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第 3 章 異文化間語用論の観点から見た断り発話

3.7 コミュニケーション様式と断り発話との関連

3.7.2 八代・町・小池・吉田(2009)

一方、直線的スタイルとは、自分の主張や意見を簡潔に表現し、次に主張や意見の背後 にある理由を論理的に説明し、相手の理解と同調を求める表現方法である。まず、結論を 言ってから、裏付けを加えるスタイルである。つまり、理由を論理的に説明することは、

相手から断りの了解や同調を得ようとする手段として用いられ、配慮を示すメカニズムで あると言える。例えば、以下の例文が直接的スタイルの断りである。

(21)(ケーキをどうぞと勧める友人に対して断る場面)

la 「直接的断り」

(No)

bsaraħa ana ăndy ħomoda. 「理由」

(Frankly,I suffer from some acidity.)

msh ha`dar akol cake. 「直接的断り」

(and will not be able to eat cake.)

maălsh 「謝罪」

(Sorry)

(Nelson・ElBakary・Al Batal 2002:50)

以上の例文では、断り手が「いいえ」という意思表明をはっきり示してから、なぜケー キが食べられないのかを具体的に説明することによって相手から了解や同調を得て、自分 の断りを正当化しようとしている。

このように、アラビア語の断りでは、直線的スタイルがよく用いられることが分かる。

「直線的なコミュニケーション・スタイルを用いる人だと、螺旋的な答えに対しては、納 得できない」(八代・町・小池・吉田2009:85)ため、高コンテキスト言語と低コンテキス ト言語では、聞き手が納得できる表現方法や配慮表現が異なると考えられる。

このことから、断り発話において、アラビア語母語話者が納得できる表現は日本語とは 異なり、お互いの断りに対して、誤解が起こる可能性が高いことが予想できる。

3.7.2.2 ②飛び石的 - 石畳的

飛び石的スタイルでは、伝達される情報の内、言葉にしなければならない部分だけが言 葉で表明され、状況で理解される部分は言語化されない。話し手が分かりあうための必要 最低限の発話で済ませ、聞き手は、話し手の本意を察しなければならない。例えば、以下 の例文が挙げられる。

(22) (食事の誘い)

ごめん、今日はちょっと...。

(「謝罪」+「理由」)

(DCT調査から)

(23) (弟からの要求に対する「断り」)

お兄ちゃん、5千円あれば、貸し手くれない。

わりい。

(「謝罪」)

(権2008:229)

日本語においては、断りの機能を表す程度副詞「ちょっと」が、「飛び石的」スタイル の断りを表す代表的な例であると思われる。日本人同士であれば、相手の発話は即ち断り であることがすぐに理解できる。岡本・斉藤(2004:70)は、「(日曜日は)ちょっと...。」) などのような断りでは、言いにくい述部を聞き手に察してもらう方法をとることで、話し 手の意思決定に聞き手を参加させ、共同作業の会話に引き込みながら断りの了解を得るこ とができると述べている。

また、例(23)は、「わりい」という「謝罪」のみで、相手から「行けない」という結論、

または本意を理解してくれることを期待する表現方法である。つまり、話し手が分かりあ うための必要最低限の言葉として「ちょっと」、「わりい」が断り発話を短くしていると言 える。

一方、石畳的なスタイルでは、言葉を端折らないで、むしろ言葉をつくして正確に情報 を伝達する。これらの事柄は、話し手の責任においてなされる。これは、正確に言葉で説 明しないと誤解を招きかねないと思われるために用いられるスタイルである。つまり、石

畳的なスタイルを用いる人は、Lakoff(1973)のポライトネス原則の中では、誤解回避の目 的で使用される「明確に述べよ」の原則に従っていると言えよう。例えば、以下の例文が 挙げられる。

(24)(場面内容は、上司から小さな町にある会社の支店に転職すると、給料がアップされ るという勧めに対して、部下が断るものである。)

ma`darsh aroħ 「直接的断り」

(I cannot go)

aăod hnak lewaħdy 「理由」

(and stay there by myself)

heya băyda gdan ăan ahly 「理由」

(It`s very far from my family)

kaman,lazem akhud baly men mamty 「理由」

(Besides, I also have to take care of my mother) w ma`darsh asafer elmasafa dy kolaha 「理由 (and I cannot travel all this distance)

waăod lewaħdy fi elwagh elebly 「理由」

(and live alone in Upper Egypt)

(Nelson・ElBakary・Al Batal 2002:50)

(「直接的断り」+「理由」+「理由」+「理由」+「理由」+「理由」)

上司と部下である力関係の中でも、以上のように断り発話が結論で始まって、その結論 のFTAを軽減するために、結論を裏付ける理由が論理的に説明され、「理由」が一回のみ でなく、異なる理由を重ね、自分の断りを正当化しようとしている。

また、1.2.1 節で提示した例文のように、アラビア語の断り発話で使用される形容詞

「gdan」(とても)「awy」(非常に)、「ktyr」(たくさん)などが、「ちょっとだけ忙しい」

と聞き手に誤解されることを回避して、正確に「とても忙しい」「やることがたくさんあ る」などのような発話を行うのではないかとも考えられる。つまり、アラビア語では、聞 き手の誤解が話し手の責任になるため、論理的説明が重要視される。

八代・町・小池・吉田(2009:88)によると、高コンテキスト文化では、「飛び石的」ス タイルで十分話が通じるのに対して、低コンテキスト文化では、場面、状況よりも言葉に 情報が内在しているので「石畳的」なスタイルが用いられる。

3.7.2.3 ③人間関係重視-情報重視

人間関係重視と情報重視のコミュニケーション・スタイルの違いは、誤解回避や正確さ などを重視する人が、情報を重視するのに対して、正確さよりも相手との人間関係を重視 する人が、完全な情報を与えるよりも、相手に情報を気持ちよく受け取ってもらうことを 重要視していることによる。つまり、情報重視のスタイルでは、「直接的断り」がなくて も、「理由説明」が必ずあると言える。

それは、石井・北山(2004)が述べるように、低コンテキスト言語のコミュニケーショ ンでは、基本的に個人が所持しているものとして、「情報」が位置づけられ、正確に他者 に情報を伝達しない限り、それを他者と共有することはできないからだと思われる。従っ て、断り発話では、断り手が自分から事情を強調し、説明しない限り、他者からそれを推 察されるとは思っていないために情報を重視すると言える。一方、人間関係重視である日 本語(八島・久保 2012)の断りでは、断り手が他者に自分の意図を読み取ってもらえる と信じて、情報を短く簡素にして、他者に結論を委ねることで、配慮を示していると思わ れる。

例えば、アラビア語母語話者が先生の教材のコピー依頼を断る際に用いられた発話が例 として挙げられる。

(25) 学生:ya doctor ana msh hăraf asawar el waraa` w agybo măaya.laeny msafra w msh ha`dar agy el gamăa lakn hatlob mn el saăy ysawarholak.

(先生、教材をコピーして持って来ることができません。旅行に行くので、大 学に来ることができません。しかし、大学の係員にコピーしてもらえるように 頼みます。)

(「直接的断り」+「理由」+「理由」+「代案提示」)

例文では、学生が力関係に差がある先生の依頼を断った際に、具体的に理由説明が繰り 返し行われ、情報を重視していることが分かる。しかし、誤解されないように、正確に情

報を提供することも、相手との人間関係を維持する手段だと思われる。つまり、情報を重 視するコミュニケーション・スタイルを用いる人が、人間関係を無視しているわけではな く、むしろ情報を通して、自分の断りを正当化しようとし、相手との人間関係を維持しよ うとしていると考えられる。それは、Lakoff(1973)が提案したポライトネス原則「明確に 述べよ」と「ポライトに述べよ」の2つの原則に当てはまるものであると考えられる。要 するに、両方の原則ともポライトネスを表すものである。

一方、人間関係重視スタイルとして、以下の例文が挙げられる。

(26)(研究データを集めるため、自然電話会話を録音する依頼に対する断り)

ええ私じゃないほうがー{はは}いいと思いますよ。

(「代案提示」)

(目黒1996:115)

目黒(1996)は、日本人が何を手がかかりにどのように間接的断りを理解しているのか を明らかにするため、依頼に対する応答の会話を録音し、日本人 31 名に聞かせた。その 結果、日本人は断りと判断する手がかりとしては「代案提示」、「依頼達成に不利な情報提 供」であることを示唆した。つまり、間接的断りによって、「理由」や「代案提示」を用 いて、相手から断りであることを推察してくれる表現方法であると言える。

このように、アラビア語の断りでは、日本語とは異なり、相手の推測力に頼らないこと が分かる。従って、話し手が聞き手により多くの情報を提供することで相手との人間関係 を維持しようとすることが分かる。つまり、アラビア語では、Lakoff の「明確に述べよ」

の原則が重視されるのに対して、日本語では Lakoff の「ポライトに述べよ」の原則の方 が重視されると言えるだろう。

上記では、各コミュニケーション様式に見られる日本語とアラビア語の断り発話を見て きた結果、アラビア語の断りには低コンテキスト言語の特徴、日本語の断りには高コンテ キスト言語の特徴が見られることが明らかとなった。このことから、コンテキストの高低 とコミュニケーション様式との関わりや、高コンテキスト言語と低コンテキスト言語に予 想される談話の種類を以下の表3-2と表3-3にまとめることができる。