4 再生可能エネルギーポテンシャルの定量的評価 - 長崎県雲仙市の例 -
4.2 理論と方法
4.2.1 再生可能エネルギーポテンシャル評価法の概要
本章では、再生可能エネルギーのポテンシャルの定量的規模と、空間的分布を市町村規
47 模で明らかにするため、モンテカルロ法を用いた再生可能エネルギーポテンシャル評価と、
再生可能エネルギーポテンシャルの空間分布分析を行った。本節では研究に用いたモンテ カルロ法と再生可能エネルギーポテンシャル評価法の理論と方法について説明した。
本研究で用いる再生可能エネルギーポテンシャル評価法は、第3章に記述したように、「① 気象値の推定」、「②有望地域の抽出」、「③年間発電電力量の算出」によって構成される。そ して、③年間発電電力量の算出においてモンテカルロ法を用いてポテンシャルを計算する ことで、不確定な要素の影響を示した上で想定される再生可能エネルギーポテンシャルの 規模を明らかにした。
第3章で述べたように再生可能エネルギーポテンシャルを評価する上で、「③年間発電電 力量の算出」における評価前提の選択が、ポテンシャルの評価結果に影響を与え、評価結果 が恣意的なものになってしまう恐れがある。これに対して、モンテカルロ法では、不確定 な要素に出現率の確率分布を持つパラメータを与え、その確率分布が再現されるようにパ ラメータを無作為に抽出しながら10,000回算出し、その結果を期待可採量の頻度分布とし てまとめる。その結果、不確定な要素の影響を示した上で想定されるポテンシャルの規模 を知ることができる。
評価には、GISソフトウェアとしてGRASS GIS のVer.5 とVer. 6 を利用し18)、そし て GIS データとして、国土地理院の「国土数値情報」19)から、土地利用情報と自然公園の 情報(100mメッシュ)を、NEDO局所風況予測モデル12)から風況データ(500mメッシ ュ)を、オークニー社製GRASS GIS DataPack21)から標高(50mメッシュ)と世帯数のデ ータ(1 kmメッシュ)を利用した。
4.2.2 モンテカルロ法を用いた再生可能エネルギーポテンシャル評価
モンテカルロ法を用いた再生可能エネルギーポテンシャルの算出では、不確実性の発生 の確率分布(パラメータの値と発生の確率の関係)を決定し、そのパターンにしたがって
10,000 回計算を実施することで、確率分布を持った評価結果を得ることができる。本研究
では、パラメータの確率分布はFig. 4-2に示すように最確値が最も出現する可能性が高く、
最小値から最大値までの出現率が三角形になるような三角分布を用いた。三角分布は通常、
モンテカルロ法を用いたリスク分析の際に、最大値・最小値の間に最も発生する確率が高 い最確値が推定できる場合に概略のモデルを構築する方法として用いられる 39)。また、三 角分布は分布を規定するパラメータが直観的に理解しやすく、パラメータの意味を考える 上でその値の変化が結果に与える影響を予測することが容易であることから、リスク分析 においてよく用いられる。本研究では主に、評価者によって通常1つに限定されてしまう 条件や不確定な要素の影響を考慮することが目的であるため、これに準ずるものと考えた。
実例としてはNEDOの地熱エネルギーの資源量評価40)や、石油の埋蔵量評価41)において、
三角分布を用いたモンテカルロ法による資源量評価が用いられている。本評価法では、以 上のような三角分布を用いたモンテカルロ法によるリスク評価を行うプログラムを Excel マクロによって記述し、評価を行った。
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Fig. 4-2 モンテカルロ法に用いた三角分布
4.2.3 風力エネルギー評価法の概要
①気象値の推定
評価を行うため、まず気象データとして、500mメッシュの風況データをNEDOのシミ ュレーションモデルの結果12)から引用して分析に利用した。
②有望地域の抽出
次に有望地域を抽出するため、対象地域を50mメッシュに分割し、以下の制約条件を満 たす地域を抽出した。①地上高30 mにおける年間平均風速が5 m/s以上、②幅3m以上の 道路から300m以内、③最大傾斜量が20度以下、④標高が1000 m以下。さらに⑤自然公 園や国定公園、⑥土地利用図における建物用地を有望地域から省き、有望地域を抽出した。
③年間発電電力量の算出
各風車の年間発電電力量の算出には、第 2 章の風力発電の標準状態の年間発電電力量の 算出式(2-1)を用いた。発電施設にはカットイン風速 3m/s、カットアウト風速 24m/s と して、定格風速13 m/sで定格出力1000 kWを達成するような風力発電設備を想定した。
年間発電電力量は、風速の出現率がワイブル分布に従うと想定して、その風速分布から得 られる年間発電電力量を算出した。
そして発電設備の設置にあたって、モンテカルロ法で不確実性を有するパラメータを与 えた。対象地域に風力発電設備を導入する際、ローター直径を D として、卓越風が顕著な 地域では 3D×10Dの風車間隔、卓越風が顕著でない地域では 10D×10Dの風車間隔が推 奨されている 29)。そのため対象地域に対して卓越風が顕著な地域が占める割合を、確率分 布を持つパラメータとして与えた。Table 4-1 に雲仙市におけるパラメータの例を示した。
Table 4-1では、卓越風が顕著な地域が占める割合とともに、有望地域に対する風力発電の
導入率も不確実性を持つパラメータとして与えた。
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Table 4-1 風力ポテンシャルの算出に用いた不確実性をもつパラメータ
4.2.4 太陽光エネルギー評価法の概要
①気象値の推定
評価を行うため、まずGRASS GIS Ver.5のr.sunモジュール23)を用いて、快晴時の直達 日射量を評価した。評価された直達日射量は有望地域の抽出に用いた。
②有望地域の抽出
次に家庭への導入のみを検討対象として、制約条件を「日積算直達日射量の年平均値が、
0.1kWh/m2 以上であること」として有望地域を抽出した。快晴時の直達日射量の大きい地
域では地形的に、大きな可照時間が期待できる。この条件によってほぼすべての居住地域 が有望地域として抽出された。
③年間発電電力量の算出
発電施設は家庭向けの太陽光発電を想定し、(2-16)式を基に評価した。太陽電池容量Cp
は設置対象の家の形状・位置に応じて 1 世帯あたりに設置可能な容量が異なるため、モン テカルロ法を用いて最確値を1kWとして0kW~2kWまで変化する確率分布を持つパラメ ータを導入した。Table 4-2にモンテカルロ法を用いたポテンシャル評価におけるパラメー タの例を示す。すべての家庭が持ち家を所有しているとは限らないが、本評価法では世帯 数を設置可能台数とすることで、貸家・集合住宅でも太陽光発電が利用される場合を想定 した。ここで、太陽光発電の導入では持ち家・貸家・集合住宅など対象建築物の所有者の 意向が大きく影響すると考えられるので、確率分布の最小値を0kWとして設置されない可 能性を考慮した。そして1kmメッシュの世帯数から各地域の導入容量を算出した。
年間発電電力量はシステム利用率によって算出されることを想定し、システム利用率 Se
を0.12 (12%) として各地域における年間発電電力量を評価した。
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Table 4-2 太陽光ポテンシャルの算出に用いた不確実性をもつパラメータ
4.2.5 中小水力エネルギー評価法の概要
①気象値の推定
評価を行うため、まずGRASS GIS Ver.5のr.watershedモジュール23)を用いて、標高か ら河川の流路を推定し、その流路にそって一年間の降水量に流出率をかけたものを定常的 に流した場合に想定される流量を河川流量として算出した。シミュレーションの詳細は、
第3章に示した。
②有望地域の抽出
次に、有望地域の抽出の条件は、「流出率を控えめに30%とした場合に推定した河川流量
が、0.01m3/s 以上であること、とした。これにより、小規模の河川も有望地域として抽出
している。
③年間発電電力量の算出
年間発電電力量の算出式は、第 2 章の(2-10)の総年間発電電力量の算出式を用いた。
年間発電電力量を算出するにあたって、発電設備は流れ込み式かつ水路式の中小水力発電 施設30)を想定し、また、河川流量の取水率を20%とした。さらに、発電設備の設置前提は、
有望地域として抽出された河川に対して、50m間隔で発電設備を設置すると想定した。
中小水力発電のポテンシャルの評価では、降水の河川への流出率と河川流量の取水率が 大きく評価結果に影響を与えるため、確率分布を持つパラメータとしてこれらのパラメー タを与えた。Table 4-3に雲仙市におけるパラメータの例を示した。
Table 4-3 中小水力ポテンシャルの算出に用いた不確実性をもつパラメータ
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4.2.6 地熱エネルギー評価法の概要
①地熱貯留層データ
地熱貯留層のデータは平成 16 年度地熱開発促進調査報告書:No.C-2-1 小浜地域(第 1 次)42)と地熱開発促進調査報告書No.15雲仙西部地域43)より貯留層のデータを推定した。
②有望地域の抽出
地熱開発促進調査報告書:No.C-2-1小浜地域42)と地熱開発促進調査報告書No.15雲仙西 部地域43)より小浜温泉地域と雲仙温泉地域を有望地域として抽出した。
③年間発電電力量の算出
基本式を地熱貯留層評価システムの検討報告書40)から参照し、式(4-1)~(4-3)に示した。
地熱資源量は容積法(Stored Heat 法)によって算出した。容積法は地熱貯留層の容積を 推定し,その容積中に賦存する熱量HSに基づいて,一定期間安定して変換できる発電電力 量 ESHを求める手法である。地熱発電の年間発電電力量の算出では、その貯留層パラメー タ(貯留層の平均温度Tr・岩石空隙率φ・岩石比熱Cpr・岩石密度ρr・容積V、そして電力 への変換効率 η)を、確率分布を持つパラメータとして計算した。算出は地域別に行った。
Table 4-4に小浜温泉地域におけるパラメータを、Table 4-5に雲仙温泉地域におけるパラ
メータを示した。
(
−)
×{ (
1−)
× × + × ×}
× ×109= T T C C V
HS r f
ϕ
prρ
rϕ
pwρ
w (4-1)(
S f) (
f p)
SH H R L L
J = × ×
η
× (4-2)SH
3600
SH
J
E =
(4-3)ただし、
ESH : 地熱発電電力量(kWh/年)
JSH : 地熱発電電力量(kJ/年)
HS : 賦存熱量(kJ)
Tr : 貯留層の平均温度(℃)
Tf : 利用限界温度(℃)
φ : 岩石空隙率 (-)
Cpr : 岩石比熱 (kJ/kg・℃)
Cpw : 地熱流体比熱 (kJ/kg・℃)
ρr : 岩石密度 (kg/m3) ρw : 地熱流体密度 (kg/m3) V : 貯留層の容積(km3) Rf : 回収率 (-)
η : 電力への変換効率 (%) Lf : プラント利用率 (%)