第 2 章 利益調整行動の発生メカニズム
2.4. 損益会計の計算構造と利益調整
2.4.4. 費用の認識と利益調整
現行の制度会計上の費用の認識は発生主義の原則による。ここにいう発生主 義の原則とは、費用発生の事実すなわち財貨・役務の費消の事実に基づいて費 用を認識することを要請する原則である。この場合の発生主義における費用発 生とは、単なる財貨・役務務の実際の費消事実のみを指すのではなく、実際の 財貨・役務の費消は将来に生ずるとしても、当期の
(
実現)
収益と因果関係に基づ く対応関係を有するような、財貨・役務の費消の原因となる事実の発生をも含 むことになる(
いわゆる原因発生主義)
。発生主義はそもそも、費用収益対応の原 則が根底にあり、かつ、費用収益対応の原則から発生主義の原則が導出される という関係にあると考えるならば、発生主義における費用の発生とは、当期の(実現
)
収益と対応関係を有する費用の発生を指すものであると考えられることに なる。したがって、この考え方によれば、費用性の支出(財貨・役務の実際の消 事実)
があっても当期の実収益との問に因果関係がなければ、費用は発生してい るとはされず、認識されないのである。ここで、費用収益対応の原則とは、適正な期間損益計算を行うために、一会 計期間の費用と収益とが同一期間の企業努力とその成果の対応関係、すなわち 因果関係を捉えて対応計算され、期間利益が算定されることを要請する原則で ある64。
そもそも企業は、経済的合理性を追求する経済組織体であり、それは、最小 限の努力で最大限の経済効果を得ることをその活動目的としている。費用収益 対応の原則とは、この様な企業活動の本質を捉えて、その企業努力(価値犠牲
)
と企業成果(価値獲得)を、期間損益計算上の概念である費用と収益という形で把 握し、それらを期間的に対応させることによって、企業活動の結果としての純 成果である期間利益(
純利益)
を算定することを要請するものである。このように費用収益対応の原則は、損益計算の全般に通じる根本的な会計処 理原則であり、この原則から発生主義の原則、実現主義の原則および費用配分 の原則等の期間利益計算上の諸原則が導き出されることになる。
ここでの「対応」は、数学的な意味での相関関係を意味しているものではな く、また金額的に認められ、または跡付けることができるような因果関係を指 しているものでもないのである。
63 日本経済新聞(2015 年 4 月 3 日)「東芝、インフラ工事巡り調査委設置 不適切会計の可 能性」 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ03IH0_T00C15A4TJ2000/ (2015 年 5 月 10 日)。
64 なお、費用収益の対応という場合、認識・測定の面における実質的な意味における対応 と表示の面における形式的な意味での対応、つまり記載上の対置表示がある。
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つまり、売上高(収益)と一定の相関関係を捉えて、例えば、比例的に売上 原価や減価償却費などの費用が算定されるものではない。
例えば、棚卸資産の払出原価の計算は、仮定計算に基づき算定されるし、減 価償却費の計算も売上高との比例関係比例関係を捉えて行われるものではなく
、ここでの収益と費用の間の因果対応関係を金額的に確認・立証することは不 可能または困難である。したがって、この原則にいう「対応」とは、抽象的・
理念的な意味での関運性といったものを意味すると考えざるを得ないことにな る。
したがって、ここでいう「対応」は、何らかの仮定に基づく概念的・抽象的 なものであり、ここに、利益調整の余地が生じることとなるのである65。
ここで、一般的には、費用と収益との対応形態は、次の2つとされている。
第
1
に、個別的対応関係である。すなわち、個別的対応関係(プロダクト的対 応)
とは、費用と収益を特定の対象物を媒介として直接的に関連づける形態であ る。例えば、売上高と売上原価、有価証券売却収入と売却原価もしくは売却損益 などがこの対応関係として捉えられるとされるが、それはあくまで上記の意味 での対応関係を前提とするものである。
特定の生産物を媒介にして費用と収益との対応が図られる
(
個別的対応)
場合 の費用の認識においては、その収益との対応関係の有無が重要になる。上記の 考え方に基づけば、例えば生産過程において材料や労働力の投入があった場合、そこでは財貨・役務の費消事実はあるが、いまだ収益との対応関係が存しな いため、発生主義に基づいて費用としては認識されず、損益計算とは区別され た財貨・役務の費消事実の確認または内部的な価値の移転があったに過ぎない とされる。そして、当該生産物が完成し、外部に販売されるなど実現主義によ って実現収益が認識されるのに対応して、上記の材料や労働力が生産物を介し て収益と対応関係を有するものと認められるに至り、費用
(
当期の費用)
の発生と して認識されることになるのである。第
2
に、期間的対応関係である。すなわち、売上高と販売費および一般管理 費または営業外損益などは、個別的対応関係として捉えることは不可能もしく は困難である。したがって、これらの費用と収益は継続企植業を前提とする期 間損益計算においては、期間を媒介として対応させられることになる。これを 期間的対応関係という。当期の収益と期間を媒介にして期間的に対応させられる費用の認識は、引当 金や繰延資産など一部の項目を除いては通常、困難は伴わない。というのは、
販売費及び一般管理費、営業外費用といった項目は、費用の発生と支出がほぼ 同時に認識されるものであるからである。
65 このことは、ここでの期間計算が資本循環に基づく投下資本の回収維持計算を基礎に、
発生主義会計という計算構造によって行われることによるものである。
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つまり、これらの項目はその支出時において、その期の収益と期間的な対応 関係を認めることができるとされることから、その時点で費用の発生(当期費用 の発生
)
を認識することができるのが通常である。この「対応」関係を、因果関係に視点をおいて現行制度会計における費用と 収益との関係をみれば、次の
3
つに類型化することができる。① 個別的・直接的対応関係が認められる場合
② 期間的・間接的対応関係が認められる場合
③ 対応関係が認められない場合
このうち、①個別的・直接的対応関係が認められる場合とは、例えば、売上 高と売上原価との関係に典型的にみられるものであり、両者の間には個別的・
直接的な原因と結果の関係を確認することができる。
次に、②期間的・間接的対応関係が認められる場合とは、例えば、売上高に 対する販売費または一般管理費の関係にその典型にみられるものであり、費用 と収益との間に個別的・直接的な原因と結果の関係は認められないが、期間を 通して合理的な相互関連が存在する場合である。この意味での対応は、本来期 間的回収として捉えられる。
最後に、③対応関係が認められない場合とは、対応関係が認められない項目 とは、いわゆる損失項目であって、当期の収益との間に原因と結果としての相 互関連が本来認められないものである。しかしながら、既にそのような減少事 実が生じている限り、当期にそれが認識されなければならない。ただし、期間 損益計算という観点からは、これらの損失を当期の期間収益に対応させること には合理性はない。それは、本質的には、企業活動の本質としての資本循環を 前礎として投下資本回収維持計算の観点から投下資本の回収という意味での回 収計上の項目として、計上されることに合理性をもつものである。
この③対応関係が認められないものを、当期の損失として計上することには
、投下資本の回収計算という意味での合理性しかなく、ここに、利益調整の余 地が生じることとなる。
この点、大日方
(2007)
66は、「財やサーヴィスの消費と収益の獲得とのあいだ の因果の推定は、会計上の約束事」でしかなく、「科学的で厳密な因果をもと めれば、対応概念によって配分される費用項目の範囲はそれだけ狭く」なる。しかし、「その因果関係の推定に厳格さを要求」しても、「年々の利益の意味 がより明確になる」とは限らず、むしろ、「消極的にしか収益と対応しないと 理解する費用項目が多く」なり、したがって、「年度利益にどのような意味を あたえたらよいのかが、あらためて問題」となる。また、「対応概念の適用の 厳格化によって、会計情報の有用性は向上するのかという問題も重要な実証課 題」であるとしている。
66 大日方隆(2007)「アドバンスト財務会計‐理論と実証分析」中央経済社、p85。
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このことから、大日方
(2007)
67は、費用の繰延や見越し計上について、「収益 と費用とのあいだにどれほど厳格な因果関係をもとめるべきかは、高度な難問」としている。このことからすれば、いわゆる利益の平準化についても、「収 益と費用の間の因果関係を緩やかに理解すれば、いわゆる利益平準化による費 用配分も、必ずしも否定できない」とも示している。その判断については、「
もっぱら、収益と費用とのあいだの因果関係をどのように理解するか」による としている。
しかし、前述の企業会計が配当可能利益の算定の基礎となるという利害調整 機能の観点、大日方(2007)68では、「もっとも、配当原資を捻出するために不良 債権の償却を先送りする平準化行動について、対応概念ではその合理性を説明 することができない」とし、利益平準化と対応概念について、「限界を決める のはかなり難しい」としている。
経営者による利益操作の危険から、対応概念を否定する見解に対して、大日 方(2007)69は、「利益操作の可能性を根拠に批判する議論は本質的に多くの問題 を含んでいることはあきらか」であるとし、「1)利益操作による経営者の利得(
経営者のインセンティブ
)
、2)
経営者以外の主体が利益操作から被る損失、3)
利 益操作を抑止する手段や市場メカニズムの有無、4)利益操作を規制する手段とし
て会計基準の変更が最適な手段であるのか」などを検討する必要性を示してい る。なぜならば、経営者による利益調整行動を第三者が、予測できるのであれ ば、「経営者の合理的な(利己的な)行動によって第三者が損害を被る」ことはな く、経営者のインセンティブを第三者が、あらかじめ知られていないのであれ ば、「経営者のインセンティブ―たとえば会計情報を利用した契約内容など―を開示」すれば済むとしている。さらに、対応概念に対して、「批判的とはい わないまでも、消極的な見解が多く、会計基準の改訂や新設につれて繰延項目 が減少する傾向」にあるとし、しかしながら、会計基準の変化については、「
必ずしも概念の純化や知的な進歩のあらわれ」ではなく、「なぜ会計基準が変 化せざるをえなかったのか、なにがその原因あるいは契機であるのか」を検討 し、会計基準の変遷過程において、「どの問題が解決され、どれが未解決の問 題なのか」を研究する必要があるとしている。