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地域コミュニティ政策の沿革

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 129-132)

第 7 章 日本の地域コミュニティ政策の歴史的沿革と変容

第 3 節 地域コミュニティ政策の沿革

第1項 第1期 自立と連帯による包括型コミュニティを目指して(1960〜1970年代) 1960年代、我が国は、高度経済成長を迎え、人口、産業の大都市への集中が進むなかで、

都市部では、周辺地域からの人口流入により地域における互恵機能が低下した。つまり、

価値観の異なる新住民が多数流入したことにより、伝統的な慣習や社会関係、さらには、

社会秩序が崩壊し、住民の地域への意識や地域の課題解決能力が低下するなど、地域社会 の解体が進行した。首都圏・近畿圏などの、いわゆる大都市部において、過密問題が浮上 する一方で、農村部では、過疎問題が生じるなど、従来からの村落共同体を維持し形成す ることが困難となり、地域社会が著しく変貌した。要するに、都市部においても、農村部 においても、構成員たる住民の大規模な流入・流出にともない、伝統的な地域社会は衰退 し、地域自治の基盤が掘り崩されることとなったのである24

そのような地域社会の変貌や解体の動向に対応する形で、地域社会を統合する包括的な 新しい視点や方策が求められるようになり、1970年代以降、「コミュニティ政策」が推進さ れることとなった。その契機となったものが、国民生活審議会の調査部会コミュニティ問 題小委員会から提出された報告書である。1968 年1月に、内閣総理大臣より同審議会に対 してなされた「経済社会の成長発展に伴い変化しつつある諸条件に対応して、健全な国民 生活を確保するための方策いかん」という諮問に応えて出されたものが、先述した『コミ ュニティ―生活の場における人間性の回復―』である。

そして、第14次地方制度調査会の「大都市制度に関する答申」(1970年11月20日)25で は、新しい地域共同体としてのコミュニティ形成の必要性を指摘し、地方自治体が新しい 住民の連帯意識醸成の見地からコミュニティの健全な育成をはかるべきであるとの答申が なされた。それを受けて、1971 年には自治省(当時)が、「コミュニティ(近隣社会)に関する 対策要綱」を示し、いわゆるモデル・コミュニティ事業が開始された。同事業により、お おむね小学校の通学区域程度の規模を基準とした「モデル・コミュニティ地区」を設定し、

以後3年間に全国で83のモデル・コミュニティが指定され、それぞれのモデル・コミュニ ティで施設整備等が進められた26。地域住民の参加のもとで地方自治体によるコミュニティ 整備計画の策定など、新しいコミュニティづくりに資する施策が展開されたわけである。

また、1973年の第15次地方制度調査会の「今後の地方行財政のあり方に関する中間答申」

(1973年11月9 日)27のなかでは、「コミュニティと住民参加」という項目を設け、「新しい

コミュニティづくりは、住民参加の充実との関係でも重要な意味をもつものであり、住民 と行政の担当者にとって新しい住民参加の経験の場となっているものと考えられる。コミ ュニティづくりにおいては、身近な生活問題から出発して、問題を住民と行政の担当者と が一体となった討議の中で決定し、それが行政の施策として実現するという過程が繰り返 されている。このようなささやかであるが有意義な経験が長年にわたって積み重ねられる ならば、より大きな課題を住民参加によって解決していく基盤が培われることが期待され

る」28と述べている。このように、コミュニティづくりは、地域住民自らが住民参加を通じ て、地域のコミュニティ計画を作成するという動きに発展した。

さらに、第16次地方制度調査会の「住民の自治意識の向上に資するための方策に関する 答申」(1976年6月18日)29及び第17次地方制度調査会の「新しい社会経済情勢に即応した 今後の地方行財政制度のあり方についての答申」(1979年9月10日)30においては、地方自 治体は、地域住民による地域の連携と地域づくりに根差したコミュニティ活動が行われ、

地区の将来像や生活基盤整備等の地域に即したコミュニティ計画が策定されるよう、必要 な支援策の検討をすべきであるとしている。

第2項 第2期 テーマ・コミュニティの形成(1980〜1990年代)

1980 年代以降、我が国では、高齢化が急速に進展すると同時に、人口減少が農村部のみ ならず都市部においても進行するようになった。行政側の動向として、自治省(当時)は、1983 年から1985年にかけて、全国147地区の「コミュニティ推進地区」を指定し、地域社会の 再生に取り組んできた。さらに、自治省(当時)は、1990年から 1992 年にかけて、141地区 の「コミュニティ活動活性化地区」を指定した。この「コミュニティ活動活性化地区」で は、従来のコミュニティ・センターなどのハード型事業ではなく、まちづくりや文化イベ ント活動等に対する支援策に重点が置かれている。総じて、1980年代から1990年代にかけ て、コミュニティ政策が、まちづくり、地域福祉、地域防災、生涯学習など個別の政策課 題(テーマ)に特化していくテーマ・コミュニティを形成した時期である。

一方で、市民社会においても、1980 年頃から、市民ボランティアや市民活動団体による まちづくり、環境、福祉、防災など地域の課題への対応が徐々に広がりをみせるようにな った。地方自治体においても、多様化し増大する行政需要やバブル崩壊後の財政難などか ら、地域の公共的課題解決のためには市民活動の協力が必要だとの認識されるようになり つつあった。1995 年の阪神・淡路大震災をひとつの契機として、ボランティア活動や

NGO/NPOに対する社会の認識も大きく変化し、市民活動の社会的な位置付けを明確にすべ

きという機運も高まり、1998年にはNPO法が制定された。これによって、市民活動団体に よる法人格の取得が可能となり、市民活動の健全な発展や公益の増進への貢献などが明文 化された。その後、長年にわたって、その中心的な役割を果たしてきた自治会・町内会等 の地域自治組織がある一方で、NPO などの市民社会組織の多くも地域に内在する問題に目 を向け、その活動が増すなかで、両者の補完関係構築の模索がはじまっている。阪神・淡 路大震災に端を発し、NPO 法を制定させた市民による危機管理や多種多様な行政との協働 の動きなど、都市部ばかりでなく地方の中小規模の地方自治体も含め、全国至るところで 市民による先端的な動きが地域社会を確実に動かしつつある。このような市民による政治 的ダイナミズムが、全国的に大きく波及して影響を与えるまでになっているといえる。経 済成長を背景とする中間層の拡大と定着による地域社会の成熟化にともなって、従来の要 求・批判型市民運動としてではなく、先述した川崎市のように政策提案・市民参加型の市

民活動が各地で芽を出している。自らが地域の公共的課題を解決する主体であると認識す る市民の存在は、日本に本来の意味における市民社会が定着する可能性を示すものとして 注目できる。

第3項 第3期 多元的参加による課題解決型コミュニティを目指して(2000年代以降) 近年、人口減少や少子高齢化、都市への人口移動など、地域を取り巻く環境がさらに大 きく変容し、地球規模で悪化が進む環境汚染やいじめ、犯罪の多発などの社会問題が深刻 化するなかで、改めて身近な生活圏域における活動、そして、地域の絆に関心が集まりつ つある。そのような状況のなかで、コミュニティの捉え方にも変化が窺える。1970 年代の 包括型コミュニティや1980年代から1990年代にかけてのテーマ・コミュニティに対して、

2000年代に入ると、「自治的コミュニティ」という用語が提起されるようになった31。地域 住民の多種多様な個別の政策課題を重視しながら、地域の総合的な視点から住民自治・近 隣自治を確立していくことが重要視された。小内(2006)は、「今日、新たに生み出されてい るコミュニティ再形成の動きは、多様な主体によって、多様な形で取り組まれるようにな っている点に、新しい特徴がある」32と指摘している。つまり、コミュニティ再生には、多 様な主体による参加が必要だと認識されるようになってきたのである。このことは、国の 認識にも表出されている。例えば、内閣府国民生活局(2003)は、市民活動が活発で、連携・

連帯が強い地域は、犯罪防止や少子高齢化など地域の課題発見、対応が迅速であり、地域 社会・経済の安定や活性化が期待できるという考え方を示している33

また、第 27 次地方制度調査会(2003)では、既存の自治会・町内会などの地域住民組織と

NGO/NPOなどのテーマ・コミュニティ組織を合わせ、行政と住民が相互に連携し、ともに

公共性の担い手となり、「新しい公共空間」を形成していくことを目指すべきであると提言 している34。そして、この調査会答申を受け、2004年に「地方自治法の一部を改正する法律」、

「市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律」及び「市町村の合併の特例等 に関する法律」(以下、合併特例法と称する)からなる合併関係三法が公布され、地域社会に おける住民自治の強化と、行政との協働推進のための組織として、地域自治組織等の法制 化が行われた。

さらに、2005 年には、コミュニティを再興していくためには、①幅広い世代や多様な価 値観をもつ人々の参加を受け入れる多様性と包容力、②地域の問題を市民自ら取り組む自 立性、③コミュニティ外との積極的な対話や交流を図る開放性という 3 つの条件を備える 必要があり、この条件を満たすコミュニティの理想像として、地域コミュニティとテーマ・

コミュニティとが必要に応じて融合し、地域社会を担う多様な主体の参加や多くの市民活 動団体の協働を促していく「多元参加型コミュニティ」が求められると国民生活審議会が 提言している35

昨今、全国各地で、町内会・自治会が中心となって、まちづくりを推進したり、地域住 民がNPOを結成し、地方自治体と協働しながらまちづくりや村おこしに取り組んでいたり

ドキュメント内 2008 年 10 月 博士(公共経営)学位論文 (ページ 129-132)