第 9 章 プラットフォーム各論(1)―3 事例による組織形態分析―
第 4 節 「地域公共人材」の育成支援機関としての期待
(注)(1)地方議会に対して、地方議会事務局との協働をはかりながら、「協働型」市民立法を促進 させること、
(2)地方自治体に対しては、「協働型」市民立法を促進させること、
(3)地域自治組織、地域の大学や企業、その他の市民社会組織と共同研究を進め、専門性を 高めること、
(4)市民教育、
(5)橋渡し型ソーシャル・キャピタルとして、ソーシャル・キャピタルを醸成する。
(出典)筆者作成。
プラットフォームにおける市民活動活動を支援するためには、情報公開の制度を健全に 整備することは前提である。また、各主体のパートナーシップの可否は、市民の評価にか かるところが大きく、市民社会との信頼関係の醸成こそ重要な基盤となる。ここでいう「信 頼」とは、単なる個々人の心の問題ではない。パットナム(1993)が、「信頼自体、個人的属 性であるのと同様に社会システムの創発特性でもある」21と指摘しているように、信頼なく しては、「公共経営プラットフォーム」が成立しえない。
第 5 段階は、地域社会憲章とパートナーシップ協定の締結を基本に、開かれた透明性の 高いプラットフォームを運営し、継続的に研究成果の政策への反映性を高めることで、地 域の合意と支持を得る形で存在意義を強める22。「公共経営プラットフォーム」が、地域の シンクタンク23として機能し、「地域力」を涵養させることが必要である。
土山・大矢野(2008)によれば、「地域公共人材」とは、「地域公共政策の過程をになう人材」
であり、「市民社会セクター、市場セクター、政府セクターの区別にかかわらず存在し」、「組 織やセクター内だけでなくセクター間の壁をこえて、その政策目標達成のためにパートナ ーシップをむすび活動できる人」32であると定義付けている。LORCの基本的な視点として、
LORCの提唱する「地域公共人材」とは、地方分権化による社会変動によって、さらに多様 化・高度化・複雑化する地域社会における地域公共政策の担い手を指す33。具体的にいえば、
土山(2008)は、「地域人材の専門性・職業性と人材分布のイメージ」を掲げ、①広範な市民 層(潜在的地域公共人材)、②多様な市民活動主体(非専業)、③専門職業人(NPOスタッフ、地 方自治体職員、地方議会議員など)、④高度専門職業人の4つに類型化している34(図表50)。
図表 50:「地域公共人材」の専門性・職業性と「公共経営プラットフォーム」
(出典)土山(2008)、12頁をもとに筆者作成。
初谷(2008)は、これらのうち、主として③及び④に該当する現職の地方自治体職員・NPO 専従スタッフや、公共政策系大学院の修了者など高度な知識修得者の育成と水準の確保、
向上等についての研究は、LORCの取り組みによって、大きく前進している35とする一方で、
①及び②の「地域公共人材」については、一部の共同研究参画者によって若干の問題関心 職業性
①広範な市民層 (潜在的地域公共人材)
②多様な市民活動主体 (非専業)
③専門職業人 (NPOスタッフ、地方自治体
職員、地方議会議員など)
﹁地 域公共 人 材 ﹂ と し て の 専門性
「公共経営プラットフォーム」
④高度専門職業人
が払われているだけであり、さらに調査・研究が積み重ねられる必要があると指摘する36。
「公共経営プラットフォーム」との関連でいえば、図表 50 が示すように、少なくとも、
①広範な市民層(潜在的地域公共人材)、②多様な市民活動主体(非専業)、③専門職業人(NPO スタッフ、地方自治体職員、地方議会議員など)としての「地域公共人材」を育成支援する ことが地域においては期待されるところである。「公共経営プラットフォーム」において、
市民だけではなく、市民社会組織、地方自治体、地方議会、企業、地域の大学などの地域 の大学の構成員とともに、「地域力」を向上させていくためには、部門を越えた多様な主体 との関係において、協働していくことが求められる。「公共経営プラットフォーム」にとっ て、①広範な市民層(潜在的地域公共人材)、②多様な市民活動主体(非専業)、③専門職業人 (NPOスタッフ)を育成するという人材育成機能は不可欠の要素である。
第 5 節 まとめ
地方分権型社会においては、従来の市民参加の手法以外に、「公共経営プラットフォーム」
という市民参加の選択肢を市民が有し、いずれの市民参加形態を選択するかは、市民の自 主性に委ねられる。重要なことは、市民に多様な市民参加のルートが常設されていること である。その他、市民の意見を政策へ反映させるための手法として、北海道夕張市や神奈 川県大和市の寄付条例37など、関連する法整備を同時に進める必要がある。
「公共経営プラットフォーム」実現の成否は、人材もさることながら、その財源確保に かかっている。なぜならば、もし、プラットフォームが、財政面で行政からの補助金に依 存していれば、行政の下請け組織になりかねず、対等な協働関係は構築できないため、プ ラットフォーム運営上の最大の課題は財政面である38。「公共経営プラットフォーム」を維 持・運営していくためには、財政的に自立し、独自財源で組織を経営していくことが必要 である。「ちよだプラットフォームスクウェア」の事例は、非営利型株式会社の形態をとる ことで財政的に自立した経営が可能となり、行政の下請けの組織化から脱却できることを 示唆している。また、資金調達の方法として、「プラットフォームサービス」株式会社が実 施した投資事業有限責任組合は有効であると考えられる。
「公共経営プラットフォーム」の運営にあたっては、吉田(2006)が指摘するように、市民 社会組織、地方自治体、地方議会、地域自治組織、地域の大学等の高等専門機関の間で各 主体間の相互の役割分担及び責任の所在を、地域における憲章や協定などで明確化させる ことが必要である39。また、プラットフォームは、地域における市民の信頼関係の上に成り 立つため、定期的に市民に情報公開の場を設け透明性を確保することで、市民相互の信頼 関係を構築させることがソーシャル・キャピタルの醸成には不可欠である。
地方分権が進むなかで、「公共経営プラットフォーム」がローカル・ガバナンスの一翼を 担い、市民活動を促進しソーシャル・キャピタルを醸成することで、「地域力」を向上する ことができれば、地域が持続可能な発展を遂げていく上で大きな前進となるだろう。
脚注
1 「地域力」に類似の概念として、「市民力」がある。例えば、坂本(2005)は、ソーシャル・
キャピタル概念を、「シビック・パワー」(civic power)という概念を用いて説明した。坂本 (2005)は、日本の都道府県単位の集計データを用いて、地方政府の統治パフォーマンスと ソーシャル・キャピタルないしは市民社会との関係を分析している。計量分析の結果、
日本の地方政府を機能させる上で重要なのは、ソーシャル・キャピタルではなく、「政治 エリート」に対して、「市民エリート」という対抗概念を示し、「政治エリート」に対し て、適切な支持、批判、要求、監視を行えるような市民力として、「シビック・パワー」
であること、そして、とりわけ、一般市民の行動・意識面での「シビック・パワー」よ りも、組織化された市民団体や情報開示請求のような行政に対する監視行動としての「シ ビック・パワー」ことが、地方政府の統治パフォーマンスを高める上で重要であると結 論付けている。坂本(2005)、141-153頁。坂本(2005)の「シビック・パワー」論は、佐藤(1973) や松下(1971)など、政治学における市民参加論で議論されているものに、さらに実証研究 を加えたという点で従来のソーシャル・キャピタル論に新たな示唆を与えうるものとし て評価される。また、木原(2006)は、「地域力」に関連する「住民自治力」の強化には、
①地域の問題を未然に発見する力、②地域の課題を共有する力、③課題解決のために協 議する力、④合意・総意を生み出す力、⑤ルール化(計画化)する力、⑥ルールに基づいて 実行する力、⑦行政等と対等に協働関係を構築する力、⑧活動を評価する力などを地域 住民がエンパワーメントする必要があると指摘する。木原(2006)、61頁。
2 坪郷(2003)、34頁。
3 内閣府国民生活局編(2003)、1-3頁及び山内(2006)、57-58頁。
4 吉田(2006)、22-23頁。
5 外国語文献ではPutnam(2000), pp. 22-24. 日本語文献ではパットナム(2006)、19-21頁及び 内閣府国民生活局編(2003)、17-19頁。
6 鯵坂(2006)、183頁。
7 内閣府国民生活局編(2003)、107-108頁。
8 直田(2005)、78頁。
9 篠原(2004)、118頁。
10 枝見(2006)、34-36・156-159頁及び藤倉潤一郎氏へのヒアリング調査(実施日:2008年2 月19日)より。しかし、他方で、田辺恵一郎氏は、「神田祭」に際して、「神田錦町三丁 目町会」による地域自治活動こそみられるが、土着の千代田区の市民が世代によっては 域外に居住を移転して減少した結果、地域が空洞化していると指摘する。同氏へのヒア リング調査(実施日:2008年4月17日)より。
11 内閣府国民生活局編(2003)、95・107-108頁。
12 杉山(2006)、176頁。
13 杉山(2006)、175頁。
14 須田(2001)、19頁。
15 この調査・研究に関連するものとして、協働型政策研究という概念がある。木原(2002) によると、協働型政策研究とは、「政策決定」、「政策実施」、「政策評価」という政策形成 の流れの「政策決定」プロセスにおける地域の多様な活動主体と行政による地域の現場 をフィールドにした「政策問題の発見と確認」、「政策アジェンダの設定」、「政策立案」
という一連の研究活動を意味する。木原(2002)、104頁。また、直田(2004)は、協働型政 策形成の意義は、単に市民、NPOからの政策提案にあるだけでなく、市民やNPOと行政 がオープンな共通の場で議論することを通じて、地域の将来に責任をもち、問題解決に 立ち上がる能動的市民を生み出すことにあると指摘する。直田(2004)、127頁。
16 枝見太朗氏(財団法人富士福祉事業団 理事長)は、「プラットフォームサービス」株式会社 が展開する「家守事業」には実践的なシンクタンク機能があると指摘する。同氏へのヒ アリング調査(実施日:2008年4月18日)より。
17 公共経営の定義について、片岡(2003)は、公共経営をマクロ、メゾ、ミクロの3つの段階 に分けて定義を試みている。以下、それぞれの詳細について述べる。片岡(2003)は、マク ロ・レベルでの公共経営とは、「社会的存在を分かち持つ人々が、公共部門、民間部門及 びシビック部門に働きかけて単独にかあるいは相互に力を合わせた協力を引き出し、そ れらの部門との協働で共通のニーズを充足するための公共目的を設定し、その達成を図 って社会的諸問題を解決し、公共の利益を実現していくための集合的営為である」と定 義付けている。全社会的規模における公共経営の単位は、国家的に組織された社会であ るが、このことから、公共経営の単位としては様々な集団や組織があり、また、国家の 領域を越えて展開される国際的単位もある。公共の利益は、様々なレベルでの単位を通 じて、多元的かつ重層的に実現されていくものである。独占的にそれが営まれる単位は 存在しない。それだけではない。社会の複雑性と相互依存性が増大し、目まぐるしい変 動に見舞われている今日の状況においては、1つの問題は、他の問題群と密接に関係して いるため、一元的なアクターのみでは解決には限界がある。政府公共部門といえども、
社会的諸問題を有効に取り扱うためには、独自の取り組みをするばかりではなく、民間 部門やシビック部門とパートナーシップやアライアンスを組み、協力・協調していく姿 勢が求められる。次に、メゾ・レベルでは、「公共部門、民間部門、シビック部門のそれ ぞれに属する単位がその同一部門および部門を越えた水平的ないし垂直的協力・協働に より、社会的諸問題を解決し、公共の利益の実現に貢献していくことである」と定義付 けている。先述のような協力・協働関係がもたれるのは、それぞれの部門のもつ不完全 な力を結集し、補い合って公共の利益の実現に貢献するための立場を強化するためであ る。そして、ミクロ・レベルでは、「変動して止まない環境の中で将来に対する展望と構 想を持ち、公共の利益の推進に直接ないし間接に係わる使命と任務を設定し、持てる資 源と管理システムおよび技術的なノウハウを活用するよう組織の構成員を統合、掌握し、
動機づけを与えて指揮し・動員し、それぞれの仕方で公共の利益に貢献して行くことを 図る活動である」と定義付けている。以上、3つのレベルの定義は、互いに独立している ものではない。相互に密接に関連するものである。なぜならば、マクロ・レベルでの定 義は、メゾ及びミクロの定義のコンテクストを明らかにしている。それと結び付かなけ れば、ミクロな意味での公共経営が、目指す公共の利益がどことどこから生まれ、誰の ために奉仕することを目的として営まれるかが曖昧化してしまうからである。本稿にお ける公共経営の定義も、片岡(2003)の定義にもとづくものである。片岡(2003)、12-14頁。
18 プラットフォームの運営をめぐっては、吉田(2006)、35-36頁。
19 木原(2006)、67-69頁。
20 浅岡(1999)、99-101頁。
21 パットナム(1993)、220頁。
22 吉田(2006)、35-36頁。
23 黒澤武邦氏(有限責任中間法人シンクタンク2005・日本 主任研究員)は、ネットワーク型 組織といえども、事務局スタッフが充実していなければ、プラットフォームはただの集 会の場と化す可能性があると指摘する。そこで、事務局のみが組織化され、課題ごとに 人材が流動するネットワーク型のシンクタンクを強調する。同氏へのヒアリング調査(実 施日:2007年12月4日)より。
24 新川達郎(2007)「協働型社会における人材の育成と活用」日本公共政策学会主催「公共政 策フォーラム2007 in 京都」シンポジウム「協働型社会を支える地域公共人材を考える―
地域公共人材の育成と社会的認証の制度化―」における基調講演資料(開催日:2007年9 月4日)。