第 5 章 新たな性犯罪者対策の提唱(まとめにかえて)
第 5 節 第 1 次的予防(事前予防)による性犯罪予防の方法
ここまで、近年注目されている予防医学の考え方を基にした犯罪予防
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段階モデルのう ち、第2
次的予防の段階である警察・検察・裁判所段階で出来る取り組みについて着目し、性犯罪を繰り返すおそれのある精神病的性犯罪者に対し、有効と考えられる施策について提 言を行った。前述のとおり、犯罪予防の研究においては、刑事施設段階・更生保護段階での 再犯予防及び、犯罪を犯しにくいまちづくりを目指す事前予防が中心となって進められてお り、第
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次的予防、とりわけ性犯罪再犯予防のための警察・検察・裁判段階での取り組みは あまり研究がなされてきていなかったため、本論文では第2
次的予防段階で行えることを 中心に現状分析・検証・提言を行った。しかし、様々な要因が絡み合う犯罪への対策は、何 か1
つの政策の提言で万事解決することはなく、①事前予防②早期発見・早期対応②事後的 再犯予防の全ての段階において対策がなされることで、はじめて犯罪を減少させていくこと が出来ると筆者は考える。そこで、本研究の前提である、性犯罪被害に遭う人を1
人でも減 らし、社会から苦しむ人を1
人でも救いたいという考えの下、事前予防である第1
次的予 防と事後的再犯予防である第3
次的予防についても、研究過程において発見した性犯罪対 策として提言出来る点を述べていきたい。まず、事前予防である第1
次的予防に基づく性犯 罪の予防について述べていく。1 、犯罪地理学を使用した犯罪多発地点への警察力の重点配置と防犯 マップの活用
環境犯罪学に基づく防犯環境設計では、被害に遭いやすい人について調査し、その分析結 果に基づき被害対象の強化や、加害者に対する社会心理的な抑制、潜在的被害者の被害回避 措置等を講ずることが基本的な考え方の一つである389。
この考え方に基づくならば、犯罪発生が多発している地域(ホットスポット)に警察力を 重点配置し、制服警察官による潜在的加害者への心理的圧力及び、潜在的被害者への見守り 活動を行うことにより、犯罪の事前予防が可能である。
しかし、これまでも犯罪発生データを活用した警察活動は行われてきたものの、そもそも 我が国において発生件数の少ない強姦・強制わいせつ等の性犯罪のデータでは、犯罪の発生 場所を予測し人員配置をすることは容易ではなかった。そこで登場したのが、京都府警が最 初に採用をした、地図に大量の犯罪発生状況をリアルタイムで記録させ、犯罪発生場所を予 測する「予測型犯罪予測システム」である 390。これは、声掛け・つきまとい等の前兆事案 も含めた事件発生データ(罪種・日時・場所)をデーターベースに全て入力し、京都府警察 本部独自のアリゴリズム(コンピューターによる算出方法)によってホットスポットの分析 を行い、警察署・交番において犯罪発生予測地図に基づいてパトロールを行う先制的な犯罪
389 尾田「安全・安心な街作りに向けた三者連携について」、前掲注(134)、81頁。
390 上田「京都府警察における「予測型犯罪制御システム」について」、前掲注(353)。
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抑止活動と検挙活動である391。
このシステムは、立命館大学地理学研究室の中谷友樹教授の協力で開発されたもので、犯 罪発生は集中するという「犯罪のホットスポット」と、犯罪の繰り返されるという「近接反 復被害」の考え方に基づいている 392。最新のものでは、平面の地図にホットスポットを表 示するだけではなく、
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次元の立体地図の縦軸に時刻を表示し、発生場所に加えて犯罪発生 多発時刻も一目瞭然で視認することが出来る「時空間3D
地図」も作成がなされている(図7
参照)393。図7 時空間3
D
地図の例(中谷友樹教授作成)(図7は、中谷友樹「2、予防医学の考えに基づく犯罪予防」の図5-2-10「犯罪発生の時空間日リズム(東 京都全体)」警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識者研究会提言書 98 頁の図を一部編集の上、転 載した。)
391 同上。
392 中谷友樹「犯罪発生の時空間地図」東京都・警視庁共催「子供・女性の安全対策に関するシンポジ ウム 犯罪の起きにくい社会づくりの実現に向けて」2017年10月6日大会資料。
393 中谷友樹「2、予防医学の考えに基づく犯罪予防」警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識者研 究会提言書98-100頁(警視庁、2017年)。
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これに使用されたデータは、総務省・国土交通省等の、人の行動に関する時間・場所のデ ータのうち、大規模自然災害対応時の早期対応に資するために収集された各種の大量データ と、犯罪発生に関する時間・場所のデータをもとに有機的に解析されたものによって、示さ れた空間マップともいえるものである。
限りある警察力を有効に活用するためには、必要な場所への必要な人員配置という当然の ようで、これまで非常に困難であった問題解決手段が、科学技術によって実行可能となって きている。こうした取り組みを促進することにより、ホットスポットに警察力を随時移動さ せ、犯罪抑止活動を行えば、犯罪の転移に過ぎないといったものや、住民に対する過剰な負 担を強いているといった、環境犯罪学への批判への問題解決へと繋がると思われる。よって 全国の警察本部への早急な拡散が期待されるものである。後は、ホットスポットを絞り込み、
配置された警察組織に、本章第
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節のように、犯罪鎮圧のための権限の付与を法政策の面か ら授与すれば、性犯罪の件数は効果的に減少していくと考えられる。但し、それでもなお第
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次予防においては地域住民及び行政機関の犯罪予防への協力は 不可欠である。地域住民による犯罪予防活動は、見守り活動等の防犯ボランティアのように 負担のかかる行為ではなくても、居住地域の清掃活動や庭や生け垣の手入れをするといった 日常的活動で、視点を変えると犯罪予防活動に繋がる活動は多数あるため、そうした活動の 促進が地域住民による犯罪予防活動となる 394。例えば清掃活動や植木の手入れは、外に出 て活動を行うことによって自然な監視性の確保に繋がり、また他の地域住民や通学中の子ど も達に挨拶をすることで、地域性の共同体意識(縄張り意識)が生まれ犯罪者を近づけない 街となる。自治体は犯罪予防活動を警察に全て任せるのではなく、自治会における防犯ボラ ンティア活動や子ども会の活動の促進のため、活動拠点の提供や財政的援助を積極的に行う ことが期待される 395。子どもの犯罪被害者化防止には、自分の住む地域の多くの人達と交 流し、顔見知りになり、何か困った時には直ぐに助けを求められるような関係を築くことは 大変重要である。子ども110
番の家が地域に存在したとしても、全く知らない人の家に助け を求めていくことは余程の緊急事態でなければ難しいと思われる。近年は都市部を中心に、当番への煩わしさ等で、若い世代の自治会や子ども会の活動は低迷しているように思われる が、こうした機会に是非子ども達を入れて積極的に活動させることが有意であると考えられ る。そのためにも、自治体は自治会・子ども会の活動の促進を呼びかける必要性がある。以 下、京都府亀岡市で筆者が参与観察させて頂いた自治会の犯罪予防活動の事例を紹介する。
筆者は前出の中谷教授が、亀岡市の自治会にて、地域安全マップの作製を行っていた際に 同行させて頂き、亀岡の住民の方と安全マップを作成した。この活動は、地域住民が自ら住 んでいる町内を回って危険な個所を見つけ、その内容を模造紙にグループごとに書き込み、
発表するという形態のものである。この活動には小学生以下の子ども達も多く参加していた。
394 尾田清貴「安全・安心な街づくりの現状と課題―我が街の安全・安心のための住民活動と自治体等 との連携を中心に―」日本法学第69巻第4号板倉宏教授古稀記念号165頁(日本大学法学会、2004 年)。
395 同上、178-179頁。
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中谷教授は、この活動で出来たマップを大学でコンピューターに取り込み、仕上げて住民に 配布するというミクロの地域貢献活動を行っていた。
(写真
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) (写真2
)(写真
1
は安全マップを作成している最中のもの、左から二番目が筆者。写真2
は、完成後 にグループごとに行われた発表会のもの、左の下から2
番目が筆者。このマップ作りには、自治会のメンバーのみではなく市役所の職員が参加し住民の意見を聞く機会を設けていた
396。)
こうした活動は現在あまり行われなくなってきているが、住民同士で集まり、どういった 犯罪行為(されたらすぐに大人に知せるべき行為)があるかなど普段は教えていない家庭も 多い事項を、小さい子どもに教えるチャンスであるため、今後も継続することが望まれる。
性犯罪予防に限らず、犯罪弱者である子どもは大人が守るのは当然であるが、犯罪はどの ようにして起こるのか、どのようなことが犯罪なのか、それが自分の身に起きたら何ができ るのかの知識を与える、といった子どもの持つ力に働きかけ最大限の力を発揮させるエンパ ワメントといった教育も、事前予防策の一つとして非常に重要である397。
地図作りは、単純に危険な場所を示すだけでなく、必要な場所や時間に適切な行動ができ るように大人がまず把握し、子どもに正しいリスクを説明し、子どもの防犯意識を喚起する という被害防止という面も持っている398。
2 、環境犯罪学に基づく防犯環境設計の活用
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)環境犯罪学の基本の考え方と性犯罪への適用可能性
396 詳細は、拙稿「安全・安心まちづくりを進めるための方法に関する研究」、前掲注(8)、218-220 頁。
397 森田ゆり『子どもが出会う犯罪と暴力 防犯対策の幻想』162-169頁(日本放送協会、2006年)。
398 雨宮護「子供・女性の被害防止に向けて、自治体ができること-前兆事案に焦点をあてた対策の可 能性と課題-」東京都・警視庁共催「子供・女性の安全対策に関するシンポジウム」2017年10月6日 資料。