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ファミリービジネスの会計に対する基礎理論

ドキュメント内 博士論文題目 (ページ 107-111)

第 4 章 ファミリービジネスの利益調整行動

4.1. ファミリービジネスと企業会計

4.1.2. ファミリービジネスの会計に対する基礎理論

スリー・サークル・モデルは『オーナー経営の存続と継承』で紹介されてい る205。この原著は、「ファミリービジネス論の名著」として評価が高く、ハーバ ードビジネススクールの教科書にもなっている。この「スリー・サークル・モ デル」ではファミリービジネスのシステムを互いに重なり合う部分を持つ「フ ァミリー」「ビジネス

(

会社の運営

)

」「オーナーシップ

(

株主

)

」の

3

つの円で表し たものである

(

図7

)

このモデルのわかりやすいメリットは、ファミリーが会社と所有の問題にど うかかわり合うかが、一目で理解できることである。ファミリービジネスにか かわる人間はすべて、重なり合う

3

つのサークルが作る

7

つのセクターのいず れかに入る。基本的には、すべてのファミリービジネスがこのモデルで説明で きるといえよう。

204 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:

Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215。

205 ジョン・A・デービス/ケリン・E・ガーシック/マリオン・マッカラム・ハンプトン/アイ ヴァン・ランズバーグ(1996)『オーナー経営の存続と承継』流通科学大学出版、p15。

102

「スリー・サークル・モデル」が広く受け入れられているのは、それが理論 的に優れていて、なおかつすぐに実践することが容易という

2

つの理由による。

【図7 スリー・サークル・モデル】

(出所) K.E.GersickJ.A.DavisM.M.HamptonI.Lansberg “Generation to Generation:Life Cycles of the Family Business” Harvard Business School Press(1997)(犬飼みずほ訳、岡田康司監訳『オーナー経営の存続と承継』流通科学大学出版、19996 )p14

このモデルは、人間関係における対立、役割上の難問、プラオリティ

(

優先順 位)、ファミリービジネスの限界が何に起因するのかを知るのに大変役に立つ。

「役割やサークルの違いを明確にすることは、ファミリービジネスに内在する 複雑な相互作用を分析する際の助けとなり、実際に何が起きているのか、その 原因は何かをより理解しやすくしてくれる」206

たとえば、株の配分方針や継承計画をめぐるファミリーの対決は、関係者た ちがそれぞれ「スリー・サークル・モデル」のどのポジションにいるのかを考 慮すれば、新しい見方で理解できるようになる。たとえば、セクター4に入る人 間

(

ここではファミリーメンバーで、かつ株主であるが、従業員ではない

)

は、フ ァミリーメンバーの当然の見返りとして、また株式投資の正当な見返りとして、

配当増を望むかも知れない。他方、セクター

6

に入る人間

(

ここではファミリー メンバーで、かつ従業員であるが、株主ではない

)

は自分自身の昇進のチャンス が増えるかも知れない事業拡大に投資するため、配当には反対するかも知れな い。実は、表面上はお互いに意見が一致しないでいる

2

人のこのような態度の 背景・(具体的には、「スリー・サークル・モデル」でどの位置にいるのか)がわ かると、真の問題の所在がよく理解できることになる。また、問題の所在がわ かれば、これに対応するための処方箋を描くことが可能になる。

206 階戸照雄(2008)「欧米のオーナー経営の特異性」倉科敏材編著『オーナー企業の経営』

中央経済社、、pp67-69。

103

「スリー・サークル・モデル」は、ある特定の時期のファミリービジネスの 状況を簡単に示すことができる。この意味で、このモデルはファミリービジネ スを理解する最初の糸口としては大変有益なツールである207

(2)エージェンシー理論

先行研究において、少人数の支配するファミリー株主による利益の独占の危 険が高くなればなるほど、会社の存亡についての長期にわたる懸念が大きくな り、そのファミリーとビジネスの名声に対するかかわりが大きくなるというも のがある。

【表

11 ファミリービジネスと一般企業の比較】

(出所) 後藤俊夫編著(2012)「ファミリービジネス知られざる実力と可能性-」白桃書房、p 35。

この研究で採用された非常に有力な理論は、エージェンシー理論であった。

ファミリービジネスにおいては、下記の2つのエージェンシー問題が生じる可 能性がある。

ファミリービジネスの特徴として、所有と経営の一致があげられる。いわゆ るオーナー企業のファミリービジネスはその典型的存在であり、経営者が株式 の多数を所有する絶対的存在であり、株主と経営者が一致している。

株主

(

依頼人

=

プリンシパル

)

と経営者

(

代理人

=

エージェント

)

の間に生じる利 害の不一致をエージェンシー問題利害の不一致によって発生するコストおよび 不一致を防止するために必要なコストをエージェンシー・コストと呼ぶ。所有 と経営が分離している一般企業ではエージェンシー・コストが発生するが、オ ーナー企業などに代表されるファミリービジネスはエージェンシー問題(以下

「エージェンシー問題Ⅰ」という。)から比較的無縁であり、監視やインセンテ ィブ(特別報酬)など余分な経費を必要としない。

ただし、ファミリービジネスは一般企業と比べるとプリンシパルとエージェ ント間におけるエージェンシー問題Ⅰは少ないが、実はエージェンシー問題と 無縁でもない。例えば、株式所有がファミリー関係者間で分散されている場合

207 階戸照雄(2008)「欧米のオーナー経営の特異性」倉科敏材編著『オーナー企業の経営』

中央経済社、、p67-69。

104

には、少数株主というプリンシパルからすれば、経営者はエージェントとして 少数プリンシパルの利害を最大化しているとは言い難いので、エージェンシー 問題が発生する(以下、「エージェンシー問題Ⅱ」という)。

ファミリービジネスでエージェンシー問題Ⅱが最も懸念されるのは、兄弟が 株式を折半して保有している場合であり、兄弟間の対立を生じる原因ともなる。

また、ファミリー以外が株式を保有している場合、その株式保有比率は少数の 場合が多いので、ここでも少数株主としてのエージェンシー問題Ⅱが発生する

208

こうしたファミリービジネスにおけるエージェンシー問題については、近年 多くの研究が進められている。

Jensen&Meckling(1976)

は、株式公開しているファミリービジネスが一般の公

開企業の業績を上回ることを立証し、所有が集中していると企業価値が高まる と主張した209

(3)利害一致(アライメント)仮説と経営者安住(エントレンチメント)仮説

ファミリービジネスを理解する理論として、利害一致(アライメント)仮説 と経営者安住(エントレンチメント)仮説という考え方がある。これは、前述 のエージェンシー理論から様々な生まれた仮説である。

まず、利害一致(アライメント)仮説についてみる。この仮説によれば、経 営者の持分率が増加するに従い、経営者は自己利益のための機会主義的行動よ りも企業利益のための経営をするようになる210。したがって、経営者と外部株 主間の葛藤が減り、経営者と外部株主間のエージェンシー・コストが減少する。

すなわち、利害一致仮説は経営者の持分率が増加するに伴い企業価値が増大す ると主張する。

反対に、経営者安住(エントレンチメント)仮説は、経営者が企業内部でも つ権力が増大すると、自己利益を志向して利己的行動が強まると主張する。経 営者の権力の源泉は株式保有を基盤とし、役員の人事権の掌握にあると考えら れる。この権力が経営者の在職期間の長期化に伴って増加すると想定している。

Anderson&Reeb(2003)は利害一致仮説と経営者安住仮説を比較するため、

Fortune500

社のサンプルを用いて、経営者の所有と企業の業績の関係を測

208 後藤俊夫編著(2012)「ファミリービジネス知られざる実力と可能性-」白桃書房、

pp34-35。

209 Jensen.M. & Meckling.W(1976)“Theory of Firm: Managerial Behavior、 Agency Cost and Ownership Structure”Journal of Financial Economics、3(4)(1976)、pp305-360.

210 機会主義(opportunism)とは、虚偽や欺購、混乱化などの働きかけを含む狡猜な策略を 伴う自己利益の追求を意味する。ある定まった考えによるものではなく、形勢を見て有利 なほうにつこうという意味で日和見主義とも訳される。

105

定した211。その結果ファミリーの所有が約

30%

に達するまでは会社業績が上昇 するが、それを超えると業績が低下する傾向を指摘している。

これらの研究結果は、ファミリービジネスにおける所有と経営の一致ないし 分離の相対的低さが業績の優位性を実現する一方、所有の集中がもたらす弊害 の存在を指摘している。安住が強まれば、経営者に対する規律づけ機能が低下 することに伴って、経営者が私的便益への支出を増加させかねない。

ファミリービジネスでは一般企業に比べて経営者の任期が長く、長期的視点 に立った経営方針と意思決定が可能である。その強みが、時として経営者の安 住を生み、長期政権による数々の弊害をもたらしかねないという問題を内蔵し ている。こうしたファミリービジネスの長所が欠点と表裏一体となっている点 を、常に考慮しておく必要がある212

ドキュメント内 博士論文題目 (ページ 107-111)