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n 次の行列式

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 144-147)

行列式に話を戻す。28.1節と28.2節で, 2次と3次 の行列式の性質を調べた。2次の行列式は, 2つの2次 の列ベクトルa,bに対して,それらが張る平行四辺形の

(符号付きの)面積S(a,b)であった。3次の行列式は, 3つの3次の列ベクトルa,b,cに対して, それらが張る 平行六面体の(符号付きの)体積V(a,b,c)であった。

それらが持つ性質をまとめると,以下のようになる: n を2または3とすると,

行列式の大切な性質

✓ ✏

(1) n次行列式は,n次の列ベクトルn個に対して スカラー1個を割り当てる写像である。

(2) それぞれの列ベクトルについて行列式は線型 写像である。

(3) 2つの列ベクトルを入れ替えると行列式の値は

符号が反転する。

(4) 単位行列の行列式は1である。

✒ ✑

これらは2次の行列式にも, 3次の行列式にも,共通のも のだった。そして,これらの性質から出発すれば, 2次行 列式の公式(たすきがけ)も3次行列式の公式(サラス の公式)も導出できた。ということは, 上記の性質は行 列式の本質的な性質であり, これらによって少なくとも 2次や3次の行列式は完全に特徴づけることができるの である。そこで,これらの性質を使って, 4次以上の行列 式を定義しよう。すなわち,

行列式の一般的な定義

✓ ✏

nを任意の自然数とする。n次行列式とは, 上記の

「行列式の大切な性質」を全て満たすようなもので ある.

✒ ✑

この定義に基づいて, 実際に大きな次数の正方行列の 行列式を求めることができるのだが,その準備のために, 以下の定理を証明しておこう:

● 問700 nを2以上の整数とする。n本のn次列ベ クトルa1,a2,· · ·an を横に並べてできるn次正方行列 [a1,a2,· · ·,an]をAとする。i, j を1以上n以下の任 意の整数とする(ただしi̸=j)。もし, ai=ajならば, detA= 0であることを示せ。つまり, 列ベクトルに重 複があると, 行列式は0になるのだ。

● 問701 nを2以上の整数とする。n本のn次列ベ クトルa1,a2,· · ·an を横に並べてできるn次正方行列 [a1,a2,· · ·,an]をAとする。i, j を1以上n以下の任 意の整数とし(ただしi̸=j),pを任意のスカラーとす る。Aの第i列に第j列のp倍を加えてできる行列の行 列式:

det[a1,a2,· · · ,ai+paj,· · ·,an] (28.68) はdetAに等しいことを示せ。

● 問702 対角行列の行列式は,対角成分をすべて掛け あわせた値に等しいことを示せ。

問701の結果と,上記の行列式の新しい定義を使うと, 行列式に関して以下のことが一般的に言える:

• どれかの列ベクトルに別の列ベクトルのスカラー倍 を加える(これを変形1と呼ぼう)ことによって行 列式の値は変わらない。

28.4 n次の行列式 137

• どれかの列ベクトルをスカラー倍する(これを変 形2と呼ぼう)ことによって行列式の値はそのスカ ラー倍になる(これはP.129式(28.11)やP.133式

(28.35)に相当する。行列式が列ベクトルに関する

線型写像であることから明らか)。

• 2つの列ベクトルを入れ替える(これを変形3 と 呼ぼう)ことによって行列式の値は符号が逆転す る(これは定義から明らか。P.133式 (28.42), 式 (28.43),式(28.44)に相当する)。

単位行列の行列式は1である(これも定義から明ら か。これは一辺の長さが1の正方形の面積や立方体 の体積が1であることに相当する)。

変形1, 2, 3を,「列基本変形」と呼ぶ。これらを使うと, 行列式の値を効率良く計算できる。

例28.3 以下の行列:

A=

1 1 2 1 2 4 1 3 5

 (28.69)

の行列式, detAを計算しよう。直接, サラスの公式を使

えば, detA=−1であることがわかるが,ここではあえ て列基本変形を使ってやってみよう。まず,第2列から 第1列を引いてみる。これは変形1である(第2列に第 1列の(−1)倍を足す)ので,行列式の値は変わらないは ず。従って,

detA= det

1 1−1 2 1 2−1 4 1 3−1 5

= det

1 0 2 1 1 4 1 2 5

となる。この最右辺の行列は(1,2)成分に0が現れたの

で, 式(28.69)より少しシンプルになった気がする。さ

らに,その第3列から第1列の2倍を引こう。これも変 形1なので行列式の値は変わらないから,

detA= det

1 0 2−2 1 1 4−2 1 2 5−2

= det

1 0 0 1 1 2 1 2 3

となる。さらに,この第3列から第2列の2倍を引けば,

detA= det

1 0 0

1 1 0

1 2 −1

 (28.70)

となる。ここまで0成分が増えれば, 暗算でサラスの公 式を計算できるが,あえてそうせずにもうちょっと頑張

る。第1列から第2列を引くと,

detA= det

1 0 0

0 1 0

−1 2 −1

 (28.71)

第1列から第3列を引き, 第2列に第3列の2倍を足 すと,

detA= det

1 0 0

0 1 0

0 0 −1

 (28.72)

第3列の−1を,−1×1とみなすと(変形2),これは

detA=−1×det

1 0 0 0 1 0 0 0 1

 (28.73)

に等しい。ここで単位行列の行列式が1であることを使

うと, detA=−1と決まる。 ■

変形の方針としては, まず, 第1列と変形1を使って, 他の列の第1成分を消す。次に, 第2列と変形1を使っ て, 他の列の第2成分を消す。そうやっていくと, 対角 成分だけが残る。そうしたら変形3を使って, 単位行列 に帰着させる。

時として, 例えば第1列の第1成分(第1行の成分)

が0になっているようなこともあり得る。そのようなと きは,変形1を使っても他の列の第1成分を消せないか ら,先に変形3を使って,第1列を他の列(第1成分が0 でない列)と入れ替えればよい。

例28.4 以下の行列式を考えよう:

det

1 2 −1 1

2 5 −1 0

1 3 1 1

0 1 2 −1

(28.74)

↓ (2列)−2×(1列), (3列)+(1列), (4列)−(1列)

=det

1 0 0 0

2 1 1 −2

1 1 2 0

0 1 2 −1

(28.75)

↓ (1列)−2×(2列), (3列)−(2列), (4列)+2×(2列)

=det

1 0 0 0

0 1 0 0

−1 1 1 2

−2 1 1 1

(28.76)

↓ (1列)+(3列), (2列)−(3列), (4列)−2×(3列)

=det

1 0 0 0

0 1 0 0

0 0 1 0

−1 0 1 −1

(28.77)

↓ (1列)−(4列), (3列)+(4列)

=det

1 0 0 0

0 1 0 0

0 0 1 0

0 0 0 −1

(28.78)

=−1 (28.79)

注意: 実は,行列式の値を求める時,列基本変形は, 単 位行列になるまでやる必要はないのだ。例28.4では,式

(28.77)まででOKで, この対角成分を掛けあわせれば

よいのだ。というのも, この行列は, 対角成分より上の 部分(行列の右上の部分)が全部0になっており, 0 で ない成分は対角成分と, 対角成分より下の部分(行列の 左下の部分)にしか残っていない。左下に残った各成分 は, その行の対角成分を持つ列のスカラー倍を足すこと で消せる。従って,左下に残った成分は列基本変形1に よって(対角成分や右上に影響を与えることなく)結局 は0になり,行列は対角行列(対角成分以外が0の行列)

になる。問702で見たように,対角行列の行列式は, 対 角成分を全部掛けあわせたものである。

● 問703 以下を,列基本変形を利用して計算せよ。ど ういう変形をしたかも明記せよ。

det

1 2 2 1 4 4 1 6 5

● 問704 以下の行列Aの行列式の値を求めよ:

A=

0 0 0 1 0

0 0 1 0 0

0 1 0 0 0

1 0 0 0 0

0 0 0 0 1

ヒント: 変形3を何回か使って単位行列に変形する。変形3 を1回使うたびに,行列式は(−1)倍されることに注意。

● 問705 以下の行列式の値を計算せよ(列基本変形で は,どういう変形をしたかも明記せよ):

det

1 2 2 1

2 5 4 −1

1 6 5 1

2 5 4 1

行列式には, もう少し,大切な性質がある。以下,nを 任意の自然数とする。

任意の2つのn次正方行列A, Bについて,

det(AB) = det(A) det(B) (28.80)

であることが知られている。この式は,n= 2の場合は 数学リメディアル教材で証明したが, 3以上のnについ ても成り立つのである。その証明は若干複雑なので, こ こでは述べない(興味のある人は, 線型代数というタイ トルのついた本を勉強しよう)。

また,任意のn次正方行列Aについて,

det(tA) = det(A) (28.81)

であることも知られている(tAはAの転置行列)。

● 問706 nを任意の自然数とする。任意のn次正方 行列Aについて,次式を示せ:

det(A1) = 1

det(A) (28.82)

● 問707 nを任意の自然数とする。n次正方行列Q が, tQ = Q1 を満たすとき, Qを直交行列というの であった。任意の直交行列 Qについて, その行列式

det(Q)の値は, 1か−1のどちらかであることを証明

せよ。

行列式には, 様々な用途があるが, 実用上は以下の性 質が特に重要である:

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