法務省法務 総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」2-4-1-6図「入所受刑者の罪名別構成比(男女別)」。

207 刑事施設における性犯罪者処遇プログラムの概要に関しては、法務省法務総合研究所編「平成18 版犯罪白書」264-268頁、法務省法務総合研究所 編「平成27年版犯罪白書」259-261頁、法務省ホ ームページ「刑事施設における特別改善指導 性犯罪再犯防止指導」

(http://www.moj.go.jp/content/001224612.pdf, 2018715日最終閲覧)、山本麻奈「性犯罪者処 遇プログラムの概要について―最近の取組を中心に―」刑政123956-64頁(矯正協会、2012年) を参考にした。上記資料の他、拙稿「累犯性性犯罪者に対する特別法の制定に関する研究」法政論叢第 51巻第2号(日本法政学会、2015年)133頁においてまとめたものを参考とした。

また、筆者は平成30(2018)年129日に性犯罪再犯防止指導の推進基幹施設である川越少年刑務 所(埼玉県川越市)を尾田清貴教授と参観させて頂き、実際に性犯罪者処遇プログラムを行っている刑 事施設職員の方から直接内容についてお話を伺う機会を得ている。

(表

26

)特別改善指導の受講開始人員

2012

2013

2014

2015

2016

性犯罪再犯防止指導

549

521

492

497

493

薬物依存離脱指導

7,034

6,741

6,694

7,006

9,435

人 暴力団離団指導

522

608

556

431

519

人 被害者の視点を取り入れた教育

1,091

1,028

964

860

843

人 交通安全指導

1,686

1,701

2,036

1,739

1,792

人 就労支援指導

2,687

2,923

3,290

3,684

3,668

76

等の事件の内容、②常習性、③性犯罪につながる問題性の大きさ等から優先度を判断され、

優先度の高いと判断された者は全国

8

カ所にあるの調査センターに詳細な検討を行うため に送られる。調査センターでは再犯リスクや処遇ニーズを調査・判定し、実施するプログラ ムのコース(高密度・中密度・低密度)に分け、プログラム受講の意義を理解させ、動機付 けを高めるためのオリエンテーションを行った後、対象受刑者を指定された全国

20

の刑事 施設に移送しプログラムを受講させる。

プログラムは認知行動療法を基礎にリラプス・プリベンション

(Relapse Prevention)

モデ ル 208等の方法論を活用し、性犯罪を行わないためのスキルを身に着けることを目標に行わ れている。プログラムは

2

名程度の指導者(刑事施設の訓練された職員若しくは外部からの カウンセラー等)と

8

名程度の受講者によって構成されるグループを中心に実施される。

高・中・低密度の全コースで性犯罪を防ぐための自己統制力を身に付けさせる科目が必修と され、高密度対象者は本科の全てのプログラムを、中密度対象者は本科のプログラムのうち 必要な者を、低密度対象者は必修のプログラムのみを受講する。本科のプログラムは、必修 である①自己統制(事件につながった要因について検討し、統制に効果的なスキルを身に付 けさせる)の他、②認知の歪みの修正(偏った認知を修正し、適切な思考スタイルを身に付 けさせる)、③対人関係(対人関係に係る本人の問題性を改善させる)、④感情統制(感情統 制の機制を理解させ,必要なスキルを身に付けさせる)、⑤共感と被害者理解(他者への共 感性を高めさせる)といった科目がある。グループワークは

1

100

分を基本として、高 密度で

8

ヶ月、中密度で

6

ヶ月、低密度で

3

カ月程実施される。また釈放前に、プログラム で学んだ自己統制、対人関係等に関する知識、技能を復習し、再犯しない生活を続ける決意 を再確認させるメンテナンスプログラムも存在する。

(図

2

)刑事施設における性犯罪再犯防止指導の概要

208 問題行動が生じやすい状況を特定し、その状況への対処方法を学ぶことによって、再発(relapse)を 防ごうとする手法。例えば、パートナーとの喧嘩の後に性犯罪を起こすという状況が確認された場合、

対人関係や感情をコントロール方法を学ばせる治療方法等が行われる。原田隆之「性犯罪への対策―認 知行動療法の限界と今後の展望」現代のエスプリ521139-146頁(ぎょうせい、2010年)。