第 4 章 配慮表現の観点から見た断り発話
4.4 調査結果と考察
4.4.3 表現選択の判断要因
4.4.3.1 場面の異なり
4.4.3.1.1 アラビア語における勧誘場面の異なり
アラビア語における勧誘場面の違いを以下図4-3で示す。
図4-3アラビア語の勧誘Ⅰと勧誘Ⅱの比較
勧誘Ⅰ(問1)の「食事の誘い」を断られた場面では、「ごめん、水曜日はとても忙しい んだ。」の選択率は77%程度で、最も多かった。次に「ごめん、水曜日は忙しいんだ。」が
0%
20%
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60%
80%
100%
勧誘Ⅰ 勧誘Ⅱ
gdan shwya
Fukushi nashi
13%程度、「ごめん、水曜日は少し忙しいんだ。」は11%と最も少ない回答率となっている。
勧誘Ⅱ(問3)は、「自分の誕生パーティーの誘い」を断れらた場面である。図4-3で示 しているように、勧誘Ⅰとそれほど大きな差はない。勧誘Ⅱは「ごめんなさい。金曜日は とてもたくさん勉強しなければならないから、行けないんだ」という理由で断られる方が 納得の度合いが高い結果となった。つまり、断られた時に最も納得できる回答は、程度性 の高い「とても」表現が含まれている談話であるのに対して、最も納得しにくい回答は、
程度性の低い「少し」が含まれている談話であるという結果が得られた。
このように「shwya」(少し)によって、依頼者の期待度が高まり、結果として自分の積 極的フェイスが脅かされる度合いも高まってしまうと推察される。
4.4.3.1.2 アラビア語における依頼場面の異なり
4.4.3.1.1節で見てきたようにアラビア語は、勧誘場面では、場面内容の違いが選択の結
果に大きく影響与えなかったのに対して、依頼場面においては、以下のように結果が大き く異なっている。
図4-4 アラビア語の依頼Ⅰと依頼Ⅱの比較
図4-1を見ると、依頼Ⅱ(問4)では、問1〜問3つの質問に比べ「gdan」(とても)の 使用率が下がり、「shwya」(少し)と「副詞なし」の使用率が上がる傾向があった。また、
同じく依頼場面である図 4-4から分かるように、依頼Ⅱ(問 4)では、依頼Ⅰ(問2)に 比べ「gdan」(とても)の使用率が下がり、「shwya」(少し)と「副詞なし」の使用率が上
0%
20%
40%
60%
80%
100%
依頼Ⅰ 依頼Ⅱ
gdan shwya
fukushi nashi
がる結果となった。これは、場面内容による結果だと考えられる。
依頼Ⅰ(問2)は「欠席したときの教材のコピー」依頼、依頼Ⅱ(問4)は、「飲み物の 購入依頼」である。2 つの場面を内容的に比較すると、依頼Ⅰは、依頼者が自分だけでは 実行できないことを依頼しているため、断られたら困る。一方、依頼Ⅱは、断られても、
自分で自分が欲しいものを購入しに行くことができるため、困らない。言い換えると、本 来自分で出来ることの場合、あえて他人に迷惑をかけるほどでもないような依頼を行うこ とになり、配慮されるべき度合いが低くなる。
また、依頼Ⅱでは選択肢の理由として多くの被調査者から以下のような回答が得られた。
「場面内容として相手に配慮される必要があまりないため、「gdan」(とても)を選択し ない」、「飲み物の購入依頼の要求内容だと断られても、自分でできるので、困らない」、「最 初から、自分でやるべきことだと分かっているため、相手が断っても、自分が悪い」。つ まり「とても」が最も配慮の度合いが高い選択肢であるが、「飲物を購入してくれる」場 面は、他の場面内容に比べ断わられても困らないため、配慮の度合が高い選択肢が選ばれ ないということである。
4.4.3.1.3 日本語における勧誘場面の異なり
日本語における勧誘場面の違いを以下図4-5で示す。
図4-5 日本語における勧誘場面の違い
日本語では、図4-5のように、勧誘Ⅰ「食事の誘い場面」と勧誘Ⅱ「誕生パーティーの 0%
20%
40%
60%
80%
100%
勧誘Ⅰ 勧誘Ⅱ
Totemo Sukoshi Fukushi nashi
誘い場面」における表現の選択率には違いがあった。具体的には、納得の度合いが高い「副 詞なし」の選択率は、「食事の誘い場面」より「誕生パーティー」の誘い場面の方が高い 割合を占めている。一方、納得の度合いが低いと判断された「少し」と「とても」の選択 率は「食事の誘い場面」では比較的高い割合を占める結果となった。このことから、日本 語母語話者にとっては、「食事の誘い場面」より「誕生パーティー」の誘い場面で断られ た際に、期待する配慮の度合いが高くなることが明らかである。それは、表4-2から分か るように、日本語母語話者による断りにくさの調査結果では、「食事の誘い場面」より「誕 生パーティー」の誘い場面の方が断りにくいと判断されたからだと考えられる。つまり、
断り手が断りにくいと判断した場面に対しては、断られた側も配慮の度合いが高いとされ る「副詞なし」の選択肢で納得する。このことから、日本語の勧誘場面では、断る側と断 られる側の解釈にはずれがないことが明らかとなった。
4.4.3.1.4 日本語における依頼場面の異なり
図4-6 日本語の依頼Ⅰと依頼Ⅱの比較
図4-6で示されているように、日本語では、アラビア語と同様に依頼Ⅱ(問4)である
「飲み物の購入」場面では、異なる傾向が見られた。つまり、配慮の度合いが高いと判断 された「副詞なし」の選択率が下がり、配慮の度合いが低い「とても」と「少し」の使用
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100.0%
q2 q4
Totemo Sukoshi fukushi nashi
率が上がるという結果が得られた。これは、「欠席したときの教材のコピー依頼」では、
相手の要求に添えない結果として、依頼者が自分で必要としている教材を手に入れられな くなる可能性が高いことが含意され、不利益を与えてしまうため、配慮表現の使用が必要 不可欠となる一方、「飲み物の購入」依頼場面では、依頼者が断られてもそれほど困らな いため、期待する配慮の度合いが比較的低いことが関係していると考えられる。
被調査者が挙げた理由の中でも次のような回答があった。「教材のコピーは比較的大切 な依頼なので、(「副詞なし」ごめん今大事な用事があるから....)2 を使う方がいいと思 う」。このことから、日本語でもアラビア語でも依頼場面の場合、断られたら困るか困ら ないかにより、期待する配慮の度合いが異なることが選択肢を選ぶ上での重要な判断要因 であることが明らかとなった。
以上、両言語における依頼と勧誘の違いを見てきたが、日本語の調査結果では、場面内 容の違いのみではなく、「少し」の表現の解釈により、違いが見られた。以下の図4-7は、
4場面における「少し」の選択率を示すものである。
図4-7 4場面における「少し」の比較結果
日本語では、図4-7から分かるように、納得の度合いが低い「少し」の選択率は、場面 によって異なる傾向があった。具体的に述べると、問1・4と、問2・3を比較すると、「少 し」が本来持つ意味で解釈される場合、「程度」の情報が重要でないと判断され、使用頻
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20.0%
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問1 問2 問3 問4
sukoshi
度が少ないのに対し、「ちょっと」のように派生的機能で解釈できる場合、使用率が上が る傾向があった。具体的に述べると、問1と4の選択肢として「ごめん、水曜日は少し忙 しいんだ」と「ごめん今少し疲れているんだ」があり、両方とも「ちょっと」のように派 生的機能で解釈できると思われるが、問2・3では、「ごめん、今少し大事な用事があるか ら帰るところなんだ」と「ごめんなさい。金曜日は少し勉強しなければならないから、行 けないんだ」という 2 つの理由で使われた「少し」は本来の意味で解釈されやすいため、
使用頻度が少ないことが分かる。
このことから、日本語の断りにおいて、「少し」も「ちょっと」のように配慮を示す二 次的用法を備えており、相手がどれだけ「忙しい」「大変」かどうかは、断られた側にと って重要ではなく、むしろ相手に対する配慮をどのように示すかということが重視される。
つまり、情報重視コミュニケーション様式より、人間関係重視コミュニケーション様式が 好まれると考えられよう。
また、上記の結果から日本語の断りにおいて、頻繁に使用される「ちょっと」は常に低 い程度の意味に限定して用いられるのではなく、対人的配慮を表す(牧原 2005)場合が 多いこともうかがえる。