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複素計量空間

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 87-90)

23.6 複素計量空間

Cを体とする線型空間にも内積は定義できる。その場 合,内積は,

f :X×X →C (23.74)

という写像になり,その条件1)〜5)のうち, 3), 4)が 3’)f(u,v) =f(v,u)

4’)∀α∈C, f(αu,v) =αf(u,v)

と拡張される(上付きの横棒は複素共役を表す)。このよ うな内積を持つ,Cを体とする線型空間を「複素計量空 間」とか「複素内積空間」という。後に学ぶように, 量 子力学では,複素計量空間が大変重要な役割を果たす。

● 問641 複素計量空間X の内積f について,

∀u∈X, f(u,u)∈Rであることを示せ。

演習問題

演習問題12  式(23.70)について, 左辺どうしの内積

と,右辺どうしの内積を考えてみよう。すると,

⟨x2, x2

=⟨π2 3 +

n=1

4(−1)n n2 cosnx, π2

3 +

n=1

4(−1)n

n2 cosnx⟩

(23.75) が成り立つ。

(1) 左辺は,以下のようになることを示せ:

⟨x2, x2

= 1 π

π

π

x4dx=2

4 (23.76) (2) 右辺は,以下のようになることを示せ:

⟨π2 3 , π2

3

⟩ +

n=1

(4(−1)n n2

)2

(23.77) ヒント: 式(23.48),式(23.46)等。

(3) 以上より,次式が成り立つことを示せ:

1 14+ 1

24+ 1 34+ 1

44+· · ·= π4

90 (23.78)

演習問題13 熱力学と量子力学によると,どのような物 体も, その温度に応じた強さ・波長の光を発している。

この現象を熱放射という。太陽や白熱電球が光るのは熱

放射である。熱力学と量子力学によると, 理想的な物体 が発する熱放射は以下の式で表されることが理論的にわ かっている:

F(λ, T)dλ= 2πhc2 λ5

exp(λkhcBT)−1 (23.79) これを「プランクの法則」という。ここで, F(λ, T)dλ は,絶対温度T の物体の単位表面積から単位時間あたり に放射される, 波長がλとλ+dλの間にあるような光 のエネルギーである。h, c, kB はそれぞれ, プランク定 数・光の速さ・ボルツマン定数である。

上記のF(λ, T)を, 0から∞の波長範囲で積分する と, 絶対温度T の物体の単位表面積から単位時間あた りに放射される光のエネルギーB(T)が得られる。すな わち,

B(T) =

0

F(λ, T)dλ=

0

2πhc2 λ5

dλ exp(λkhcBT)−1

(23.80) である。この積分を実行してみよう(といっても, 不定 積分はできない)。まず,

s:= hc

λkBT (23.81)

とする。

(1)次式を示せ: B(T) = 2πkB4T4

h3c2

0

s3ds

es(1−es) (23.82) (2) 0≤sであることに注意して, 次式を示せ:

B(T)

= 2πkB4T4 h3c2

0

ess3(1 +es+e2s+e3s· · ·)ds (23.83) ヒント: 1/(1−x)のテーラー展開

演習問題14 上の問題の続き。

(1)nを1以上の任意の整数とする。次式を示せ:

0

s3ensds= 6

n4 (23.84)

ヒント: 部分積分を繰り返す。

(2)上の式と式(23.83)より,次式を示せ: B(T) = 2πkB4T4

h3c2

n=1

6

n4 (23.85)

(3)次式を示せ(ヒント: 問12):

B(T) = 2π5k4B

15h3c2T4 (23.86)

(4)ここで, σ:= 2π5kB4

15h3c2 (23.87)

とする。このσを,ステファン・ボルツマン定数と呼ぶ。

これを使うと,

B(T) =σT4 (23.88)

と書ける。これをステファン・ボルツマンの法則とい う。h, c, kB の値を調べて, σの値を計算せよ。また, σ の値をネット等で調べて,君の計算結果と比較せよ。

(5) 君の体表面から, 熱放射によって, どのくらいの熱 量が単位時間あたりに発するか, 見積もれ。それはデス クトップパソコンの消費電力と比べて大きいか? 小さ いか?

注: 諸君は「スペクトル」という言葉を聞いたことがあるだ ろうか。例えば,有機化合物の同定に使われる,赤外線吸収ス ペクトルというものがある。化合物に電磁波(赤外線)を当 て,それぞれの波長(もしくは波数)の電磁波がどのくらい吸 収されるか,をあらわす。その背景には,どんな波形の電磁波 も,様々な波長(波数)の正弦波(三角関数)の波形をした電 磁波の重ね合わせと考えられるという事実が存在する。それ はもちろん,電磁波の線型性のおかげ(後述)なのだが,任意 の波形を三角関数で分解するという発想は,ここで見たフーリ エ級数展開そのものである。

ついでに指摘しておくと,諸君はバネについたおもりの運動 の解析をたくさんやってきたが,それは,例えば有機化合物の 中の電子に電磁波が当たったときに,電子がどのように振動し て電磁波を吸収するかを表現する数学的モデルの原点である。

-4 -2 2 4

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

1st order

O

x

y

y=x

-4 -2 2 4

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

2nd order

O

x

y

y=x

-4 -2 2 4

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

3rd order

O

x

y

y=x

-4 -2 2 4

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

4th order

O

x

y

y=x

図23.1 関数y=xのフーリエ級数展開。式(23.67) の右辺で,波数1, 2, 3, 4のそれぞれまでで和を打ち きったもののグラフを上から並べた。−πからπ ま での範囲でよく合うことに注意(それ以外では合わ ない)。

23.6 複素計量空間 81

2 4 6 8 10 12 14

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

1st order

O

x

y

y=x2

2 4 6 8 10 12 14

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

2nd order

O

x

y

y=x2

2 4 6 8 10 12 14

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

3rd order

O

x

y

y=x2

2 4 6 8 10 12 14

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

4th order

O

x

y

y=x2

図 23.2 関 数 y = x2 の フ ー リ エ 級 数 展 開 。式 (23.70)の右辺で, 波数 1, 2, 3, 4のそれぞれまで で和を打ちきったもののグラフを上から並べた。−π からπまでの範囲でよく合うことに注意(それ以外で は合わない)。

1

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

1st order

O

x

y

1

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

3rd order

O

x

y

1

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

5th order

O

x

y

1

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

7th order

O

x

y

1

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

9th order

O

x

y

1

-8 -6 -4 -2 2 4 6 8

11th order

O

x

y

図23.3 式(23.73)のフーリエ級数展開。式(23.73) の右辺で,波数1, 3, 5, 7, 9, 11のそれぞれまでで和 を打ちきったもののグラフを上から並べた。−πから πまでの範囲でよく合うことに注意(それ以外では合 わない)。

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