第 8 章 地域自治組織の現状と市民社会組織の新たな展開
第 3 節 地域自治組織と市民社会組織の連携
第1項 「第三階層の地方政府」
これまで各地方自治体においては、全体的にみて伝統的な地縁団体である町内会・自治 会を中心とする互助・共助の仕組みが相対的に弱体化してきた。そこで、これらを補完す るために各種の課題別・機能別団体の組織化が進められてきた。田中(2007)によれば、例え ば、福岡市の「自治協議会の設立」、北九州市の「まちづくり協議会の充実・改編」、宗 像市の「コミュニティ運営協議会の設立」などはその最たる例である13が、結果的に地域住 民を世代別・領域別・構成員別に分断する結果を招くなど、行政の地域コミュニティ政策 は、ジレンマ的状況に陥ってきたと指摘する14。そのため、行政は、現在のところ、これら 種々の地域団体をつなぎ、包括的な地域協議会の組織化へと転換を図っているが、行政主 導による組織化だけでは問題解決には至らない。
だが、いずれにしても、我が国が直面している深刻な地域の疲弊を考えると、地域自治 活動の推進や地域の連帯を強化するための社会的仕組みを創設することが必要である。そ の際に検討しなければならないことは、その社会的仕組みのなかで、町内会・自治会など、
準自治体的な役割を担ってきた地域自治組織とNPOをはじめとする市民社会組織の関係の あり方である。町内会・自治会などの地域自治組織は、日高(2003)が指摘するように、日本 全国津々浦々、ほとんどすべての市町村に地域自治組織が存在しており、事実上、戦後、
準自治体として機能してきた側面がある。その地域自治組織の機能について、そして、菊 池(1990)は、とりわけ、町内会・自治会のもつ機能を次のように分類化している15。それら の機能は、時代区分やその構成員や担い手の年齢別階層によりかなりの違いあるが、注目 すべきは、その機能の多様性である(図表36)。
図表 36:町内会・自治会機能の分類
①地域施設維持機能
②アメニティ機能 (1)生活充足機能
③危機管理機能
①住民交流機能
②諸集団調整機能 1. 対内機能
(2)地域統合機能
③合意形成機能
④規範維持機能
⑤地域代表機能
①補完機能 (1)対コミュニティ機能
②発展機能
①補完機能
②圧力機能 2. 対外機能
(2)対行政機能
③参加機能
(出典)菊池(1990)、223頁をもとに筆者作成。
図表36が示すように、地域自治組織は、対内機能及び体外機能に加えて、その一般的特 徴とされる地域占拠制、世帯単位制、全世帯加入制をとり、ほとんどすべての市町村の区 域内に満遍なく存在しているという特性を考えれば、「第三階層の地方政府」としての政府 論の議論がある16。そもそも、現在の日本の地方自治制度は、都道府県と市町村の二層制を 採用している。広域自治体である都道府県のなかに基礎的自治体の市町村がある。この地 方自治体という用語は、英訳すれば、「地方政府」(local government)になる。都道府県は広 域的な地方政府であり、市町村は基礎的な地方政府ということになる。都道府県、そして、
市町村という行政規模の大小の順でいえば、「第一階層の地方政府」である都道府県と、「第 二階層の地方政府」である市町村の二階層制からなる。もちろん、第一がより重要であり、
第二は位が下位であるという意味ではない。さらに、「第三階層の地方政府」があるとすれ ば、それは、町内会や自治会といった地域自治組織といえる。
第2項 プラットフォームの出現
一方、地域自治組織を政府論として議論するのではなく、地域社会共同管理の観点から、
地域自治組織を含めて、NPO やボランティア団体などの主体が自己責任の下で自分たちを 統治するという議論が、コミュニティ・ガバナンスの概念である。1990年代半ばからNPO をはじめとする民間非営利団体や市民活動団体によるまちづくり、環境、福祉、教育など の公益的な分野での活動が脚光を浴びてきた。NPO・ボランティア団体・市民活動団体の ような市民社会組織などはボランタリーなネットワークの性質を有する。とりわけ、調整 機能をもつ中間支援型NPOが登場してきたことから、自治会・各種地縁型機能別組織・NPO の連携とネットワークによるコミュニティ・ガバナンスの再構築が模索されつつある。
しかし、鯵坂(2006)が指摘するように、NPOは狭い地域に根を下ろしたものは少なく、地 域の区画性や共同管理性、代表性において弱点をもっている。このように、町内会・自治 会などの包括的な地域自治組織とNPOをはじめとする市民社会組織の連接のあり方が今後 の課題になる17。つまり、ローカル・ガバナンスやコミュニティ・ガバナンスが進展するな かで、地域自治組織と市民社会組織がいかに連携していくことができるのかが問われてい るのである。
パートナーシップ
プラットフォーム
とりわけ、市民社会組織についていえば、総合性、多様性、広域性をもちながら、これ までの公共部門と私的部門の公私二元論でのパートナーシップ(partnership)ではなく、公共 部門、民間営利部門、民間非営利部門を多元的につなぐ新しい協働の形としてのプラット フォーム(platform)がみられる(図表37)。
図表 37:パートナーシップからプラットフォームへ
(出典)筆者作成。
プラットフォームの具体例として、「ぐんま地域づくり大学プラットフォーム」(高崎市、
高崎経済大学など)、「ぐんま地域づくりNPOプラットフォーム」(高崎市、特定非営利活動 法人「NPOぐんま」など)、「アーバンコミュニティ・プラットフォーム」(東京都、明治大 学など)、「常磐線NPOプラットフォーム」(千葉県、江戸川大学など)、「北関東プラットフ ォーム」(栃木県、白鴎大学など)、「相模原・町田大学地域連携プラットフォーム」(神奈川 県・東京都、麻布大学など)や「ちよだプラットフォームスクウェア」(千代田区、「プラッ トフォームサービス」株式会社)などがあり、産官学民間の新たな協働・連携の形態である。
公共部門 その他の部門
公共部門 民間非営利部門
民間営利部門
第3項 キーワードとしての公共空間
ここで、プラットフォームの用語の使用方法について述べておかなければならない。プ ラットフォームとは、そもそも駅のホームなどを意味する。だが、本稿で取り上げる「ち よだプラットフォームスクウェア」をはじめ、先述の群馬県高崎市を機軸にして運営され る「ぐんま地域づくり大学プラットフォーム」やNPOを機軸にして運営される「ぐんま地 域づくりNPOプラットフォーム」18などは、駅のホームではない。地域の公共的問題解決 のために、公共部門、民間営利部門、民間非営利部門の各主体によって形成された公共空 間としての性格を有するものである。
吉田(2006)によると、公共空間とは、問題関心を同じくする社会的な主体が相互に作用し 合う社会的空間であり、それらの社会的な主体が様々な公共的問題解決のための公共政策 を協働して策定・実現する社会的な活動空間であるとする。それは、単に物理的空間のみ ならず、公共的問題解決に向けて、市民、NPOなどの市民社会組織、企業、行政など、公 共部門だけではなく、民間営利部門及び民間非営利部門の多様な主体が協働して推進する 公共活動によって形成される社会的空間を含めたものを意味する19。さらに、坪郷(2003)は、
公共空間を「市民が共通に直面し共同で解決する必要のある課題のために公共政策を形成 し、実施する場」20として定義付けている。本稿では、公共空間を両者の定義にもとづきな がら、「公共的問題の関心を同じくする社会的な主体がその問題解決に向けて協働し、公共 政策を形成するための場」と定義付ける。その上で、プラットフォームを「公共空間を創 出したり、公共空間として機能したりする役割を担うシンクタンク」21と定義付ける。プラ ットフォームとなるものは、公共部門、民間営利部門、民間非営利部門の各主体である。
このプラットフォームの定義にもとづけば、第2章及び第3章で取り上げたJASON、「動 物の法律を考える連絡会」、GEN、容リ法改正全国ネットなどの市民社会組織は、異なる政 策課題ではあるものの、例えばフロンの法制化などのある特定の目的を掲げ、問題意識を 同じくするその他の市民社会組織の間でネットワークを結び、協働して公共政策の形成に 向けて取り組んでいたという点で、政策事業家としての市民社会組織が、プラットフォー ムとしても機能することを示唆している。
だが、中央レベルと地方レベルの政策形成過程は構造的に性格が異なるものであるため、
「政策の市民化」の実現に向けてプラットフォームの果たすべき役割も中央レベルと地方 レベルでは異なる。中央レベルでは、特定の目的をもった市民社会組織がプラットフォー ムとして機能したため、「政策の市民化」につながった。一方、地方レベルでは、必ずしも 特定の目的をもって組織化していない市民をはじめ、地域の公共的問題の関心を同じくす る公共部門、民間営利部門、民間非営利部門の各主体が、その問題解決を図るために条例 を制定するなどして立法化を必要とする場合、各主体が協働して公共政策の形成に向けて 取り組む公共空間が必要になる。そこで、プラットフォームが公共空間を創出し、「協働型」
市民立法をはじめとする公共政策形成のための市民活動を促進させることによって、「政策 の市民化」につなげていく必要がある。