から点(x, y)までの距離rは, r=√
x2+y2 (20.56)
と書ける。
● 問574 この例20.4について,
(1) 式(20.56)を式(20.55)に代入すると次式になるこ とを示せ。
ϕ=−ρsI
4π ln(x2+y2) +ρsI
2π lnr0 (20.57) (2) 式(20.57)は式(20.54)を満たすことを示せ。ヒン ト: 式(20.57)を式(20.54)の左辺に代入して,それ が恒等的に0になることを示せばよい。
20.5 重ね合わせの原理
ところで, 問573で見たように, ラプラス方程式の解 の集合は線型空間になる。従って,ラプラス方程式の解 は,線型結合,つまり「重ね合わせ」ができる。例20.4で 述べたように, アナライザー・ペーパーを電流が流れる ときの電位分布もラプラス方程式の解になるから, 「重 ね合わせ」ができる。つまり, アナライザー・ペーパー 上に電極が複数個あるときの電位分布は, 個々の電極が 単独で存在する時の電位分布を足し合わせ(重ね合わ せ)たものになる。それが, 物理学実験IテキストP.46 の実験(4)である。
このような状況は, 物理学では頻繁に出てくるので, 特別な名前がついている:
重ね合わせの原理
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基本法則が線型同次微分方程式で記述される現象 は,いくつかの現象の重ね合わせ(線型結合)も実 現可能な現象であるし,ひとつの現象をいくつかの 現象の重ね合わせとして表現することもできる。
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この「原理」は, 論理的に考えれば, 線型同次微分方 程式の定義を言い換えただけであり, 何か新しいことを 言っているわけではない。線型同次微分方程式が通用す る現象が世の中にあまりにも多いことと, 「解の重ねあ わせ」という観点があまりにも便利で強力であることを 強調する教訓のようなものである。諸君は, どんな問題 でも,「もしかして重ね合わせの原理が使えるかもしれ
ない」という目を持って取り組むべきである。本書の後 の方でも,波や拡散現象, 量子力学,電磁気学などで, 重 ね合わせの原理が成り立ち, それらが大活躍する様子を 学ぶ。
例20.5 線型同次微分方程式を解析的に解く時には,ほ とんど全ての場合において重ね合わせの原理を使う。例 えば, 式(20.23)と初期条件から式(20.24)を導いた過 程がそうである。
例20.6 高校物理で学んだ「波の回折」は,「波は,たく さんの点状の波源から出る球面波の重ね合わせで表現で きる」という「ホイヘンスの原理」の帰結である。この 原理は,波に関する重ね合わせの原理そのものである。
線型同次微分方程式は, 物理学だけでなく, 化学・生 物学・経済学等にも, 頻繁に現れる。そして, そこで使 われる数学的手法は同じである。
どんなに複雑な現象であっても, それを記述する微分 方程式が線型同次微分方程式であれば, 重ね合わせの原 理が効くので, 複雑な状況をいくつかのシンプルな状況 に分解し, それぞれのシンプルな状況について方程式を 解いて, それを重ね合わせて複雑な状況を解析すること ができる*9。これは,諸君が高校数学で平面や空間のベ クトルの問題をいろいろ考えるとき, いくつかの特定の 方向のベクトルに分解して, それらの重ね合わせとして 考えたことによく似ている。というか, 本質的には同じ ことなのである。
● 問575 重ね合わせの原理とは何か?
● 問576 上述した実例以外で,重ね合わせの原理が出 てくる実例を見つけて,説明せよ。
*9例えばフーリエ変換という手法は,現象を三角関数(正弦波)の 重ね合わせで表現する。
演習問題
演習問題2 微分方程式(18.33)を考える。式(20.28) で定義されるω0と, 次式:
α= γ
2m (20.58)
で定義されるαを使うと, 式(18.33)は以下のように書 き換えられる:
d2x
dt2 + 2αdx
dt +ω02x= 0 (20.59)
(1) この微分方程式を演算子法によって解け。それに よって得られる2つの解をx1(t),x2(t)とする。
(2) α≥ω0のとき,x1(t),x2(t)はともに,tが大きくな るにつれて0に単調に(つまり振動せずに)近づく ことを示せ。
(3) α < ω0のとき, x1(t),x2(t)はともに,振動しなが ら0に近づくことを示せ。
演習問題3 (発展)ロジスティック方程式(18.6)が,線 型同次微分方程式でないことを数値的に示そう。もし仮 に線型同次微分方程式ならば, 解のスカラー倍も解のは ずだ。ならば, α= 1.0, β = 0.005とし, N(0) = 20と して,この方程式を数値的に解けば,その解は,問533(3) のちょうど2倍になるはずだ。そうなるかどうか, 試し てみよ。
演習問題4 (発展)式(20.13)を, 演算子法ではないや り方で解析的に解いてみよう。
(1) x′(t)をy(t)とも書くことにすると, 式(20.13)は, 以下のような連立微分方程式に書き換えられること を示せ:
{x′(t) =y(t)
y′(t) =y(t) + 2x(t) (20.60)
(2) 式(20.60)は次式のように書き換えられることを
示せ: d dt
[x(t) y(t) ]
=
[0 1
2 1
] [x(t) y(t) ]
(20.61)
(3) 式(20.61)の右辺に現れた行列をAとする。行列
Aの特性方程式*10は, 線型同次微分方程式(20.13)
*10行列の特性方程式の定義を忘れた人は,リメディアル教材を参
の特性方程式, つまり, 式(20.26)に一致すること を示せ。つまり,これらの2つの「特性方程式」と いう言葉は, 定義こそまったく違うものの, 同じよ うな実体を持っているのだ。
(4) 行列Aを対角化せよ。すなわち, 2つの定数λ1, λ2
と,適当な2次正方行列P によって, P−1AP =
[λ1 0
0 λ2
]
(20.62) となることを示せ(λ1, λ2, P を具体的に求めよ)。
(5) すると, 式(20.61)は次式のようにできることを
示せ: d dtP−1
[x(t) y(t) ]
=
[λ1 0
0 λ2
] P−1
[x(t) y(t) ]
(20.63) ヒント: まず, 式(20.62)をA =の形に変形する (両辺の左からP を, 右からP−1 を, それぞれ掛 ければよい)。そのAの式で, 式(20.61)の右辺の 行列を置き換える。そうやってできた式の左から P−1を掛ければよい。
(6) ここで, [X(t)
Y(t) ]
=P−1 [x(t)
y(t) ]
(20.64) とすると,次式が成り立つことを示せ。
{X′(t) =λ1X(t)
Y′(t) =λ2Y(t) (20.65)
(7) 上の式を解いて, X(t), Y(t)をtの関数として具体 的に求めよ。このとき,X(t), Y(t)のそれぞれに任 意の定数が1つずつ残ることに注意せよ。
(8) 式(20.64)を逆に解いて, x(t)を求めよ。このとき, 前小問で出た2つの任意定数を残しておくこと。
(9) 初期条件: x(0) = 5かつ x′(0) =−2を用いて, 2 つの任意定数の値を定め,解を確定せよ。
一問一答
• 定義ってほんまに大事やなあって実感しました。
... それ,これからどんどん身に染みてくるよ。
• どんなものもベクトルのような気がしてきました。
価値観が変わりました。
照せよ。
20.5 重ね合わせの原理 47 ... ベクトルではないものもたくさんあります。で
も, 価値観というか世界観は変わるよね。
• 関数まであらわせるなんてベクトルすごい!!!
... 関数をベクトルとして扱うことで,人類は新たな 広大な数学の世界を拓いたのです。
• 印刷のX等が太字かどうかよく見えないのですが ... 太字は立体でもあります。斜体なのはたいてい 細字。XとX,xとxなど。
• 集合は抽象的で難しいけれど,一つ一つ具体的に考 えれば分かりそうだと思いました。
... 例を考えることは,効果的な勉強法です。
• ここで行列が出てくるとは思いませんでした。行列 は何者ですか?
... 行列の底力は,計りしれないものがあります。