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第2章 自然エネルギー政策と市場

2.3 コミュニティパワー

2.3.5 自然エネルギーと社会的受容性

 福島第一原子力発電事故以降のエネルギー政策の見 直しの中で、自然エネルギーは持続可能な社会の構築 に向けた主要なエネルギー源の一つとして、さらに新産

51 ISEP「コミュニティパワー・ラボ」プレゼンテーション資料や動画を参照 http://www.isep.or.jp/library/5540

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業の創出、地域活性化のきっかけと して大きな期待を集めている。エネ ルギー・環境会議から示された2030 年のエネルギーの選択肢では、いず れの選択肢においても電源構成にお ける自然エネルギーの比率が25〜

35%に設定され52、自然エネルギーの 大幅な普及は今後のエネルギー政策 の議論の前提となりつつある。しか し、この実現のためには課題も存在 する。例えば近年、自然エネルギー の計画の増加に伴って、自然、生態 系、鳥類、景観等への影響に対する 懸念が指摘されている。さらに、既 存事業(農業、温泉等)との共生や、

制度上(土地利用計画、温泉法、自 然公園法等)の整合性(規制改革)

の考え方も重要な課題である。

(1)持続可能な社会と自然エネルギー研究会  上述した課題に対して、これまでにも鳥や風力発電の 問題、温泉と地熱の共生の問題では、それぞれ社会に 受け入れられるための事業のあり方が、技術的側面、

事業の進め方等、幅広い視点から議論されてきた。こ れに対して、2012年から「持続可能な社会と自然エネル ギー研究会」(事務局:認定NPO法人環境エネルギー政 策研究所、公益財団法人自然エネルギー財団(以下、

「研究会」という))では、各自然エネルギーの事業者、

自然保護関連団体、研究者を交えて、持続可能な社会 における自然エネルギー利用のあり方が議論されている

(表2.8)。持続可能な社会の実現に向けて、エネル ギーの分野を超えてより大きな視点から、社会やエネル ギー利用のあり方を議論しようという取組みである。こ の研究会で、議論にまず必要な視点に「エネルギーと環 境、社会、経済の持続可能性」を挙げている。ここを出 発点に自然エネルギーの必要性、地域にとって有益で、

環境と調和した自然エネルギー利用を推進するための 方策が議論されている。

(2)持続可能性の視点とエネルギーのリスク  エネルギーを利用する上では、太陽光、風力、水力、

火力、原子力等のいずれのエネルギーであっても、環境 や社会に対して何らかの影響が生じてしまう。「持続可 能な社会と自然エネルギー研究会」では、各エネルギー の現状や課題を共有し、これらのエネルギーの影響や リスクを「エネルギーと環境、社会、経済の持続可能 性」の視点から整理することを試みた。

 まず研究会では、各エネルギー利用の影響をエネル ギー利用までのそれぞれの段階(調査、資源開発・調 達、発電所建設、発電操業、発電所廃止)について、エ ネルギー利用が環境や社会に与える影響を整理した。例 えば、工業地域にある火力発電はその建設において、動 植物への影響が少ないように見える一方で、その資源開 発・調達段階では、大規模な開発が必要になり、居住 地域の移転が必要になる等、動植物や住民生活への大 きな影響が生じている。さらに、議論では、各エネル ギーの環境影響を議論する際に、その発電所の立地を より具体的に想定する必要性が指摘された。特に、自然 エネルギーは多様な立地が想定されうるため、その影響 を議論する際に、各人が想定している立地が異なると、

議論がかみ合わなくなってしまうことがある。

 研究会では、エネルギーの影響やリスクを「エネル ギーと環境、社会、経済の持続可能性」の視点から図 のように整理し、参加者間で自然エネルギーの必要性 を共有していくことが確認されている。例えば、火力発 電は、石油や石炭といった有限な化石燃料を必要とし、

火力発電によって排出される二酸化炭素は、気候変動 を加速させてしまう。原子力発電は、大きな事故リスク を有すると共に、たとえ事故が発生しなくとも使用済み 核燃料の処分という大きな課題が残される。これらの 問題は、特に私たちの子供や孫といった将来世代へ後 戻りできない大きな脅威を与えることになる。一方で風 力発電にはバードストライクや騒音といった課題が、地 熱発電には温泉との共生といった課題がある。これら の影響はゼロにすることは困難であるが、適切な対策を

テーマ

第 1 回 自然エネルギーと生物多様性の視点、エネルギーシナリオ、エネルギーのリスク

第 2 回 生物多様性の課題や論点(特に沿岸、海洋を中心に)、自然公園の役割と地熱

第 3 回 風力発電の現状と課題(特に鳥類への影響)、北欧の風力発電ゾーニング制度

第 4 回 風力発電の現状と課題(低周波、景観、合意形成)、コミュニティパワー

第 5 回 持続可能な地熱発電技術、地熱と温泉との共生、地熱発電と自然公園

第 6 回 中小水力発電の現状や課題、河川環境と生物多様性保全、持続可能な水力発電 開発

第 7 回 バイオマス利用の現状と課題(森林の持続可能性)、バイオ燃料の持続可能性規準

第 8 回 エネルギーリスクの相対化、統合的な相対評価

第 9 回 環境アセスメントの現状と課題

表 2.8:持続可能な社会と自然エネルギー研究会の開催テーマ

(出所:持続可能な社会と自然エネルギー研究会作成)

52 エネルギー・環境会議(2012)「革新的エネルギー・環境戦略」http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/sentakushi/database/index.html

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とることで影響を緩和したり、立地 や計画の変更で守るべきものへの影 響を回避したりすることが可能であ り、持続可能なエネルギー利用が可 能であると整理した。

(3)持続可能な社会における自然 エネルギー利用の課題

 研究会では、自然エネルギーの必 要性を参加者で共有した上で、次に 各自然エネルギーの現状や課題と、

これに対する持続可能な自然エネル ギーの利用のあり方や方策が議論さ れている。

 例えば、風力発電では、鳥類の視

点で考えた場合には、気候変動の影響が大きな脅威で あるが、同時に重要な気候変動対策の一つである風力 発電のバードストライクも重要な課題である。バードスト ライクの問題の緩和のためには、鳥の生息状況を把握し た上で立地を工夫し、場合によっては運転時間帯を調整 するといった方法が想定される。しかし、まず重要なの は、計画についての地元と発電事業者のコミュニケー ションである。研究会では自然保護関係者から、「自然 エネルギーには何が何でも反対ではなく、事業者から求 められれば、保護の視点からそれぞれの地域により適し た導入方法となるために助言や協力をしたい」といった 意見があった。しかし、現状では自然保護関係者と発電 事業者のコミュニケーションがうまくいっている事例と 共に、そうでない事例もあるようである。研究会議論を 通して、合意形成プロセスの充実が、持続可能な自然エ ネルギー利用に重要な要素の一つであることが改めて 共有されている。

(4)環境と調和した自然エネルギー利用の推進のために  環境と調和した自然エネルギー利用を推進する具体 的な方策の一つとして、研究会では、欧州で実施されて いる風力発電のゾーニング政策が議論された。例えば デンマークでは、個別の風力発電事業が計画される前 に、地方自治体が風力発電の優先導入可能地域や不可 能地域を区分するゾーニング(土地利用計画)が、既に 10年以上前から実施されている。このようなゾーニング があることで、まず地域全体で将来的なエネルギーの 見通しを議論し、必要な発電所の立地を考え、景観や 生物へ配慮することが可能になる。ゾーニングは環境 保護の視点からの期待があるだけでなく、発電事業者 にもメリットがある。個別の風力発電事業が計画される 以前に、自治体と住民を中心に建設可能な区域がゾー

ニングされ、その区域に対して事業者が風力発電の建 設を検討する場合、風力発電事業に対して地域の理解 が得やすいと期待されている。

 これまでに、日本でも一部の自治体で風力発電のゾー ニングが実施されている。しかし、その数はまだ少なく、

まだ風力発電のゾーニングの十分な経験が蓄積されて いない。今後の自然エネルギーの普及が地域の環境に 調和したものとなるように、日本でもゾーニングのような 新しい制度づくりを進めていくことが求められている。

 研究会では、今後議論を重ね、持続可能性の観点か ら、自然エネルギーコンセンサスをまとめることが予定 されている。このコンセンサスでは、自然エネルギーの 必要性について共通認識を示すこと、また、持続可能な 社会へ向けた自然エネルギー利用のあり方、方法論や 政策がまとめられる見通しである(図2.21)。

(5)先駆者としてのコミュニティパワーの意義  今後、自然エネルギーの社会的受容性に関する議論 の重要性は、地域レベルでより高まっていくと考えられ る。実際の動きとして、日本の各地域で、コミュニティパ ワーのように地域が発電事業のオーナーシップを取り、

市民を巻き込んだ合意形成プロセスが生まれ始めてい る。また、省庁でもこれらに倣って、例えば農水省では

「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネ ルギー電気の発電の促進に関する法律53」(2013年11月 22日公布)の中で、協議会等による地域主導の計画制度 の枠組みを構築している。各地域で議論の場が生まれ、

自然エネルギーを地域でどのように受け入れていくかに ついて議論されることになる。

 今回重要な要素として挙げた合意形成プロセスの充 実は、ゾーニングのような制度面での対策が期待されて いる。しかし一方で、実際にはコミュニティパワーのよう

持続可能な社会と 自然エネルギーコンセ ンサス メッセージ

アウトプット

イメージ コンセンサス

(パンフレット) 政策提言 報告書

全体像の議論 特定テーマの議論 情報整理・情報共有

持続可能な社会における自 然エネルギーの必要性の共

(議論の前提となる上位概念の 合意形成)

自然エネルギーのリスクはゼ ロではないが、相対的にリ スクは小さいという認識。

(リスクの見取り図を作成)

自然エネルギー事業の進め 方について、方法論の合意。

(各ステークホルダーの役割分 担等。どこまでが合意できたか)

上記を進めるために必要な 政策

(政策提言のエッセンス)

● 自然エネルギーと持続可 能性

● 自然エネルギーと生物多 様性

● 自然エネルギーと社会・

経済・環境

● リスクと便益について全体 像を把握し、議論する。

● 合意形成プロセス

● コミュニティパワー

● ゾーニング

● 社会的実験※

● 自然エネルギーの地域的な 環境影響(一般論)

● 自然エネルギーの地域的な 便益(一般論)

● 自然エネルギーの優良事例

● 自然エネルギーの FAQ

図 2.21:持続可能な社会と自然エネルギーコンセンサス

(出所:持続可能な社会と自然エネルギー研究会作成)

53 農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/houritu.html