第 5 章 地方議会及び地方議会事務局の課題と展望
第 2 節 地球温暖化防止に関する条例
第1項 国・地方の地球温暖化防止に対する政策と市民参加
オゾン層の破壊と同様、地球温暖化問題は、人類にとって切実な地球環境問題である。
ここで、一口に環境問題といっても、地球環境問題、生活環境問題など、様々なレベルで の環境問題がある。しかし、冷蔵庫やエアコンで使用されるフロン、自動車からの排気ガ
スが原因で二酸化炭素が排出される実態を考えれば、市民が日常的に使用するものが発生 源といえる。フロンや地球温暖化もその発生源は、身近な地域の生活環境から発生するも のであり、最終的には地球全体にまで及ぶという性格上、生活環境問題と地球環境問題は 切り離して考えることはできない。そして、市民は環境問題の被害者であり、同時に加害 者でもある。環境問題の発生源は地域であるため、地域に生活し、地域の特性や実情を何 より把握している市民は、市民参加を通して、そのノウハウや専門性を政策に反映させる ことで、市民感覚との乖離のない「政策の市民化」を実現させることが不可欠である。
1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロでのUNCEDとその実施計画である「アジェ
ンダ21」のなかに、パートナーシップの原則と基本施策が盛り込まれた。つまり、「環境と
開発に関するリオデジャネイロ宣言」第10原則では、公益としての価値を有する環境を保 全するために、市民参加の必要性が唱えられており8、今や、環境政策への市民参加は世界 的な潮流といえる。
日本においても、日本国憲法上の基本的人権としての環境権が、憲法第13条(幸福追求権) 及び第25条(生存権)を根拠に保障され、リオ宣言を受けて、環境基本法9、環境基本計画10、 そして、地方自治体で制定されている環境基本条例のなかでは市民参加を制度的に保障し ているものが少なからず存在する11。地球温暖化対策においても、市民1人1人が被害者で あり、かつ、加害者であるため、国や地方自治体のみならず、市民や事業者を含めたすべ ての主体と協働しながら、環境活動を促進するための条件整備や制度設計を展開すること が喫緊の課題である。国レベルでの地球温暖化対策の動向として、COP3において採択され た京都議定書の着実な実施に向け、地球温暖化防止に係る具体的かつ実効ある対策を総合 的に推進するため、1997 年12月19日、閣議決定により内閣に地球温暖化対策推進本部が 設置された。1998 年には、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下、地球温暖化対策 推進法と称する)が成立した。その後、2005年2月16日、京都議定書の発効に伴い、地球 温暖化対策の推進に関する法律の改正法が施行され、地球温暖化対策を総合的かつ計画的 に推進するための機関として、法律にもとづく本部として改めて内閣に設置された(図表15)。
図表 15:国による地球温暖化対策の経緯 年月日 動向
1997年12月1-10日 気候変動枠組条約第3回締約国会議(京都)(京都議定書を採択) 1997年12月19日 (旧)地球温暖化対策推進本部を閣議決定にもとづき設置 1998年6月19日 「地球温暖化対策推進大綱」を本部決定
2002年3月19日 新たな「地球温暖化対策推進大綱」を本部決定 2002年6月4日 我が国が京都議定書を締結
2002年6月7日 改正「地球温暖化対策の推進に関する法律」を公布
(京都議定書発効後、地球温暖化対策推進本部を法律に基づく本部とし て設置、京都議定書目標達成計画の策定を行う旨)
2005年2月16日 京都議定書発効。「地球温暖化対策の推進に関する法律」にもとづく地球 温暖化対策推進本部の設置
2005年2月18日 (旧)地球温暖化対策推進本部の廃止を閣議決定
2005年4月28日 「京都議定書目標達成計画」を閣議決定。(旧)「政府がその事務及び事業 に関し温室効果ガスの排出の抑制等のため実行すべき措置について定め る計画」(〜2006年度)を閣議決定
2007年3月30日 「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の抑制等のため実 行すべき措置について定める計画」(〜2012年度)を閣議決定
2007年5月24日 ポスト京都議定書の枠組み構築に向け「美しい星へのいざない『Invitation to "Cool Earth 50"』」を内閣総理大臣から世界に向けて提案
2007年6月1日 「21世紀環境立国戦略」を閣議決定
(出典)「各種本部・会議等の活動情報(地球温暖化対策推進本部の経緯)」『内閣官房』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/keii.html(最終閲覧日:2008年6月25日)をもとに筆 者作成。
政府は、2008 年6月16日には、北海道洞爺湖サミットを控え、「低炭素社会」の実現に 向けて、政策提言を行っている12。地球温暖化対策推進本部は、地球温暖化対策推進本部長、
地球温暖化対策推進副本部長及び地球温暖化対策推進本部員をもって組織化される(地球温 暖化対策推進法第 12条)。本部長には内閣総理大臣があてられ(同法第 13 条)、副本部長に は、内閣官房長官、環境大臣及び経済産業大臣があてられる(同法第 14 条)。本部員には、
本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣をもってあてられる(同法第15条の2)。
地方レベルでは、地方自治体が地球温暖化対策の強化を目指す温暖化対策条例が広がっ てきており、2007 年7 月の時点で、7つの地方自治体において制定されている。具体的に は、京都市の温暖化対策条例をはじめとして、大阪府、京都府、長野県、静岡県、和歌山 県、千葉県柏市で制定されている13。
第2項 事例①:京都市地球温暖化防止条例
京都市では、COP3に向けて1997年に同市で作成されたローカル・アジェンダ21である
「京のアジェンダ」を作成した。そのなかで掲げた重点課題や取り組みを実現するための 推進組織として、1998年11月23日に活動を開始したのが「京のアジェンダ21フォーラム」
である。「京のアジェンダ21フォーラム」の2008年6月時点での会員数は、個人会員が 253名、団体会員が289団体で、合計542会員に達している。設立当初は、「ライフスタイ ル」、「企業活動」、「エコツーリズム」、「環境にやさしい交通体系の創出」、「エコミュージ アム」の5つのワーキンググループで開始された。さらに、2003年に「食の循環」、「えこ まつり」、「自然エネルギー」の3つのワーキンググループが設立され、8つのワーキンググ ループの体制となった14。「京のアジェンダ21フォーラム」では、当時、京都市で検討が進
められていた地球温暖化対策に関する条例案をより良いものにする提案を行うため、フォ ーラム規約第38条に規定されている特命事項に関するプロジェクトチームとして、幹事会 が「地球温暖化防止条例協働提案プロジェクトチーム」を設置した。プロジェクトチーム からの呼びかけで、フォーラムのワーキンググループを中心に「ライフスタイル・住宅」、
「交通」、「企業」、「エネルギー」、「観光」の5つのテーマ部会を開催し、プロジェクトチ ームが部会からの意見や提案を集約しながら、協働提案素案としてとりまとめた15。
その後、京都市は、2004年8月11日に、「京都市地球温暖化対策条例(仮称)大綱」を公表 し、市民、事業者からの意見募集が文書による方法と「地球温暖化対策条例を考える市民 会議」において意見発表をする方法で実施された。同年8月から9月にかけて、プロジェ クトチームでは、市民会議への対応についてプロジェクトチームとして、全体的な意見に ついては、2004年9月5日に開催された第5回市民会議で発表し、各施策別の意見につい ては、各ワーキンググループを中心とする各部会に発表、もしくは意見提出を呼びかけた。
そして、同年11月の定例市議会へ「京都市地球温暖化対策条例案」を提案し、翌月12月に は全会一致で可決された16。同条例は、2005年4月1日より実施されている。
大久保(2006)によれば、そもそも、環境分野において、多様な主体からなる既存の法定協 議組織とは、①動物愛護・管理法第22条にもとづく協議会、②地球温暖化対策推進法第26 条にもとづく地球温暖化対策地域協議会、③自然再生法第8条にもとづく自然再生協議会 の3つのみである。しかし、地方レベルにおいては、例えば、豊島廃棄物処理協議会など、
従来、法律・条例にもとづかない様々な非法定協議組織が設置されてきた。「京のアジェ ンダ21フォーラム」も、そのうちの1つである17。
さらに、高橋(2004)は、「京のアジェンダ21フォーラム」を環境パートナーシップ組織 として詳細に議論している。高橋(2004)によれば、多様化した環境パートナーシップ組織を 分類するための基準として、①設置根拠(要綱設置なのか、会則・規約で設置するのか)、② メンバーの資格(首長に委嘱された「委員」なのか、それとも「会員」なのか)、③事務局機 能面における行政からの自立性(行政が担当するのか、市民や事業者と行政が分担するのか、
市民や事業者が担当するのか)、④収入面における行政からの自立性(財政的に行政に大きく 依存しているのか、それとも会費収入や行政以外からの受託収入が相当割合を占めている のか)という4つの基準を組み合わせると、環境パートナーシップ組織の6つの類型化を導 出することができるとする18(図表16)。
図表 16:環境パートナーシップ組織の6類型
設置根拠 メンバーの資格 事務局機能 財源
委員会型 要綱等 委員 行政依存 行政依存
行政主導型 要綱等 会員 行政依存 行政依存
行政支援任意団体型 会則・規則等 会員 行政依存 行政依存 共同事務局型 会則・規則等 会員 市民・行政共同 行政依存
行政支援NPO型 会則・規則等 会員 市民主体 行政依存 自立的NPO型 会則・規則等 会員 市民主体 会費・事業収入中心 (出典)高橋(2004)、113頁をもとに筆者作成。
高橋(2004)によれば、「京のアジェンダ 21 フォーラム」は、共同事務局型の範疇に属す るという。会の本体に関わる一般会計は、2002 年度の決算で約 1,455 万円であるが、この うち会費収入は 4%程度であり、収入の約 91%が京都市からの受託料収入(「京のアジェン ダ21推進事業に関する業務委託」)によるものである。事務局は、京のエコロジーセンター に常駐する市民側の常勤職員3名とITアシスタント、そして、京都市役所環境政策部地球 環境課の職員と市民の両者で分担している。両者の役割分担は、市民側でニュースの編集・
発行やメーリングリストの運営などの広報、各プロジェクトチームやワーキンググループ の調整を担当する一方で、行政側は幹事会や総会の議案などの総務的な業務、入金・出金 管理などの経理的な業務、庁内各課への依頼や調整などを担当している。さらに、先述の 一般会計収入のうち、約69%に相当する約999万6千円が市民側の職員やアシスタントの 賃金や社会保険料などの人件費に充当されている。なお、「企業活動」ワーキンググループ は 、「 環 境 マ ネ ジ メ ント シ ス テ ム・ ス タ ン ダー ド 」(Environmental Management System
Standard:以下、KESと称する)19を創出し、事業部を独立設置して、認証事業を行っており、
KES 認証事業部の審査料、コンサルティング料などの収入は、フォーラム本体とは別立て の特別会計で運営されている20。
「京のアジェンダ21フォーラム」の事例は、COP3の舞台にもなった京都で、市民・企 業・行政が三位一体のパートナーシップを図った上で、制度づくりに際して政策形成過程 における市民・行政職員の参画を通して学習と相互理解を深めながら、制度の実効性確保 作業を参画の時点からはじめていた。政策形成過程において行政側が市民側を政策実施の パートナーとして認識した上で、市民社会が行政に対して市民的専門性の高い対案提示能 力を示し、協働で条例をつくりあげることができた成功要因には、環境パートナーシップ 組織である「京のアジェンダ21フォーラム」を中心に市民協働が図られたという点である。
第3項 事例②:地球温暖化防止熊本市民条例案
熊本市においては、京都市にみた「京のアジェンダ21フォーラム」のような環境パート ナーシップ組織は存在しないなかで、市民主導により市民提案が提出されている。「地球温 暖化防止熊本市民条例案」である。市民主導で市民提案が出されたことは、市民立法を考 える上で意味は大きい。
高橋(2002)21によると、熊本市で2000年4月22日に、市民活動団体である「アースウィ ークくまもと」が「アースウィークくまもと 2000」という記念イベントの一環としてのシ ンポジウムを開催した。そこで、市民活動団体の「温暖化防止くまもと市民会議」が、「地 球温暖化防止熊本市民条例案」22を発表した。「温暖化防止くまもと市民会議」とは、1999