9 考察
9.1 日本の再生可能エネルギーの定量的分析の視点からの考察
本節では、第7章と第8章の結果から、日本の再生可能エネルギーのポテンシャルにつ いて定量的な視点から考察した。日本の再生可能エネルギーポテンシャルを考察するにあ たって、本研究では2.6.1節において再生可能エネルギーのポテンシャルが「有望地域の抽 出」と「年間発電電力量の算出」における想定の違いによって恣意的なものになる可能性 について述べた。そこで、第7章と第8章の結果から、この2点について定量的に分析し、
日本の再生可能エネルギーポテンシャルについて考察した。
「有望地域の抽出」について第8章では、Fig.8-1からFig.8-4において各再生可能エネ ルギーのポテンシャルが絞り込みの条件の変化によって、大きく変化することを示した。
第8章の結果から、導入の有望度が高い風力ポテンシャルが約158,000GWhと評価された。
これは日本全国の発電端電力量976,300GWh(2010年度)1)の15.6%に相当する。そして 導入の有望度が高い中小水力ポテンシャルが約130,000GWhと評価された。これは日本全 国の発電端電力量の 13.3%に相当する。さらに、導入の有望度が高い大規模太陽光ポテン シャルが約18,300GWhと評価された。これは日本全国の発電端電力量の1.86%に相当する。
そして導入の有望度が高い家庭向け太陽光ポテンシャルが約51,600GWhと評価された。こ れは日本全国の発電端電力量の5.29%に相当する。
そして、「年間発電電力量の算出」について、第7章では再生可能エネルギーのポテンシ ャルが算出のシナリオの想定の変化によって、大きく変化することを示した。第 7 章で複 数のシナリオに基づいて算出した日本の各再生可能エネルギーのポテンシャルをTable 9-1
からTable 9-4にまとめて示した。Table 9-1から、日本で利用できる陸上の風力ポテンシ
ャルは設置する風車の定格出力や設置する風車間隔によって、最大で、約 1,480,000GWh
から約5,160,000GWhに増加した。つまりシナリオ1を基準として、風力ポテンシャルの
評価結果は0.83倍~2.39倍程度に変化し得ることを示している。Table 9-2から、中小水 力ポテンシャルは、中小水力発電設備の取水率やシミュレーションにおける低水流量のシ ナリオの想定によっては、約184,000GWhから約617,000GWhに増加した。つまり、シナ リオ2を基準として、中小水力ポテンシャルの評価結果は0.74倍~2.51倍程度に変化し得 ることを示している。Table 9-3から、大規模太陽光ポテンシャルは、大規模太陽光発電設 備のための土地利用のシナリオの設定によっては、約 55,300GWh から約 5,500,000GWh に増加した。つまり、大規模太陽光のポテンシャルはシナリオ1を基準にして 1 倍~100 倍程度に変化し得ることを示している。Table 9-4 から、家庭向け太陽光ポテンシャルは、
家庭向け太陽光発電設備の設備容量のシナリオの設定によっては、約 71,700GWh から約
179,000 GWhに増加した。つまり、家庭向け太陽光ポテンシャルはシナリオ1を基準とし
て、1倍~2.5倍程度に変化し得ることを示している。
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Table 9-1 風力エネルギーポテンシャルのシナリオ分析結果
発電設備導入に関するシナリオ 風力ポテンシャル量(GWh)
1.設備容量2000kW、卓越風向なし 1788011
2.設備容量2000kW、卓越風向あり 5161540
3.設備容量1000kW、卓越風向なし 1477834
4.設備容量1000kW、卓越風向あり 4266141
Table 9-2 中小水力エネルギーポテンシャルのシナリオ分析結果
発電設備導入に関するシナリオ 水力ポテンシャル量(GWh) 1.取水率20%、低水流量率30% 183767
2.取水率20%、低水流量率40% 245481 3.取水率20%、低水流量率50% 307263 4.取水率40%、低水流量率30% 369096 5.取水率40%、低水流量率40% 492857 6.取水率40%、低水流量率50% 616700
Table 9-3 大規模太陽光エネルギーポテンシャルのシナリオ分析結果
発電設備導入に関するシナリオ 大規模太陽光ポテンシャル量(GWh) 1.土地利用率0.1% 55266
2.土地利用率1.0% 550232 3.土地利用率5.0% 2750866 4.土地利用率10.0% 5501235
Table 9-4 家庭向け太陽光エネルギーポテンシャルのシナリオ分析結果
発電設備導入に関するシナリオ
家庭向け太陽 光ポテンシャ ル量(GWh) 1.1世帯当たり設置面積10m2(約1kW)集合住宅 形式 71702 2.1世帯当たり設置面積15m2(約1.5kW)寄棟屋根 形式 107557 3.1世帯当たり設置面積20m2(約2.0kW)入母家屋根 形式 143411 4.1世帯当たり設置面積 25m2 (約2.5kW)切妻屋根 形式 179266
128 上述した結果から、日本では日本全国の発電端電力量976,300GWh(2010年度)に対し て、本研究では有望な風力ポテンシャルが15.6%(変動幅:0.83倍~2.39倍程度)、有望な 中小水力ポテンシャルが13.3%(変動幅:0.74倍~2.51倍程度)、有望な家庭向け太陽光ポ テンシャルが5.29%(変動幅:1倍~2.5倍程度)、有望な大規模太陽光ポテンシャルが1.86%
(変動幅:1倍~100倍程度)に相当する量が存在すると考える。評価結果をTable 9-5に まとめた。この結果は、各再生可能エネルギーが日本の発電端電力量に対して、陸上風力 や中小水力が 10%以上の比率のポテンシャルを有し、大規模太陽光や家庭向け太陽光がシ ナリオの設定次第では、それぞれ 10%程度に相当する利用可能性が存在し得ることを示し ている。
Table 9-5 本研究によるポテンシャル評価結果
ポテンシャル(GWh)
導入ポテンシャル シナリオ別最小 シナリオ別最大
陸上風力 155,733 155,733 371,574
河川中小水力 129,906 97,248 326,351 大規模太陽光 18,308 18,308 1,822,389 家庭向け太陽光 51,630 51,630 129,082
このように、再生可能エネルギーポテンシャルの評価結果とその前提による変化を明ら かにすることは、ポテンシャル評価結果の解釈における異なるステークホルダー間の合意 形成や、評価結果の独り歩きを防ぐ上で有効であると期待される。
環境省のポテンシャル評価 16)では、非住宅系太陽光発電の導入可能量は 1.5 億 kW、シ ナリオ別導入可能量は0~7,200 万kW。風力発電については、陸上風力と洋上風力を合わ せた導入可能量は19 億kW、同シナリオ別導入可能量は2,400 万~4.1 億kW。中小水力 発電(河川部と農業用水路、3 万kW 以下)の導入可能量は1,400 万kW。地熱発電の導 入可能量は1,400 万kW、シナリオ別導入可能量は110 万~480 万kW と推計されている。
環境省ポテンシャル評価では評価結果を設備容量によって示しているため、設備利用率を 用いて設備容量を年間発電電力量に換算した結果をTable 9-6に示した。環境省では陸上風 力のポテンシャルを約589,000GWh、非住宅系太陽光のポテンシャルを約158,000GWhと 非常に大きく評価している一方で、河川中小水力のポテンシャルが約79,700GWh、地熱(合 計)のポテンシャルが約105,000GWhと比較的小さく評価している。環境省の分析結果で は、各シナリオ別ポテンシャルは大きな幅をもった値となっている。これは、日本に大き な再生可能エネルギーが賦存すること示唆している一方で、今後これらのポテンシャルを 利用可能にする方策の検討が必要であることを示していると考える。
これに対して、本研究では経済性を詳細に考慮したシナリオの分析を行っていないため、
129 評価結果は環境省の導入ポテンシャルの推定に近い値となっている。陸上風力については、
環境省のポテンシャル評価結果が本研究の評価結果と比較して約 3.8 倍と大きくなってい る。環境省の評価では、本研究のシナリオ2に当たる2000kWの導入かつ卓越風向ありが 想定されていることが、大きく評価されている要因の一つである。一方で、河川における 中小水力ポテンシャルは環境省のポテンシャル評価結果が本研究の評価結果と比較して約 0.61 倍と小さくなっている。これは、環境省のポテンシャル評価が既設の水力発電設備を 差し引いて評価していることが原因の一つとして考えられる。また、本論文では評価して いない地熱ポテンシャルが約105,000GWhと本研究で評価した風力や中小水力と同程度に 評価されており、有望なポテンシャルの一つであることが考えられる。本論でも述べたと おり、ポテンシャルの評価結果は算出の前提やシナリオの設定によって、大きく変化する ため、単純な比較は難しいが、少なくとも日本に大きな再生可能エネルギーのポテンシャ ルが存在し、活用方法次第ではそれらが導入可能であることを示していると考えられる。
環境省のポテンシャル評価では、活用方策を考えるためのデータの一つとして、固定価 格買い取り制度(FIT)を導入した場合に利用可能になるポテンシャルを評価している。ま た、本論文では、第 8 章にて活用方策の検討のために、ポテンシャルの属性を分析し、そ れぞれの属性に対して適した活用方策を検討することを提案した。日本に再生可能エネル ギーの大きなポテンシャルが賦存することが明らかとなった次の段階として、今後もこれ らのような新たなポテンシャルの分析が必要と考える。
Table 9-6 環境省ポテンシャル評価結果