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勾配

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 164-167)

してみると,

∇ ×U=( ∂

∂x, ∂

∂y, ∂

∂z

)×(u, v, w)

=(∂w

∂y −∂v

∂z, ∂u

∂z −∂w

∂x, ∂v

∂x −∂u

∂y )

(30.7) となる。その結果は,見てわかるように, 3つの成分を持 つ量, つまりベクトル場である。こうしてできるベクト ル場,すなわち

∇ ×U (30.8)

のことを, 「Uの 回転(rotationまたはcurl)」と呼ぶ。

Uの回転は, rotUとかcurlUと書くこともある。

● 問726 以下のベクトル場Uの回転を求めよ: U(x, y, z) = (xyz, x+y+z,2x+yz) (30.9)

さて, ここで学んだ「勾配」「発散」「回転」は, スカ ラー場やベクトル場にナブラ演算子を適当にかけたもの ではあるが, それにしても何やら意味あり気な名前であ る。実際, それぞれには名前にふさわしい「意味」があ るのだ。それを以後,ゆっくり見ていこう。

30.2 勾配 157 とすると,式(30.13)と内積の定義から,

df= gradf •dr=|gradf||dr|cosθ (30.14) となる。ここで, 点Qをうろうろと動かすと, θが直角 になるケースがあることが想像できるだろう(図30.2)。 その場合, cosθはゼロになるから, 式(30.14)はゼロに なる。すなわち, ベクトルgradf と変位ベクトルdrが 直角になるような位置に点Qが来ると, df はゼロにな る。dfは,点Qと点Pの間でのfの値の差だったから, dfがゼロ,ということは, PとQでf の値が同じ, とい うことである。

図30.2 gradfに垂直な面にQが来ると, PとQで fの値に差が無くなる。

そのような点Q, つまりθが直角になるような点Q は, 点Pを通りgradf に垂直な平面を作ることがわか るだろう。その面では, dfがゼロだから,どこをとって もf の値は等しい(ただし, QがあまりにもPから離 れてしまうと式(30.13)が成り立たないのでダメだが)。

そのような面, すなわちf の値が一定であるような面を

「等値面」と呼ぼう*1。すると,以上の考察から, 次のよ うに言える:

gradfの性質1

✓ ✏

gradf はfの等値面に垂直である。

✒ ✑

● 問728 f(x, y, z) = 2x+y+ 3zとする。

(1) gradf を求めよ。

(2) f(x, y, z)が一定値のとき, 点(x, y, z)は平面を構 成することを示せ。

*1等値面は,一般的には曲面である。しかし,微小な範囲で考えれ ば,曲面は平面で近似できる。ここで言っている平面とは, のような,曲面の近似としての平面である。

(3) その平面が, gradf と垂直であることを示せ。(ヒ ント:法線ベクトルがgradf と平行ならばよい。

平面の法線ベクトルについては, 数学リメディアル 教材参照。)

● 問729 f(x, y, z) =x2+y2+z2とする。

(1) gradf を求めよ。

(2) f(x, y, z)が正の一定値のとき, 点(x, y, z)は原点 を中心とする球面Sを構成することを示せ。

(3) 一般に,原点を中心とする球面上の点(x, y, z)につ いて, ベクトル(ax, ay, az)はその球面の法線ベク トル(球面に垂直なベクトル)であることを示せ。

ただしaはゼロ以外の任意の実数。

(4) gradf は,点(x, y, z)で球面Sと垂直であることを 示せ。

● 問730 f(x, y, z) = 1/√

x2+y2+z2とする。

(1) gradf を求めよ。

(2) f(x, y, z)が正の一定値のとき, 点(x, y, z)は原点 を中心とする球面Sを構成することを示せ。

(3) gradf は, 点(x, y, z)で球面S と垂直であること を示せ。

gradfの「向き」について, もう少し考えよう。さき ほどの式(30.14)について,点Qを点Pのまわりをうろ うろと動かす状況を, もういちどイメージしよう。ただ しこんどは, PQの距離だけは一定に保つ。つまり点Q は点Pから一定の距離(ただし全微分公式が成り立つく らいに十分に短い距離)だけ離れたところ(それは球面 になる)を動く。このとき, 上の式で,df が最大になる のはどういう場合だろうか?

この場合, 変化するのはcosθだけだから,θが0のと きcosθ= 1で最大であり,そのときgradf と−→PQは同 じ向きを向いている(θが0だから)。このときdfが最 大になる,すなわち, Qでのf の値とPでのfの値の差 がいちばん大きくなる。つまり, この−→PQの向き(それ はgradf と同じ向きである)に進むと,f の値が最も大 きく変わる(増える)のだ。まとめると,

gradf の性質2

✓ ✏

gradfは,fの値を最も大きく変化させる(増やす)

向きを向いている。

✒ ✑

ちなみに,先に挙げた「性質1」とあわせると,「f を 最も大きく変化させる向き」は「f の等値面」と垂直で あることがわかるだろう。

では, gradf の「長さ」は何を表すのだろうか?

● 問731 (30.14)について,−→PQがgradf と同じ向 きを向いる場合を考えよう。このとき, |−→PQ|=drと書 くと,次式が成り立つことを示せ。

df

dr =|gradf| (30.15)

つまり,

gradf の性質3

✓ ✏

|gradf| , f を最も大きく変化する向きに軸を とったときの,f の微分係数である。

✒ ✑

従って,f の変化が激しい場所では|gradf|は大きな 値をとる。

以上で勾配の意味や性質の説明は一段落したのだが, これらは全て, 式(30.13)から派生したものだった。そ こで,式(30.13)をもういちど,じっくり見てみよう: い ま,点Pの位置ベクトルをrとする。すなわち,

r=−→OP = (x, y, z) (30.16)

とする。すると,点Qの位置ベクトルは,r+drとなる。

点P, 点Qでのf の値は, それぞれf(r), f(r+dr)と 書けるので,式(30.10)は,

df=f(r+dr)−f(r) (30.17)

と書ける。これで式(30.13)を書き換えると,

f(r+dr) =f(r) + gradf•dr (30.18) となる。これは, 1変数関数の微分係数の定義式:

f(x+dx) =f(x) +f(x)dx (30.19) とよく似ているではないか! つまり, gradf は, 1変数関 数の微分係数を, 「複数の独立変数を持つ関数」に自然 に拡張したものである。そのとき, 微分係数と微小量の 積(つまりf(x)dx)は,勾配と微小変位ベクトルとの内

積(つまりgradf•dr)にとって替わられるのである。

勾配は, 多変数関数の性質を記述するのに大変に重要 である。例えば, 経済学では, 経済政策や社会政策の最 適な条件を探る為に, 政策の効果を表す多変数関数の勾 配を使う。物理学では,以下のような応用例がある:

例30.2 海の中の水塊に働く力を考えよう。一般に,水 圧pの水中にある, 面積aの面には, その面に垂直な向 きにpaという力がかかる。この力の大きさは, 面の向 きによらない。これをパスカルの原理という。

海中の一箇所に原点をとり, デカルト座標系を張っ て, 点(x, y, z)における水圧をP(x, y, z)としよう。点 (x0, y0, z0)を中心とする立方体状の水塊Ωを考える。

Ωの一辺の長さをδとする。Ωの各面はいずれもx, y, z 軸のどれかに垂直であるとする。

Ωには, 隣接する水塊から各面を介して力を受ける。

そのような力を

F= (Fx, Fy, Fz) (30.20)

とすると,Fはどのように表されるだろうか?

x軸に垂直な2つの面をAとA’とする。Aはx= x0−δ/2の位置にあり, A’はx=x0+δ/2の位置にあ るとする。Aにはx軸の正の方向に,

P(x0−δ/2, y0, z02 (30.21) という力が働き, A’にはx軸の負の方向に,

P(x0+δ/2, y0, z02 (30.22) という力が働く。A, A’以外の面に働く力にはx方向 の成分は無い(A, A’以外の面はx軸に平行である。パ スカルの原理より, 力は面に垂直に働くので, それらの 面に働く力はx軸に対して垂直である)。従って,Fxは, 式(30.21)と式(30.22)の合力である。すなわち,

Fx=P(x0−δ/2, y0, z02−P(x0+δ/2, y0, z02 となる。線型近似を用いると,この式は,

Fx=−∂P

∂xδ3 (30.23)

となる。これが, この水塊Ωに働く水圧による,x軸方 向の力である。同様に,y軸,z軸にそれぞれ垂直な面の ペアを考え, それに働く水圧による, y, z軸方向の力は

30.3 線積分 159

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