第 2 章 利益調整行動の発生メカニズム
2.5. 貸借対照表の計算構造と利益調整
2.5.7. 非貨幣資産と利益調整
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る。したがって、この考え方からすれば有価証券は回収形態の資産であり、貨 幣資産であるとされるのである。
このことは、前者の考え方をとれば、有価証券は非貨幣資産であるから原価 評価が当然となり、したがって、売却等によって貨幣資産に転換されるまでは
、当該有価証券に関する資本の増価(すなわち評価益)は認識されないことになる
。これに対して、後者によれば有価証券は、資本の回収過程にある資産すなわ ち貨幣資産とされ、その評価は回収可能額(時価によることになるので、市場取 引価格の上昇に伴う評価益を認識するという余地が生じることになる。
④ 「企業会計原則」での取扱い
現行の「企業会計原則」では、有価証券は非貨幣資産として位置づけられて いるとみられる。なぜならば、有価証券の貸借対照表価額は、原則として平均 原価法等の方法によって算定した取得原価によるとされるからである。そこで の平均原価法等が棚卸資産における平均原価法等と同一のものであることが意 図されているとすれば、取得原価およびそれに基づく原価配分の原則の適用を 受けていることになる。
有価証券が非貨幣資産であるとすれば、上述のように取得原価によって評価 されなければならない。しかもこれを制度の枠組みの中で考える以上、非貨幣 資産の取得原価はそれに対して投下された貨幣額によって表現される。このこ とは、有価証券は確かに有価証券という資産の形態を持っているが、実はそこ に投入されている貨幣資本を表現している存在に過ぎないことを意味する。こ のようにして貨幣資本を跡づけることによって計算される利益は、当該期間に 収益の実現によって増殖した企業資本の増殖高であり、この計算は投下資本回 収計算として行われる。そこでの投下資本こそが取得原価を意味するというこ とである。換言すれば、収益によって回収すべき貨幣資本は資本投下額である この取得原価を限度とするのである。利益はこの資本投下額の回収後の回収余 剰額である。したがって、この意味での利益計算の下では低価基準の適用によ って評価を引き下げること、つまり有価証券評価損の計上はあり得ても、時価 によって取得原価を投下資本額たる原価以上に修正し、その修正された意味で の原価を回収しようとすること、すなわち有価証券に関する評価益の計上はあ り得ないことになる76。
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取得原価主義
(
原価基準〉とは、資産の貸借対照表価額を当該資産の取得原価 を基礎として決定する基準をいう。取得原価主義は、基本的には棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産、繰延 資産等の非貨幣資産を対象とする評価基準である。また、取得原価主義の対象 には、制度上、有価証券も含まれる。
費用性資産の費用化額は、当該資産の費消事実に基づいて、その取得原価
(
投 下額)を基礎として、費用配分の原則により決定され、当期の収益に対応する当 期の費用として損益計算上に計上される。制度会計上、資産の評価において、取得原価主義を採用する理由としては、
まず、資産の評価益(保有利得)の排除が挙げられる。すなわち、取得原価主義は
、資産をその取得原価に基づいて評価することから、未実現利益の計上を許さ ないという点で、実現主義と密接な関係にあるといえる。また、取得原価主義 は実際の取引価額に基づいて算定されることによる確実性、客観性という測定 技術上の長所を持つ77。
取得原価主義会計においては、棚卸資産等の取得原価評価を原則とするが、
これは棚卸資産等の非貨幣資産を、それらに投下され拘束された貨幣資本額に よって測定していることを意味する。この点、森田(1979)78は、それはかつて 何にでも投下可能であった「貨幣という形態にあった資本がこれらの資産に投 下され、拘束された状態にあることを前提にした処理にほかならない」のであ る。
いま取得原価主義会計において、期首資本を構成している棚卸資産や固定資 産などの「非貨幣資産をその取得原価で評価しているということは、それらが 具現する貨幣資本を何にでも投下可能な資金とみているのではなく、かつてそ のような資金であった貨幣がこれらの非貨幣資産に投下され、拘束された状態 にあることを前提とした処理にほかならない。それらは、何にでも使用できる 形で存在しているのではないと考えられているのであり、そのような考え方、
すなわち、資金の拘束性を前提とした測定がなされているのである。これが、
取得原価による資産評価の意味するところである。取得原価主義会計において は、期首資本は、このように、貨幣資産部分は資金の自由選択性79を前提として
、また、非貨幣資産部分は資金の拘束性を前提として、その大きさが測定され ているのであり、したがってまた、取得原価主義会計における期間利益判定の 基準たる『雑持すべき資本』も、同様な前提のもとでその大きさが決定されて いるのである。
77 小林秀行(2001)「要説財務会計論第2版」中央経済社、p124
78 森田哲彌(1979)「価格変動会計論」国元書房、p59。
79 森田哲彌(1979)「価格変動会計論」国元書房、p58、(原典)片野一郎(1977)「貨幣価 値変動会計第3版」同文館、pp936-938。AAA(1951)、Committee on Concepts and Standards Under Corporate Financial Statements、Price Level Chnges and Financial
Statements、 Supplementary Statement No.2、p27(中島省吾訳編(1964)「増訂A.A.A.
会計原則」中央経済社、p88。
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同様な考え方が、期末資本の測定においても前提とされていることは、あら ためていうまでもないことである。期末資本は次期の期首資本であり、期首資 本は前期の期末資本であるから」である。
とすると、「期末資本と「維持すべき資本」をこのような考え方を前提とし て測定し、その差額として計算したところの取得原価主義会計の期間利益は、
いかなる性格の貨幣資本の純増分と考えられるのか、そして、期間利益を構成 する資本の増加がどの段階でどのようにして認識・測定」されているかが問題 となる80。
棚卸資産に「投下されている貨幣資本は、期首の時点では」棚卸資産に「投 下され拘束された状態にあると考えられる。」この棚卸資産が「期中に販売さ れれば、棚卸資産に具現され、棚卸資産に拘束されていた貨幣資本の消滅が認 識されると共に、その対価として流入した貨幣資本の増加が認識される。流入 する貨幣資本は、多くの場合、貨幣資産の形をとっている。したがって、棚卸 資産の販売は棚卸資産に投下され拘束されていた貨幣資本が流動化され、再び 自由選択性資金の形に戻ることを意味する。そして、この時点で、流動化され 何にでも投下可能な資金となった貨幣資本
(
期首には拘束されていた貨幣資本)
の大きさを超えて流入した貨幣資産が、利益として認識される」のである81。 すなわち、森田(1974
)82は、取得原価主義会計においては、期間利益を構成 する資本の増加は、「貨幣資本がいったん何らかの財に投下され拘束された場 合には、それが消滅し、その対価として貨幣資産の形で貨幣資本が流入すると いうプロセスを経たときに、換言すれば、拘束されていた資産が流動化されて 何にでも投下可能な資金になるというプロセスを経たときに、初めて利益が認 識され、消滅した貨幣資本と流入した貨幣資本との差としてそれが測定される のである。いったん拘束された貨幣資本がその拘束の状態を続けているかぎり、その貨幣資本の大きさには変動が生じないと言えること、そして、それが流 動化され、何にでも投下可能な資金に変わるというプロセスを経たときに、初 めて、資本の純増減が生じたと考えること、これが取得原価主義会計における 資産の取得原価評価の、そしてまた損益認識の意味するところである。とすれ ば、それはまた、取得原価主義会計を支える基準であるところの実現主義の意 味でもある。すなわち、取得原価主義会計を支える基準としての実現主義とは
、いったん何らかの財に投下され拘束された貨幣資本については、それが消滅 し、その対価として何にでも投下可能な資金の形で貨幣資本が流入した場合に
、初めて利益を認識するという基準である。それは、拘束されていた資本の流 動化が生じたことを、利益認識のメルクマールとするものである。かかる流動 化が行なわれず、拘束の状態が続いているかぎり、利益の実現はないのである
」としている。
80 森田哲彌(1979)「価格変動会計論」国元書房、pp59-60。
81 森田哲彌(1979)「価格変動会計論」国元書房、p60。
82 森田哲彌(1979)「価格変動会計論」国元書房、p61。