第 7 章 日本の地域コミュニティ政策の歴史的沿革と変容
第 4 節 地域コミュニティ政策への批判
1960年代以降進められてきた地方自治体レベルでの地域コミュニティ施策は、自治省(当 時)のモデル・コミュニティ事業をうけて、全国的に展開されてきたものである。倉沢(2002) によれば、地方自治体は、「①ゾーニング(地区割り)、②施設建設、③地域住民の組織化」
の3点セットで取り組んできたものが多い37。すなわち、①地方自治体の区域は、小学校区 などを基礎にしていくつかのコミュニティ地区に割り付けた上、②各コミュニティ地区に コミュニティ・センターを建設し、③コミュニティ・センターの管理運営を、自治会・町 内会を母体とした運営協議会などの地域自治組織に委ねるという方式が流布したのである。
そして、倉沢(2002)38は、地方自治体の地域コミュニティ施策をめぐって、これまで問題提 起され、批判されてきた問題点を4点指摘する。「官製コミュニティ」、「ハコモノ行政」、「コ ミュニティの矮小化」、「コミュニティづくりの現場」の問題である。
「官製コミュニティ」の問題とは、本来、コミュニティの形成は、住民の自発的かつ主 体的な取り組みに待つものである。それにもかかわらず、例えば、自治省(当時)のモデル・
コミュニティ施策という形で行政が先導して行うコミュニティづくりは、官製のコミュニ ティづくりではないかという批判である。
「ハコモノ行政」の問題とは、行政は、コミュニティ施策の名の下に、まちづくりセン ターやコミュニティ・センターのような集会施設などの「ハコモノ」をつくったに過ぎず、
それだけで終わってしまっては、外形だけで内実をともなったものとなっていないのでは ないかという批判である。
「コミュニティの矮小化」の問題とは、行政と地域住民の双方に該当する問題点である。
コミュニティは、専門処理システムと相互扶助システムを最適に結合した地域社会システ ムを築きあげようとする社会目標をもっているにもかかわらず、コミュニティ・センター 建設とか親交を深めるレベルでよしとすることは、社会目標としてのコミュニティの最も 肝要な部分を看過し矮小化されているのではないかという批判である。
「コミュニティづくりの現場」の問題とは、例えば、広島県三次市などでコミュニティ・
センターの管理運営の場が経験している問題である。まず、ここであげられるのが、担い 手の不足である39。当初、コミュニティ・センター建設段階では、多くの地域住民が興味と 関心をもって積極的に参加しても、次第に熱意が冷め、無関心になっていく可能性がある。
担い手の新陳代謝が起きないと、次第に参加者の固定化・高齢化や活動のマンネリ化が進
み、新しい参加者の発掘が困難となるなど、悪循環に陥ってコミュニティの活性が失われ ているのではないかという批判である。
第 5 節 まとめ
コミュニティ施設のあり方について、奥田(1980)は、「『コミュニティ施設』には、住民に とって、利用者、サービス受益者側からの接近だけでなく、空間の共有的状態の復権、共 同管理を実質とするという含意がある。そもそもコミュニティ形成には、公と私、提供者 と利用者といった分解を、あるレベルで統合化の方向へ転化させる可能性が期待されてい る。そして、共有的・基盤的なものをふくむことによって、都市の内部に、より確からし い安定した組織体が期待できることになる。この意味では、コミュニティ形成は、都市、、、、、、、、、、、、、、
都市行政体と住民とを媒介する、中間集団・組織体として位置づけられる、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
ことになる」40(傍 点は濱崎)と指摘する。
いくらコミュニティ・センターを建設しても、地域住民のニーズと整合性がとれていな ければ、コミュニティ施設はうまく機能しない。本質的な地域住民のニーズをいかに吸い 上げ、コミュニティ施策につなげていくか、「政策の市民化」が問われている。
小滝(2007)は、コミュニティ地区が地域住民の発意にもとづく自主的なものでなかったこ ともあり、また、コミュニティ施設が地方自治体のアクセサリー的施設として形骸化して いたこともあり、総じてコミュニティ施策自体がセレモニー化したため、必ずしも成果を あげる状況には至っていないと指摘する41。つまり、市民ニーズのあまりない地方自治体で も、アクセサリー的施策として打ち出されてきたところもあり、行政主導で地に足が着か ないまま空転して終わっているのである。コミュニティ・センターを評価すると、肯定的 評価・否定的評価の二面性がある。
肯定的評価としては、例えば、東京都三鷹市や武蔵野市ではコミュニティ・センターな どのハード型施設の運用面でコミュニティ形成が図られたことである。だが一方で、否定 的評価としては、地域社会が抱える課題は、地域によって多種多様であるため、先述の倉 沢(2002)の指摘にもあるように、施設こそはできたが地域住民の社会的参加が促されずに形 骸化してしまった。さらに、そのイニシャル・コスト以上にランニング・コストがかさむ という結果となり、地域再生のための地域コミュニティ施策が、かえって地方自治体の財 政難に拍車をかけていることである。総じて、ハード型の地域コミュニティ政策の限界を 露呈しているといわざるをえない。
脚注
1 西澤(2000)、176頁。
2 地方政治の基礎構造分析として、地帯類型論が展開されている著作。古城(1977)は、農工
間の不均等発展という視点を基礎にして、地帯類型を設定している。
3 島崎(1978)は、都市の類型化を通して、「近代都市から現代都市への二重の展開」という 自らの仮説を実証している。
4 小内(1996)は、従来の多様な地域類型論を検討した上で、独自の視点から地域社会の類型 化を行っている。同時に、それぞれの類型の社会的な特質を、家族・世帯構成、職場組 織、学歴水準、階級構成の側面から分析している。
5 日本における都市研究の古典的著作。鈴木(1957)は、都市を結節機関の存在として捉え、
定義付けて、結節機関を介して成立する5つの「社会圏」の存在を指摘する。
6 笹森(1964)は、鈴木(1957)の理論を継承する立場で、リージョン分析のための類型設定を 試みている。
7 布施(1964)は、鈴木の結節機関論をさらに進め、「かつての史的発展の段階とは異なった 新たなる融合・統一としての地域社会」の構造的実態把握の視点と方法論を展開してい る。
8 酒井(2000)、152-153頁。
9 具体的な実証的検討から導出されたものではなく、理論的に提示された枠組みによって現 実を説明しようとしている点で、地域類型論とは異なる。
10 日本の地域構造の形成過程を理論的かつ実証的に把握し、現時の地域問題を地域諸類型 別にも指摘し、今後への政策的課題を国際化をも視野に入れて検討している。
11 橋本(1995)、9-12頁。
12 伊藤(2005)、42-65頁。
13 国民生活審議会調査部会編(1973)、2頁。
14 国民生活審議会調査部会編(1969)『コミュニティ―生活の場における人間性の回復―』コ ミュニティ問題小委員会報告、大蔵省印刷局。
15 江上(2000)、26-27頁。その他、高田(2000)、42-43頁及び酒井(2000)、152-153頁。
16 園田恭一(1978)『現代コミュニティ論』現代社会学叢書、財団法人東京大学出版会。
17 松原治郎(1978)『コミュニティの社会学』現代社会学叢書、財団法人東京大学出版会。
18 秋元律郎・倉沢進編著(1990)『町内会と地域集団』都市社会学研究叢書②、ミネルヴァ書 房。
19 中田実(1993)『地域共同管理の社会学』東信堂。
20 鳥越皓之(1994)『地域自治会の研究―部落会・町内会・自治会の展開過程―』関西学院大 学研究叢書第68編、ミネルヴァ書房。
21 佐藤慶幸(2002)『NPOと市民社会―アソシエーション論の可能性―』有斐閣。
22 大谷信介(1995)『現代都市住民のパーソナル・ネットワーク―北米都市理論の日本的解読
―』都市社会学研究叢書④、ミネルヴァ書房。
23 Wellman, B. (Ed). (1999). Networks in the global village: Life in contemporary communities, Boulder, CO: Westview Press.
24 小滝(2007)、145頁。
25 総務省自治行政局自治政策課編(2001)、329-351頁。
26 小滝(2007)、145-146頁。
27 総務省自治行政局自治政策課編(2001)、395-419頁。
28 総務省自治行政局自治政策課編(2001)、405頁。
29 総務省自治行政局自治政策課編(2001)、463-475頁。
30 総務省自治行政局自治政策課編(2001)、531-558頁。
31 財団法人日本都市センター編(2002)『自治的コミュニティの構築と近隣政府の選択―市民 と都市自治体との新しい関係構築のあり方に関する調査研究最終報告―』財団法人日本 都市センター。
32 小内(2006)、105頁。
33 内閣府国民生活局編(2003)、87頁。
34 第27次地方制度調査会(2003)、3-4頁。
35 国民生活審議会総合企画部会編(2005)。
36 小滝(2007)、147-148頁。
37 倉沢(2002)、25-27頁。
38 倉沢(2002)、27-28頁。
39 升井紘氏(布野町まちづくり連合会BRAINS アドバイザー)へのヒアリング調査(実施日:
2007年11月17日)より。
40 奥田(1980)、374頁。
41 小滝(2007)、144-145頁。