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第2章 自然エネルギー政策と市場

2.3 コミュニティパワー

2.3.3 コミュニティパワーの事例

 先行するプロジェクトは3.11以前から約10年かけて 様々な障壁に直面しながらも成功事例をつくり出し、そ の経験と知識を蓄積させながら取組みを発展させてき た。そして、3.11後の新たな取組みはそれらの先駆的な 経験と知識に習い、それぞれの地域の特性に沿った形 で新たなプロジェクトを実現させつつある。以下、3.11 後の新たな地域の自然エネルギーの主要な事例を取上 げる。

(1)小田原:ほうとくエネルギー

 神奈川県西部に位置する小田原では、市行政と商工 業者を中心とする市民の協働の下、市民参加型の太陽 光発電事業の検討が進められている。

 3.11以前から、地域社会の自立を実現させる上で「エ ネルギーの自立」を重要なトピックとして考えていた加 藤憲一市長は、3.11後、小田原地域においても計画停電 の影響を受けたり、特産の足柄茶に放射性セシウムが 検出される等、原発事故の影響が広域にわたることを 実体験し、改めて地域のエネルギー自立を市行政の重 要アジェンダとして取上げた。

 そして、2011年7月14日には公開アドバイザリー・イベ ントを開催、8月には市民を対象とした連続セミナーを

開催し、地域での自然エネルギー推 進の下地づくりをおこなった。その 後、上述の環境省「平成23年度地域 主導型再生可能エネルギー事業化検 討委託業務」の公募に提案書を提 出、10月13日に採択され、小田原市環 境部環境政策課を事務局として地域 のステークホルダーが参加する「小田 原再生可能エネルギー事業化検討協 議会」を12月7日に立ち上げた。

 事務局である環境政策課は、それ まで環境活動やまちづくりに関わって きた地元の商工業関係者や地域の金 融機関等と調整をおこない、地域の 自然エネルギーの方向性を議論する だけでなく、実務面でのサポートもで きるような形で委員を選定し、協議会を立ち上げた。協 議会は、委員の中から地元若手経営者2名をコーディ ネーターとして選出、コーディネーターは同年度採択さ れた7地域合同の研修会・視察に参加し、自然エネル ギーの事業化および合意形成についての知見や手法を 学ぶと同時に、地域での事業化に向けて「太陽光発電 事業化検討チーム」を立ち上げ、事業計画の作成を始 めた。

 事業化について、当初、長野県飯田市・おひさま進歩 エネルギーの市民太陽光発電事業を参考に、民間の事 業会社を立ち上げ、公共施設の屋根上に太陽光パネル を設置し、売電事業をおこなう事業モデル(屋根貸し ソーラー事業)を検討していたものの、実際に事業性の 評価を進める中で、それ単独ではなかなか採算性が難 しいこと、公共施設については耐震・防水・許認可等、

複数の課題あることが明らかになってきた。一方で、現 地 調 査 を 進 める中 で、メガ ソーラー 事 業 モ デ ル

(1000kW以上の地上設置型太陽光発電事業)の可能 性も出てきたため、複数の事業モデルの選択肢の検討 を進めることとなった。また、その資金調達について も、地元の金融機関からの融資の可能性、市民が参加 する方法として市民出資の可能性等、複数の資金調達 手法の組み合わせを模索・検討してきた。

 合意形成について、協議会は、事業化の検討状況を 早い段階から市民と共有し、市民の意見を反映させるた め、公開の市民意見交換会を複数回開催している。当 初は、協議会による取組み趣旨を説明する形式となって いたものの、別途おこなった市民へのアンケート調査や グループインタビューの結果から、市民の自然エネル ギーへの理解を深める上ではもっと経験的に理解でき るような形式が望ましいということが明らかになり、実

北海道 

静岡  高知  徳島  小田原 

長野 

小浜

埼玉  美作 

多摩 

調布  南阿蘇 

小国  福島 

最上 

富良野  鰺ヶ沢町 

気仙  一関市  野田村 

いすみ市  世羅町

球磨村

平成23年度採択地域  平成24年度採択地域  平成25年度採択地域 

長野原町  中之条町 

※静岡、小浜はH24年度で終了済み

図 2.20:環境省「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」採択地域

(出所:環境省資料より ISEP 作成)

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際に参加者がミニ太陽光発電システムを組み立てる ワークショップ等を開催するようになっていった。

 以上のようなプロセスを踏まえ、協議会では実際に小 田原にどのようなコンセプトの事業主体を設立し、どの ような体制で事業を実行していくべきか、委員たちは率 直に議論を積み重ねた。そして、約1年におよぶ協議会 での議論の後、地元企業24者が資本金3400万円を出 資して、地域エネルギー事業主体「ほうとくエネルギー 株式会社」が2012年12月11日に設立された。社名の

「ほうとく」は、小田原出身の農政家・思想家二宮尊徳 の「報徳思想」に習ったもので、「至誠・勤労・分土・推 譲」の教えを地域のエネルギーのあり方に反映させて いくという取組みのコンセプトを体現している。

 太陽光発電事業について、ほうとくエネルギーは小田 原市の公共施設での屋根貸し事業者募集に応募し、選 考の結果、2013年5月10日に市内3か所合計120kW規 模の事業をおこなう交渉権者に決定した。これについ ては、2014年初めに設置を完了し、売電を開始するこ とを予定している。また、小田原市久野の山林に計画中 のメガソーラー事業(984kW)については、土地利用調 整や林地開発等の許認可取得の後、2014年春に着工、

同年夏の発電開始に向けて準備を進めている。総額 約3億8800万円となるこれらの事業の資金調達は、地元 金融機関さがみ信用金庫による融資と匿名組合による 市民出資によっておこなわれることが予定されている。

(2)静岡:しずおか未来エネルギー

 静岡県静岡市では、NPOと自治体によるイニシアチ ブの下、地域の企業や金融機関等、様々な主体との協 働により、市民太陽光発電事業を実現させている。

 小田原と同様に、静岡も環境省「平成23年度地域主 導型再生可能エネルギー事業化検討委託業務」の公募 に応募し、地域での検討体制づくりと事業化の検討を おこなってきた。静岡では、県内で温暖化対策に取組ん できたNPO法人アースライフネットワークと静岡市環境 総務課による共同提案が採択され、既設の協議会「ス トップ温暖化! 清流の都しずおか創造推進協議会」の 下に事務局を設置し、NPOスタッフと市職員がコーディ ネーターとなり、共同で事業化の検討をおこなった。そし て、2011年秋から太陽光発電事業の検討を始め、約1年 半という短期間で事業化を実現させている。

 事業化について、コーディネーターたちは、当初、公共 施設の屋根を利用した大規模な事業の検討をおこなっ た。しかし、調査を進めるうちに、施設の構造上の問題 や過去の防水工事、今後の補修計画等から設置可能な 施設はかぎられてくることがわかり、コンセプトから改め て考え直すことになった。そこで、様々な議論を積み重

ねた結果、固定価格買取制によって進みつつある他の 多くのメガソーラー事業のように事業性を追求して規模 を大きくするのではなく、この事業では一つひとつが小 規模であっても、地域の多くのステークホルダーが関わ り、継続的に市民が自然エネルギーを発展させていく きっかけになることを目指す方針に決定した。このよう な事業コンセプトに基づいて、導入可能かつ事業性を 確保できる施設に絞り、第1弾事業として市内の動物 園、市民活動センター、サッカースタジアムの3か所、合 計約150kWの事業へと規模と設置場所を確定させた。

 そして、2012年12月12日、アースライフネットワークと地 元企業の鈴与商事株式会社の出資による地域エネル ギー事業主体「しずおか未来エネルギー」が設立され た。

 公共施設への設置にあたっては、事業者の選定方法 や使用料金、使用許可期間等、きわめて具体的に詳細 項目を定め、行政手続きに則って進めていく必要がある ため、事業化に向けての主要な課題となった。関係者と の様々な調整を重ね、最終的には市の公共施設におい て、しずおか未来エネルギーが優先的かつ低額(原則 無料)で利用できるよう、静岡市・アースライフネット ワーク・しずおか未来エネルギーの3者で協定書を結 び、これに基づいて設置を進めていくこととなった。

 資金調達について、総事業費約8000万円のうち、

2000万円が自己資金、4000万円が地元金融機関である 静清信用金庫による融資、残りの2000万円が匿名組合 による市民出資によっておこなわれている。金融機関か らの融資について、プロジェクト検討チームでは、当初 から資金調達については工夫する必要があることが念 頭にあり、検討の早い段階から「事業評価に基づく、担 保なし・保証人なしの融資」という条件を設定した上 で、複数の金融機関と相談を始めていた。そして、最終 的に静清信用金庫による融資(担保なし、保証人なし)

が実現している。

 市民出資による資金調達については、より多くの市民 が直接自然エネルギーに関わることができる「参加の手 段」として大きな意義がある一方、ファンドを組成する側 から見た場合、一口あたりの金額を大きくして、少ない口 数で集めることができれば資金調達コストを下げること ができる。しかし、「参加の手段」としての意義を重視す れば、一口あたりの金額を小さくして、より多くの人に出 資してもらうことが望ましくなる。そして、その場合は募 集口数が増えることとなり、募集口数が増えればその分 だけ事務コストも増えるため、当然ながら資金調達コス トは上がる。このようなジレンマの中で、プロジェクト検 討チームは再び事業コンセプトに立ち返り、「この事業 ではより多くの市民の参加によってプロジェクトを実現