第 3 章 ファミリービジネス
3.5. ファミリービジネスの特徴
75
の違いを問わず「ファミリー企業が各国経済に占めている実態は非常に大きい」
ことを指摘している。
76
意に上回った。」更に、「創業者企業は高い
ROA
を示した。」同様に、ファミリ ー企業と一般企業の市場価値について比較分析したところ、全期間にわたって ファミリー企業の市場価値が一般企業のそれを上回っていた136。(表
6)ファミリー企業と一般企業の業績比較
R&D/売上 収益性
(ROA)
総資産
(百万$)
長期借入 金比率
創業以来 の年数
一族の株 式所有
一族出身 のCEO ファミリー企業 2.10% 6.07% 9,617 18.5% 76.0年 17.8% 44.97%
非ファミリー企業 2.12% 4.70% 14,999 19.2% 88.6年 0% 0%
(出所)後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢 書』1、p100。
同様に、米国の大手ファミリー企業は非ファミリー企業よりも成長性でも収 益性でも優れていることが示されている。Anderson and Reeb(2003)137 による と、「Standard & Poor’s 500から銀行及び公益企業を除く
403
社を調査対象とし て抽出し、1992
〜1999
年を対象として分析したところ、403
社のうちファミリ ー企業は141
社(35.0%)を占めており、創業者一族は対象企業の株の18%弱
を保有」していた138。(表6
)に示すように、ファミリー企業の収益性(ROA
) が6.07
%であるのに対して非ファミリー企業は4.70
%だった。また、ROE
もフ ァミリー企業が53.89%であるのに対してファミリー企業は 43.26%だった。フ
ァミリー企業は、会社年令50
才未満の方が50
才以上のグループよりも業績が 良かったが、50才以上のグループでも非ファミリー企業より業績がよい。創業 者一族による所有率が高まると業績も上昇するが、「所有比率31.0
%を頂点とし て業績は低下する。」ただし、「下降後も非ファミリー企業の業績を上回る。」139(表
7
)ファミリー企業と非ファミリー企業の業績比較ファミリー企業 非ファミリー企業
株主収益率 15.6% 11.2%
資本収益率(ROA) 5.4% 4.1%
売上伸率/年 23.4% 10.8%
利益伸率/年 21.1% 12.6%
(出所)後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢 書』1、p101。
136 同上、 p.9。
137 Anderson、 R.C. and Reeb、 D.M.(2003)“Founding-Family Ownership and Firm Performance: Evidence from the S&P 500、” Jurnal of Finance、 58 (3)、 pp.
1301-1328.
138 後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢書』
1、 p. 100。
139 同上、 p. 100。
77
同様に、
Business Week
誌による調査では、(表7
)に示すように「ファミリー 企業が非ファミリー企業と比べて収益性(株主収益率、ROA)において高い業 績を示し、かつ、成長性(売上高及び利益伸率)においても優れている」こと が分かった140。(表
8
)ファミリービジネスと非ファミリービジネスの業績比較ファミリービジネス 非ファミリービジネス T Sig.
流動比率(%) 1.27 1.13 -2.35 .02*
ROA (%) 10.63 8.68 -2.19 .03*
ROE (%) 48.77 34.07 -1.26 .21
売上成長 10.13 12.08 .81 .42
資産 同 11.86 12.27 .21 .83
従業員同 8.08 7.76 -.17 .86
*p<0.5, **p<0.1
(出所)後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢 書』1、p233より抜粋。
Potziouris and Sitorus
(2001
)141 では、「英国のファミリー企業と非ファミリー 企業」について比較分析した。結果は(表8)に示すように、
「流動比率はファ ミリー企業(1.27%)が非ファミリー企業(1.13%)」よりも高く、「ファミリー 企業の方が短期借入金の返済能力が高い142。」ROA
はファミリー企業が10.63
% で非ファミリー企業が8.68%、 ROE
はファミリー企業が48.77%で非ファミリー
企業が
34.07
%となっており、収益性はファミリー企業の方が高かった143。3.5.2. ファミリービジネスの長寿性
第二に、ファミリー企業には長寿企業が多いとされている。「日本には、ヨー ロッパやアメリカさらには中国や韓国と比べて長寿企業が多い。その原因の一 つは、日本的な家族の制度と文化が考えられる」(加護野, 2008)144。後藤(2004)
140 同上、 p. 101。
141 Potziouris、 P. and Sitorus、 S.(2001)“The financial structure and performance of family and non-family companies revisited: Evidence from UK private economy、” Proceedings of the 13th FBN Academic Research Conference、 2001.
142後藤俊夫(2005)「ファミリービジネスの現状と課題 : 研究序説」『静岡産業大学国 際情報学部研究紀要』7、 p. 233。
143 同上、p. 233。
144 加護野忠男(2008)「学術からの発信 経営学とファミリービジネス研究」『学術の 動向』13(1)、 pp. 68-70。
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145 によると、世界の主要「ファミリー企業
250
社」のうち、老舗企業(100
年 以上存続)は28%を占めており、欧米ではファミリービジネスの育成、特にそ
の長寿性維持が大きな目標となっている。Family Business Magazine
による”The World’s Largest Family Businesses”によると、世界の大手ファミリー企業 250
社の うち、「100年以上存続している老舗企業が71
社」あり、その比率は28%であ
る。その一方で、米国ではファミリー企業は寿命が短いという調査結果がある。
ファミリー企業の世代承継率は
30
%程度であり、生存率は必ずしも高くないと いう調査結果もある。よって、欧米ではファミリー企業の世代承継と長寿化に 注目が集まっている(後藤、 2004)146。Lansberg(1983)147 は「米国における ファミリー企業の平均寿命は24
年に過ぎない」ことを指摘した148。また、Daily
and Dollinger(1993)
149 は、「ファミリー企業は非ファミリー企業よりも社齢が低いと主張」している150。これに対して、英国では「ファミリー企業は非ファ ミリー企業よりも長寿である」ことを指摘する研究成果がある(Westhead and
Cowling、 1998
151)152。その理由として、「ファミリー企業では負債の負担が低く、成長率を抑制する方針のために創業者一族による経営の継続が可能である」
ことが挙げている153。
3.5.3. ファミリービジネスの事業革新性
145 後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢書』
1、 p.95。
146 2002 American Family Business Survey。後藤俊夫(2004)「ファミリー企業にお ける長寿性」『関西国際大学地域研究所叢書』1、 p. 107。
147 Lansberg、 I.(1983)“Managing human resources in family firms: the problem of institutional overlap、” Organizational Dynamics、 12 (1)、 pp. 39-46.
148 後藤俊夫(2005)「ファミリービジネスの現状と課題 : 研究序説」『静岡産業大学 国際情報学部研究紀要』7、 p. 243。
149 Daily、 C.M. and Dollinger、 M.J.(1993)“Alternative Methidologies for Identifying Family - versus Nonfamily - managed Business、” Journal of Small Business Management、 31 (2)、 pp. 79-90.
150 後藤俊夫(2005)「ファミリービジネスの現状と課題 : 研究序説」『静岡産業大学 国際情報学部研究紀要』7、 p. 243。
151 Westhead、 P. and Cowling、 M.(1998)“Family Firm Research: The Need for a Methodological Rethink、” Entrepreneurship Theory and Practice、 23 (1)、 pp.
31-56.
152後藤俊夫(2005)「ファミリービジネスの現状と課題 : 研究序説」『静岡産業大学国 際情報学部研究紀要』7、 p. 243。
153 同上、p. 243。
79
第三に、ファミリー企業の事業革新について、「同族メンバーが経営の舵取り を行うことによって企業経営の改革が行われる」ことが指摘されている154。武 田薬品は、「武田国男氏が就任した後」で、資生堂は「福原氏が就任した後」で 変身した(加護野, 2008)155。例えば、デンマークの総合メディア企業グループ であるボニエール・グループは、
2003
年にFBN
によるIMD─Lombard Odier Darier
Hentsch
賞を受賞した。同グループは、図書館という創業事業から「周辺分野に進出しつつ、コアコンピタンスの構築と効果的な駆使を続け」てきた156。出版 業や新聞発行といった事業へ進出した結果、「活字鉛版と印刷技術」を確立し「同 社の基盤を盤石」にした157。その後、M&Aにより事業を拡大し、現在では「書 籍、雑誌、ビジネス出版、新聞発行、ビジネス情報、娯楽の総合メディア事業」
となっている(後藤
, 2004
)158。ファミリービジネスにおける創業家の起業家精神と事業革新との相関につい て、
Aldrich and Cliff
(2003
)159 は、「ファミリービジネスに固有の特徴」が「起 業家精神ならびにその実現において、新規事業機会の認識や発見、新規事業発 足の意思決定、必要な資源の調達に影響を及ぼしている」ことを指摘した160。 その一方で、Davidsson
(1991
)161 は社齢が「成長に対する必要性を減少させる 要因として認識」した162。その理由として、「企業としての存在期間が長期化す れば、経営は比較的安定しており、生き残りをかけて新規事業を模索する欲求 が薄れること」や、「経営の姿勢が攻撃から守勢へと転じること」を指摘してい る163。3.5.4. ファミリービジネスの社会性
154 加護野忠男(2008)「学術からの発信 経営学とファミリービジネス研究」『学術の 動向』13(1)、 p.70。
155 同上、p.70。
156 後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢書』
1、 p.104。
157 同上、 p.104。
158 同上、 p.102。
159 Aldrich、 H.E. and Cliff、 J.C.(2003)“The Pervasive effects of family on entrepreneurship: Toward a family enbeddedness perspective、” Journal of Business Venturing、 18 (5)、 pp. 573-596.
160 後藤俊夫(2005)「ファミリービジネスの現状と課題 : 研究序説」『静岡産業大学 国際情報学部研究紀要』7、 p. 245。
161 Davidsson、 P.(1991)“Continued Entrepreneurship: Ability、 Need and Opportunity As Determinants of Small Firm Growth、” Journal of Business Venturing、 6 (6)、 pp. 405-429.
162 後藤俊夫(2005)「ファミリービジネスの現状と課題 : 研究序説」『静岡産業大学 国際情報学部研究紀要』7、 p. 245。
163 同上、p. 245。
80
第四に、ファミリー企業による地域貢献、社会性の高さが指摘されている。
欧米では、「ファミリー企業に焦点を合わせた地域経済の活性化が進められてお り、その活動に多くの大学が積極的に参画している」(後藤
, 2004
)164。また、日本に多くの長寿企業が見られる要因として、後藤(2006)165 は、「商業活動 が正当性を確立できていない封建時代の逆境化に家業の存続を最優先するため に勤勉・節約・奉公を実践したこと」、「特に藩境を超えて全国的に活躍した近 江商人」が「藩外の地域社会への貢献なしには自らの存在基盤を確保できず」、
「『三方よし』あるいは『先義後利』に結実される経営理念が生み出されたこと」
を挙げている。
3.5.5.
ファミリービジネスの特徴の発生要因以上のような特徴をもつファミリービジネスであるが、その理由として、同 族による長期的なコミットメントが挙げられている。加護野(2008)166 による と、同族は、企業への「長期的なコミットメント」を持ち、「長期的な視野で経 営」することができるためであると考えられる。同族による長期的なコミット メントは、企業統治や経営戦略に影響を及ぼす。「短期的な成果の還元を求める 株主により経営を左右」されることを嫌って、チャンスがあるにも関わらず敢 えて上場しない会社もある167。「竹中工務店、ヤンマー、サントリー168」がその 例である169。「ワールドは上場を廃止し、非公開企業」になった170。「長期的な 視野での経営が要求される製薬業では、ファミリー企業の比率」が高い171。経 営戦略では、「ファミリー出身の経営者は、内部昇進の経営者よりも、非連続的 な変化を導入しやすい172。」自分を選んでくれた前任者や同僚たちへの配慮の必 要がないためである。フランチャイズ・ビジネスは「家族労働が支えになって いる173。」Denis et al(1997)や
Tokarczyk et al.(2007)でも同様のことが指摘さ
164 後藤俊夫(2004)「ファミリー企業における長寿性」『関西国際大学地域研究所叢書』
1、 p .91。
165 後藤俊夫(2006)「ファミリー企業におけるCEOの承継 : 東アジアの知見」『関西 国際大学地域研究所叢書』3、 p.69。
166 加護野忠男(2008)「学術からの発信 経営学とファミリービジネス研究」『学術の 動向』13(1)、 p.70。
167 同上、 p.70。
168 同上、 p.70。
169 「サントリーの中核子会社で清涼飲料事業を担うサントリー食品インターナショナ
ルが、2013年7月3日、東証一部に上場した」『日本経済新聞』2013年7月3日<
http://www.nikkei.com/markets/features/09.aspx?g=DGXNASGD03005_03072013 MM0000〉【2014年12月17日】。
170 加護野忠男(2008)「学術からの発信 経営学とファミリービジネス研究」『学術の 動向』13(1)、 p.70。
171 同上、p.70。
172 同上、p.70。
173 同上、p.70。