7 日本の再生可能エネルギーポテンシャル評価と属性分析
7.4 風力ポテンシャルに関する要素の分析
7.4.1 方法
日本にどのような風力ポテンシャルが賦存しているのか、その特徴を明らかにするため に本節では、日本における風力ポテンシャルに関する要素の分析を行った。本研究では、
陸上風力のポテンシャルを分析対象とした。
まず地域ごとに風力ポテンシャルを算出した。風力エネルギーの年間発電電力量の算出
は、2.5.2節の「総年間発電電力量」の算出方法を用いた。なおここでは有望地域の抽出は
行っていない。風力ポテンシャルを算出するにあたって、風車の定格出力や単位面積に対 する風車の設置間隔の前提によって算出されるポテンシャルが大きく変動することが考え られるので、下記のように複数のシナリオを設定し、その影響を分析した。
発電設備設置シナリオ
1.定格出力2000kWの風車を利用。対象地域に卓越風向がない場合の風車の設 置密度の推奨値である10D×10D(D;ロータ直径)を想定。
2.定格出力2000kWの風車を利用。対象地域に卓越風向が存在する場合の風車 の設置密度の推奨値である3D×10D(D;ロータ直径)を想定。
3.定格出力1000kWの風車を利用。対象地域に卓越風向がない場合の風車の設 置密度の推奨値である10D×10D(D;ロータ直径)を想定。
4.定格出力1000kWの風車を利用。対象地域に卓越風向が存在する場合の風車 の設置密度の推奨値である3D×10D(D;ロータ直径)を想定。
※2000kW(ロータ直径=90m)、1000kW(ロータ直径=60m)
そして、風力ポテンシャルに関する要素について、気象要素として年間平均風速を、環 境影響要素として居住地域からの距離について分析を行った。風力発電の導入を検討する 上では、風況がプロジェクトの経済性に大きな影響を与え、年間平均風速がその風況を知 るための指標の一つとして利用されている。また、近年風力発電所の周辺住民から健康被 害を訴える声が上がっていることから、環境影響要素として居住地域からの距離を分析し た。分析ではGRASS GISを用いて、日本の各地域を50mメッシュに分割し、対象地域を
Table 7-2に示した各要素の土地属性について分類した。
86
Table 7-2 風力ポテンシャルに関する要素の分析に用いた土地属性区分
7.4.2 結果
日本全国の風力ポテンシャルの評価結果をFig. 7-5に示した。Fig. 7-5では、上述した4 つのシナリオにおける風力ポテンシャルの評価結果を示した。そして、各シナリオの中で は評価された風力ポテンシャルを居住地域からの距離ごとに分類し、さらに各居住地域の 風力ポテンシャルについて、年間平均風速5.0m/s未満の地域のポテンシャルを青、年間平
均風速5.0m/s以上6.0m/s未満の地域のポテンシャルを赤、年間平均風速6.0m/s以上の地
域のポテンシャルを緑で示した。
Fig. 7-5 日本全国の風力ポテンシャルの評価結果
要素 土地属性
気象要素 高度 70m におけ る年間平均風速
5m/s未満の地域
5m/s以上6m/s未満の地域 6m/s以上の地域
環境影響要素 居住地域からの距 離
居住地域
居住地域から500m未満の地域
居住地域から500m以上1000m未満の地域 居住地域から1000m以上1500m未満の地域
1500m以上離れた地域
87
ⅰ 発電設備設置シナリオによる変動性の影響
まず、各シナリオの比較からポテンシャルの評価結果の変化について分析した。各シナ リオ間では、卓越風向が存在すると想定した場合と、卓越風向が存在しないと想定した場 合の風力ポテンシャルの評価結果の変化が顕著である。例えば「シナリオ1:定格出力
2000kWの風車を卓越風向が存在しないと想定して全国に最大限に導入した場合」、に対し
て「シナリオ2:定格出力 2000kWの風車を卓越風向が存在すると想定して全国に最大限 に導入した場合」では、ポテンシャルの合計量が約1,790,000GWhから5,160,000GWhへ と2.89倍に大きく増加した。卓越風向の存在の有無は地域によって異なるため、実際のポ テンシャルはこれらの間の値をとると考えられる。
その一方で、導入する風力発電設備の定格出力の想定の変化は、日本全国のポテンシャ ル評価結果の総量に卓越風向の有無ほど大きな影響を与えない結果となった。例えば「シ ナリオ1:定格出力 2000kWの風車を卓越風向が存在しないと想定して全国に最大限に導 入した場合」、に対して「シナリオ3:定格出力1000kWの風車を卓越風向が存在しないと 想定して全国に最大限に導入した場合」では、ポテンシャルの合計量は約 1,790,000GWh
から約1,480,000GWhへのわずかの減少に留まった。これは、より大きな規模の風力発電
設備を導入する場合、1台当たりに、より多くの占有面積を想定する必要があり、そのため 設置できる風車台数が減少してしまうことによる。
以上の結果から、日本で利用できる陸上の風力ポテンシャルは設置する風車の定格出力 や設置する風車間隔によって、最大で、約1,480,000GWhから5,160,000GWhに変化する と考えられる。本研究では、近年2000kW 風車の導入が主流になっていること、卓越風向 が存在しないという想定の方が過大な評価とならないことを鑑みて、「シナリオ1:定格出
力2000kW の風車を卓越風向が存在しないと想定して全国に最大限に導入した場合」が、
指標として適した想定であると考える。
ⅱ 高度70mにおける年間平均風速
次に、年間平均風速や居住地域からの距離といった風力ポテンシャルに関する要素につ いて分析した。ここで、評価された風力ポテンシャルの全体量に占める各属性のポテンシ ャルの比率は、各シナリオ間で変わらないため、シナリオ1を例に挙げて説明した。
まず、高度 70m における年間平均風速に着目すると、全体的に高度 70m における年間 平均風速が6.0m/s以上のポテンシャルが多い(約80%)傾向を示している。これまで高度 30mにおける年間平均風速5.0 m/s以上を有望地域の基準としたポテンシャル評価を行う 場合、有望地域として抽出される地域は非常に狭かったが、大規模な風力発電の利用を想 定し、高度70mにおける年間平均風速について分析した場合、風況が良好なポテンシャル が多く抽出される結果となった。
ⅲ 居住地域からの距離
さらに、居住地域からの距離とポテンシャルの関係に着目すると、シナリオ 1 では、評 価されたポテンシャルはそれぞれ、居住地域:約608,000GWh/year、居住地域から500m
88 未満の地域:約 321,000GWh/year、居住地域から 500m 以上 1000m 未満の地域:約
201,000GWh/year、居住地域から1000m以上1500m未満の地域:約133,000GWh/year、
1500m以上離れた地域:約 525,000GWh/year となった。日本全国の特徴として、風力ポ
テンシャルの多くが、居住地域(34%)と居住地域から1500m以上離れた地域(約30%) に賦存していることが明らかになった。しかし、これら以外の地域でも、同じオーダーの ポテンシャルが賦存している。
近年、風力発電所周辺において健康被害を訴える声が発生しており、居住地域周辺への 風力発電設備の導入の可否が議論になっている。この居住地域からの距離と風力ポテンシ ャルの分布の関係の分析結果は、風力発電設備の建設禁止地域のゾーニングの議論では、
そのゾーニングの距離によって利用できる日本全国の風力ポテンシャルが大きく変化する 可能性を示している。例えばシナリオ1において、居住地域と居住地域から 500m 未満の 範囲を風力発電の開発禁止地域としてゾーニングした場合、日本全国で利用可能なポテン シャルは約859,000GWh/yearと全量(約1,790,000GW)の約48%となる。
ⅳ 居住地域からの距離と高度70mにおける年間平均風速の関係
居住地域からの距離と高度70mにおける年間平均風速の関係について、特徴的なのはFig.
7-5中赤や青で示した年間平均風速が6.0m/s 未満のポテンシャルが、居住地域とその周辺 に多く存在していることである。この原因として、より居住地域から離れた地域において 標高の高いような風況に良好な地形が存在する可能性が考えられる。
ゾーニングによって居住地域と居住地域から 500m 未満の範囲を風力発電の開発禁止地 域としたうえで、高度 70m における年間平均風速が 6.0m/s 以上のポテンシャルを開発可 能 な ポ テ ン シ ャ ル と し て 想 定 し た 場 合 、 日 本 全 国 で 利 用 可 能 な ポ テ ン シ ャ ル は 約
797,000GWh/yearと全量(約1,790,000GW)の約45%となる。
ⅴ 風力構造要素の地域的特徴
上述した日本全国の「居住地域からの距離」、「高度70mにおける年間平均風速」と風力 ポテンシャルの分布の関係は地域的に異なった関係(傾向)を示した。Fig. 7-6に日本の各 地域における「居住地域からの距離」、「高度70mにおける年間平均風速」と風力ポテンシ ャルとの関係を示した。これらの風力ポテンシャルはいずれもシナリオ1におけるポテン シャル量である。
この中で、「居住地域からの距離」については、日本全国の特徴として、風力ポテンシャ ルの多くが、居住地域(約 34%)と居住地域から 1500m 以上離れた地域(約29%)に賦 存していた。しかし、この関係は地域によって大きく異なる結果となった。例えば北海道 では風力ポテンシャルは、居住地域に約18%が、居住地域から1500m以上離れた地域に約 53%に賦存しており、風力ポテンシャルの多くが居住地域から離れた地域に賦存するもので ある。その一方で、九州では、風力ポテンシャルは居住地域に約47%が、居住地域から1500m 以上離れた地域に約7%が賦存しており、風力ポテンシャルの多くが居住地域に賦存する結 果となった。また、関東、近畿、中国、四国、沖縄といった地域でも、九州と同様に風力 ポテンシャルの多くが居住地域に賦存している傾向を示した。