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第2章 自然エネルギー政策と市場

2.4 国内の自然エネルギー市場

2.4.4 地熱エネルギー

 地熱を利用する事業形態は、地熱発電、温泉浴用、

直接熱利用および地中熱利用の四つの形態に分けられ る。これらのうち、地熱発電、温泉浴用、直接熱利用は 他と比べて特に高温な場所の「地熱」を利用するもので あるが、地中熱利用の場合は他と比べて特に高温とい うわけではなく、足元に在るがままの地熱を利用するも のである。

(1)地熱発電に対する国の施策と新規建設の動向  1925年に別府温泉で太刀川平治博士が日本で初め

て1.12kWの地熱発電 に成功してから今日に 至る88年の日本地熱 史は、① 黎 明・発 展 期、②石油代替エネル ギー開発期、③ 低 迷 期、④3・11以後、の四 つの時期に分けること ができる。各々の時期 に対応する我が国の 施策を概括する。

黎明・発展期(1925年

〜1973年)

  この 時 期 に 利 根 ボーリング ㈱ 、商 工 省、宮城県、工業技術 院、九州電力㈱、地質 調査所、藤田観光㈱、

電源開発 ㈱、東北化 工㈱(現、日本重化学 工業㈱)、三菱金属㈱

(現、三菱マテリアル

㈱)等の民間会社と国 等の研究機関が地熱 発電の調査・開発を 進めたが、国としての まとまった予算措置は 取られなかった。1960 年に東京電力㈱のイ ニ シ ャ チ ブ の 下 で

(社)日本 地熱調 査 会が組織され、エネル ギーの輸入依存度の高まりに対する危機意識から国内 エネルギー資源拡充の一環策としての地熱発電開発の 推進施策の必要性が働きかけられた。

石油代替エネルギー開発期(1974年〜1996年)

 第1次石油ショックの翌年、1974年に8億円の地熱探 査・開発・利用研究予算が計上され、第2次石油ショッ クの翌年、1980年には地熱予算が一挙に152億円に跳 ね上がった。以降、1996年まで150〜180億円の地熱予 算が計上されたが、1997年から地熱予算は減少の一途 を辿る。この時期の国による地熱政策は、「技術開 発」、「資源調査」、「事業への助成」、「熱水利用」の 四つに分類できる。

「技術開発」は、1974年度に始まって2002年度に終了

基本データ提供 全国風況マップ(1kmメッシュ)

第1フェーズFT 第2フェーズFT 風力開発(風力発電)フィールドテスト事業 風況精査、(2001年までシステム設計/風車設置・運転研究)

風力発電フィールド テスト事業

(高所風況精査)

局所的風況予測モデル(500mメッシュ)

地域新エネルギー等導入促進事業(地方公共団体、非営利団体)

新エネルギー等事業者支援対策事業(民間事業者)

電力会社:余剰電力購入メニュー 電力会社:長期電力購入メニュー

電力会社(一部):抽選・入札制度導入 解列枠説明・募集(2006〜)

蓄電池枠募集

RPS法施行

自然公園法施行規則改正 改正建築基準法

FIT法 施工 NEDO共同研究

建設費補助

系統連系メニュー

法、制度

導入量[万kW]

風力発電 単年度別導入量

1990

45 40 35 30 25 20 15 10 5 0

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

図 2.26:1990 年から 2013 年までの単年度 導入実績と関連施策

(出所:日本風力発電協会 JWPA)

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した。探査技術、採取 技術、材料開発、熱水 利用発電技術、高温岩 体発電技術、環境保全 技術、地熱流体処理技 術等が含まれる。

「資源調査」は、1974 年度の全国地熱基礎 調査に始まり、地熱開 発促進調査が2008年 度まで続いた後、縮小 されて2010年度には地 熱開発促進調査(開発 可能量調査)が新たに 5 地 域 で 開 始 され た

が、2010年5月に発表された行政事業レビューの結果を 受けて廃止された。

「事業への助成」は、1980年度から地熱発電所調査 井掘削費等補助金として始まり、地熱開発費補助金に 統合された後、中小水力と統合された。しかし、2010年 5月に発表された行政事業レビューの結果、2017年度ま での既定分を以って廃止とされたため、業界団体は既 存地熱発電所の出力維持の支援策として継続を要望し ている。

「熱水利用」は、1976年度から始まり、2002年度に廃 止された。多目的利用技術、地熱発電所熱水有効利用 調査等が含まれる。

低迷期(1997年〜2010年)

 低迷期が訪れる直前の最盛期の1994年〜1996年の3 年間で7ユニット約31万kWの地熱発電が増設された が、これらの次の開発計画がほとんどなくなってしまっ た。1997年12月11日の京都議定書署名後に地球温暖化 対策としての温室効果ガス排出抑制・削減義務が生じ たが、これに先立つ同年4月に制定された「新エネル ギー利用等の促進に関する特別措置法」では、地熱発 電は新エネルギーから除外された。さらに、2002年に制 定された「電気事業者による新エネルギー等の利用に 関する特別措置法」でも従来型の発電方式であるフ ラッシュ方式地熱発電は対象から外された。この背景に は日本のエネルギー政策が原子力発電推進へと転換さ れたことが大きいとする考え方を主張する向きもある

(例えば作家の真山仁氏)。

 2014年度概算要求までの地熱予算の推移を図2.27 に示す。2012年度から投融資制度が新設される等して 従来と枠組みが大きく変化したので、2011年度までの

実際に使われた額を示す資源調査費と、使用可能枠と し予算計上された2012年度以降の資源調査費とでは直 接比較できないが、総額を比較するために同じ棒グラ フで示した。

3.11以後(2011年以降今日まで)

 2011年3月11日に東日本大震災・巨大津波および福島 第一原発事故が発生したことによって、再生可能エネル ギーに対する国民の期待が高まる中で、安全で安定し た電気を供給してきた地熱発電に対する評価が政府部 内で見直され、最盛期を凌ぐ地熱関連予算が計上され るようになった。

 経済産業省資源エネルギー庁における地熱主管は資 源燃料部政策課であり、省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー対策課、電力・ガス事業部電力基盤整備課 も別途、予算を計上している。資源燃料部がJOGMEC地 熱部を主管し、新エネルギー対策課はNEDOの地上部 分に掛かる地熱技術開発を主管している。電力基盤整 備課は小水力・地熱発電開発費等補助金交付事業を主 管している。技術開発については、JOGMECが地下の地 熱技術開発および空中探 査技術開発をおこない、

NEDOは環境対策を考慮した発電技術開発等をおこ なっている。新たな施策として、地熱発電所新規建設の ための初期投資コスト負担軽減補助金(地熱資源調査・

環 境 調 和 支 援 )および 出資・債 務 保 証 制 度 が 、 JOGMECを主管として平成24年度予算からスタートする こととなった。経産省の平成26年度概算要求額は318.7 億円(2013年8月30日発表)(平成25年度当初予算202.5 億円)で、内訳は、①環境アセスメント調査早期実施実 証事業33.7億円(新規)、②地熱資源開発調査事業費補 助金75.0億円(平成25年度当初予算75億円)、③地熱 開発理解促進関連事業支援補助金30億円(平成25年

技術開発 資源調査 建設・発電助成 環境保全 地域助成

地熱関係 経産省予算の推移

年度

百万円 million ¥

1974 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000

0 1978 1982 1986 1990 1994 1998 2002 2006 2010 2014

図 2.27:地熱関係の経産省予算の推移(出所:日本地熱協会)

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度当初予算28億円)、④地熱発電技術研究開発事業30 億円(平成25年度当初予算9.5億円)、⑤地熱資源探査 出資等事業(財投)150億円(平成25年度予算90億円)

である。但し、⑤財政投融資枠は現時点で未だ支出され ていない。

 一方、環境省地球環境局も平成24年度「自然共生型 地熱開発のための掘削補助事業」を公募した。これに 先立ち、「地球温暖化対策技術開発等事業」の中で、

新潟県松之山温泉と長崎県小浜温泉において平成23 年度から温泉発電の実証試験がおこなわれている。ま た、平成25年度には「地熱開発加速化支援・基盤整備 事業」概算要求額5億円を新設し、第1次募集時点で岩 手県雫石町と、鹿児島県三島村、東京都青ヶ島村での 協議会活動が採択された。

 さらに、FIT制度で特筆すべき点は、再生可能エネル ギーの種別にかかわらず一定の価格で買い取るとして いた3.11以前の方針が、再生可能エネルギーの種別や 条件を考慮してきめ細かな買取価格を設定することに 変更されたことである。法に基づき、2012年3月6日から 4月27日まで7回にわたって開かれた調達価格等算定委 員会において買取価格案が作成され、パブリックコメン トを経て決定された。特筆すべき点は、事業者からのヒ アリング結果を考慮して種別毎のきめ細かなデータに 基づくコスト試算結果にIRR(内部収益率)の考え方を 入れて、さらに、初期導入促進3年間特別プレミアムを織 り込んだことが挙げられる。地熱発電については、日本 地熱開発企業協議会がヒアリングに応じ、フォーミュ ラー方式による細分化された出力幅と買取価格を提案 したが、他電源との調整上の理由で2段階の出力幅に 分けられた。また、同協議会は発電に至るリードタイム の長さから初期導入促進プレミアム抜きの買取希望価 格を呈示したことを付け加えた。IRRについては地下資 源特有のリスクマネーを考慮して税後8%が最低限であ ることが強調され、委員会報告ではこれを受けて税前 13%が採用された。委員会報告結果では同協議会の希 望価格とほぼ同額となり、出力1万5 0 0 0kW未満は 7000kWをモデルとして消費税抜きで40円/kWh、出力 1万5000kW以上は3万kWをモデルとして同26円/kWh でいずれも主要設備の法定耐用年数15年間の買い取り が決定された。この法による地熱発電の認定設備の内 で既に発電を開始しているものは、発電機のリプレイス メントが認定された大分県にある九重観光ホテルと、別 府温泉にある瀬戸内自然エナジー社による温泉発電の 2件のみである(2013年末現在)。

 こうした、民間の開発意欲に対して妨げとなっていた 自然公園内の開発規制やその他、国有林や温泉法、電 気事業法等の規制についての緩和を検討する動きも活

発化している。

 環境省は2012年3月27日に「温泉資源の保護に関す るガイドライン(地熱発電関係)」を発出した。これを受 けた各県の温泉審議会での検討が始まっている。ま た、同日付で「国立・国定公園内における地熱開発の取 扱いについて」と題する自然環境局長通知を発出し、国 立公園第2種・第3種地区については優良事例について のみ地熱発電所の建設を認めることがあるものとされ た。また、環境影響評価に時間が掛かることが地熱開 発の妨げとなっている部分を是正すべく手続き等の迅 速化と環境影響調査項目の検討、調査の前倒し実施等 についての検討が環境省にて進められている。

 環境省が発出した温泉保護ガイドラインと公園内開 発通知における規制について、内閣府規制改革推進室 と内閣官房国家戦略室が規制緩和を求めて折衝を続 けていたが、政権交代で組織が変わった後も、活発に 規制緩和のための省庁との折衝が進められている。

 また、これら官民の動向に歩調を合わせて政界も動 いており、超党派地熱発電普及推進議員連盟が2011年 9月30日に発足し、活動を開始した。

 このような情勢を踏まえて、地熱発電開発に関連する 企業33社が集まり、2012年12月4日に日本地熱協会が 発足し、2013年12月現在で51社が加盟している。

(2)地熱発電の事業主体

 我が国には17地点の地熱発電所が存在し、20機の 発電機が設置されている(表2.9)。その認可出力合計 は51万5090kW(2012年9月13日現在)である。発電電 力量は26億8882万kWh(平成23年度)であり70、同年 の日本全体の販売電力量の0.26%に相当している。現 在、主な事業主体は電力会社4社(北海道電力(株)、

東北電力(株)、東京電力(株)、九州電力(株))、電 力卸供給会社2社(電源開発(株)、東北水力地熱エネ ルギー(株))、自家用発電会社4社(三菱マテリアル

(株)、(株)杉乃井ホテル、(合)九重観光ホテル、大 和紡観光(株))の計10社であるが、電力会社に地熱蒸 気を供給する事業のみをおこなう会社が4社(出光大 分地熱(株)、奥会津地熱(株)、日鉄鉱業(株)、三菱 マテリアル(株))ある。

(3)地熱開発への支援事業

 地熱の開発では、事業開始時に大きな資金を必要と することから、開発にかかる費用を一部負担する支援事 業が平成24年度から開始された。この支援事業は、石 油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が担当を しており、開発初期の地表からの調査(地質調査、地化 学調査、物理探査、噴気試験を伴わない坑井掘削調

70 社団法人火力原子力発電技術協会「地熱発電の現状と動向 2012 年」95p、2013