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第2章 自然エネルギー政策と市場

2.6 自然エネルギーと金融

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た2006年や2007年に比べて約5分の1にまで減少して いる。

 日本国内においては主に2012年7月から開始された 固定価格買取制度によって前述のように、約3.5兆円ま で投資額は増大した。固定価格買取制度で設備認定さ れた発電設備を含めるといわゆるメガソーラー(発電出 力1000kW以上)の建設計画が多く、発電出力2000kW を超える太陽光発電設備が1000万kW以上設備認定さ れている。その多くは大企業による資金調達と見られ る。一方で、1000kW未満の太陽光発電の導入が実際 には進んでおり、特に低圧連系が可能な50kW未満の 件数が設備認定では21万件を超え、実際に運転を開始 している設備も8万件近くある。信用力の高い企業に とっては、日銀の金融緩和政策の継続による低金利状 態が継続し、安定した資金調達環境が続いた。また、一 部の金融機関においては太陽光発電ローンといった主 に個人向けのローンプログラムが提供されている。

 太陽光発電以外においては、小水力発電、風力発 電、バイオマス発電等地域での開発準備段階において 社会的合意形成や資金面で停滞している計画も散見さ れ、こうした面での開発初期段階での支援策等につい ても期待されるところである。

 その他に国内の大きな要因として特筆すべきは、貿 易赤字拡大が挙げられる。2013年の日本の貿易赤字は 11兆474億円と前年比1.7倍近くに達し、過去最大となっ た。31年ぶりとなった2011年や2012年に続き3年連続で あり、2012年・2013年の赤字幅は、これまで最大だった 第2次石油危機後の1980年を大きく上回っている。その 主な原因として、原発がすべて停止したことにより化石 燃料を消費する火力発電所の稼働率が増え、使用する 化石燃料の輸入が増えたことが取り上げられるが、実 際には、海外経済の減速や日本企業による現地生産で 輸出が減ったこと等が要因になっている。さらに、化石 燃料のうち特に原油価格と液化天然ガス(LNG)価格 が上昇し、円高から円安傾向になったことも併せてその 要因として考えられる一方、燃料価格の水準が高止まり する中で、価格の低下している米国からの天然ガス調 達ルートの開拓等の策が講じられつつあるが抜本的な 問題解消は難しい。しかしながら、より根本的には日本 のこれまでのエネルギー構造において本格的な省エネ やエネルギー効率化、そして自然エネルギーの本格的 導入が進んでいなかったことが重要な要因ともなって いる。このように国の富が流出し、さらにこうした状態 の恒常化が見込まれる中で、燃料輸入の削減につなが る省エネルギーと併せて、自然エネルギー導入を加速す ることが、マクロ経済の観点からも切迫した状況となっ ている。

 FIT制度初年度となった2012年は、買取価格がまず は普及促進を促す設定となったことで、主に太陽光発 電を中心に、飛躍的に導入量が増加したが、他の自然 エネルギーに比べ、買取価格が高い分野への集中度が 高く、この状況が長期間にわたり継続した場合、今後の 電力料金への負荷が産業界等で懸念されている。しか し、実際には導入量のまだ少ない状況で急速に太陽光 発電の建設コストが低減し、その間に他の風力発電等 の自然エネルギーの導入が進むことが重要であり、社 会全体の便益と負担を評価する必要がある。

 また、さらなる自然エネルギーの普及に向けて整備さ れていない面も多く見受けられ、例えば送電網の整備 等はすでに緊急の課題になっている地域もあるが、日 本全体としては電力システム改革等、発送電分離等を 含めて必要なインフラの整備は重要な投資分野となって くるものと見られる。

 2012年12月末に誕生した自民党と公明党の連立によ る政権においては経済政策として、大規模な金融緩和、

機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略と いった方針が掲げられている。自然エネルギーについて は、特に投資採算性の高い事業については有望な成長 分野の一つと考えられるが、このような政策が国内の自 然エネルギー投資にとって具体的にどのように影響を与 えるかについて注視されるところである。

 2.6.2 市民出資

 従来の化石燃料発電は大規模集中型の大資本型産 業であるのに対し、自然エネルギー発電は中小規模分 散型を特徴としており、比較的中小規模の地域事業と して大きな可能性を持っている。こうした地域エネル ギー事業において、市民が直接出資する「市民(個人)

出資」事業が自然エネルギー先進国のデンマークやド イツで発展し、日本においても小さいながら特徴のある 事業として起こされてきている。デンマークやドイツで は、自然エネルギー発電普及政策(固定価格買取り制 度や地域市民への優遇政策等)によって、市民が事業 のオーナーとなる出資事業が大きな割合を占めている。

デンマークでは地域住民(個人または協同組合)によっ て導入された風力発電が全体の80%以上を占め、また ドイツでも個人の出資による太陽光発電が39%、風力 発電で52%を占めている106

 これに対して日本においてはデンマークやドイツのよ うな普及政策が整わないこともあり、両国のような市民 出資事業の拡大発展には至っていないが、先駆的な事 業がいくつか展開されてきている。その初めの事業とし て、北海道浜頓別に2001年に竣工された市民風車「は

106 Wind-Works.Org http://www.wind-works.org/coopwind/CitizenPowerConferencetobeheldinHistoricChamber.html

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まかぜちゃん」107 が挙げられる。これはNPO法人「北 海道グリーンファンド」による定格出力990kWの風力発 電事業で、その事業資金の7〜8割を市民出資で建設し た日本で初めての自然エネルギー市民出資事業である。

この市民出資風車のモデルでは、個人によるオーナー出 資(株主)ではなく、「匿名組合」という仕組みを採用し ている。匿名組合(商法545〜542条)は、出資者が事業 者の特定事業のために出資し、事業から生ずる現金分 配を出資者へおこなう契約形態のことである。匿名組合 では、出資者と事業者(営業者という)間で個々に匿名 組合契約を締結するが、出資者は出資額の範囲内で責 任を負う有限責任の契約であるため、不特定多数の市 民からの出資を集めやすいという特徴を持っている。初 期の市民出資風車事業では地域市民からの出資が中心 であったが、この特徴を生かし、発電事業をおこなう地 域だけでなく、日本全国の市民から出資を募るモデルへ と展開されている。小規模とはいえ風力発電事業には 数億円の資金が必要となるため、地域市民からだけで

の出資ではなく、全国の市民から資金を集めることで全 体の資金調達を可能にしてきている。また一方で、都市 の需要家である市民が、持続可能社会のための意志の あるお金を地域エネルギー事業へ投資することで、地 域事業を支える役割も担うことにつながっている。

 この「匿名組合」を用いた市民出資風車事業モデル は、北海道・東北・関東・北陸地域に展開され、2011年 までに12基の風車、総設備容量1万7770kWの発電事 業に拡大し、総市民出資額は20億円以上に達してい る。またこれらの市民出資の募集業務は、金融商品取 扱い資格(第2種金融商品取引業)をもつ自然エネル ギー市民ファンド(株)108 が実施してきている。同様の モデルで太陽光発電を中心とした市民出資事業が、長 野県飯田市で2005年に開始されている。この事業は飯 田市のおひさま進歩エネルギー(株)が事業主体とな り、幼稚園や市の施設の屋根に太陽光パネルを設置す る事業で、市民出資と市の補助金を資金として初期設 置費用を事業者が持ち、一定期間事業者が発電事業を 運営し、その売電収入で初期投資 回収と出資者への利益分配をおこ なうモデルである。出資募集業務 は おひさまエネルギーファンド

(株)を設立して実施しており、こ の会社が太陽光発電や小水力発 電の事業への市民出資募集をおこ なってきている109

 表2.24は以上の二つのファンド 会社が募集をおこなった市民出資 事業である。事業規模によって出 資金の規模は違うが、1億円〜8億 円の資金調達が可能になってい る。出資条件としては、10〜50万 円/一口、分配利益率1. 5〜3%/

年、出資期間7〜15年となってい る。出資者は、基本的には利益分 配を期待して出資しているが、単 に資金運用としての金融商品とし てではなく、その多くは事業の趣 旨に賛同し自らの資金を投資する 意識の高い市民層が中心になって いる。

 日本においても、2011年3月の東 日本大震災に伴う福島第一原子力 発電所の大事故を契機に、ようや く再生可能エネルギー発電の固定 価格買取制度が2012年7月1日に 施行された。これに伴って、自然エ

107 北海道グリーンファンド  http://www.h-greenfund.jp/citizn/hamakaze/hamakaze/hama_1.html 108 自然エネルギー市民ファンド(株)http://www.greenfund.jp/

109 おひさまエネルギーファンド(株)http://www.ohisama-fund.jp/

事業地域 事業内容 事業開始年 事業主体 市民出資額 北海道浜頓別町

青森県鯵ヶ沢町 秋田県潟上町 北海道石狩市 長野県飯田市 青森大間・秋田・

茨城波崎・千葉 海上

岡山県備前市

北海道石狩 長野県飯田市・

岡山県備前市等 長野県飯田市

石川県輪島市 長野県飯田市 富山県滑川市 長野県飯田市 長野県飯田市 山口県山口市

神奈川県 小田原市

風力発電 風力発電 風力発電 風力発電 太陽光発電等 風力発電

木質バイオマス

風力発電 太陽光発電等

太陽光発電等

風力発電 太陽光発電等 小水力発電 太陽光発電等 太陽光発電等 太陽光発電

太陽光発電

2001 2003 2003 2005 2005 2006

2006

2008 2007

2009

2010 2010 2010 2012 2013 2014

2014

北海道グリーンファンド グリーンエネルギー青森 北海道グリーンファンド 北海道グリーンファンド おひさま進歩エネルギー(有)

市民風力発電おおま、

波崎未来エネルギー、

秋田未来エネルギー等 備前グリーンエネルギー 株式会社

北海道グリーンファンド おひさまエネルギー浮 ファンド(株)等

おひさまエネルギーファンド 3号(株)

輪島もんぜん市民風車 おひさまグリッド(株)

(株)アルプス発電 おひさまグリッド3(株)

おひさまグリッド 4(株)

市民エネルギーやまぐち アセット(株)

ほうとくソーラー 1(株)

1 億 4150 万円 1 億 7820 万円 1 億 940 万円 4 億 7000 万円 2 億 150 万円 8 億 6000 万円

1 億 8800 万円

2 億 3500 万円 4 億 6200 万円

7520 万円

9900 万円 1 億円 7 億 8100 万円 4 億円 3 億 5000 万円 2 億 1040 万円

1 億円 表 2.24:匿名組合市民出資事業(ISEP 調べ)