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刑事施設・更生保護段階での処遇の限界と問題点

第 3 章 性犯罪対策の現状と課題 ― 現状で不足している性犯罪対策の探索 ―

第 4 節 刑事施設・更生保護段階での処遇の限界と問題点

1 、責任主義に基づく刑期の制限

我が国では、危険な犯罪者に対する治療処分である保安処分は、制度として存在しないた め、刑罰の枠組みの中で性犯罪者への再犯防止処遇を行わなければならない。しかし、現在 の刑罰制度は、犯罪者の行為に対する非難に見合った刑罰を科すという応報刑の考え方が基 本となっており、犯罪者の再犯危険性よりも道義的責任に応じた刑を科すという考え方が支 配的である 238。そのため、性犯罪者に再犯を起こさせないための治療期間を基準とした刑 期が言い渡されることはなく、再犯可能性を除去し終わるまで刑事施設に拘束するというこ とは不可能である。それ故、法的な非難の度合いから算出された刑期の中で、性犯罪者の再 犯防止指導を完了しなければならない。この点、応報刑を基本とした性犯罪者に対する刑罰 では不都合が生じる。なぜならば、我が国における矯正処遇は社会復帰思想を基本とし、社 会への再統合ということを目標としているが、性犯罪に関しては他の犯罪よりも、認知の歪 みや精神疾患など治療が必要な要素が多い為、改善指導や矯正教育に多くの時間が必要だか らである。これでは、刑事施設側がどれだけ十分な性犯罪者への処遇プログラムを準備した ところで、プログラムを十分に実行できるだけの期間が取れず、不十分なまま釈放しなけれ ばならないという問題が生じる。そのため、矯正と更生保護の連携や刑期終了に伴う社会復 帰後の支援も行われているが、刑期終了後は希望者にしか再犯防止の措置(支援)は出来な い。

既に平成

20

2008

)年の性犯罪者処遇プログラム研究会報告書にて「性犯罪者に対する 十分な処遇の実施に必要な期間と矯正施設の在所期間及び保護観察期間は必ずしも比例し

238 刑罰の目的に関しては、犯罪に対する応報であると考える応報刑論と将来の犯罪抑止であると考え る目的刑論が対立し議論が繰り返されてきた。現在は、「刑罰の本質を応報として捉えながらも、犯罪 予防を重視する目的刑論のもつ長所を取り入れ、応報的処罰の要請と犯罪予防の要請とを調和させ、統 合しようとする見解(井田良『講義刑法学・総論』544頁(有斐閣、2017年))」が主流となっており、

将来の犯罪を防止・抑止することを念頭に置きつつも、犯罪への非難に見合った害悪を付加する応報刑 がベースとなっている。他の解説として「戦後の刑法理論は旧派理論が圧倒的に優勢となったが、犯罪 防止目的を一切考えない純粋の応報刑論(絶対的応報刑論)の支持者は少ない。応報刑論を基調としつ つも、予防効果(特に一般予防効果)が発生することを積極的に承認する相対的応報刑論が多数説とな る。……現在の日本の刑罰論は、「刑罰は犯罪結果に対する応報であり、犯罪予防の効果も期待できる から正当化される」という答えで一致している(前田雅英『刑法総論講義 6版』5-12頁(東京大 学出版会、2015年))」。「刑罰はこのような犯罪予防の手段であるから、それが科されることを避けよ うとする動機付けになりうる必要があるため、本質的に害悪の付科を内容としている。(山口厚『刑法 総論 3版』2-3頁(有斐閣、2016年)」

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ていない。また,刑期満了に伴って,性犯罪者の再犯リスクが高い状態のまま,矯正施設か ら出所又は保護観察を終了せざるを得ない場合が想定される。239」という指摘がなされてい る。それを受けて、刑の一部執行猶予制度の運用が開始されるなど矯正処遇と社会内処遇の 両方を必ず行なえる制度の構築が進められているが、刑の一部執行猶予制度への性犯罪の適 用件数は少なく、また刑の一部執行猶予制度を活用したとしても刑期が定まっている以上、

刑期終了後には強制を伴う矯正処遇は不可能であるとの問題は残っている。

2 、刑期後に強制措置の取れない現行制度

性犯罪者に対する再犯防止のプログラムは刑罰として行う以上、裁判で決定した刑期を越 えることは出来ない。これは裁判所によって刑が確定されているにも関わらず、その期間を 執行機関によって延長することは、同一事件につき、裁判所の判断を得ずに再び刑を加えて いることと同視しうることに繋がり、二重処罰の禁止(憲法第

39

条後段240)に反すること にもなり得るためである。但し、不定期刑は明文に規定しあらかじめ法律に規定しておけば、

採用することは可能であり、罪刑法定主義(適正手続、憲法第

31

241)の問題とはならな いとされている 242。よって、仮に性犯罪受刑者に性犯罪者処遇プログラム等の効果があま り見られず、出所直前に刑事施設が再犯危険性が高いと判断したしたとしても、矯正処遇が 刑罰である以上、司法権である裁判所において決定した期間を越えて処遇を行うことは不可 能である。

3 、専門治療に特化していない刑事施設

現状の刑事施設の処遇では、本章第

3

3

4

)のとおり、性犯罪者処遇プログラムを実 施するための専門スタッフ数が不足しており、現在行われているプログラムでさえ受講が必 要であると判断された受刑者が受講待機となっている状態とされている。そしてそもそも、

現在の

100

分/

1

回で週に

2

回程度、長くて

8

ヶ月のプログラム 243で性犯罪再犯予防のた めの処遇が十分であるかという疑問も感じる。性犯罪は再犯の危険性の高い犯罪で、特別な 治療が必要だということは確認出来た。そうであるならば、専門的な治療を十分な時間を取 って行える施設で処遇をすることが望ましいと考える。我が国には、精神疾患や薬物依存症 等の一般刑務所では処遇が不可能な受刑者や、一般の刑事施設にて疾病等を発症し専門的治

239 法務省「性犯罪者処遇プログラム研究会報告書 平成183月」31頁(法務省、2008年)。

240 憲法第39

何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれな い。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

241 同法第31

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せ られない。

242 井田、前掲注(238)、33-34頁。

243 法務省ホームページ「刑事施設における特別改善指導 性犯罪再犯防止指導」、前掲注(207)

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療が必要となった受刑者に。専門的治療を中心に行う医療刑務所という施設が存在する。と ころが、施設数としても少ない医療刑務所には簡単には収監されず 244、精神疾患でも意思 疎通の難しい者や、薬物依存でも重度の者しか収容出来ていない事情が存在する 245。その ため、軽度の精神障害や身体障害では、一般刑務所に収容されることになり、一般刑務所に は様々な障害を持った者が多く収監されている現状となっている 246。通常は一般人と同じ ように生活をすることが可能な性犯罪受刑者は、現在の制度では医療刑務所に移送すること が出来る可能性は低い。つまり、現在の我が国の医療刑務所は、専門的な処遇が必要な者全 てを収容出来るまでの体制は整えられておらず、重症な一部の者のみが専門的治療の対象

247となっており、その他の専門的治療の必要な者は一般の刑事施設に収容されているとい える。

治療を専門的に行える施設の創設は、医師や看護師等の人員の他、通常の刑事施設よりも 刑務官の数も多く必要で、かつ設備も必要なため、非常にコストがかかり、現在予算があま り取られていない矯正行政 248の事情では、かなり難しいものではある。しかし性犯罪につ いては、再犯が起きれば被害者の心身に重大な被害を及ぼす犯罪であり社会への悪影響も大 きい。よって、通常の矯正処遇でコストをそれなりにかけつつリスクを残すならば、高額で あったとしてもコストをかけ専門治療体制を整え危険性を大幅に減少させた方が合理的で あると考える 249。専門的治療体制の整備は、専門的治療が行える施設の創設によって性犯 罪者の処遇が効率的・効果的に行うことが可能になれば、刑期の期限内で再犯予防のための 治療が完了する確率が上がるため、刑期の制限の解決にも繋がると考えられる。

244 我が国に医療刑務所は東京都、大阪府、愛知県、福岡県に4か所しか存在しない。医療刑務所の定 員としては、最も大きな国際法務総合センター(旧八王子医療刑務所)の矯正医療センター(成人)が 580人、同矯正医療センター(少年)が210人の想定になっている。法務省「国際法務総合センター

(仮称)維持管理・運営事情方針」(平成26103 法務省)13頁。少し以前のデータとなる が、4ヶ所の医療刑務所に入所している精神障害受刑者は平成22(2010)年時点で343人となってい る。佐藤誠「特別寄稿論文 刑事施設の精神科医療」早稲田大学社会安全政策研究所紀要第4202

(早稲田大学社会安全政策研究所、2012年)。医療刑務所については第5章第6節にて詳細を記述し た。

245 山本譲司『刑務所しか居場所がない人たち 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』72-73

(大月書店、2018年)。

246 山本譲司『獄窓記』229-365頁(新潮文庫、2009年)。

247 専門的処遇としては、例えば北九州医療刑務所における治療処遇では、医師による診断と薬物療 法、刑務官主導の民間の有識者の援助を得ての生活指導、刑務作業・改善指導を中心として、刑務官に よる介護、作業療法士による治療を行いつつ、作業療法も兼ねて刑事施設における日常業務を行えるよ うに日々の処遇を行っているとのことである。佐藤、前掲注(244)、205-213頁。

248 法務省の平成30年度の一般会計は7,864億円であり、他の省庁と比較すると最も予算の低い省庁の 一つである(法務省ホームページ「平成30年概算要求について」)。

249 拙稿「累犯性性犯罪者に対する特別法の制定に関する研究」、前掲注(207)、139頁。