第 1 章 研究背景と目的
1.3 本研究の理論的枠組み
1.3.4 Brown and Levinson (1987)
1.3.4.2 ポライトネス・ストラテジー
のポライトネス理論とLeechのポライトネスの原理とは、共通の現象を異なる角度から理 論化したものであるが、B&L のオリジナリティは、フェイスに配慮した言語行動の体系 をポライトネス・ストラテジーとして定式化していることにある(山岡・牧原・小野
2010:75)。次に、それらのストラテジーを詳しく見ていく。
そして、緊急事態があったとき「助けて」と発話したとしても、周囲から「下品な人だ」
と思われることがないはずである。また、力関係のある大学の先生と学生、または会社の 中で社長と部下とのコミュニケーションの中では、教授が学生に、または社長が部下に命 令形などを使うことがよくある。つまり、危険な状態や、発話者が相手より地位が高いと き、相手のフェイスを保持せず、あからさまに発話しても相手のフェイスを侵害する危険 性が少ないと言える。
② 積極的ポライトネス
図1-1から分かるように、補償行為として、FTAを行う際には、積極的ポライトネスと、
消極的ポライトネスに分かれる。つまり、積極的ポライトネスを示そうとしても、それは FTAを行っていないわけではなく、むしろFTAを行いながらも、相手にかける負担度を 減らし、良好な人間関係を維持するストラテジーとなる。そのため、「相手に好かれたい、
評価されたい」という積極的フェイスに働きかけるストラテジーであると言える。例えば、
基本的に「断り」は典型的なFTA の1 つとされるが、断らざるを得ない状況に置かれた 際に、相手の積極的フェイス及び、自分のフェイスを守るため、自分が本来断りたくない が、やむを得ず断らざるを得ないことをアピールするための言語表現やストラテジーを用 いることによって、相手にかける負担度を減らすことができる。
③ 消極的ポライトネス
補償行為として、FTAを行う際に、消極的フェイスに働きかけるのは、消極的ポライト ネスである。つまり、消極的フェイスを満たすためのストラテジーを用いて、他人にかけ る負担度を最小にするストラテジーである。例えば、山岡・牧原・小野(2010)では、
B&Lが挙げた例文の中で日本語にも共通しているものとして、以下の4つを挙げている。
1. 聴者の欲求を妨げないようにする
例:使っていないペンがあったら貸してくれない?
2. FTAに対して謝罪することで補償する
例:すみません。恐縮ですが、ペンを貸していただけませんか。
3.直接的表現を避ける 例:ペンを貸してくれたら嬉しいな。
4.慣習化された婉曲的表現を用いる 例:ペンを貸してほしいんだけど。
④ ほのめかし
ほのめかしは、B&L の言うオフ・レコードである。つまり、明確に述べないで、ほの めかしたり、省略したり、相手に結論を委ねるストラテジーのことである。しかし、自分 の意図が相手に正しく伝わらないか、全く伝わらないリスクがあるため、話し手は自分の 目的を達成するより、相手との人間関係の方を重視していると指摘されている(山岡・牧 原・小野2010:78)。
⑤ FTAを行わない
FTAを行わないというストラテジーを用いるのは、相手のフェイスを脅かす危険性が非 常に高いとき、FTAの度合いを減らすよりも、むしろFTA を全く行わないと決断するこ とである。例えば、学生が教授から依頼を受けたとする。その場合、学生が非常に忙しい 状況に置かれても、教授の依頼を断る FTA の度合いが非常に高いと感じたとき、断らな いことにするというFTAそのものを行わないことである。
以上、B&Lのポライトネス・ストラテジーをまとめると以下のようになる。
まず、FTA を行うか行わないかを選択する。FTA を行うことになったら、それを明示 的にするか、ほのめかすかを選択する。明示的に FTA を行うとすれば、それをあからさ まにするか、補償行為として行うかを選択する。補償行為として行うのであれば、それを 積極的ポライトネスとして示すか、あるいは消極的ポライトネスで示すかを選択する。