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河川流量のシミュレーション

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 43-48)

3 気象値のシミュレーション

3.1 河川流量のシミュレーション

34

35

さらに、r.watershed モジュールによって算出された累積流量(flow accumulation)を

用いて、河川の年平均流量を推定した。年平均流量の算出では、降水量・蒸発散量・流出 量による流域の水収支を考え、上流の流域面積と降水量から各地点の累積流量(flow

accumulation)を算出し、年平均流量を推定する方法をとった。

流域の水収支は、式(3-1)のように降水量と蒸発散量と流出量、流域内の貯留量の変化 によって構成される。そこで、ある地点の年間の総流出量や年平均流量を推定する簡易的 な方法として、上流の流域面積と降水量から年間の総流出量や年平均流量を推定する方法 が用いられている。式(3-2)では、流域における単位面積当たりの、降水量と流出量の関 係を示している。降水量のうち一定量が蒸発散すると仮定し、流出係数を用いて流出量を 示している。そして、式(3-3)では、さらに上流の流域面積を乗ずることで、河川流量を 推定することができる。

(4) 流域の水収支 [catchment water balance]

流域の水収支は、次の水収支式で表現される32)

S Q R

E = − +∆ ( 3 - 1 )

ただし、

E : 蒸発散量 [evapotranspiration] (mm) R : 降水量 [precipitation] (mm)

Q : 流出量 [flow] (mm)

∆S : 流域内貯留量の変化 [change in water stored within the basin] (mm)

ここで、1 年間の平均,あるいは合計で考えると,∆S は無視できると考えて∆S0になる

32)

(5) 降水量と年平均流量

流域の単位面積当たりの年平均流量Qpuは、単位面積当たり降水量Ppuと流出係数cで次 のように表現される33)

pu

pu c P

Q = × ( 3 - 2 )

ただし、

Qpu : 流域の単位面積当たりの年平均流量 (mm) [mean annual flow per unit of drainage area]

c : 流出係数 (-) [runoff coefficient]

36 Ppu : 流域の単位面積当たりの年降水量 (mm)

[mean annual precipitation per unit of drainage area]

これより、河川の年平均流量Qaは、下記のように表わされる。一般的に、流出のメカニズ ムは①降水が地表面を流下する直接流出、②地表に近い土壌層を移動してから流出する中 間流出、③土壌層・地層を浸透し地下水となってから流出する基底流出、に 3 区分してと らえられる。(3-3)式における流出係数cは、年間の降水量に対してこれら3つの流出メカ ニズムによる河川への流出の割合を示し、残りは蒸発散によって大気へ戻ると想定する。

(

365 24 60 60

)

103 ÷ × × ×

×

×

×

= r

a c P A

Q ( 3 - 3 )

Qa : 河川の年平均流量 (m3/s) [mean annual flow]

Ar : 流域面積 (km2) [basin area]

P : 年降水量 (mm) [mean annual precipitation]

3.1.3 方法

本研究で実施した作業手順を下記に示した。

(1) 流れ経路の推定

r.watershed モジュールを用いて50m メッシュの標高データ(オークニー社)21)から流

れ経路を算出した。流れ経路の算出は、国土数値情報の集水域・非集水域のデータ 19)を用 いて、日本各地を各水域系(1級水域系、2級水域系、複合水域系)に分割し、水域系ごと

に、r.watershedコマンドを実施した。r.watershedコマンドは50mメッシュ環境で実施し

た。

(2) 河川流量の推定

r.watershedモジュールを用いて推定された流れ経路に対して、上流の年間降水量と流域

面積から算出される累積流量を計算し、河川の年平均流量を算出した。年間降水量のデー タは国土数値情報の気候値メッシュ(1km メッシュ)19)のデータを利用した。年平均流量 の算出では、まず全国一律に年間降水量の 80%が河川に流出すると想定して(流出係数 c を0.80として)、各セルにおいて年間の流出量を算出し、次に、各セルにおいて上流の流域 面積内セルの流出量を合計することで累積流量(そのセルにおける年間の総流出量)を算 出した。一般的に世界の主要河川の流出率は 20~30%であるが、日本の河川の流出率は非 常に大きく70~80%を示すことが多い30)。そして、総流出量から河川流量の年平均値を算 出した。

37 (3) 低水流量の推定

本研究では、中小水力発電のポテンシャルの算出を目的としているため、中小水力発電 の発電出力に使用する河川流量として、低水流量を基準とした。ここで低水位とは 1 年間 のうち 275 日以上、その水位を下回らない水位であり、低水流量はその水位において流れ る流量をさす。日本の河川において 1 年間の河川流量の総流出量に対して、低水流量が占 める割合は20%~60%(平均40%)である30)

3.1.4 結果と分析

日本全国の各地域において、r.watershedモジュールを用いて標高と年間降水量のデータ から河川流量を推定し、その結果を各一級河川の観測所における河川流量の平均値と比較 した。一級河川の観測所における河川流量の平均値は社団法人国際建設技術協会の日本河 川図の統計期間の平均値を引用した34)。Fig. 3-1に年間の平均流量のシミュレーション結果 と観測所における平均値とを比較した結果を示した。Fig. 3-1 (a) からFig. 3-1 (i) にはそ れぞれ北海道、東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州地域における各一級河 川の観測所におけるシミュレーション結果と平均値の関係をプロットし、1次の近似式と相 関係数を示した。

Fig. 3-1 (a) からFig. 3-1 (i)は、共通してそれぞれシミュレーション結果と観測値の間に

直線的な正の相関関係がみられた。相関係数はもっとも小さくなった中国地域で 0.9251、 もっとも大きい関東地域で0.9940である。また比例係数は、地域によって異なる値をとっ た。例えば九州では、比例係数が1.0551、四国では比例係数が1.0314と1に近くなった一 方で、北陸地域では0.8536と小さい値をとり、関東地域では1.2967と大きな値をとった。

これらの地域的な比例係数の差異は、年間降水量の河川へ対する流出率の地域的な差異 から来ていると考えられる。今回のシミュレーションでは、簡易化のため年間降水量の河 川へ対する流出率を全国で一律 80%とした。しかし実際には年間降水量の河川へ対する流 出率は地域や河川によって70%から80%の間で変化すると考えられる。例えば、地域的な 流出率の変化の要因の一つとして、年蒸発散量の差異が考えられる。日本における年蒸発 散量の目安として九州・瀬戸内は600mm、北海道は400mm、その他の地域は500mm程 度という値が示されている35)

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(a) 北海道 (b) 東北 (c) 関東

(d) 北陸 (e) 中部 (f) 近畿

(g) 中国 (h) 四国 (i) 九州

Fig. 3-1 各地域の一級河川における年平均流量のシミュレ―ション結果と観測平均値

3.1.5 低水流量の計算結果と分析

さらに、Fig. 3-2に日本全国の一級河川の低水流量の計算結果と、観測所における観測値

の統計期間における平均値を比較して示した。ここで、低水流量の計算において、1年間の 河川流量の総流出量に対して低水流量が占める割合を一律で 40%として与えた。日本の低 水流量率は20%~60%であり、40%は日本の平均値である30)。Fig. 3-2では、一級河川の 低水流量のシミュレーション結果と観測結果の間に正の相関関係がみられた。今回のシミ ュレーションが各河川の低水流量の規模を大まかにではあるがよくとらえていると考える。

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Fig. 3-2 日本の一級河川における低水流量の計算結果と観測低水流量平均値の比較

3.1.6 中小水力ポテンシャル算出への活用

本研究ではこの低水流量を基準に、さらにこの低水流量から発電に利用する取水率を設 定して、中小水力のポテンシャルを算出した。本節の低水流量の計算結果と分析から、各 河川においてより正確な河川流量の算出が必要な場合は、河川流量のシミュレーション結 果と観測値を比較することで、流出率や低水流量率を推定し、より正確な低水量を算出で きると考えられる。

3.2 日射量のシミュレーション

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