第 1 章 研究背景と目的
1.3 本研究の理論的枠組み
1.3.4 Brown and Levinson (1987)
1.3.4.1 FTA 行為
Ⅰ. 聴者の消極的フェイスを脅かすFTA
①聴者に何らかの行為をさせようとする行為 例:命令、依頼、提案、助言など
②聴者に利益を与える話者の未来の行為 例:提供、約束など
24 本節では、山岡・牧原・小野(2010)、宇佐美(2003)の解説を基に、B&L が提示したポライトネス 理論を詳しく論じる。
③話者が聴者や聴者の所有物に対する欲求を表す行為 例:聴者への賞賛、怒り、肉欲 などの表出
Ⅱ.聴者の積極的フェイスを脅かすFTA
①話者が聴者に対して否定的な評価を示す行為 例:不賛成、批判、不満表明、反論など
②話者が聴者の積極的フェイスに配慮しないことを示す行為 例:厳しい感情表出、聴 者に関する悪いお知らせ、話者に関する良い話題、対立を招く話題など
Ⅲ.話者の消極的フェイスを脅かすFTA
①感謝表明
②聴者側の感謝の受け入れ
③弁解
④聴者からの提供の受け入れ
⑤聴者が犯した無礼の反応
⑥不本意な約束や提供
Ⅳ.話者の積極的フェイスを脅かすFTA
①謝罪
②賞賛の受け入れ
③身体の制御が利かなくなること
④ごまかし、自己矛盾、とぼけなど
⑤罪や責任を認めること、感情の抑えが利かなくなること
以上、B&Lが指摘したFTA行為を見てきたが、FTAがいつでも、どの発話内容でも同 様なわけではない。発話の中で様々な要因により、そのFTAの度合いの大きさが異なる。
以下は、B&Lが提示したFTA度計算式(Computing the Weightiness of an FTA)であ る。
FTA度計算式(Computing the Weightiness of an FTA)
Wx= D(S、H)+P(H、S)+ Rx
D(S、H):話者Sと相手Hの社会的距離(social distance)
P(H、S):相手Hの話者Sに対する相対的力(power)
R x:特定の文化で、行為xが相手にかける負荷度(ranking of imposition)
相手が目上の人か目下の人か、相手が親しいか親しくないか、そして、地位が高い相手 かそうでないかにより、相手にかける負担度が異なる。目上の相手や地位の高い相手の場 合、負担度が高くなることはどの言語でも共通する要因だと考えられる。また、同じ言語 行動でも、文化や社会的通念が異なることにより、その言語行動の負担度や、解釈も異な ってくる。B&Lでは、文化的差異をR xで表している。つまり、行為xが、「誘い」の場 合、アラブ社会では、ある程度親しい相手でなければ誘いをすぐに受け入れることは望ま しくないとされるため、断られても誘う側は何回も誘い続けるからである。何回も誘い続 けることが好意的に捉えられる。なぜなら、遠慮して負担をかけたくないと思った断り手 のことを思いやって、「本気で誘っているよ」「負担がないよ」ということを信じてくれる ように、何回も誘い続ける訳である。しかし、筆者が日本に初めて来たとき、バス停でバ スを待っていたとき、車を持っている日本人の友達から「送りましょうか」と言われたと き、「大丈夫です。ありがとうございます」と返事したら、友達が「じゃ、またね」と言 って、すぐ行ってしまった。そのとき、私はとても驚いた。後から、日本の文化や社会で は、断った相手を誘い続けると押し付けがましいと捉えられることが分かった。このよう に、ポライトネスをどう伝えるかが文化によって異なることに注目した点で B&L は優れ ている。
Leechの相手と一致の意見、相手の利益、相手への共感を最大にすることは、B&Lの他
者に受け入れられたい、好かれたい、評価されたいという PPS に当たる。つまり、B&L
のポライトネス理論とLeechのポライトネスの原理とは、共通の現象を異なる角度から理 論化したものであるが、B&L のオリジナリティは、フェイスに配慮した言語行動の体系 をポライトネス・ストラテジーとして定式化していることにある(山岡・牧原・小野
2010:75)。次に、それらのストラテジーを詳しく見ていく。