第 9 章 プラットフォーム各論(1)―3 事例による組織形態分析―
第 3 節 「公共経営プラットフォーム」の形成と発展
杉山(2006)によれば、市民活動とは、「地域に共通する問題や課題について、NPOや市民 が、地域社会の改善を目指し、自発的に活動を繰り広げること」12を意味する。具体的には、
ボランティア活動や趣味などを通して自己充足感を求める同好会の活動、NPO による非営 利活動、町内会や自治会などの地域自治組織による地域のコミュニティ活動などが含まれ、
「地域社会への市民参加の最も代表的な例」13であるとする。市民活動が地域社会への市民 参加であるならば、先述した通り、須田(2001)が「究極の市民参加」14とする市民立法も市 民活動に含まれる。
以上をまとめると、地域の公共的問題解決を図るためには、「地域力」の源泉であるソー シャル・キャピタルを醸成することが必要である。ソーシャル・キャピタルと市民活動は 相互作用的な関係であるため、公共政策形成のための市民活動の促進がソーシャル・キャ ピタルの醸成、ひいては、「地域力」の向上につながる。ソーシャル・キャピタルの醸成に は社会的装置としてのプラットフォームが求められる。そして、プラットフォームが、市 民立法を促進させるためには、公共目的を設定し、その目的達成のために利害を集約化し、
調査・研究15し、公共政策の提言ができるシンクタンクとしての機能16を有する必要がある。
つまり、「公共空間を創出したり、公共空間として機能したりする役割を担いながら、公共
政策形成のための市民活動を促進してソーシャル・キャピタルを醸成することにより『地 域力』を向上することを目指すシンクタンク」としての「公共経営プラットフォーム」17を 形成することが必要である。
「公共経営プラットフォーム」が市民参加型の政策形成の場としての役割を担うことが できるとすれば、市民が「公共経営プラットフォーム」を通して市民参加し、そこで代議 制のみでは政策に反映することのできない市民の意見を集約し、利害関係者の間で利害集 約化したものを市民提案としてまとめる。その際、地域の大学等の高等専門機関と協働し て市民提案の法案の内容をより精緻化させる。精度の高い市民提案を行政や地方議会に働 きかけ、「協働型」市民立法を実現することが可能となる。
新たな市民参加型の政策形成手法としての「公共経営プラットフォーム」の実現に向け て、次の5段階が必要となる18(図表49)。
第 1 段階は、市民社会組織、地方自治体、地方議会、地域の大学等の高等専門機関の間 で相互に合意した「地域社会憲章」とその憲章をより具体化した「パートナーシップ協定」
を結ぶことで人的交流を促進させる環境を整備する。
第 2 段階は、政策情報を共有できるプラットフォーム運営の基本指針や相互の役割分担 及び責任の所在を地域社会憲章で明確に定め、具体的な運営ルールや仕組みをパートナー シップ協定で漸進的に付加していく柔軟な運営方式を定める。非営利型株式会社の組織形 態では、意思決定が株主総会の議決に依存してしまい、他律的で脆弱である。地域コミュ ニティの方向性と株主総会の意思が不一致の場合なども想定できる。そこで、株式会社の 意思決定の脆弱性を克服するために、「地域社会憲章」と「パートナーシップ協定」によっ て、地域コミュニティと株主総会の方向性を担保し、整合性を図る。
第 3 段階は、行政資金と市民の寄付及び企業寄付等により、行政から独立する形でパー トナーシップ協定にもとづき、毎年、市民税の 1%を市民基金にあてる19ことで、行政の下 請け化から脱却する。
第 4 段階は、パートナーシップ協定の説明責任を果たし、市民の既得権益化を防ぐため にも、毎年定期的に市民に情報公開し、市民自らプラットフォームの運営成果を容易にモ ニタリングできる仕組みを構築することである。現在の情報公開制度については、現在の 日本においては、市民参加型社会の大前提ともいうべき情報公開の遅滞があることを否め ない。行政機関が保有する情報についてはいうまでもないが、プラットフォームにおいて は、地方議会や社会的存在である企業の情報についても、透明性を高めることなくして民 主性は高まらない。しかし、浅岡(1999)が指摘するように、国の行政機関が保有する情報に ついての情報公開法は、国民の知る権利を認め、政策形成過程における情報を積極的に開 示するものとなっていない。濫用防止を理由として請求及び閲覧手数料を徴収し(情報公開 法第 16 条)、不開示決定に対する地方裁判管轄を高等裁判所所在地にしか認めていない(同 法第36条)ことにも、日本における情報公開の壁の厚さが示されている20。
図表 49:「公共経営プラットフォーム」・モデル
〜二元代表制〜
「政策の市民化」(市民立法)の実現
市民 市民参加
選挙を通して、首長・
議員を選出
地方議会 行政
首長 行政職員
地方自治体シンクタンク
市民参加 (4)市民教育
(5)ソーシャル・キャ ピタルの醸成
議会事務局 市民提案条例 議員提案条例
「公共経営プラットフォーム」
NPO (1)「協働型」市民立法
(地方議会ルート)
企業 市民活動団体
大学
地域自治組織
(3)共同研究
協働 (2)「協働型」市民立法
(行政ルート)
(注)(1)地方議会に対して、地方議会事務局との協働をはかりながら、「協働型」市民立法を促進 させること、
(2)地方自治体に対しては、「協働型」市民立法を促進させること、
(3)地域自治組織、地域の大学や企業、その他の市民社会組織と共同研究を進め、専門性を 高めること、
(4)市民教育、
(5)橋渡し型ソーシャル・キャピタルとして、ソーシャル・キャピタルを醸成する。
(出典)筆者作成。
プラットフォームにおける市民活動活動を支援するためには、情報公開の制度を健全に 整備することは前提である。また、各主体のパートナーシップの可否は、市民の評価にか かるところが大きく、市民社会との信頼関係の醸成こそ重要な基盤となる。ここでいう「信 頼」とは、単なる個々人の心の問題ではない。パットナム(1993)が、「信頼自体、個人的属 性であるのと同様に社会システムの創発特性でもある」21と指摘しているように、信頼なく しては、「公共経営プラットフォーム」が成立しえない。
第 5 段階は、地域社会憲章とパートナーシップ協定の締結を基本に、開かれた透明性の 高いプラットフォームを運営し、継続的に研究成果の政策への反映性を高めることで、地 域の合意と支持を得る形で存在意義を強める22。「公共経営プラットフォーム」が、地域の シンクタンク23として機能し、「地域力」を涵養させることが必要である。