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線型微分方程式

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 64-67)

さてここで,線型 非 同次微分方程式というものを定義 しよう。線型非同次微分方程式とは, x, y,· · · を独立変 数とする未知関数f(x, y,· · ·)について, ある線型微分

演算子Lと,「恒等的に0」ではない既知関数g(x, y,· · ·) を用いて,

Lf(x, y,· · ·) =g(x, y,· · ·) (21.40) と書ける方程式のことである(定義)。g(x, y,· · ·)を「非 同次項」と呼ぶ*12。非同次項は,その中にf自体やfの 微分などを陽に(explicitに)含んではならない。

もしgが恒等的に0であれば,式(21.40)は式(21.39), つまり線型同次微分方程式になる。線型同次微分方程式 と線型非同次微分方程式をあわせて,線型微分方程式 と いう。

例21.16 次の方程式: d2

dx2f(x)− d

dxf(x) + 2f(x) =x2 (21.41) は,

L= d2 dx2 − d

dx+ 2 (21.42)

g(x) =x2 (21.43)

とすれば式(21.40)の形になる。したがって式(21.41) は線型非同次微分方程式である。 ■

例21.17 次の方程式: d2

dx2f(x)− d

dxf(x) + 2f(x) =f(x)2+ 2x(21.44) は, 線型微分方程式でない。なぜか? 右辺はf(x)を含 むので非同次項ではない。そこで,左辺に移行すると

d2

dx2f(x)− d

dxf(x) + 2f(x)−f(x)2= 2x(21.45) この左辺は線型演算子で書き換えることはできない(f2

が邪魔)。 ■

例21.18 次の方程式: d2

dx2f(x)− d

dxf(x) + 2f(x) =f(x) + 2x (21.46) は,線型非同次微分方程式である。というのも,一見,右

*12「同次」を「斉次」と言うこともある。

21.4 線型微分方程式 57 辺のf(x)が邪魔だが,これを左辺に移行すると

d2

dx2f(x)− d

dxf(x) +f(x) = 2x (21.47) となる。この左辺は線型演算子で書き換えることができ るし, 右辺はxだけの関数(f(x)を陽に含んでいない)

なので非同次項である。 ■

例21.19 21.1のような電気回路を考える。抵抗R とコンデンサーCが直列になっており, そこに, 時刻t とともに変動する交流電圧V(t)がかけられている(丸 の中に〜が書かれた記号は,交流電源を意味する)。「交 流」とは何かがわからない人は, 自力で調べること。こ

図21.1 抵抗とコンデンサーからなる交流回路

の回路に流れる電流I(t)とコンデンサーにたまる電荷 Q(t)を考えよう。これは図17.2とよく似た状況であり,

式(17.42)がここでも成り立つ。ただし, 今回は電圧が

時間に依存する,という点が違う。従って, V(t) =RI(t) +Q(t)

C (21.48)

となる。今,電圧V(t)は,

V(t) =V0sinωt (21.49)

であるとしよう(V0は電圧変動の振幅, ωは角速度であ り,いずれも定数)。式(17.45)で述べたように, 電荷Q を時刻で微分すると電流Iになることに注意すると, 式 (21.48)は,

RdQ(t) dt +Q(t)

C =V0sinωt (21.50)

となる。これは,線型非同次微分方程式である。なぜな らば,

L=Rd dt+ 1

C (21.51)

f =Q(t) (21.52)

g=V0sinωt (21.53)

と置けば, 式(21.50)は式(21.40)の形になるからであ る(独立変数はt)。(例おわり)

● 問588

(1) 線型微分演算子とは何か。

(2) 線型非同次微分方程式とは何か。

(3) 線型微分方程式とは何か。

線型非同次微分方程式は, その解の集合は必ずしも線 型空間にはならない。例えば, 式(21.41)を考えよう。

この方程式に2つの解f1, f2があったとする:

d2

dx2f1− d

dxf1+ 2f1=x2 (21.54) d2

dx2f2− d

dxf2+ 2f2=x2 (21.55) 式(21.54)と式(21.55)の和は,

d2

dx2(f1+f2)− d

dx(f1+f2) + 2(f1+f2) = 2x2 となる。ところが, もしf1+f2が式(21.41)を満たす と仮定したら,

d2

dx2(f1+f2)− d

dx(f1+f2) + 2(f1+f2) =x2 となるはずだ。この2つの式を,辺々, 引き算すると,

0 =x2 (21.56)

となってしまう。これが恒等的に成り立つことはありえ ない。従って,f1+f2は式(21.41)を満たさない(背理 法)。従って線型非同次微分方程式(21.41)の解の集合 は線型空間にはならない!

しかし, これは美しくない。非同次とは言っても, い やしくも「線型」な微分方程式というからには, その解 の集合が「線型」空間になってくれなければ, なんとな く気持ちが悪い。ところが, 以下のように, 少し考え方 を拡張すると, 線型非同次微分方程式にも線型空間の考 え方をあてはめることができるのだ:

いま, Lを線型微分演算子とし, 関数f1(x)に関する 線型非同次微分方程式

L f1(x) =g1(x) (21.57)

と,関数f2(x)に関する線型非同次微分方程式

L f2(x) =g2(x) (21.58)

があったとする。ここでg1(x), g2(x)はそれぞれの方程 式の非同次項である。これらの方程式で, 線型写像の部 分(L)は共通だとしよう。a, bを任意のスカラーとし, それぞれの方程式をa倍,b倍して辺々たしてみると,

aL f1(x) +bL f2(x) =ag1(x) +bg2(x) (21.59) となる。ところが,Lが線型写像(線型微分演算子)であ ることより,左辺はL(af1(x) +bf2(x))となる。従って, L(af1(x) +bf2(x)) =ag1(x) +bg2(x) (21.60) となる。これは, ag1(x) +bg2(x)を非同次項とするよ うな線型非同次微分方程式に関して,その解は,g1(x)と g2(x)をそれぞれ非同次項とするような線型非同次微分 方程式の解の線型結合であたえられることを示す。つま り, 非同次項が線型結合されて新しい方程式になること を許せば, この非同次の線型微分方程式も, 解は線型空 間になるのだ。

これにあわせて, 「重ね合わせの原理」は以下のよう に拡張される: 基本法則が線型微分方程式で記述される 現象は, いくつかの現象の重ね合わせ(線型結合)も実 現可能な現象であるし, ひとつの現象をいくつかの現象 の重ね合わせとして表現することもできる。ただし, そ の場合,非同次項も重ねあわせされる。

● 問589 ある線型非同次微分方程式:

Lf(x, y,· · ·) =g(x, y,· · ·) (21.61) について,その解のひとつをf0(x, y,· · ·)とする。さて, 上式と同じ線型微分演算子Lを使って

Lϕ(x, y,· · ·) = 0 (21.62) となる線型同次微分方程式を考える。この任意の解 ϕ(x, y, . . .)を,f0に足した関数:

f0(x, y,· · ·) +ϕ(x, y,· · ·) (21.63) も,式(21.61)の解であることを示せ。

例21.20 拡張された重ね合わせの原理を使って, 例

21.19の線型非同次微分方程式(21.50)を解いてみよう。

まず,右辺のV0sinωtを以下のように指数関数の線型結 合に分解する:

V0sinωt=V0

eiωt−eiωt

2i (21.64)

そうする理由はすぐにわかるが, 要するに, 指数関数は 微分しても自分自身に比例するから扱いやすいのだ。そ して, 分解した2つの指数関数をそれぞれ非同次項に持 つような線型非同次微分方程式を考える:

RdQ(t)

dt +Q(t) C = V0

2i eiωt (21.65)

RdQ(t)

dt +Q(t) C =−V0

2ieiωt (21.66) 式(21.65)は, 非同次項がeiωtに比例しているので, 解 もeiωtに比例しているのではないかと推定し, Q(t) = Q0eiωtと仮定して,式(21.65)に代入してみる。すると,

RiωQ0eiωt+Q0eiωt C = V0

2ieiωt (21.67) となる。両辺をeiωtで割ると,

RiωQ0+Q0

C = V0

2i (21.68)

となる。これをQ0に関して解けば, Q0= V0

2(−Rω+i/C) (21.69)

となり,式(21.65)の解として, Q1(t) = V0

2(−Rω+i/C)eiωt (21.70) を得る。式(21.66)も同様にして,

Q2(t) = V0

2(−Rω−i/C)eiωt (21.71) という解を得る(各自, 確かめよ)。式(21.50)の解は, このQ1(t)とQ2(t)の線型結合(というか,単なる足し 算)である。すなわち,式(21.50)の解は,次式になる:

Q(t) =Q1(t) +Q2(t)

= V0

2(−Rω+i/C)eiωt+ V0

2(−Rω−i/C)eiωt (21.72)

● 問590

(1) 式(21.50)の解として, 式(21.72)を導け。すなわ ち,上の例をよく理解して,自力で再現せよ。

(2) 式(21.72)を変形し,次式を導け(ヒント: 通分): Q(t) = V0{eiωt(−ωR−i/C) +eiωt(−ωR+i/C)}

2(R2ω2+ 1/C2)

(21.73)

21.5 解答 59

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 64-67)