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事例③:えさし地産地消推進条例

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 86-91)

第 5 章 地方議会及び地方議会事務局の課題と展望

第 3 節 事例③:えさし地産地消推進条例

第1項 概要及び経緯

岩手県奥州市は、2006年2月20日に、水沢市・江刺市・前沢町・胆沢町・衣川村の5市 町村が合併し新しく誕生してできた人口約13万人の市である。盛岡市でも人口30万人で、

岩手県内では2番目に大きな都市である。市町村合併以前の旧江刺市において、地産地消 の取り組みは地域農業の活性化につながる重要な手法であるという認識から、佐藤邦夫江 刺市議会議員(当時)24を中心として、市議会議員20人が「えさし地産地消推進議員連盟」を 結成し、消費者・生産者である市民と一体となって構想を練り、全会一致で2005年10月 に「えさし地産地消推進条例」を成立させた。この「えさし地産地消推進条例」は、生産 者と消費者、事業者の信頼関係の構築、食の安全・安心が確保された農産物の安定供給、

地元食材を通じた地域の魅力、環境・自然・農業の重要性の認識の醸成、食育の推進など5 つの基本理念を柱とし、生産履歴システムの導入から子どもの食に関する理解の促進まで、

幅広い取り組みが行われ、条例制定を通して地産地消の推進による効果への理解が浸透し た。

旧江刺市は、人口が約3万3千人で、世帯は1万戸、このうち6千戸が農業を営んでお り、特Aランクの特別栽培米やジョナゴールド、ふじといったりんごなどブランドのある 農産物をつくっている地域でもある。合併後の奥州市においても、これらの産物を素材と して豊かな食文化をはぐくんでおり、地域農業の活性化を図りながら、食を中心としたま ちづくりにつなげていこうというのが、「えさし地産地消推進条例」の趣旨である。条例の 精神や議員提案条例の制定経験を通した総合的な地産地消の推進が期待されている。

江刺市議会の当時の状況は、22人の議員のうち、公明党が1人、小沢系20人で、佐藤議 員は唯一単純無所属であった。佐藤議員を中心として、「農業を何とかしたい」という思い から、まずは、「えさし地産地消推進議員連盟」への入会の誘いからはじめ、賛同者を募っ た結果、議長・副議長を除いて20人が賛同し、推進議員連盟が形成された。全会一致で同 条例を成立させたという結果は、たとえ主義主張は違っても、地方議員が地産地消、農業 の活性化を共通意識としてもち、地域の共通の課題であれば、最終的には全会一致できる ことを示している(図表18)。

図表 18:「えさし地産地消推進条例」制定までの経緯

開催日 検討経緯、意見交換会の開催状況等(参集対象)

2005年4月5日 「えさし地産地消推進議員連盟」を結成。第1回総会・記者会見を実施。

2005年4月20日 地産地消についての講演会(講師:高橋昭雄氏 岩手県農林水産部 産直組 合員)を開催。出席者は100人。

2005年5月8日 江刺市議会市政調査会

2005年5月9日 議員提案条例に関する研修会(講師:津軽石昭彦氏 前岩手県議会事務局課 長補佐),議員連盟定例会を実施。

2005年6月21日 給食センター(教職員、給食センター職員)との意見交換会,議員連盟定例 会を実施。出席者は35人。

2005年6月27日 JA江刺(生産者、JA幹部・職員)との意見交換会を実施。出席者は35人。

2005年6月30日 議員連盟定例会を実施。

2005年7月9日 「地産地消を考えるお母さんの会」(主婦、NPO幹部)との意見交換会を実 施。出席者は15人。

2005年7月20日 第1回地産地消シンポジウム実行委員会、その後、連続して桜木団地住民 (団地住民)との意見交換会実施。議員への条例案アンケートの実施。出席 者は20人。

2005年7月22日 この頃から、政策法務部会による条例素案の調整がはじまる。江刺市立田 原小学校、増田寛也知事(当時)による食育授業開催。6〜7月にかけて、江 刺市内の小中学校での議員による食育授業を開催。

2005年7月28日 増田知事と議員との意見交換会、議員連盟定例会を実施。条例骨子案を発 表。記者会見を実施。

2005年7月30日 江刺市役所ホームページにて、パブリック・コメント開始。ここから、市 役所担当職員との条例案についての折衝を合わせて開始。「えさし地産地 消シンポジウム」(ゲスト:筑紫哲也氏 早稲田大学大学院教授、鈴木輝隆 氏 江戸川大学教授)を開催。この際、会場内にて、パブリック・コメン トを開始。シンポジウム出席者による意見交換会を実施。シンポジウムの 出席者は700人。会場内アンケート参加者は125人。なお、筆者も参加。

2005年8月3日 商工会議所(市内商工業者)への説明会を開催。出席者は25人。

2005年8月中 この間、条例案を政策法務部会が中心となり作成。行政側との最終打ち合 わせを実施。

2005年9月13日 政策法務部会にて、行政、議員連盟間での条例案を調整。

2005年9月22日 議員連盟定例会にて、条例案を説明。

2005年9月28日 JA江刺(生産者、JA幹部)との意見交換会を実施。出席者は17人。

2005年9月30日 市議会定例会最終日にて、朝の議員連盟臨時会議で関係者との調整がさら に必要との理由により、提案を見送ることを確認。

2005年10月5日 商工会議所との意見交換会を実施。出席者は30人。

2005年10月18日 商工会議所との意見交換会を実施。出席者は30人。

2005年10月28日 議員連盟会議、臨時議会での提案を決定。江刺市議会臨時会において、全 会一致で条例案を可決。

(注)条例に係る市民からの意見募集の実施状況(実施期間:2005年4月20日〜10月5日)

①意見数:延べ250件(募集方法:ホームページ掲載、意見交換会、アンケート、郵送等)

②意見交換会参加者:410名(9回開催)

③シンポジウム参加者:700名(2005年7月30日開催)

④学校での食育授業出席者:延べ500名(2005年6〜7月:江刺市内12小学校、4中学校にて開 催)

(出典)津軽石(2006)、105頁をもとに筆者作成。

現在の状況は、旧江刺市が奥州市に市町村合併したのを契機に、同条例は失効した。今 後の動向として、佐藤議員によると、議員任期中に再度提案して条例制定を目指している。

江刺地区以外に4つの地区が残っており、4つの地域の関係者、農協や生産者、商工団体や 学校などの関係者との意見交換や議論を深め、また、奥州市役所農林課と対話を重ねなが ら、さらなる改善に向けて問題点を析出しているところである25

第2項 えさし地産地消推進条例の成功要因分析

全会一致で制定した「えさし地産地消推進条例」の成功要因について、津軽石(2006)は、

3つの部会設置による政策論議、市民や農業者・事業者との協働の取り組み、立案検討や作 業的な部分での外部機関の外部支援の3点を指摘する。

津軽石(2006)26によると、第1点目には、「えさし地産地消推進議員連盟」では、条例づく りに市民の意見を反映させるための「市民協働部会」、条例制定過程において地産地消の機 運を盛り上げるための「地産地消部会」、市民の声にもとづく制度設計を検討する「政策法 務部会」の3 つの部会を設置している点である。これらの 3 つの部会は数人単位のもので あるが、有機的に連携することにより、条例づくりを通した政策論議が行われやすい環境 を整備したという点がまず指摘できる。とかく、はじめて議員提案条例を制定する地方議 会では、条例制定が自己目的化して、制定過程での政策論議が十分でない場合がみられる。

しかし、旧江刺市議会では、1 つの条例づくりを契機に、「市民協働部会」では、市民との 意見交換やシンポジウムを通じた政策論議が行われた。「地産地消部会」では、農業者との 意見交換を通じた農業振興の議論が行われ、「政策法務部会」では、制度論を通じた議論が 行われる仕組みとなっており、それぞれ地方議員の良い意味での政策論議、意識改革が促 進されやすい状況を形成していたといえる。

第 2 点目には、積極的な市民や農業者・事業者との協働の取り組みが行われていた点が あげられる。図表18が示すように、条例の検討過程では、農業関係者、商工業者、学校関 係者、消費者などとの意見交換会が頻繁に実施されたほか、有識者等を招いた一般市民向 けのシンポジウム、各関係者・市民へのアンケート調査やパブリック・コメントなど、様々 な場面で延べ1,000人以上の市民が参加する取り組みが行われた。これにより、条例に様々 な立場からの意見が反映された。それぞれ立場や主張の異なる市民が、相互の意見に耳を 傾けることができた。その結果として、市民の大部分が納得できる内容の条例に自然に収 束された。条例案に関する市民アンケート調査において、「条例の趣旨に賛成」が 96 パー セント、「市議が条例案をつくることに賛成」が 95 パーセントと、一連の活動を多くの市 民が支持する回答が圧倒的多数であったことからも明らかである。

第 3 点目には、条例案の立案検討や市民協働の取り組みの事務的な部分において、外部 機関が地方議員を支援していたという点である。今回の条例制定では、佐藤議員が、早稲 田大学大学院公共経営研究科の専門職学位課程の在学生(当時)であり、公共経営研究科と関 連のある早稲田大学マニフェスト研究所が、立案に際しての技術的な助言や、市民との意 見交換会の設定・記録作成などの事務的な面で相当程度後方支援を行っていた。ノウハウ や人材をもっている外部機関が支援することにより、条例制定や市民参加が進められたこ とは特筆すべき点である。

津軽石(2006)による3点の成功要因分析に加えて、第4点目として、条例制定に大きく貢 献したのは、やはり何といっても、「えさし地産地消推進議員連盟」のなかで、中心的な役 割を果たした佐藤議員自身の存在といえる。佐藤議員の活躍なくしては、そもそも、「えさ し地産地消推進議員連盟」は形成されなかったといっても過言ではない27。同氏の呼びかけ なしでは、市民、事業者、行政、地方議員などの利害関係者を巻き込みながら妥協点を見 出し、条例化にまでこぎつけることは不可能であったといえる。佐藤議員のように、無所 属の地方議員を中心にして、地方議会が全会一致で「えさし地産地消推進条例」を制定で

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 86-91)