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事例③:ちよだプラットフォームスクウェア

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 156-168)

第 9 章 プラットフォーム各論(1)―3 事例による組織形態分析―

第 4 節 事例③:ちよだプラットフォームスクウェア

第1項 問題の背景―民間営利部門による公的施設運営の課題と展望―

第 27 次地方制度調査会(2003)の答申では、地方分権型社会においては、公共部門だけで はなく、広く民間営利部門や民間非営利部門も公共の担い手となり、双方の協働により、「新 たな公共空間」を形成していくことが必要であると強調している17。言い換えれば、辻山 (2005)が指摘するように、公共サービスの供給主体の多元化とその連携・協働というガバナ ンス領域を表現したものである18

この答申が出された背景には、地方自治体の財政が逼迫しているため、公共部門以外に 新たな公共サービスの担い手を模索している実情が窺える。そもそも、地方自治体が財政 難に陥っている原因の 1 つには、全国の地方自治体で、公的施設をめぐる問題が山積して

いる現状がある。そのため、地方自治体が、公共施設をめぐって、その建設から、維持管 理、運営までを民間の資金や経営手法を用いることで事業費用を削減し、質の高いサービ スを提供できるとされるPFI(private finance initiative)などの手法を導入し、行政の非効率的 な経営を改善しようと試みているが、公立病院などを含めて、必ずしも全ての公的施設に PFI方式を導入して成功するというわけではない19

しかしながら、地方自治体が抱える公的施設をめぐる問題のなかで、公共施設の運営を 民間に委託し成功している事例が存在する。東京都千代田区における「プラットフォーム サービス」株式会社である。そこで、千代田区の「プラットフォームサービス」株式会社 を事例として取り上げ、「新たな公共空間」の可能性について検討する。

地方自治体の公的施設をめぐる問題は、千代田区においても決して例外ではない。枝見 (2006)によると、区の外郭団体である財団法人「ちよだ中小企業センター」が運営していた 中小企業センターは、その運営に関する収支が年間約 1 億円近くの赤字経営であり、利用 が低迷していた。千代田区においても、地方自治体が抱える公的施設の経済的自立は行政 課題の1つとなっていたといえる。

千代田区は、2001 年に現在の石川雅巳区長へ変わったことを契機に、それまでの中小企 業センターの運営体制を改善するために、「行政財産」を「普通財産」へ変更した上で、10 年間の定期建物賃貸借契約20にもとづき、同センターの運営を「プラットフォームサービス」

株式会社に委託したのである。民間営利部門に対する行政業務の画一的な委譲や委託だけ ではなく、企画そのものを民間営利部門に依頼し、協働を推進しようとするものである21

「プラットフォームサービス」株式会社が、地方自治体に代わって「市民協働のまちづく り」を推進する形で公共サービスを供給し、ローカル・ガバナンスの一翼を担っているの である。

第2項 概要

「プラットフォームサービス」株式会社は、千代田区と10年間の定期建物賃貸借契約を 結び、2004年2月26日に会社登記を完了させた。資本金は7,000万円であり、6月決算の 株式会社である。2008年現在の従業員数は、役員・正社員・契約社員・アルバイトを含め、

13人である。同社の事業予算総額は、約4億円であり、そのうち千代田区が 2億4,000 万 円を負担し、残額の1億6,000万円を同社が負担する形で「ちよだ中小企業センター」を改 修後、同社が「ちよだプラットフォームスクウェア」を2004年10月1日に開業した。「ち よだプラットフォームスクウェア」とは、域内の中小ビルを連携させ、SOHO(Small Office

Home Office)を活用したまちづくりを推進するための拠点施設である22

枝見(2006)によると、同社が展開する「家守事業」とは、明治期の差配人の機能を基盤と した江戸期の「地主」(家守)の役割を再構築することにある。つまり、まちづくりの主体を 再び公から民へと移行させること、言い換えれば、公共サービスを民間営利部門が担うこ とで、民間活力により既存産業を活性化させ、新たな産業の振興を通じて地域を再生し、「市

民協働のまちづくり」を推進しようとする試みである。具体的には、大きく分けてインキ ュベーション(incubation)事業、コンサルティング(consulting)事業、人材育成事業で構成され る。

インキュベーション事業では、不活性な公的施設を有効活用するべく、起業支援の拠点 施設として開設したり、拠点施設の近隣施設のうち、中小ビル等で、空き店舗となってい るものを成長企業の転出先として整備したりすることで、ベンチャー・ビジネスや社会的 起業を促進し、事業の成長を支援する。コンサルティング事業では、公共部門と民間営利 部門が協働して公的な事業を進めていくPPP(public private partnership)や公共サービスの市 場化、PFI等を通じた地域産業の振興を支援したり、地方自治体との協働政策の立案やまち づくり会社の設立等、地域再生の政策形成を支援したりすることで、地方自治体の抱える 様々なまちづくりの課題に対して、地域の特性をふまえ、施設の再生策を提案するもので ある。人材育成事業では、企業、市民活動・ボランティア、地方自治体などの異なる組織 特性を理解し、社会経営(social management)における共通の事業評価のあり方、評価手法の 検討・確立、先進事例の調査・研究、地域における個別具体的な政策形成を実践すること で、社会変革の担い手としての気概と起業家精神をもった人材を育成する23

第3項 組織形態

「プラットフォームサービス」株式会社は、組織形態を非営利型株式会社とすることで、

株主たちが第三者としての立場で運営を監視し、本来は地方自治体の役割である区内の中 小企業の経営支援、地域再生に取り組んでいる。ここで注目すべきは、その非営利型とい う株式会社形態である。それは、株式会社であるのに非営利と営利が併存しており、矛盾 しているように捉えられがちである。枝見(2006)が指摘する通り、我が国の法律上の法人形 態は、民法第34 条の規定にもとづく非営利法人と、民法第 35条の規定にもとづく営利法 人に大別される。非営利法人は、さらに、民法第34条の第2項の規定にもとづき、財団法 人や社団法人などの公益法人と、そこから学校法人、社会福祉法人、医療法人、特定非営 利活動法人に派生し、それらは別途個別法により定められる。公益法人は、定款のなかで

「公益の増進に資すること」を目的として設立されるものである24。それとは対照的に、営 利法人は「利益の最大化」が主要目的といえるが、昨今の「企業の社会的責任」(以下、CSR と称する)概念の普及に伴い、高い公共性が求められている。

それでは、非営利型株式会社とはどのような概念か。公共性の高い企業形態であるため に、それが非営利法人であるのか、営利法人であるのかを区別するための判断基準が求め られる。

跡田・渡辺(2004)によれば、その判断基準となるべきものは、利益処分をめぐる第三者へ の分配、つまり、「所有と分配の分離」とする。営利法人と非営利法人の決定的な違いは、

利益処分を行うか行わないかという点である。非営利法人の場合、収支計算書のなかで、

剰余金が出ると次期に自動的に繰り越す形をとる。これは、利益処分を行わずに、利益を

社内留保して、次期の事業に再投資するという意味である。要するに、内部へ資金が配分 されるわけである。それに対して、営利法人では、関係者への利益処分が可能である。法 定準備金や任意積立金としての社内留保と並んで、役員賞与金と株主配当金という形で法 人外へ資金が配分される。そこで、非営利型株式会社は、利益の配分先を内部でもなく、

外部でもない、直接的に関係のない第三者に配分する形をとる。そもそも、株式会社とは、

株式の所有者である株主が経営者に企業経営を委託した形であるため、利益配分を受ける 権利を有すると同時に、この権利を放棄することも自由である。利益処分案が、役員賞与 金と株主配当金をなくしたり、その配当を制限したりすることで、第三者に利益配分する 内容で株主総会の議決を経て確定すると、第三者への利益配分が可能となる。その第三者 が、例えば、CSR を推進する目的で、地方自治体やそのような社会貢献活動の事業を行う 団体に寄付という形で、利益配分することができる25

実際に、同社では、企業経営の自律性を基本としつつ、事業の公共性を担保するために 会社の定款に理念規定を設けている。その事業は社会投資家の「志ある投資」に支えられ、

利益処分では役員賞与や普通株主への配当を制限し、新たな社会的起業ヘの投資やコミュ ニティ・ビジネス、地方自治体への寄付などの社会貢献活動に充填されている26

第4項 財務と運営

「プラットフォームサービス」株式会社の予算総額は、4億円である。そのうち、自己負

担した1億6,000万円の内訳は、資本金で7,000万円、借入金で7,500万円、そして、残り

の1,500万円を「ちよだプラットフォームスクウェア」の入居者からの「預り保証金」から

一部充当させる形をとっている27

資本金の7,000万円の資金調達方法は、役員4名の個人出資やそのほかの出資者による増

資を含めた3,500万円に加え、投資事業有限責任組合により一口50万円で70口募り、3,500 万円の増資に成功した。直接、千代田区の市民から資金を集めることは困難であったが、

70口の出資者の内訳は、6割が千代田区の事業者等であり、4割がそのほかの地域からによ るものである。残る借入金の7,500万円は、金融機関からの融資によるものである。その内 訳は、先駆的事業に対して日本政策投資銀行、産業振興に対して商工中金、地域金融機関 として興産信用金庫からの各2,500万円ずつの融資である28。2007年6月30日現在は、以 下の財務状況である(図表44)。

枝見(2006)によると、同社は、主に「ちよだプラットフォームスクウェア」内の各施設を 賃貸することで、その賃貸料収入により運営される。施設賃貸の具体的な内容は、オフィ ス利用者として、同施設内に占有場所を有する「クローズドネスト」の利用者、約 100 席 程度の空間を共同利用する「オープンネスト」の利用者、1階の「カフェテリア」や「ビジ ネス・センター」、会議室などの利用者に大別される。そのほか、各種イベント収入などが ある。

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 156-168)