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第2章 自然エネルギー政策と市場

2.2 固定価格買取制度(FIT制度)

2.2.2 FIT制度の実績と課題

(1) 実績データと実施状況

 2012年7月にスタートした本制度について、公表されて

44 経産省「調達価格等算定委員会」配布資料等 http://www.meti.go.jp/committee/gizi_0000015.html

45 経産省「調達価格等算定委員会」からの意見書 (2012 年 6 月 ) http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/report_001.html

自然エネルギー

(太陽光,風力,地熱, 小水力,バイオマス等)

送電網運用者

(電力 会社)

金融機関、企業 市民等 発電事業者

家庭

企業等 リターン

利子 出資

融資

電力代金

(長期間の固定価格) 電力料金

(賦課金)

優先接続 優先給電

電力

(全量) 電力

図 2.4:自然エネルギーによる電気の固定価格買取制度の仕組み(ISEP 作成)

買取費用 回避可能費用 賦課金総額 賦課金単価

2500 億円 1200 億円 1302 億円 0.22 円 /kWh

4800 億円 1670 億円 3133 億円 0.35 円 /kWh

9000 億円 2480 億円 6523 億円 0.75 円 /kWh 平成 24 年度 平成 25 年度 平成 26 年度 表 2.4:FIT 制度の賦課金と買取費用(出所:経産省発表資料より ISEP 作成)

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いる2013年12月末までの設備認定および運転開始

(2013年12月末)の実績を図2.5に示す。なお、本制度 に関するデータは、本来、毎月更新されるはずである が、この2013年12月末のデータは2014年3月になって公 表された。それ以前は、2013年末までは2013年7月末ま での情報しか公開されていなかった等、多くの国民が費 用負担を含めて関わりを持つ制度として情報公開の課 題は多い(認定設備や運転開始設備の一覧等も公開さ れていない)。2013年12月末までに設備認定された設備 容量は全体で3000万kWに達しているが、特に出力 10kW以上(非住宅用)の太陽光発電については2600万 kW以上あり、設備認定全体の設備容量の約86%を占め ている。このうち出力1000kWを超える、いわゆるメガ

ソーラーは1500万kW以上 に達し、設備認定全体の実 に約50%を占めている。本 来、発電設備の規模が大き いほど設備の建設費用単価 は下がり、事業の採算性が 高まるため、調 達 価 格が 10kW以上一律の現状では 大規模な事業への参入が 極端に進むと考えられる。

さらに、月毎の運転開始の トレンドを図2.6に示すが、

2013年度以降、1000kW未 満の太陽光を中心に運転開 始が進んでいることがわか る。

 2012年度末の運転開始 率(設備認定された設備の うち運転を開始した設備容 量の割合)は、8.4%にとど まっていたが、2013年12月 末までには23%にまで改善 した。2012年度中に運転を 開始した設備容量は177万 kWだったが、2013年度に 入ってから運転を開始した 設備容量は527万kWに達 している(FIT制度開始か らは併せて704万kW)。太 陽光発電では、10kW未満 の住宅用太陽光の運転開 始率が89%に対して、10kW 以上1000kW未満では31%

となっているが、1000kW 以上では約10%にとどまっている。

 一方、風力発電の設備認定は95万kWに達している が、その設備認定のペースは環境アセスメント等の準備 期間の長さにより太陽光発電に比べるとまだまだ遅い 状況であり、実際の導入量も設備認定された設備の約 8%に相当する7万kWにとどまっている。

 このFIT制度に対して、自然エネルギーの発電事業 者だけでなく、再生可能エネルギー資源が豊富な各地 域において自治体や民間の関係者の期待は大きく、各 地域で事業化の検討が進められている。

 その一方、買取価格および買取期間、そして優先接 続等の諸規定は決まったものの、事業化のリスクに対す る懸念は依然払しょくされきれていない。各種の規制の

FIT運転開始 累積設備容量[万kW]

0 100 200 300 400 500 600 800 700

データ出典:資源エネルギー庁

作成:環境エネルギー政策研究所(ISEP) 2012年度〜2013年度

地熱 バイオマス 中小水力 (1000kW未満)

中小水力  (1000kW以上)

風力 (20kW以上)

太陽光  (1000kW以上)

太陽光  (1000kW未満)

太陽光 (10kW未満)

1月末 2月末 3月末 4月末 5月末 6月末 7月末 8月末 9月末 10月末11月末12月末 2012 年度 2013

年度以降

図 2.6:固定価格買取制度による発電設備の運転開始トレンド ( 資源エネルギー庁データより ISEP 作成 )

0 500 1000 1500 2000 2500 3500 3000

FIT設備認定 累積設備容量[万kW] 7月 8月 9月 10 11 12 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 1211 始(12

地熱

データ出典:資源エネルギー庁

作成:環境エネルギー政策研究所(ISEP)

バイオマス

中小水力(1000kW未満)

中小水力(1000kW以上)

風力(20kW以上)

太陽光(1000kW以上)

太陽光(1000kW未満)

太陽光(10kW未満)

2012年度〜2013年度

図 2.5:国内における固定価格買取制度の設備認定設備容量 ( 資源エネルギー庁データより ISEP 作成 )

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緩和や制度の改革、送電網の中長期的な整備等、自然 エネルギー事業の拡大のために解決すべき課題が数多 く指摘されている。さらに、このFIT制度に関するデー タも含め、自然エネルギーに関する様々な統計情報(地 域別・種類別の導入量やコストデータ等)が定期的に調 査され、公開される必要がある。

(2)平成25年度の買取価格等の検討結果

 この様な状況の中、平成25年度に新規に認定される 発電設備に対する買取価格等に関して、調達価格等算 定委員会で2013年1月下旬から3月上旬の約2か月間に4 回の会合で審議された(表2.5)。太陽光発電以外の買 取価格については、平成24年度の導入量が太陽光に比 べてかなり少なく、コストデータも揃っていないことか ら、平成25年度も同じ買取価格が適用されることが決 まった。その審議の過程と、決定された買取価格等につ いて、以下に示す。

●2013年1月21日に第8回の調達価格等算定委員会が 再開された。ここでは事務局から固定価格買取制度 施行後からこれまでの導入実績(特に太陽光発電に ついて)を整理すると共に、コストデータ等の提示等 がおこなわれた。

●第9回および第10回の委員会では委員から指摘が あった事項について議論された。具体的には太陽光

(10kW以上)の導入状況およびコスト構造、住宅用 太陽光発電のIRR、賦課金の減免措置、RPS認定設 備からの移行等についてである。10kW以上の太陽光 については、大規模な1000kW以上と小規模な50kW 未満では明確なコスト構造の違いが明確に提示され ており、規模による区分の設置が委員から提案され たが、事務局側からの強固な反論等により、本来検討 されるべき規模による区分は来年度以降に先送りさ れた。

●2013年3月11日に開催された第11回の委員会では調

達価格等算定委員会意見書(案)および平成25年度 の調達価格案が公表された。太陽光の調達価格につ いて、10kW未満が税込38円/kWh(24年度:42円/

kWh)に、10kW以上が一律に36円/kWh(税抜)に 引き下げられた(平成24年度の40円/kWh(税抜)か ら1割の下落)。調達期間や、太陽光以外の電源につ いての調達価格はコストデータが不十分等の理由で 据え置きという結果になっている。

●意見書に基づくパブリックコメントが約10日間の短期 間でおこなわれ、約200件の意見が寄せられたが、

重要な指摘もあったにもかかわらずすべて却下され ている。その結果、平成25年度の買取価格および買 取期間について、表2.5のとおり2013年3月31日に決定 された。

 環境エネルギー政策研究所(ISEP)からは、以下の 項目の意見を提出している46

①本制度に関する基礎情報は、タイムリーにすべて公開 すべき。設備認定の実績等が毎月公表されておらず、

コストデータ等の開示も不十分である。

②発電のコスト構造が異なる場合には、新たな区分を 設けるべき。特に10kW以上の太陽光発電、バイオマ ス発電(石炭混焼)、風力発電(洋上)が重要であ る。

③太陽光発電(10kW以上)のコスト把握対象を広げる べき。系統接続費用等も把握して、コストに反映すべ き。

(3)平成26年度の買取価格等の検討結果

 2014年1月10日から再開された調達価格等算定委員 会の会合では、これまで運転を開始した発電設備の資 本費(システム費用)および運転維持費のデータの集計 結果が示され、それに基づき以下の論点での平成26年 度の調達価格に関する検討がおこなわれた。3月25日に 決定された調達価格の変更点 を表2.5に示す。

●住宅用の太陽光(10kW未  満)については、システム費用  の低下が続いており、平成25  年末の段階で38.5万円/kW (新築設置)となり、昨年度  の42.7万円/kWから下落して  いる。ただし、既築設置は  42.6万円と新築設置と明確に  差がある。平成26年度は、住  宅用太陽光に関する国の補  助金が廃止されることが決

46 ISEP プレスリリース (2013 年 3 月 15 日 ) http://www.isep.or.jp/library/4379

42 円 /kWh 40 円 /kWh(税別)

22 円 /kWh(税別)

設定無

既設導水路活用以外 34 円 /khW(税別)

既設導水路活用以外 29 円 /khW(税別)

既設導水路活用以外 24 円 /khW(税別)

買取期間および上記以外の買取価格について、平成 26 年度、

平成 25 年度は平成 24 年度のものをそのまま据え置き 38 円 /kWh

36 円 /kWh(税別)

37 円 /kWh 32 円 /kWh(税別)

36 円 /kWh(税別)

25 円 /kWh(税別)

21 円 /kWh(税別)

14 円 /kWh(税別)

平成 24 年度 平成 25 年度 平成 26 年度 太陽光(10kW 未満)

太陽光(10kW 以上)

陸上風力(20kW 以上)

洋上風力

中小水力(既設導水路活用)

200kW 未満

200kW 以上 1000kW 未満 1000kW 以上 3 万 kW 未満 備考

表 2.5:FIT 制度の買取価格の変更点(出所:経産省発表資料より ISEP 作成)

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 まっており、地方自治体の補助金もなくなる可能性が 高い。年間の運転維持費用はシステム費用の1%程度 となっている。電力が余剰買取のままであることや買 取期間が10年と短いこともあり、補助金がなくなった 後も、持続的に普及を進めるには何らかの対応が必要 とされた。その結果、37円/kWhの調達価格となり前 年度から微減。

●10kW以上の非住宅用太陽光については、その規模 により異なるシステム費用となっていることが運転開 始設備のデータから明確になってきた。図2.7に示す ように1000kW以上のシステム費用27.5万円/kWに対 して、50kW未満では36.9万円/kWと10万円程度のシ ステム費用の差があることがわかった。この規模によ るシステム費用の違いは、一律の調達価格の下で大 量に設備認定や導入が進む太陽光発電に対しては、

大きな影響があると考えられ、平成26年度の調達価 格に対する配慮が必要との議論もあったが、結果的 には36円/kWh(税別)の調達価格案となり、前年度 から約一割減。

●陸上風力(20kW)については、昨年度までに想定さ れた資本費30万/kWからの違いが見られなかった が、運転維持費については1.4万円kW/年と昨年度ま での0.6万円/kW/年から上昇している傾向が見られ る。その結果、調達価格は据え置き。

●小形風力(20kW未満)については、第三者認証の取 得等の各種市場環境整備が遅れており、実績データ が少ないため、据え置き。

●洋上風力については、大きな導入ポテンシャルが期待 される中、国内4か所での実証試験が2013年から始 まり、将来の商用化が期待されている。これらの実証 試験や海外の導入事例から取得したデータを分析す

 る研究会「洋上風力の調達価格に係る  研究会」が開催された47。研究会での商  用段階でのコストの分析結果に基づき洋  上風力の調達価格が検討された。その  結果新しい買取区分として「洋上風力」

 の調達価格案が36円/kWhとなった。

●中小水力発 電については、10 0 0 k W   以 上の 運 転開始 がなく、10 0 0 k W未   満 の 資 本 費 は 公 共 機 関 が 極 端 に 高   く、民 間 事 業 者による事 業 で 大きく   異なる傾向があり、民間 事 業 者の水   準 は 制 度 開 始 時 に 想 定され た 資 本  費10 0万円/ kWを上回る水 準だが、

 調達価 格を見直すには十分なデータ   がない状 況 。過 去に投 資した設備を  有効活用するケースの扱いが別途検討さ れた。その結果、既存の導水路を活用する場合につ いて新たな買取区分が設けられた。

●地熱発電については、1.5万kW以上の大規模設備で は、運転開始の案件がなく、1.5kW未満の小規模設備 でも1件のみ。実績データが少ないため、据え置き。

●バイオマス発電については、燃料種別毎に状況が異 なる。未利用木材や一般木材を利用する木質バイオ マス発電については、資本費は前提となった41万円/

kWとほぼ同じ水準だったが、運転維持費は上回って いる。運転維持費の中で燃料費が大きな割合を占め るため、今後の推移を注視する必要。廃棄物発電につ いては、5000kW未満の中規模と5000kW以上の大規 模で資本費に違いがあり、大規模な場合は前提なる 資本費と同じ水準。木質バイオマス発電と合わせて小 規模な設備の扱いの検討が必要。メタン発酵バイオ ガス発電については、メタン発酵槽を含めれば前提と なる資本費を下回る水準。なお、過去に投資した設備 を有効活用するケースが散見されることから、その扱 いが検討されたが新たな区分の設定は見送られた。

 平成26年度の買取価格の見直しにあたりISEPから 以下の意見を提出している。

①10kW位上の太陽光では出力規模により発電のコスト 構造が明らかに異なるため新たな調達価格の区分を 設けるべき。

②バイオマス発電について規模や燃料種別によるきめ 細かい条件を定め、その区分毎に価格の設定が必 要。

③設備や運用のコストデータ等を情報公開すべき。

④10kW未満の太陽光についても全量買取に移行すべ き。

47 経産省「洋上風力の調達価格に係る研究会」(2014 年 1 月 ) http://www.meti.go.jp/press/2013/01/20140107001/20140107001.html 0

10 20 30 40 50

H24年度Q2H24年度Q3H24年度Q4H25年度Q1H25年度Q2H25年度Q3

10kW-50kW未満

50kW-500kW未満

500kW-1000kW未満

500kW-1000kW未満

(報告徴取)

1000kW以上

1000kW以上(報告徴取)

初期設備価格[万円/kW]

図 2.7:太陽光発電設備 (10kW 以上 ) のシステム価格の推移

「調達価格等算定委員会」資料より ISEP 作成