答684 略。ヒント: 行列H の固有値と固有ベクトルを 求めればよい(やり方がわからない人は数学リメディア ル教材を復習せよ)。固有ベクトルは,例えば代表的に
[1 1 ]
, [ 1
−1 ]
(27.67) のように求まる。これらはいずれもノルムが√
2である ので,これらを√
2で割ればノルムが1になる。
答 685 EA < EB だから, 前問より, EA = E0−ϵ, EB =E0+ϵである。式(27.37)において,E=EAと E =EBをそれぞれ考えると,与式を得る(これは状態 ベクトルを数ベクトルに同一視していたものを, もとも との表記に書きなおしただけである)。
答686 略。ヒント: 式(27.48)と式(27.49) の内積を とって,それが0になることを言えばよい。
答687略。ヒント: 線型同次微分方程式の定義に戻って 考えれば簡単。
答688 式(27.55)を式(27.54)に代入し, 両辺をϕχで 割ると,
− ℏ2 2mϕ
(∂2ϕ
∂x2 +∂2ϕ
∂y2 +∂2ϕ
∂z2
)+V(x, y, z) = iℏ χ
∂χ
∂t となる。この左辺は(x, y, z)のみに,右辺はtのみに依 存する式なので, それらが等しくなるには, それらが同 じ定数Eに等しい状況に限る。従って,
− ℏ2 2mϕ
(∂2ϕ
∂x2 +∂2ϕ
∂y2 +∂2ϕ
∂z2
)+V(x, y, z) =E iℏ
χ
∂χ
∂t =E
この第1式の両辺にϕをかけ, 第2式の両辺にχをか ければ, 与式を得る。なお, χは1変数関数なので,tに よる偏微分は通常の微分として扱って構わない。
答689略(常微分方程式の普通の変数分離法で解けばよ い)
答690略(代入して式が成立することを示せばよい)。
一問一答
• 今までで一番ぼんやりとした章でした・・・。です が, 分子軌道法のところで, 結合性軌道と反結合性 軌道が現れるということを, 数学的に表すことがで きたので,感動しました。
... 行列の固有値・固有ベクトルを求める, ということ に尽きるのです。2つの原子が近づいてできる電子軌道
(の状態ベクトル)を, 各原子が孤立している場合の電 子軌道(の状態ベクトル)の線型結合で表す。それがハ ミルトニアン行列の固有ベクトルになるようにしてやれ ば, 定常状態が得られる。それが結合性軌道と反結合性 軌道なのです。
129
第 28 章
線型代数 6: 行列式
行列式は,正方行列の成分に関する,ある種の多項式である。
これは,数ベクトルが張る図形(平行四辺形や平行六面体)の 大きさ(面積や体積)を表したり,空間の「向き」を定義付けた り,数ベクトルの線型独立性を評価することなどに威力を発揮 する,非常に強力で基本的な概念である。後の章で学ぶ,多変 数の積分(ヤコビアン)や,量子力学でも重要な役割を演じる。
28.1 2 次の行列式と面積
我々が日常的な意味で言うところの2次元平面や3次 元空間をユークリッド空間という。いま, 2次元ユーク リッド空間(平面)上の任意の2つの幾何ベクトルa,b を考える。まず, 平面に何らかの正規直交基底{e1,e2} を選び出し,その線型結合によってa,bを表す:
a=a1e1+a2e2 (28.1)
b=b1e1+b2e2 (28.2)
a1, a2, b1, b2はそれぞれ適当な実数である。これらの右 辺に現れた係数をそれぞれ列ベクトルに書き換えて,
a= [a1
a2
]
(28.3) b=
[b1
b2
]
(28.4) と表す*1。式 (28.3) は数ベクトルだ が, 同時に, 式
(28.1) のような幾何ベクトルでもある, と解釈するの
だ(幾何ベクトルと数ベクトルの同一視)。このように, 正規直交基底を用いて幾何ベクトルを列ベクトル(R2 の要素)で表すことを,正規直交座標とか,xy座標とか, デカルト座標という。このとき, 当然ながら
e1= 1e1+ 0e2 (28.5)
e2= 0e1+ 1e2 (28.6)
*1行ベクトルではなく列ベクトルで書いたことには,特段の理由 はない。いずれわかるが,そのほうが見やすい・書きやすいか らである。
なので, e1=
[1 0 ]
, e2= [0
1 ]
(28.7) である。なんか当たり前のことをもったいぶってやって いるように見えるかもしれないが, 幾何ベクトルを座標 であらわすには, 論理的にはこのような手続きが必要な のである。高校数学では幾何ベクトルをすぐに座標で書 いていたが, あれはここで述べている手続きを省略して いるのだ。
さて,a,bが張る平行四辺形の面積を,S(a,b)としよ う*2。すると,数学リメディアル教材で習ったように,
S(a,b) =a1b2−a2b1 (28.8) となるはずだが(これに絶対値がつかなきゃおかしいの だが,今はあえて絶対値を外して考える),なぜそうなる のだろうか? 数学リメディアル教材では, 座標平面上の 平行四辺形について解析幾何学的*3な観点から式(28.8) を導いた。ここでは, S(a,b)が満たすべき代数的な性 質を調べ, そこから式(28.8)を導いてみよう。
まず,片方の辺が長さ0ならば平行四辺形はできない
(面積ゼロになる)から,任意の幾何ベクトルaについて S(a,0) =S(0,a) = 0 (28.9) である。また,同じベクトルが2辺となったら平行四辺 形はつぶれてしまう(面積ゼロになる)から,
S(a,a) = 0 (28.10)
である。さて,図28.1のように幾何学的に考えれば, 任 意の正の実数pについて,
S(pa,b) =pS(a,b) (28.11)
S(a, pb) =pS(a,b) (28.12)
*2すぐ後で,この定義は微妙に修正される。
*3図形や立体を座標平面や座標空間の点や辺,面の集まりとみな して,それぞれを方程式で表して互いの位置関係や大きさを調 べる数学を,解析幾何学という。
となることがわかる(片方の辺が何倍かになれば, 面積 も何倍かになる)。
図28.1 平行四辺形の片方の辺がp倍になれば面積も p倍になる。
また,図28.2のように幾何学的に考えれば,平面の幾 何ベクトルcについて,
S(a+c,b) =S(a,b) +S(c,b) (28.13) となることがわかる。式(28.13)においてcを−aと置
図28.2 1辺が2つのベクトルの和で作られる平行四
辺形の面積(左)は, 1辺が各ベクトルである2つの平 行四辺形(右)の面積の和と等しい。
き換えれば, S(
a+ (−a),b)
=S(a,b) +S(−a,b) (28.14) であり,一方, 式(28.9)によって,次式が成り立つ:
S(
a+ (−a),b)
=S(0,b) = 0 (28.15) 式(28.14),式(28.15)より,S(a,b) +S(−a,b) = 0と なる。従って,
S(−a,b) =−S(a,b) (28.16) である... ちょっと待て! 式(28.16)によると,S(−a,b) とS(a,b)は符号が違う。ということは,「両方が零」で ない限りは, どちらかが負の値をとることになる。これ は変だ。S(−a,b)もS(a,b)も, それぞれ, 2つのベク トルが張る平行四辺形の面積であると定義した以上, そ の値は必ず0以上であるはずで,負になることはありえ ない! という疑問が諸君の心に生じるだろう。
それはそうなのだが, ここではこのまま押し通してし まう。つまり,S(a,b)に負の値の存在を許容するのだ。
つまり,S(a,b)はただの面積ではなく,「符号つきの面 積」であり, その絶対値は面積を表すものの, その符号 は場合に応じて正になったり負になったりすることもあ る,と約束するのだ。すると,式(28.16)のような式の成 立が許容される。このように, 数学では, 「都合が悪く なったら定義を修正・拡大する」ということがしばしば 行われる。人為的な定義が数学の自然な構造とうまく噛 み合わなければ,定義がまずいのだと考えるのだ。
● 問691 式(28.13)と同様に考えれば,
S(a,b+c) =S(a,b) +S(a,c) (28.17) が成り立つ。そのことから,次式を示せ:
S(a,−b) =−S(a,b) (28.18)
式(28.16),式(28.18)より,式(28.11),式(28.12)は, 任意の実数pについて(0< pに限定しなくても)成り 立つ。式(28.11),式(28.12), 式(28.13), 式(28.17)か ら,S(a,b)は,aとbのそれぞれについて線型写像であ る。いわば「二重線型写像」と言えよう。
一方,幾何学的に考えれば,|S(a,b)|=|S(b,a)|であ る。従って,
S(a,b) =±S(b,a) (28.19) である。この右辺の符号は,正負のどちらだろうか? そ れを知るために,以下の式を考えよう:
S(a,a) +S(b,a) +S(a,b) +S(b,b) (28.20) これは,式(28.13),式(28.17)を適宜用いると,
={S(a,a) +S(b,a)}+{S(a,b) +S(b,b)}
=S(a+b,a) +S(a+b,b)
=S(a+b,a+b) (28.21)
となる。式(28.10)より, 式(28.21)は0である。従っ て,式(28.20)は0である:
S(a,a) +S(b,a) +S(a,b) +S(b,b) = 0 (28.22) ところが, 式(28.10)より,S(a,a) = S(b,b) = 0だか ら,式(28.22)はS(b,a) +S(a,b) = 0となる。従って,
S(b,a) =−S(a,b) (28.23)
28.1 2次の行列式と面積 131 である。つまり, 2つのベクトルを入れ替えると,符号が
変わるのだ。
● 問692 式(28.10)(28.11)(28.12)(28.13)(28.17)(28.23) は, S(a,b) の重要な性質である。これらを使って式 (28.8)を導こう。なお,{e1,e2}は正規直交基底であり, a,bは式(28.1),式(28.2)で定義する。
(1) 次式を示せ:
S(e1,e1) =S(e2,e2) = 0 (28.24) (2) 次式を示せ:
S(a,b) =a1S(e1,b) +a2S(e2,b) (3) 次式を示せ:
S(a,b) =a1b2S(e1,e2) +a2b1S(e2,e1) (4) 次式を示せ:
S(a,b) = (a1b2−a2b1)S(e1,e2) (28.25) (5) e1とe2が張る平行四辺形は,一辺の長さが1の正 方形だから,面積は1である。そこでS(e1,e2) = 1 と定めよう。すると,
S(a,b) =a1b2−a2b1 (28.26) となることを示せ。
(6) S(a,b)は,a,bをそれぞれ列ベクトルとして並べて できる2次正方行列の行列式に等しいことを示せ。
(7) S(a,b)は,a,bをそれぞれ行ベクトルとして並べて できる2次正方行列の行列式に等しいことを示せ。
S(a,b),すなわち, 2次正方行列の行列式は,平面図形 の面積を求めるときに非常に有用な道具である。直線で 構成された多角形なら, どんなものでも, 適当に分割す れば3角形の集合に帰着される*4ので, 個々の3角形の 面積を
S(a,b)
2 (28.27)
で求めて合計すれば, その多角形の面積が求まる(a, b は3角形を構成する2本の辺に沿ったベクトルである)。
そう聞くと諸君は,「なら別にS(a,b)でなくても,高
*4曲線で構成された図形も,頂点の間隔を十分に小さくとれば,直 線で構成される多角形で近似でき, 3角形の集合に帰着される。
校で習った, 1 2
√|a|2|b|2−(a•b)2 (28.28) という式を使ってもいいじゃないか?」と思うだろう。
実際,多くの学生は,式(28.27)よりも,受験勉強で慣れ 親しんだ式(28.28)を使いたがる。ところが,式(28.27) の方が,圧倒的に便利なのだ。なぜか? まず,式(28.27) の方が計算が楽である。
a= (a1, a2), b= (b1, b2)
とすれば, 式(28.27),式(28.28)はそれぞれ, a1b2−a2b1
2 (28.29)
√(a21+a22)(b21+b22)−(a1b1+a2b2)2
2 (28.30)
となる。明らかに前者の方がシンプルで, 計算量は少 ない。
しかし, 行列式を使う方法(式(28.27)や式(28.29)) には,もっと本質的な長所がある。それは「符号がある」
ということだ。以下の例に示すように, 符号のおかげで, 複雑な図形の面積の計算が自動的になるのだ。
例28.1 図28.3のような平面図形ABCDEFGの面積 を求めてみよう。各頂点の座標は以下の通りである: A: (4,1)
B: (1,5) C: (−3,0) D: (1,2) E: (0,−1) F: (−4,−2) G: (2,−4)
このような7角形を3角形に分割するにはいろんな やりかたがある。例えば,線分BD,線分AD,線分AE, 線分EGでこの図形を3角形に分割し,各三角形の面積 を式(28.29)または式(28.30)で求めれば,
△DAB = 4.5
△DBC = 6
△DAE = 5
△EAG = 8
△EGF = 7
となり,これを合計すれば, 30.5となる。 ■ ところが, こういう方法が通用するのは, 図形がシン
-4 -3 -2 -1 1 2 3 4
-4 -3 -2 -1 1 2 3 4
A B
C
D
F E
G
O x
y
図28.3 平面図形の面積を求める。
プルで, 分割が簡単にできるときだけである。頂点が数 100個にもなるような複雑な多角形を相手にする場合 は, どのように分割すればよいか, 戸惑うだろう。シン プルな図形であっても, その数が大量になると計算機に 自動的に処理させたくなる。そういうときには, 人の目 で見て分割するという作業はできるだけ避けたい。
そういう願いを叶えてくれる方法を,次の例で示す:
例28.2 まず, AからGまで順に並んでいる頂点に対 して, 隣接する2頂点と原点Oでできる3角形を考え, その「符号付き面積」を式(28.29)で計算する:
△OAB = 4·5−1·1
2 =19
2
△OBC = 1·0−5·(−3)
2 =15
2
△OCD = −3·2−0·1
2 =−6
2
△ODE = 1·(−1)−2·0
2 =−1
2
△OEF = 0·(−2)−(−1)·(−4)
2 =−4
2
△OFG = −4·(−4)−(−2)·2
2 = 20
2
△OGA = 2·1−(−4)·4
2 = 18
2
マイナスの面積も現れてしまったが, 気にしないで(符 号はそのままにして)これらを合計してしまおう:
19 2 +15
2 −6 2 −1
2−4 2+20
2 +18
2 = 30.5 (28.31) 例28.1で求めた結果と同じ値が出てくるではないか! ■
例28.2の計算過程を振り返ってみると,「符号付き面 積」が負の値になったのは,△OCD,△ODE,△OEFで あった。これらの3角形は,原点Oから順に頂点をたど ると時計回りに回る。だから符号が負になるのだ。他の 3角形は,頂点が反時計回りの順に並んでいるので,「符 号付き面積」は正である。図形が入り組んでいるところ
(この場合はC, D, E, Fのあたり)は,この正の面積と 負の面積が, ちょうどうまく余分な部分を打ち消しあっ て, 対象とする図形の内側の部分だけをうまくカウント するのだ。
一般に, 2次元平面上のn個の点
Pk = (xk, yk) (28.32)
(ただし, k= 1,2,3,· · ·, n, n+ 1とし, Pn+1=P1とす る)で反時計回りに順に並んだ点で囲まれるn角形の面 積Sは,
S=
n
∑
k=1
xkyk+1−xk+1yk
2 (28.33)
となる。あえて証明はしないが,例28.2を振り返ればわ かるだろう。これは, 測量や画像解析などで, 何かの面 積を測定する際の,基本原理である*5。
● 問693 以下の頂点で順に囲まれた多角形の面積を 求めよ:
P1: (1,−2) P2: (3,1) P3: (−1,3) P4: (0,−1) P5: (−2,4) P6: (−1,−1) P7: (−2,−5) P1
28.2 3 次の行列式と体積
上の話を, 3次元に拡張してみよう。すなわち, 3次元 ユークリッド空間の任意の3つのベクトルa,b,cを考え る。3次元ユークリッド空間に正規直交基底{e1,e2,e3}
*5これを知らない人は,求めたい図形と相似の図形を紙に描いて 切り抜いて,その重さを測ることで面積を求めたりする。愚か なことである。