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CCD のインプリケーション

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 172-175)

第 9 章 プラットフォーム各論(1)―3 事例による組織形態分析―

第 4 節 CCD のインプリケーション

保井(2006)によれば、アメリカのBIDの特性として、BIDでは、資産所有者が重要な意思 決定を行い、BIDを運営する非営利組織に必要な資金を託して事業の遂行を求め、反対に、

BID運営組織は、資金拠出・意思決定者である地域の資産所有者に対し、事業遂行と期待さ れた成果を出す責任を負っている。具体的に、特定の地区で BID の設立が検討されはじめ ると、検討しはじめたグループが中心となって、そのことを地区内の資産所有者全員に告知 し、最低でも1年、長ければ5年以上の期間をかけて、地域の中長期ビジョンから短期の事 業計画までを話し合っていく。その過程においては、実施予定の事業にどの程度の資金が必 要となるのか、それをどのように捻出するか、負担金に関しては最も受益と負担の関係が適 切な計算方法はどのようなものかが検討される。その結果、BIDが設立されるときには、長 期的な地域ビジョンから短期的な事業計画までが、資金計画を含めて明確かつ実現可能な状 態になっているのが当然である。その段階においてはじめて、事業の実施部隊となる組織が 編成され、それが資産所有者を中心とした地区全体の合意にもとづく事業を行うことが可能 となる。要するに、地域の将来ビジョンや事業計画についての意思決定を行うべき人たちと、

それにもとづいて事業を実施する人たちとは別である11。このように、負担金の受益と負担 を切り離し、サービスの受益者と供給者を明確化させることは、事業の成功の可否を左右す るものである。

これまで、アメリカのフィラデルフィア市におけるCCDの事例を取り上げてきたが、CCD の活動範囲も地域におけるものである。BIDは州法での規定にもとづき税の徴収権限を有し、

CCD では歩道清掃等行政サービスの補完的役割を担っているという点で、地方自治体とさ えいえる。そのCCDが政府であるかどうかについては議論の余地が残されているが、いず れにしても、自治を担いうる市民社会組織であることには間違いない。

日本においても、「ちよだプラットフォームスクウェア」の事例では、民間営利部門が運 営するプラットフォームが千代田区のなかで地方自治体に代わって、中小企業活性化の役割 を担えるということが示された。CCD のように、税の徴収権限こそ有しないものの、市民

社会組織が、代替的に公共サービスを補完しているのである。

日本の市民社会組織にとっては、アメリカの BID のように、税の徴収権限を地方自治体 から条例などで制度的に保障される形で移譲するなどということは極めて高いハードルで ある。日本とアメリカの市民社会組織を一概に比較することはできない。だが、希望的観測 ではあるものの、日本においても、市民社会組織が代替的に行政サービスを提供することに よって、可能な範囲内で日本の市民社会組織が補完的に公共サービスを担える市民活動の幅 を広げていく必要がある。

第 5 節 まとめ

先述したように、CCD では、フィラデルフィア市において、ダウンタウンの約 4分の 3 にあたる東西2.4キロメートル、南北1.2キロメートルの区域、そして、120もの区画及び

4,500以上の個人の不動産を管轄している。一概に単純比較はできないが、「ぐんま地域づく

り大学プラットフォーム」及び「ぐんま地域づくりNPOプラットフォーム」では高崎市と いう行政区画を、「ちよだプラットフォームスクウェア」では千代田区という行政区画を領 域としていた。いずれも地域社会という用語で表現することができるが、序章にて先述した 通り、地域社会の概念には重層性がある。

小滝(2007)の分類では、①「向こう三軒両隣」に代表されるような相互に面識関係のある 近隣社会(最小の地域社会の空間)、②町内会・自治会の組織単位となるような狭域の地域社 会としての町内空間、③いくつかの町内空間を包括する小学校の通学区域程度の地域社会の 空間、④いくつかの小学校区を包括する中学校の通学区域程度の地域社会の空間(連合町内 会・連合自治会の範域にほぼ相当)、⑤基礎自治体レベルの空間(大都市の場合には行政区レ ベルの空間に相当)が積み重なった重層的かつ積層的空間として捉えることができる12。かつ ての自治省(当時)の地域コミュニティ政策においても、その調査研究報告書のなかで、「基 礎集落圏→1 次生活圏(小学校)→2次生活圏(中学校)→3次生活圏(高等学校)」のモデルが提 示されていたことからも、地域コミュニティが重層的かつ積層的空間として構成されている ことを示している13

自治省(当時)の地域コミュニティ政策を立案する背景には、「最下層」としての近隣社会 を基底に捉えた上で、地域住民に最も近接する生活空間から次第に上層に向かうボトムアッ プ型の重層的空間の構成が重要であるとの観点に立っているといえる。この観点とは、小滝 (2005)が指摘するように、ヨーロッパ地方自治憲章に示されている「補完性と近接性の原則」

(principle of subsidiarity and proximity)の思想的基盤を提供した「下位社会優先の原理」は、

生活者としての市民を取り巻く地域コミュニティという「下位社会」を優先させることを強 調するものである14。言い換えれば、近隣社会を重視する思想でもある。近隣(neighborhood) という用語については、近年、「近隣自治」あるいは「近隣政府」の議論が展開されている。

寄本(2004)によれば、「近隣自治とは近隣レベルの住民自治をいい、近隣政府とは、それを

可能にするための制度的な装置に他ならない」15という。「近隣自治」及び「近隣政府」と いう用語が学界での通説的見解になっているかどうかは別として、近年、都市内分権とか地 方自治体内分権という議論の対象となっているものが、いかにして、地域自治組織をはじめ とする地域コミュニティ内の非営利組織に権限を移譲するかという課題である。

坪郷(2006)の多様な主体による問題解決の機会を創出することを強調した「参加ガバナン ス」16の観点に立てば、コミュニティ・ガバナンス、あるいは、ローカル・ガバナンスにお いても、生活者としての市民に最も近い近隣レベルでの自治が市民参加を通じて実現できな ければ、地方分権は絵に描いた餅になる。市民社会組織が担いうる自治の領域とは、市町村 という基礎的な地方自治体レベルにおいて可能になると考えられる。

脚注

1 日経産業消費研究所編(2003)、11頁。

2 黒澤(2008)、121頁。

3 黒澤(2002b)、33-35頁及び黒澤(2008)、121-122頁。

4 黒澤(2002a)、92頁。

5 「Who We Are CCD(Business Improvement District)」『Center City Philadelphia』

http://www.centercityphila.org/about/CCD.php(最終閲覧日:2008年5月26日)。

6「Who We Are CPDC(Economic Development)」『Center City Philadelphia』

http://www.centercityphila.org/about/CPDC.php(最終閲覧日:2008年5月26日)。

7 黒澤(2001)の研究では、来街者をもてなすサービス業であるホスピタリティ・インダスト リーのなかで、商品(料理)を消費者へ販売(サービス)する小売業的要素の強いレストラン を取り上げ、中心市街地の商業に求められる課題を検討した。アメリカのBIDであるCCD を事例として取り上げ、レストランの経済的・物理的効果に関して実証分析を行ったとい う点で優れた先行研究といえる。Kurosawa, T. (2001). Restaurants and urban revitalization:

The case of Center City Philadelphia. Ph. D. Dissertation, Philadelphia: University of Pennsylvania.

8 Center City District & Central Philadelphia Development Corporation (2008). Sate of center city 2008 (report). Levy, P. R. (2008). Business Improvement District: Lessons from North America (essay).

9 黒澤(2002b)、37-38頁。ポール・レヴィ氏(Center City District CEO)へのヒアリング調査(実 施日:2008年8月21日)より。

10 黒澤(2002b)、38頁。

11 保井(2006)、27-29頁。

12 小滝(2007)、230-231頁。

13 自治省行政局(1968)『地域社会の変動に対応する市町村行政のあり方に関する調査研究報 告書』自治省行政局。

14 小滝(2005)、40-41頁。

15 寄本(2004)、29頁。

16 坪郷(2006)、26頁。

終章 「公共経営プラットフォーム」試論

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 172-175)