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サントリー・グループの事業戦略からの検討

ドキュメント内 博士論文題目 (ページ 161-165)

第 6 章 研究事例

6.1. サントリー・グループのファミリービジネス性

6.1.5. サントリー・グループの事業戦略からの検討

以上のような創業者一族による同族経営に加えて、サントリーホールディン グス株式会社は非上場企業であり株式を公開していない。サントリーには同族 経営、非上場企業であるがゆえの事業戦略の特徴がある。とりわけ事業投資に 関しては、海外における大型

M&A

の推進、ビール事業への参入、花事業への参 入が特徴として挙げられる。加えて、文化・芸術・スポーツ活動の推進もサン トリーが同族企業で非上場であるからこそ実現できるといえるだろう。

第一に、海外における大型

M&A

では、アイルランドではボウモア蒸留の株式

100%、マッカランの株式を 25%所有している。フランスではシャトー経営

156

に携わり、シャトー・ラグランジュを

1983

年に買収し、シャトー・ペイシュヴ ェルの株式も

30%強を所収している。ドイツでもロバートヴァイルなどでワイ

ンを製造している。米国ではペプシの「全米第三位のボドリング会社、東南ア ジア・オセアニアでは食品会社」、「中国では上海エリアを中心にビール・清涼 飲料事業を展開」している357

【図8 プレミアムモルツ】

(出所)永井隆(2014)『サントリー対キリン』日本経済新聞社、p233。

第二に、「1963年にビール事業へ進出した。従来、日本で飲まれていた重たい ドイツ系とは異なる北欧タイプ」、クリーン&マイルドなデンマークタイプのサ ントリービールは「青年のビール」という「キャッチフレーズ」で発売された358

1967

年には日本初の瓶詰め生ビール、サントリー純生(後のサントリー生ビー ル)を発売した。ミクロフィルターという濾紙で雑菌を非熱処理で取り除くこ とにより家庭にいながらにして出来たての美味さを味わえるという商品だった。

1986

年には麦芽

100%の生ビール、サントリーモルツを発売した。

ところが、ビール事業は長年苦戦を続けてきた。そのような状況でも続けて きたのは、「ビール市場への挑戦のそのものが社内全体に緊張感をもたらし、ビ ール事業がサントリー・グループ発展のエネルギーの源泉となっていたからで ある」とされている359。これも、サントリーが非上場企業であるからこそ、な せる業であったと考えられる360。長年、ビール業界では

4

位だったが、2008年

357 鈴木敏文・林曻一監修、中央大学総合政策研究科経営グループ編(2006)『経営革 新 vol.2』中央大学出版部、 p. 52-53。

358 野村正樹(1996)『黄昏の王国─サントリーの栄光と焦燥』ダイヤモンド社、 p. 56。

359 鈴木敏文・林曻一監修、中央大学総合政策研究科経営グループ編(2006)『経営革 新 vol.2』中央大学出版部、 pp. 54-55。

360 この点、倉科(2010)は、ファミリービジネスの収益性が、高い理由の事例として、

「長期的視点からの経営である。専門経営者は短期的視点からの経営(Managerial myopia)に陥りがちで、これはファミリー企業の対極にある。最近の例でよく挙げられる のは40年ぶりにビール事業が黒字になったサントリーである。極端な例であるが、何十

157

度の課税出荷量でサッポロビールを追い抜いて

3

位となり、以後はプレミアム モルツの好調を背景に

3

位をキープしつつ、マーケットシェアを拡大している。

2012

年度現在のビール系飲料(ビール、発泡酒、新ジャンル)課税出荷量にお けるマーケットシェアは、アサヒビールが

37.5%、キリンビールが 35.6%、サ

ントリー酒類が

14.2%(過去最高のシェアを達成)

、サッポロビールは

11.8%で

ある。

【図9 各ビール類銘柄の味覚マップ(イメージ)

(出所) 沼上幹(2013)「戦略分析ケースブック」東洋経済新報社、p28

【図10 各ビール類銘柄の味覚マップ(イメージ)

(出所) 沼上幹(2013)「戦略分析ケースブック」東洋経済新報社、p29

年も赤字を抱え続けることはファミリー企業でなければ出来なかっただろう。すべての 事業がうまく行き過ぎると組織が弛緩するので、緊張感を高めるために赤字部門を持っ 必要があるという理論からすれば,サントリーは常に叱咤激励するための手段としてビー ル部門を持っていたのかもしれないが、いずれにしろ長期的視点からの経営でなければ できないことだ。ただし短期的には逆にマイナスの側面があり、短期的な収益率は専門 経営者企業の方が高いという分析結果が世界のどの国でも出ている」としている。倉科 敏材(2010)「オーナー企業経営の特質」甲南大学経営学会編『経営学の伝統と革新』

千倉書房、pp110-111。

158

第三に、「1980年代末に、バイオテクノロジーの技術を生かした花事業に進出」

した361。サントリーの同族経営と非上場の特徴を語る際に必ず取り上げられる のが「青いバラの開発」である362。バラには「赤・白・ピンク・黄色などの

2

5000

種以上の品種がこれまでに作り出されて」きたが、「青いバラという品 種はいまだかつて存在」せず、英語辞書で「『

Blue Rose

』を引くと、『「不可能」

の代名詞になっているほどで』ある363。花事業の「やってみなはれ」として青 いバラ開発プロジェクトを

1990

年より開始した結果、

2004

年には世界で初めて の「青いバラ」が誕生した364

「ビールメーカーにとっては、ホップや麦芽の品種改良をはじめとした植物 研究の分野は土地勘のある事業領域」である365。人気商品として、「鉢植えとし て人気の高いペチュニアを改良したサフィニア」がある366。ビール営業と同じ ように小売店(生花店)に「直接販売促進活動」を行い、「種苗メーカーを通じ て注文をとる」システムを採用している367

第四に、文化・芸術・スポーツ活動の推進がある。サントリーには「利益三 分主義」という理念があり、「事業で得た利益を会社、顧客、社会の三者に還元 する」ことで、「創業以来」、「社会貢献活動を続けてきた」368。1921年には、社 会福祉活動として無料診療院を開院しており、現在は社会福祉法人邦寿会とし て特別養護老人ホーム、総合福祉施設等を運営している。

文化・芸術活動が盛んになり始めたのは

1960

年代以降であり、

1979

年には「生 活文化企業」を標榜し、文化芸術振興に取り組んできた。主な施設として、

1961

年にサントリー美術館、1986年にサントリーホールを開館した。サントリーミ ュージアム天保山は、「創業

90

周年記念事業として」安藤忠雄が設計した総事 業費

120

億円の巨大複合文化施設である369。1994年

11

月に、「サントリー創業 の地」である大阪の天保山港(大阪市港区)に開館した370。その内容は、「『生 活の中のアート&デザイン』をテーマに多彩な企画展示をするギャラリー、世 界最大級の超大型立体映像劇場『IMAXシアター』」、「ショップ、レストラン、

バーラウンジなどを併設した地上

9

階建ての建物」である371。入館者の伸び悩

361 同上、p. 64。

362 同上、p. 64。

363 同上、p. 64。

364 同上、p. 64。

365 野村正樹(1996)『黄昏の王国─サントリーの栄光と焦燥』ダイヤモンド社、 p. 22。

366 同上、p. 22。

367 同上、p. 22。

368 鈴木敏文・林曻一監修、中央大学総合政策研究科経営グループ編(2006)『経営革 新 vol.2』中央大学出版部、p. 62。

369 野村正樹(1996)『黄昏の王国─サントリーの栄光と焦燥』ダイヤモンド社、 p. 17。

370 同上、p.17。

371 同上、p.18。

159

みにより、

2010

12

月に閉館された。土地・建物、展示物は大阪市に無償で寄 贈され、現在は大阪文化館・天保山となっている。

文化芸術振興活動の母体としてサントリー芸術財団とサントリー文化財団が ある。

1969

年に設立された鳥井音楽財団(1978年よりサントリー音楽財団)は、

同年よりサントリー音楽賞を設けている。同財団は、2009年に公益財団法人サ ントリー芸術財団に改組され、現在はサントリーホールの運営も行っている。

1979

年に設立されたサントリー文化財団では、サントリー学芸賞とサントリー 地域文化賞を設けており、学術研究や地域文化を振興している。

プロジェクトやキャンペーンとしては、愛鳥活動キャンペーン(1973年〜)、

水育(みずいく)「森と水の学校」(2004年〜)がある。スポーツ活動にも熱心 に取り組んでおり、企業スポーツとしてラグビー部とバレーボール部を所有し ている。プロゴルフトーナメント大会のスポンサーとしてもサントリーオープ ン(

1973

年〜

2007

年)、サントリーレディースオープン(

1990

年〜現在)があ り、スポーツ振興にも取り組んでいる。

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