第 5 章 地方議会及び地方議会事務局の課題と展望
第 4 節 地方議会事務局のシンクタンク化
第1項 地方議会事務局の設置及び任務等
現行の地方自治法上、地方議会事務局は、府県では必置制がとられ、市町村では任意設 置制が採用されている。地方議会事務局とは、地方議会に関するすべての事務を分掌する 部課等の集合組織の総称である。地方議会の事務は、議長が統理し、議会を代表する(地方 自治法第104条)。議長が議会に属する庶務を処理するためには一定の組織と職員が必要で ある。このような要請から、都道府県の議会に事務局を設置し、市町村の議会には条例で 事務局を設置することができる。都道府県の議会事務局が法律上、必置されている(同法第 138条第 1 項)のに対し、市町村議会の場合には、条例の定めるところにより事務局を任意 で置くことができる(同法第138条第2項)。このように、地方議会事務局の設置をめぐって は、都道府県、市町村で対応が異なる。地方議会事務局を置かない市町村の地方議会にあ っては、書記長、書記その他の職員を置くこととなる。町村の場合は、書記長を置かない ことができる(同法第138条第4項)。
地方議会事務局には、事務局長、書記その他の職員が置かれる(同法第138条第3項)。事 務局長、書記長、書記、その他の職員については、地方自治体の機関である議長の職員で あり、議長が任免権をもつ(同法第138条第5項)。これらの定数は、条例でこれを定める。
ただし、臨時の職については、この限りでない(同法第138条第6項)。当然、地方自治体の 職員であるため、任用、職階制、給与、勤務時間その他の勤務条件、分限及び懲戒、服務、
研修及び勤務成績の評定、福祉及び利益の保護その他の身分取り扱いに関しては、地方公 務員法の定めによる(同法第138条第8項)。
地方議会事務局は、議会の事務を処理することを任務とする。事務局長または書記長は、
議長の命を受け、議会の庶務を掌理する(同法第 138条第7 項)。「議会の庶務」とは、先述 の地方自治法第 104 条の規定にもとづく議長の統理する「議会の事務」と同義である。だ が、議長がその地位において有する専属的権限は当然除外される。
また、地方議会の庶務を大別すると、議会の会議事務と行政事務とに分類できる。議会 の会議事務とは、議会全体に関する事務、会議及び委員会の運営に関する事務、議長権限 に伴う事務、会議録及び委員会記録の調製等があげられる。これらのうち、議会全体に関 する事務について、例えば、報告(同法第75条第3項・同法第199条第6項)、請願書(同法 第124条)、刊行物等の受理(同法第100条第15項・第16項)、照会(同法第100条第)である。
会議及び委員会の運営に関する事務とは、議場の準備、議案の配布、会議運営の補佐等で ある。議長権限に伴う事務とは、議決された条例・予算の送付(同法第16条第1項・第219 条第1項)、出席の催促(同法第113条)、招状の発送(同法第137条)、不信任議決の通知(同 法第178条第1項・第2項)等である。行政事務とは、人事、会計、議場の維持管理等の事 務、図書室に関する事務(同法第100条第17項・第18項)等がそれぞれあげられる32。 第2項 地方議会広報
地方議会における審議内容を広く、一般的に社会に対して情報発信する議会広報の役割 は、地方議会の会議公開原則の理念からも、また、代議制民主主義の観点からも極めて重 大である。地方の政治・行政体制において、行政側、つまり、執行部の広報は、地方議会 の議決の終わった新年度の予算等にもとづいて行われる新たな施策や事業を市民に周知す る役割をもつ。一方で、地方議会の広報は、このような新たな施策や事業が議決されるに 至る過程において、いかなる議論がつくされたのか、どのような経過を経て成立したもの なのかを市民に対して明らかにされるのであり、いわば審議プロセスの情報公開である。
その具体的方法は、文書によるものと、テレビ・ラジオなど、マス・メディアによるも のとの 2 点に大別できる。前者の文書によるものとしては、市民を対象として、全戸また は町内会・自治会単位で発行している広報紙、地方新聞への折り込みを行っているもの、
執行機関の広報紙の一部に議会広報のスペースを設置して配付しているものなど多種多様 である。後者のマス・メディアによるものとしては、地方議会が独自の企画により、地方 のテレビ局、ラジオ放送による広報を行っている。その他、放送局側からの取材依頼によ るもの、CATVによる広報もある33。最近では、執行機関や地方議会、または地方議員個人 のホームページやブログなど34において、インターネット上で情報発信や公開を行っている ものもある。内容としては、実際に議論している風景を録画して、それをインターネット 上で閲覧できるようなものであり、創意工夫して、審議プロセスの情報公開に積極的に取 り組んでいる。地方議会広報では、今後もインターネットを有効活用して、審議プロセス の情報公開に徹底することが求められる。
第3項 地方議会図書館
政府は、都道府県議会には官報、公報及び刊行物を、市町村議会には官報及び市町村に 特に関係があると認める政府刊行物を送付する(同法第100条第15項)。都道府県は、当該 都道府県の区域内の市町村議会及び他の都道府県議会に、公報及び適当と認める刊行物を それぞれ送付する(同法第100条第16項)。なお、議会の調査活動に資するために送付を義 務付けられている「政府刊行物」とは、国費によって発行頒布する各種資料等を指す。そ こで、地方自治法上、議会にはそれらの送付物を保管しておくための図書室を付置するも のとされている。つまり、議会は、議員の調査・研究に資するため政府または都道府県か ら送付を受けた官報、公報及び刊行物を保管しておく図書室を議会に付置しなければなら ない(同法第100条第17項)。
本来、議員は、議案を自ら立案提出し、また提出された議案を審査し、その他の議会活 動を行うにあたっては、予め、各種の調査・研究を行うものである。その際に、地方自治 体は、直接的または間接的に議員の要望に応えるべく、図書資料を議員に提供し、その便 宜に備えることが必要である。そのため、地方議会図書室が設置される。地方自治体の議 会図書室は、国立国会図書館とその趣旨は同じとしても、職員等の設置まですべて同一で はない。地方自治体の議会に付置し、議会事務の一部として、事務局の職員が管理するも のである。地方議会図書室の利用については、第一義的には議員が優先された上で、一般 に市民に利用されることもできる(同法第 100条第18項)。だが、その本来の利用主体は議 員であるため、地方自治法上の「公の施設」として管理するものではない35。
第4項 地方議会事務局の調査・研究機能を強化させるための方策
津軽石(2006)が指摘する通り、本来、議員提案条例の立案を支援するのは、地方議会事務 局の役割である。だが、小規模市町村の地方議会では、事務局体制が必ずしも十分ではな く、人手不足のため、条例立案サポートまで手が回らないのが実情といえる36。元々、地方 議会事務局は地方議会の補助機関であるため、地方議会の活性化を図るためには、第28次 地方制度調査会(2005)の「地方の自主性・自律性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申」
(2005年12月9日)も強調するように、まず地方議会を支援できるような地方議会事務局の
機能を充実させる必要がある37。
地方議会の改革論に関する先行研究では、大森(2002)は地方議会の自立性の確立を課題と して強調する38。山田(2007)は地方議会改革の視点を市民や地域からの視点に置換し、地方 議会の政策立案機能の向上は市民参加を通じて再検討する必要性を指摘する39。そして、江 藤(2004)は、市民参加と協働による「協働型議会」を提唱しその実現を目指す40など、論者 によって、地方議会改革の見解は分かれる。本稿では、市民参加を基底に捉え、立法補佐 機関である地方議会事務局を含めて総合的かつ包括的に地方議会を改革するという考え方 にもとづく。
地方議会事務局の調査・研究機能強化させるための方策として、野村(1993)41は、地方議
会事務局職員数を増やし、調査・研究のための専門職員を養成することであるとする。地 方議会事務局では、その職員がいなければ、調査・研究活動ができない。事務局長以下の 事務方職員数を増やし活用する。地方議員から依頼がある度に、執行機関の関係部局に資 料照会をしているようでは、単なる取り次ぎ役でしかない。地方議会事務局職員に求めら れるものは、地方議員の要求に対して、敏速かつ正確に対応することである。いくら内容 の優れた調査・研究成果だとしても、遅滞しては意味がない。できるならば、地方議会事 務局専任の専門職員の採用を検討したり、公共政策系の高度職業人養成のための専門職大 学院等へ職員を公式派遣したりすることが望ましい。だが、全国いずれの地方自治体にお いても、慢性的な財政難のなか、限られた行政職員で行政を担っているために、地方議会 事務局に十分な職員を充当するのは困難である。せめて、地方議会事務局の職員は、その 担当期間を2、3年で異動するのではなく、体系的に情報を収集、整理し、調査・研究を行 い、要求に即応できるような体制を構築する。また、人事異動のため、地方議会事務局か ら執行機関に異動したときに、不利益を被ることのないよう、議長等が、地方議会事務局 の職員の活動を保障する必要がある。その他、地方議会図書館の充実と職員間の連携を図 るなどして、地方議会図書館を含めて検討することも求められる。地方議会図書館は、最 新の情報、とりわけ、執行機関の情報が自動的に集まり、検索が容易なシステムを構築し、
図書館職員と議会事務局職員の連携を図る。また、国会図書館との連携を密にして、国全 体や海外の情報収集に努めることである。
大森(1999)42は、地方議会事務局のあり方について、地方議会の開会中ばかりでなく、閉 会中も地方議会事務局に対して、政策の立案、質問材料の収集、最新情報の調査など、様々 な依頼が地方議員から寄せられるが、難問の場合も少なくないと指摘する。これらを執行 部の関係部課に照会する、または調査依頼をするだけでは、単なる取り次ぎ役に過ぎず、
その役目を十分に果たしているとはいえない。地方議会が執行部を監視し、政策提言でき るようにするためには、また、問い合わせに直ちに資料を提供できるようにするためには、
自ら調査し研究する職員の配置がなければ不可能である。そこで、政策調査研究費が独自 財源であることに着目して、これを使って政策調査立法の作業を補佐する体制を強化する ため、「専門家」(弁護士、大学・研究所の関係者など)や「市民」の援助を頼むという方式 も考えられる。また、「えさし地産地消推進条例」の政策形成過程では、条例案43の立案検 討や市民協働の取り組みの事務的な部分において、外部機関が地方議員を支援して功を奏 したという経緯から、地域の大学や研究型 NPO、シンクタンク等の専門機関との連携を図 ることも有効な選択肢といえる。
津軽石(2006)44が指摘するように、地方議会を支援していくためには、地方議会事務局が シンクタンクとしての機能を有することが求められる。必要に応じて、地域の大学やシン クタンク等の専門機関との連携を図ることにより、定期的な情報交換の場を設け、学術学 会や研究会を有効に活用したり、外部の専門機関によって、地方議員自身の「気付き」を 喚起させたりすることで、地方議員の意識改革から着手していくことである。