第 2 章 性犯罪の現状 ― 潜在的性犯罪者の存在とその危険性 ―
第 3 節 性犯罪の再犯率
1 、性犯罪と再犯率の一般的見解
性犯罪の特徴として、性犯罪は病的なものであり、再犯率が高い傾向にあると一般的に認 識されていることが多い。これは、連続幼女誘拐殺人事件(宮崎勤事件)91のような特殊な 事件がセンセーショナルに報道されたことや、かつてマスメディアによって性犯罪の再犯率 が高いことが大々的に報道されていたことに起因すると考えられる92。
これに対し、研究者からは、強盗罪で有罪となった者が出所後に強姦事件を起こし有罪と なる等の「一般再犯危険性(罪名を問わず再犯を行う危険性を示すもの)」は
30
%を超えて おり高い数値であるものの、強姦罪で有罪となった者が出所後に再び強姦罪で有罪となる等 の「同一罪名再犯危険性(同じ罪名を繰り返し行う危険性)」及び「同種再犯危険性(強姦 罪・強制わいせつ罪等の性犯罪を繰り返し行う危険性)」は5
%~15
%であることを根拠に93、性犯罪が繰り返し行われる危険性の高い犯罪であるということには疑問が呈されていた
94。確かに最新の平成
29
年版犯罪白書のデータ(5-2-1-3
図「刑法犯 成人検挙人員の前科 の有無別構成比(罪名別)」)(表7
)においても、検挙人員(成人)の前科を見た際に、同一 罪名有前科率は窃盗罪が20.1
%、恐喝罪が20.0
%と高いのに対して、強姦罪で5.3
%、強制 わいせつ罪で8.2
%と、性犯罪の同一罪名再犯が特段高いわけではないように見える(表7
)。 また、刑法犯全体と比べても、刑法犯全体の同一罪名有前科者率が15,1
%であるのに対し て、強姦罪・強制わいせつ罪の同一罪名有前科者率は10
%未満であるため、平均よりも高
91 東京都・埼玉県において、加害者(宮崎勤)が、昭和63(1988)年8月から平成元(1989)年7月 にかけて、自己の性的欲求を満たすために、当時4歳から7歳の女児5名を誘拐し、うち4名の被害者 を殺害した上、3名の死体を損壊ないし遺棄し、残る1名の被害者にはわいせつ行為をした事件。被告 人は死刑判決を受け、2008年6月に執行された。最高裁判所第三小法廷平成18年1月17日判決(最 高裁判所平成13年(あ)第1205号、LEX/DB28115066号)。
92 例えば、福原幸治=小林健「性犯罪高い再犯率 奈良・女児誘拐、殺人へとエスカレート」読売新聞 2004年12月31日大阪朝刊3頁では「性犯罪は、再犯率が高いとされる。」と明記されており、また、
「緊急報告:奈良女児誘拐殺害事件 小児性愛者の闇、犯罪への不安 悲劇止めるには…」毎日新聞 2005年1月5日大阪朝刊28頁でも「性犯罪は、一般的に再犯率が高いとされる。」と書かれている。
93 法務省法務総合研究所「法務総合研究所 研究部報告42―再犯防止に関する総合的研究―」38-40 頁(法務省、2009年)。
94 例えば、守山正「第16講 個別犯罪と対策(7)性犯罪」守山正=安部哲夫『ビギナーズ刑事政策
〔第3版〕』388頁(成文堂、2017年)にて守山正教授は、「性犯罪者が性犯罪を再度行う比率は必ず しも高くなく、性犯罪者が性犯罪を繰り返し危険であるという認識は改める必要がある。」と述べられ ている。
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いわけではない(表
7
)。(表
7
)刑法犯 成人検挙人員の前科の有無別構成比(罪名別)(表7は、法務省法務総合研究所 編「平成29年版犯罪白書」208頁の5-2-1-3図「刑法犯 成人検挙人 員の前科の有無別構成比(罪名別)」を筆者が一部編集の上、転載した。)
2 、性犯罪の再犯率への考察
(
1
)凶悪(重要)犯罪としての性犯罪の再犯率この点、窃盗罪等の個人の生命・身体・財産への侵害度合いが非常に高いとは言えない犯 罪と、強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪という精神的・肉体的に深刻な影響を与える 犯罪とを単純な比較で見て結論を出して良いか疑問が残る。性犯罪が、他の犯罪と比較して 被害者に対し甚大な被害を与えることは前述のとおりであり、警察庁でも刑法犯のうち、個 人の生命・身体・財産を侵害し国民の脅威となっている犯罪と考えられる殺人罪、強盗罪、
放火罪、強制性交等(強姦)罪、略取誘拐罪・人身売買罪、強制わいせつ罪を重要犯罪と指
34
定し95、重点的に対策を行っている点を見ても、強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪が 他の犯罪と比べ特別なものであり、他の犯罪とは異なった考え方が必要であることが伺われ る。
そこで個人の生命・身体・財産を侵害する度合いが特段高いと考えられる、警察庁の指定 する凶悪犯罪と比較してみると結論が異なる。警察庁の分類によると凶悪犯罪とは殺人罪・
強盗罪・放火罪・強制性交等(強姦)罪であるが96、先ほどの成人検挙人員の前科の有無の 表(表
7
)において、凶悪犯罪に限定して同一罪名有前科率を見ると、殺人罪が2.6
%・強 盗罪が7.5
%・放火罪が5.2
%・強姦罪が5.3
%となっている。強姦罪の同一罪名有前科率5.3
%は、凶悪犯罪における同一罪名有前科率の平均(5.15
%)よりも高い数値となってい る。強制わいせつ罪について見ても、強制わいせつ罪の同一罪名有前科率は8.2
%であるた め、凶悪犯罪の同一罪名有前科率の平均値よりも高い数値となっている。したがって、強制 性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪は、凶悪犯罪の中では繰り返し行われる危険性の高い犯 罪であり、再犯予防の必要性が伺われるものであると言える97。(
2
)重大犯罪としての性犯罪の再犯率また、平成
22
(2010
)年のデータにはなるが、平成22
年版犯罪白書において殺人、傷害 致死、強盗、強姦、放火を重大事犯と指定した上で、重大事犯の再犯率等についての分析し た結果が出ている。そこでは、重大事犯は再犯のリスクが長期間にわたって継続する傾向が あるという見解から、おおむね10
年間にわたって再犯の有無の追跡調査を行っている 98。 調査結果は①同種重大再犯:調査対象者が犯した重大再犯と同種の犯罪の再犯、②類似再犯(性犯):調査対象者が犯した重大再犯の罪名が強姦罪である場合に強制わいせつ罪も含め た再犯、③異種重大再犯:調査対象者が犯した重大事犯と異なる重大犯罪の再犯、④その他 の再犯:①~③以外の犯罪の再犯で、禁固以上の刑に処された者、⑤再犯なし、に分類され、
再犯結果が記されている。
これを見ると、同種再犯率は殺人罪で
0.8
%、傷害致死罪で3.9
%、強盗罪で8.3
%、強姦 罪で9.4
%、放火罪で7.5
%となっており、強姦罪が最も高い数値となっている。更に、強姦 罪に強制わいせつ罪の再犯を含めた、性犯罪の再犯率は14.7
%であるという深刻な結果が 出ている99(表8
)。(表
8
)重大犯罪の罪種別再犯状況
95 国家公安員会・警察庁 編「平成29年版警察白書」73頁。
96 同上、凡例による。
97 なお、重要犯罪に含まれている略取誘拐・人身売買については、犯罪白書・警察白書に有前科者率の データが存在しなかったため、比較の対象としなかった。
98 法務省法務総合研究所 編「平成22年版犯罪白書」210頁、259頁。
99 同上、259頁。
35
(表8は、法務省法務総合研究所 編「平成22年版犯罪白書」259頁の7-2-3-1-1図「再犯状況(罪 名別)」を筆者が一部編集の上、転載した。)
そのため平成
22
年版犯罪白書の特集「重大事犯者の実態と処遇」のまとめにおいて、「同 種重大再犯の再犯率は…強盗、強姦及び放火で比較的高く、特に、強姦は、強制わいせつを 含めた性犯による再犯率は16
%、更に強盗強姦の再犯を含めると17
%であり、その再犯状 況は、かなり深刻である。100」という記述がなされている。この他にも「性犯罪を繰り返す 者は、更に性犯罪の再犯に及ぶリスクがより大きいことがうかがわれる。101」という性犯罪 の再犯を繰り返す者についての言及が存在するなど、性犯罪の再犯が重大な問題であること が指定されている。よって、法務総合研究所においても性犯罪の再犯率について問題視して いるということが伺われる。(
3
)子どもを対象とした性犯罪の再犯率平成
27
年版犯罪白書では、性犯罪者の類型を「単純強姦型」「集団強姦型」「強制わいせ つ型」「小児わいせつ型」「小児強姦型」「痴漢型」「盗撮型」に分け(被害者が13
歳未満で ある場合に、小児~となる)、調査対象事件の裁判確定から5
年間の間に再び有罪の判決が 確定した者を対象に再犯率 の調査を行っている102。その中で条例違反の性犯罪を含めない、強姦罪・強制わいせつ罪に限定して再犯率を見る と、単純強姦型が
0.9
%、集団強姦型が0
%、強制わいせつ型が3.3
%、小児わいせつ型が6.6
%、小児強姦型が0
%、痴漢型が5.4
%、盗撮型1.3
%の者が5
年以内に再犯を行ってお
100 同上、296-297頁。
101 同上、298頁。
102 法務省法務総合研究所 編「平成27年版犯罪白書」281-293頁。
36
り、小児わいせつ型の再犯率が突出して高い結果となっている103(表
9
)。(表
9
)性犯罪者類型別再犯率(表9は、法務省法務総合研究所 編「平成27 年版犯罪白書」293頁の 6-4-4-3図「再犯調査対象者 再犯率(性犯罪者類型別)」を筆者が一部編集の上、転載した。)
この他にも、性依存症(性嗜好障害)の治療を専門に行っている榎本クリニックの精神保 健福祉士である斉藤章佳氏も「彼ら(小児性犯罪者)は反省しながらも、また再犯を繰り返 す。特に小児性犯罪は反復性が高い。104」と述べており、小児性愛者の再犯率は高いという 専門家の意見もあることから、性犯罪の中でも
13
歳未満の子どもを対象とした性犯罪は再 犯の危険性が高いことが伺える。したがって、子どもを対象とした性犯罪は繰り返される危 険性が高く、早急な対応策が必要である。3 、性犯罪の再犯率の結論
以上により本論文では、強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪は、刑法犯全体としては 同種再犯率は高いとは言えないものの、個人の生命・身体・財産を侵害する度合いが高い「重 大犯罪」としては再犯率が高く、早急に対応策が必要なものであると結論付けて研究を行っ ていきたい。そして特にその性犯罪の中でも、生涯に渡る心の傷等の深刻な被害をもたらす、
103 同上、293頁。
104 斉藤「小児性愛のリアル」、前掲注(32)、86頁。