第 2 章 事例研究①:ストップ・フロン全国連絡会・事例研究②:動物の法律を考える連絡
第 4 節 「動物の法律を考える連絡会」の政策事業家としての側面
政策事業家としての「動物の法律を考える連絡会」の役割を、キングダン(1984)の「政策 の窓」モデルにあてはめて考察すると、まず、(1)問題に対する関心を高める作業としては、
著名人では230名、NPO法人では62団体に賛同を呼びかけたり、加盟団体を通じて全国の 地方自治体に対して動物行政に関するアンケート調査を実施したりするなどして、広く社 会全般に対して動物管理法改正に対する関心を喚起した。その他、1998年6月から継続し てきた署名活動では1999年3 月までに30万人に達し、これをもとに自民党から共産党ま で、最終的に 259 名もの紹介議員を獲得することで、国会議員への働きかけを行いやすい 環境を整備した。また、自民党や連立与党において、党内手続きが遅れ、法案の国会提出 が延期されると判断するや否や、1999年4月下旬からプラカードやポスター、のぼり、横 断幕などを制作して全国各地でキャンペーン活動を展開したり、シンポジウムを開催した りするなどして、積極的に世論喚起した。そのなかでは、マス・メディアとの関係におい ても、新聞社などに資料を送付し、法改正に好意的な記者にタイミングを見計らって新聞 で掲載してもらうなどしてマス・メディアを有効活用している。
次に、(2)自らの得意な政策案を推し進める作業としては、1997年10月の発足以降、自民
党の小委員会でヒアリングが行われている間、弁護士や法学者などを招聘し勉強会を重ね、
欧米諸国の制度などを参考にしながら、1998年6月までに独自の改正案を作成した。「動物 の法律を考える連絡会」による改正案のポイント15は、①動物及び動物虐待・遺棄の定義を 明確にする、②罰則を強化する、③動物虐待等の調査、監視及び適切な指導のための査察 制度を設ける、④動物取扱業を許可制にする、⑤動物実験を許可制にし、民間人を含めた 動物実験倫理委員会及び査察制度を設ける、という 5 点の実現を求めて強く働きかけてい ったのである。
そして、(3)窓の開放を利用して流れを合流させる作業としては、自民党環境部会や民主 党小委員会など、与野党内の審議過程のヒアリングに出席し、意見表明するなどして働き かけを行っていた。具体的に、1998 年11 月に、自民党の環境部会にて、「動物の法律を考 える連絡会」の意見を受けて、環境部会に「動物愛護と管理に関する小委員会」を設置し、
動物管理法改正に着手することを正式決定したのであった。当時、小委員長には杉浦正健 衆議院議員が務め、杉浦に代わって環境部会長に就任した鈴木恒夫衆議院議員をはじめと する国会議員15名余りが出席し、獣医師出身の北村直人衆議院議員、獣医師問題議員連盟 の村上正邦参議院議員の秘書出身である小山孝雄参議院議員、動物問題に関心があり、地 元の動物愛護団体から働きかけを受けた馳浩参議院議員といった国会議員が熱心に取り組 んでいた自民党内の審議過程では、1999年8月にようやく党内手続きを完了させた。
一方、野党である民主党内では、党内に動物保護法改正小委員会(委員長・城島正光衆議 院議員)が設置されたのは、1999年3月であり、同年7月までの合計6回にわたる検討作業 のなかで、①動物及び動物虐待の定義や④動物取扱業の許可制など、動物取扱業の規制の
あり方などについて議論した。「動物の法律を考える連絡会」からの要望を交えつつ、自民 党案に対する修正要求をまとめた。民主党では、動物虐待に対する②罰則の強化に重点を 置いた法改正の実現を優先する立場をとりつつ、動物実験の情報公開や動物取扱業者の責 任強化についてさらなる検討の必要性を強調し、附則に施行後 3 年以内の改正を実施する ことを盛り込むことを要求した。その後、自民、民主両党は、同年 8 月に公式協議を行っ た。改正案の内容については、秘書や政策スタッフが細部を調整し、杉浦衆議院議員と城 島衆議院議員が非公式に話し合い、最終的には連立与党案を一箇所修正することで合意し た。与野党協議の成果は、法案の修正内容よりも国会審議の省略について合意が得られた という点である。これと引き換えに、「動物の法律を考える連絡会」の要望を反映して、衆 院内閣委員会で附帯決議を行うこととされた。その決議案は、「動物の法律を考える連絡会」
の政策提案をふまえて、民主党スタッフによって起草された原案をもとに、自民、公明、
共産、の各党の意見が加えられ、環境庁によって成立案が作成されたのである。「動物の法 律を考える連絡会」の政策提案は、先述の 5 点であったが、部分的にせよ、成立案に反映 されたのは、①動物及び動物虐待・遺棄の定義を明確にする、②罰則を強化する、④動物 取扱業を許可制にする、であった16。
第 5 節 まとめ
JASON 及び「動物の法律を考える連絡会」の事例で共通しているものは、いずれも議員
立法という手法をとり、キングダン(1984)の「政策の窓」モデルであてはめて考察すること ができるということである。とりわけ、「政策の窓」を開くことができたのは、官僚組織以 上の専門性や情報力をもち、政策形成過程において、自らの主張する政策案を採用される よう働きかけを行った政策事業家として機能したからである。
フロンによるオゾン層破壊の地球環境問題は、国際的にも周知の通りであるため、それ に取り組むNGOやNPOは少なくない。しかし、尾野(2002)が指摘するように、動物管理法 をめぐっては、これまで動物管理法という目立たない法律に焦点を当て、その改正を促す 上でNPOが果たした役割は大きい。つまり、動物虐待と凶悪犯罪の因果関係を指摘し、動 物虐待にきちんと取り組まなければ凶悪犯罪にまで至るという神戸の児童連続殺傷事件を 教訓にして、動物虐待の法規制を強めることで凶悪犯罪を未然に防止することができると して、国会議員をはじめ、広く社会に対して動物管理法改正の必要性をNPOが認識させた のである17。
寄本(1998)18は、環境NPOについて、「市民サイドで仕事をするシンクタンク、あるいは アドボケイト・インスティチュート(advocate institute)とも言われるもので、市民や市民団体 に専門的な情報提供と助言を行うとともに、市民サイドの提言や要望を体系的にまとめた りする役割を担うもの」と定義付けている。その上で、市民社会組織のもつ専門性や情報 力について、「市民は、当該問題について感性、経験、現場の実情把握、あるいは行動力な
どの面で優れたものを持っており、したがってそれに専門的な情報や理解力が加われば、
市民団体による政策提起は、官庁や学識者などにも劣らない考え方と方策を兼ね備えたも のとなることができる。また、市民運動の側に生じがちなある種の独善性、団体間の利害 や路線上の対立などを自己制御したり調整するうえで、専門的にみて正しく的を得た情報 と理解は大きな力を発揮することになる」と分析している。だが一方で、「わが国の現状を 見ると、(中略)、ひろく市民や市民団体に対して専門的助言機能を提供する環境 NPO ある いはアドボケイト機関は、いまなお未発達と言ってよい状況にある」と指摘する。
これからは、このような市民サイドを後方支援するシンクタンクとしての機能と役割を もつ市民社会組織に発展していくことが喫緊の課題となる。シンクタンクとしての市民社 会組織が、市民的専門性を高めそれを十分に発揮することにより、行政と対等な位置関係 でパートナーシップをはかることができれば、ガバナンスをめぐる構図が大きくパラダイ ムシフトしていく。
この 2 つの事例は、オゾン層の破壊という公益的な価値や、動物の生命という人間でい えば人権にあたる倫理的な分野において、市民社会組織が世論喚起を図りやすかったとい うこと、そして、政治・行政に対して、市民社会組織が政策事業家としての役割を果たす ことで「政策の市民化」につながったということを示唆している。無論、すべての問題に おいて、市民主導により議員立法が可能かといえばそうではない。しかし、環境問題など 利害関係を明確に区別することができない分野での政策形成過程は次第にコーポラティズ ムから多元主義的なものへと変化しており、多元主義的な政策形成過程では、市民社会組 織の活動が「政策の市民化」につながる可能性が指摘できる。
脚注
1 本文は、2000年8月19日に西薗大実氏(特定非営利活動法人ストップ・フロン全国連絡会 代表)によって書かれたNPO法人設立趣意書をベースに執筆している。なお、詳細につい ては、「NPO法人設立趣旨書」『特定非営利活動法人ストップ・フロン全国連絡会』
http://www.jason-web.org/About-Us/aim.html(最終閲覧日:2006年11月15日)。
2 西園大実(2007)の提供資料(「環境問題におけるNGO・NPOの役割」及び「オゾン年に考 える、オゾン層問題と地球温暖化」)をもとに筆者作成。
3 オゾン層の破壊や地球温暖化を促進するフロンガスの大気放出を止めるため、現在様々な ところで使用されているフロン・代替フロンの使用をやめ、脱フロン社会の実現を目指 すためのキャンペーン。
4 オゾン層の破壊や地球温暖化を促進するフロンガスの大気放出を止めるため、フロンガス の大気放出を禁止し、回収を義務付けるための法制化の実現を目指して、様々な立場の 個人や団体が共同で行動することを目的として設立したが、既にこの活動は終了してい る。
5 朝井(2002)、140頁。桃井(2001a)、275頁。
6 モントリオールプロトコルによる国際的な約束にもとづきオゾン層破壊物質の生産量及 び消費量の削減全廃が進められている。しかし、フロン使用機器の廃棄に伴って使用さ