第 4 章 ファミリービジネスの利益調整行動
4.1. ファミリービジネスと企業会計
4.1.3. ファミリービジネスの会計への基礎理論の適用
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定した211。その結果ファミリーの所有が約
30%
に達するまでは会社業績が上昇 するが、それを超えると業績が低下する傾向を指摘している。これらの研究結果は、ファミリービジネスにおける所有と経営の一致ないし 分離の相対的低さが業績の優位性を実現する一方、所有の集中がもたらす弊害 の存在を指摘している。安住が強まれば、経営者に対する規律づけ機能が低下 することに伴って、経営者が私的便益への支出を増加させかねない。
ファミリービジネスでは一般企業に比べて経営者の任期が長く、長期的視点 に立った経営方針と意思決定が可能である。その強みが、時として経営者の安 住を生み、長期政権による数々の弊害をもたらしかねないという問題を内蔵し ている。こうしたファミリービジネスの長所が欠点と表裏一体となっている点 を、常に考慮しておく必要がある212。
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ここでの研究目的は、会計とファミリービジネスとの接点を探り、会計につ いての思考を広げることにある。この場合、財務会計、管理会計、監査の3つ の問題に区分できる。そうすることによって、調査した「対象物」(ファミリー ビジネスと非ファミリービジネスによって、どれだけ大きく会計慣行が違って くるのか)と、これから出てくる「結果」(ファミリービジネスの会計慣行では どんな規則性があるのか)という2つの関係において更に明白にするよう努力 する。
検出された規則性は、ファミリーと非ファミリービジネスの会社をかなりは っきりと区別するようである。しかしながら、不規則な結果があったとしても、
潜在的に実り多い問題だったにもかかわらず、無視してきた問題もあるため、
更なる調査が必要である213。
(2)
エージェンシー理論のファミリービジネスの会計への適用これを、ファミリービジネスの会計に用いると、次のようなことが明らかに なる。すなわち、このエージェンシー問題Iは所有と経営の分離から生じるも のであるから、所有と経営は広範囲にわたりオーバーラップするので、エージ ェンシー問題Ⅰの影響は少ない。しかし、ファミリービジネスでは、エージェ ンシー問題 IIの特性を示す。これは支配する側と少数グループ、支配しない側、
または株主との対立の結果、生じるものである。所有が集中する構造の時は、
支配する株主は会社のキーポジションに己が就き、少数株主の利益を奪うばか りか個人の利益を追いかけ、ビジネスからの富を奪いたいという刺激を受ける かも知れない。この問題はファミリー株主の場合は大きくなる。ファミリーの メンバーには、他のタイプの投資家よりも個人の利益を引き出す刺激と機会が あるからである。再びこのことによってファミリービジネスの場合の「ファミ リーエンティティー」の定義の難しさを浮き彫りにするものである214。
(3)
利害一致(アライメント)仮説と経営者安住(エントレンチメント)仮説の ファミリービジネスの会計への適用ファミリービジネスにおける利益調整と利益の質についてみる。会社が株式 市場と債権市場にアクセスするためには、会計情報が必須である。公表される 利益特質とは会社の業績を測る上での利益の適性を指し、一般に、報告された 数の情報の質、ディスクロージャーのレベル、そして認められた会計基準との
213 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215.。
214 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215。
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コンプライアンスの度合によって一般に測られる。高品質の会計情報は借入に よる資金調達のコスト及び株式による資金調達の資本コストの両方のコストを 下げ、市場における株の流動性を上げることによって外部の投資家に対する魅 力を上げる。上質の利益の代表と一般に思われている利益の特性は、利益増加 の質、持続性、確信性、円滑さ、価値妥当性、適時性そして保守性である(Subraman
yam & Wild
、2008)
215。会計の質を決定する要素は会社の経営環境と規制環境である。資本市場研究、会計の選択、会計原則の応用が焦点である。これらに基 づいて、ここで概説する財務会計研究に焦点が当てられる216。
前述の利害一致(アライメント)仮説と経営者安住(エントレンチメント)
仮説の理論をファミリービジネスの会計に用いると、ファミリービジネスから 報告されている高いまたは低い利益の質の両方を想定している理論上の考えと 一致している。利害一致(アライメント)仮説によれば、ファミリーオーナー シップと財務報告の質とはポジティブに関連している。なぜなら、株主と経営 者との間のエージェンシー問題Ⅰの対立の縮小が、根本にある会社の経済業績 から離れた会計情報を報告したいという経営者の動機を減少させるからである。
反対の経営者安住(エントレンチメント)仮説によれば、ファミリーオーナ ーシップと利益の質との関係はネガティブである。なぜならば、ある集中した 所有は、ある一定のレベルを超えると、エージェンシー問題Ⅱのエージェンシ ー・コストを引き上げるからである。ゆえに主要な株主を犠牲にして所有者を 支配し、富の独占の危険性を引き上げることになるからである。
またいくつかの例外はあるが、経営者安住(エントレンチメント)仮説は、
一般に、国家を背景にして行った研究に支えられている。国家の背景において は、ヨーロッパ連合
(EU)
、フランス、韓国、中国それに東アジアのように、所 有集中度が高いか司法制度が弱いのである。Ball とShivakumar (2005)
217によれ ば、非公開会社における利益の質は低い。なぜなら監査、会計基準そして税に 対する同等な規制にもかかわらず、多種な市場需要があるからである。特に、公開会社に比較すると、非公開会社におけるタイムリーな損失認識度の広がり
215 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215.(原典)Subramanyam、 K. R.、 & Wild、 J. J. (2008).
Financial statement analysis (10th ed.). New York、 NY: McGraw-Hill.
216 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215。
217 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215..(原典)Ball、 R.、 & Shivakumar、 L. (2005). Earnings quality in UK private firms: Comparative loss recognition timeliness.Journal of Accounting and Economics、 39、 83-128.
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がかなり低い。
Beuselink
とManigart (2007)
218によると、個人株式投資家が高い 株式比率を持つEUの非上場会社は、個人株投資家が低い株式を持つ会社に比 較すると、前者の会社が後者の会社より低い質の会計情報を提供することがわ かった。東アジアのサンプルとなった会社において、Fan とWong(2002)
219は、利益の質は最終的な力による支配レベルとの関連はネガティブだという ことを見出した。同じように、株式所有の高い集中がみられる中国の会社は、
経営者安住(エントレンチメント)効果が原因して、より低い利益情報を持し ているということを
Firth
、Fung
およびRui
が発見した(2007)220。しか し、一方では外国株主と売買できる株の割合が利益の質を高めようにもみえる。利害一致(アラインメント)仮説と経営者安住(エントレンチメント)仮説 の両方を扱う興味深い研究が、シンガポール株式市場に上場した会社をサンプ
ルに
Yoe、Tan、Ho
そしてChen
によって行われた221。この研究によれば、経営者オーナーシップが低いレベルでは、利害一致(アライメント)仮説が示唆す るように、利益の情報の質は経営者オーナーシップとポジティブな関連性があ る。しかし高いレベルの経営者オーナーシップにおいてはこの関連性は逆転す る。これは経営者安住(エントレンチメント)効果が入り込むだろうというこ とを示している222。
218 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215..(原典)Beuselinck、 C.、 & Manigart、 S. (2007). Financial reporting quality in private equity backed companies: The impact of ownership concentration. Small Business Economics、 29、pp261-274.
219 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215..(原典)Fan、 J.、 & Wong、 T. (2002). Corporate ownership structure and the informativeness of accounting earnings in East Asia.Journal of Accounting and Economics、 33、 pp401-425.
220 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215..(原典)Firth、 M.、 Fung、 P. M. Y.、 & Rui、 O. M.
(2007). Ownership、two-tier board structure、 and the informativeness of earnings—Evidence from China. Journal of Accounting and Public Policy、 26、 pp463-496.
221 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215..(原典)Yoe、 G. H. H.、 Tan、 P. M. S.、 Ho、 K.、 &
Chen、 S. S. (2002).Corporate ownership structure and the informativeness of earnings. Journal of Business Finance and Accounting、 29、pp1023-1046.
222 Carlo Salvato/Ken Moores(2010)”Research on Accounting in Family Firms:
Accomplishments and Future Challenge”Family Business Review Vol.23(3)Family Firm Institute、、pp193-215.。
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